刑事コロンボ

登録日:2011/04/08 Fri 04:59:55
更新日:2023/11/06 Mon 11:09:46
所要時間:約 5 分で読めます






PETER FALK AS

COLUMBO



『刑事コロンボ』はウィリアム・リンクとリチャード・レヴィンソンのコンビが制作したアメリカのテレビドラマ。

ミステリドラマに「倒叙」というジャンルを確立した記念碑的作品である。


概要

このドラマで画面の最初に映るのは、「犯人」である。
それどころか、犯人の動機や犯行の準備、殺害の瞬間、偽装工作といった犯行の一部始終が物語の冒頭ですべて視聴者に明かされてしまう
犯行はいずれも練り上げられた計画殺人であり、犯人は自分の計画に絶対の自信を持っている。

そこに「殺人課の刑事」としてコロンボが現れる。しかしその風体は、
  • モジャモジャの頭
  • ヨレヨレのレインコート
  • メモ帳やボールペンをすぐ失くす
  • 身内の話や他愛のない雑談を繰り返す
といういかにも愚鈍そうな男。

犯人は「こんな男が捜査責任者なのか」と侮るが、
やがてコロンボは犯人の行く先々にしつこく現れては無駄話の合間に事件の核心を突いた質問を投げかけてくるようになる。
やっと帰ったと思って油断していると、

「すみません、もう一つだけ…」

とやられることもざらである。

「実は強敵なのでは?」と気づいたころには手遅れで、決定的な証拠を突きつけられた犯人はコロンボを見くびっていたことを後悔しつつ犯行を認めることになる。

この手法は当時の刑事ドラマとしては型破りであったが、
「有名な役者が演じている→その人物が犯人だと分かる」というミステリドラマにありがちな問題を
「犯人=ゲスト・スター」というプラス要素に変えられる、テレビドラマと非常に相性の良いものであった。

また、このドラマでは犯行の方法や動機を当てる楽しみをスポイルする代わりにコロンボと犯人の駆け引きの場面が多く挿入されており、
「コロンボはいつから犯人を疑っていたのか」を視聴者が当てるという、普通のミステリではありえない楽しみ方もできるようになった。

ミステリーの黎明期から存在していたにもかかわらずマイナーであった「倒叙」という手法を一般社会に広めたのは、本作の大きな功績であろう。

放送

当初は単発ドラマ『殺人処方箋』(1968)として放送されたあと、パイロット版の『死者の身代金』(1971)を経て『構想の死角』(1971)から連続ドラマ化され、45作目の『策謀の結末』(1978)でいったんシリーズを閉じた。

その後、1989年にシリーズが再開され、『汚れた超能力』(1989)から最終作となった『殺意のナイトクラブ』(2003)までの間に断続的に24話が放送された。
放送時期が10年以上空いたため、ファンの間では前者45作を「旧シリーズ」、後者24作を「新シリーズ」と呼ぶことが多い。

旧シリーズが「完全犯罪vsコロンボ」というフォーマットに忠実であったのに対して、新シリーズはそれを崩そうとする挑戦的なエピソードが多い。
その一方でベテランスタッフの死去、慢性的な脚本不足といった制作の苦労が絶えなかったようで、展開に粗が多かったり、
写真を切り抜いて作ったお面で変装する」という脱力もののアリバイトリックをやってしまったり、
エド・マクベイン原作の普通の刑事ドラマを2回も放送したりと、旧作に比べると残念なエピソードが散見される。
古畑任三郎の脚本家の三谷幸喜も当時の新シリーズに不満を持っていたファンの一人で、コロンボ新シリーズに対する失望も古畑誕生の原動力となったと発言している*1

日本では1972年にNHKのUHFチャンネルで試験放送が開始され、のちNHK総合に移行して放送。新シリーズからは「金曜ロードショー」(日本テレビ)で放送された。

ちなみに、ヘンリー・マンシーニ作曲の有名なテーマは旧シリーズが放送されたNBCのドラマ枠全般のテーマソングで、同枠では他にも『警部マクロード』『Dr.刑事クインシー』等が放送されている。


登場人物

  • コロンボ
声:小池朝雄(旧)/石田太郎(新)/銀河万丈(WOWOW版)
ロス市警殺人課の警部補。
日本語では語呂のよさから「警部」と呼ばれているが、実際の階級は警部補に相当する「Lieutenant」である(警部とする辞書もないわけではないが)。
とはいえ、あちらとは規模や構成が若干異なるため、「日本警察なら警視クラスでは?」という説もある。

