アシズ(灼眼のシャナ)

登録日:2011/09/12(月) 03:26:03
更新日:2023/05/17 Wed 23:29:12
所要時間:約 9 分で読めます




違う!! 死に様だ!
私と共に在るのは、ティスの死に様だ!!



灼眼のシャナの登場人物。

人間を食らう怪物、紅世の徒の一人。

本編の遥か昔、16世紀頃に起きたフレイムヘイズと紅世の徒の激突「大戦」、その元凶と呼べる人物。

真名は「棺の織手」。
炎の色は「青色」

第1巻から存在を示唆されており、その時は「棺の織手」という真名だけが明かされた。

概要

外見は仮面を付け、6枚の翼と鍛え抜かれた男の身体を持つ青い天使の姿。
性格は情深く優しさに溢れるもので、その優しさから部下からも慕われている。またソレの優しさは時に敵にすら向けられる。
良くも悪くもその場の感情にそって行動するという。

“徒”の中でも特に強力な力を持つ“紅世の王”。
その中でも、莫大な存在の力と卓越した自在師としての力量から、中世において最強とされた紅世の王。
当時としてはまさに比肩する者なきとんでもない存在であり、高橋氏のイメージは「大魔法使い」。


中世の欧州において万を超える数の“徒”が所属する組織『とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)』の首領であり、世界のバランスを守るフレイムヘイズにとって当時最大の敵。

その目的は「壮挙」と名付けられた新たな存在を生み出す儀式を行う事。
徹頭徹尾自分一人のためにやっていること(そういう意味ではどこまでも“徒”らしい“徒”である)だが、アシズの性格とモレクの運営でいつしか“徒”全体の希望となっていた。

○人物像

元々は“紅世”とこの世、二つの世界のバランスを守るという使命感に溢れた厳格な人格の持ち主。
フレイムヘイズが出来た最初期に人間と契約し、契約者の「棺の織手」ティスと共に活躍した最古のフレイムヘイズの一人。

心底から情深い、というか底なしに優しい人物で、ティスが彼を慕い、「九垓天秤」の面々を含めた「とむらいの鐘」が彼の元に集ったのも彼の優しさから。
だがその優しさは、他の者が時折行う「切り捨てることで心や立場を清算する」ことを彼に許さない。そのため、自分を頼る者、慕う者、従う者を誰一人拒まず受け入れ、抱え込む。

元より化け物クラスの強さを持ちながら、相反するように途轍もない優しさを以て他者に向かうため、荒くれ揃いの“王”や“徒”は反発を抱かず、文字通りに心服していた。
それゆえに「九垓天秤」達は、彼の望みを叶えるべく身命を賭すことに何の躊躇もなかったが、前述の通り「壮挙」はアシズにとってはティスへの愛の証であり、彼女の遺した望みをかなえる、たったそれだけのものである。

良くも悪くもその場の感情で以て動く男であり、モレクをはじめとする構成員が語っていたような壮大な気宇はそもそも持っていなかった。(本人の性格からして、自分のやっていることが皆の希望であるならそれでよい、とでも思っていたのだろう)