日本では警部補は30%近くいるが、ロス市警ではLieutenantは3%弱しかおらず、この比率は日本警察の警視より少ないぐらい。
ただし、あっちは最下級のPolice Officer(巡査)だけで69%、Detective(平刑事)が15%、Sergeant(巡査部長)が12%程度と極端なピラミッド構造であり、
この上はCaptain(警部)が0.8%、Commander(警視)から市警本部長まで合計しても0.3%程度しかいない(2019年末)。
なるほど、コロンボの昇進が難しかったわけだ。

本物のロス市警では1969年に強盗課と殺人課が統合されRobbery-Homicide Division(強盗及び殺人課、意訳するなら強行犯課)が発足。
Captainの下にRobbery,Homicide,Special Assault,Cold Case Homicide,and Special Investigation Units(強盗、殺人、特殊急襲、迷宮入り殺人、特別捜査班)の5つの部門があり、
そして、その各部門の責任者がLieutenantである。
つまりコロンボの地位は、日本でいうなら県警本部の捜査一課長補佐か強行犯係長と考えていいだろう。
そう考えるとその地位は意外に高く、少なくとも単独でうろつくような地位ではない。

上層部から直々に呼び出されたり後輩から「伝説」扱いされたりと市警きっての切れ者として通っているが、カミさんを愛するごく普通の家庭人でもある。
家族構成やいるんだかいないんだか分からない親戚連中、私生活にファーストネームと実はけっこう謎の多い人物。
彼ほど「能ある鷹は爪を隠す」を体現したキャラクターはいないだろう。

【余談】

日本では主に吹き替え版が放映されることもあり、コロンボといえば小池氏、石田氏、銀河氏の声のイメージが付いた視聴者は多いと思われるが、
実際にドラマでコロンボを演じたピーター・フォークの声は、そのいずれとも違う甲高いだみ声である。
特に小池朝雄の吹き替えがハマリ役だったこともあって、ピーター・フォークの地声を聞いてショックを受けた視聴者も多かったという。
ちなみに、二代目の石田の起用は氏が宴会芸として小池朝雄のモノマネを披露していたことがきっかけだという。

彼の代名詞とも言える「うちのカミさんがね…」という台詞は、日本語版の翻訳を担当した額田やえ子氏が考案したものである。
このため、彼女が翻訳を担当する前の小池版の初期のエピソードには「女房」と言っているものがある(原語版ではMy wifeなどなので間違っているわけではないが)。

第1話となる『殺人処方箋』には元になった同名の舞台版と、更にその元になった生放送ドラマ版が存在し、それぞれで演じている俳優が違うため、
実はピーター・フォークはコロンボ役の俳優としては3代目にあたる。
この事実は本国でもあまり知られていないらしく、実際に初代コロンボを演じた人ですら当時の事はまるでおぼえていなかったとか。

また作中に名前が一切出てこないと言われているが、実は何度か持ち物に書かれた名前が映るシーンがあり、
それによるとフルネームは「フランク・コロンボ」との事*2

  • コロンボ夫人
コロンボの話によく出てくる「うちのカミさん」。本編には一切登場しないが、嗜好などの情報はちょくちょく出てくる。
コロンボによると身長は旦那と同じくらいで銀婚式を控える年齢らしい。
子どもは少なくとも2人はいるようだが、「子宝に恵まれなかった」という発言もあってはっきりしない*3
そんなあやふやな情報から「本当は奥さんなんていないんでしょ」と指摘されたこともあるが、
『歌声の消えた海』で実在が確認され、『カミさんよ、安らかに』ではなんと犯人に命を狙われる(それでも姿は見せない)。
ちなみにコロンボ同様作中に名前が一切出てこないが、実は当時のバラエティ番組にピーター・フォークがコロンボとして出演した際カミさんの名前を漏らすくだりがあり、
それによるとフルネームは「ローズ・コロンボ」との事。

  • ドッグ
コロンボの飼い犬で、犬種はバセットハウンド。
実は名無しで、気の利いた名前をつけようとしているうちに「犬」がそのまま名前のようになってしまったという経緯を持つ。
それほど登場回数は多くないのだが、ぬべーっと寝そべっているだけなのに妙な存在感がある、愛すべき名脇役である。

  • プジョー403カブリオレ
コロンボの愛車。初登場時から既にガタがきており、「車で送りましょう」と言われた人はたいてい困った顔をする。
本人は「外車だ」「ビンテージだ」といっこうに気にする様子はないが。
一度衝突事故を起こした事があるが、その後も衝突した箇所がボコボコになった状態で普通に乗り回している。
なぜボロボロなのかというと、コロンボが車をチョイスする際、ガレージに用意されていた車が気に食わず、
偶然ガレージの隅に止まっていたこの個体を見て直感で決めたのだという。
第1シリーズ放送当時はただの中古車扱いだったが、新シリーズ制作時には残存数の少なさからレア車となってしまい、コレクターから借り受けて制作に臨んだという。

  • 刑事たち
刑事ドラマなのにレギュラー出演する刑事が少ない。これも当時としては珍しいことだった。
それでも最多出演のクレイマー、最新の科学捜査でコロンボをサポートする若手刑事ウィルソン、なぜかマックと呼ばれるシオドア・アルビンスキーなど印象深い人物は多い。

  • 犯人
さまざまな理由から完全犯罪を目指す挑戦者たち。
医者、弁護士、作家、社長、映画スターなどセレブリティが多く、市警の次長や上院議員候補、外交官といった大物とも対決している。
ロバート・カルプやジャック・キャシディ、パトリック・マクグーハンなど、同じ俳優が別の話の犯人役として出演したこともある。


【ミセス・コロンボ】

旧シリーズ終了後に彼女を主人公にして制作された『ミセス・コロンボ』というドラマがある。

ミステリとしての出来は悪くなかったのだが、当時の米国NBC社長が制作を強行する、
「ピーター・フォークと同年代の女優を主役に据えるべき」という意見を無視して若い女優を主役に据えるなどのNBC側の勝手な振る舞いにより、
コロンボの制作スタッフからの猛反発を喰らった。
さらに制作会社のユニバーサルからは「ミセス・コロンボは刑事コロンボ夫人ではない!」と否定されてしまい、
『刑事コロンボ』ファンの評判も芳しくなかったという。

第2シーズンで番組タイトル変更を余儀なくされ、ドラマ自体も視聴率不振で打ち切られてしまったのだが、
日本では第2シーズンが放映されなかったためか、「ミセス・コロンボは『刑事コロンボ』のカミさん」と思っている人も多いという。




日本の人気

「もう一つだけ…」と言いながら犯人を追いつめていくコロンボのキャラクターは世界中で愛されており、もちろん日本にも熱烈なファンが多い。
その熱心さを象徴するのが、かつて二見書房から刊行されていた小説版(ビデオが普及していなかった当時は小説版が録画代わりであった)で、
  • 独自ルートでシナリオを入手、ドラマでカットされた場面も完全再現
  • 撮影されなかった没シナリオを元に小説版を制作(後に本家でもそのシナリオが再利用される)
  • 普通の推理小説として書かれたパスティーシュを倒叙ミステリに「翻訳」
  • 本職の推理作家が「翻訳」と称して新作を書き下ろす

といった並々ならぬ情熱が注がれ、旧シリーズは『愛情の計算』以外の44作が小説化されている。

CMにコロンボのキャラクターを起用したものもある。
  • トヨタ・カローラ(1995):コロンボの扮装をしたピーター・フォークが「長くつきあえる」車を紹介するというもの。吹き替えも石田太郎氏である。
  • 『相棒-劇場版II- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜』:『刑事コロンボ』DVD BOXとのコラボCM。『刑事コロンボ』のアーカイブ映像に乗せて石田氏が新規にアテレコしている。

『刑事コロンボ』が作り上げた探偵のキャラクターや倒叙のフォーマットは日本のミステリにも大きな影響を与え、
古畑任三郎や、杉下右京、福家警部補など多くの和製コロンボが産み出されている。 

他にも日本テレビで放送されていた「カックラキン大放送」というバラエティ番組では「刑事ゴロンボ」なる野口五郎主演のコントが放送されていたことも。
尤も尺が短かったため、回を重ねるにつれ「珍妙なコスプレの犯人・カマキリ(演:ラビット関根(現:関根勤))をゴロンボがどつき倒す」というオチが定番になるしょーもないモノだったが。



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最終更新:2023年11月06日 11:09

*1 中京テレビ「太田上田」出演時より。

*2 ただし、これはあくまで「小道具の名前欄を空白にしないため」の物であり、この名前がどれほど公式設定と言っていいのかは不明

*3 「多い時は毎年兄弟が産まれていた」というコロンボ基準という可能性もあるが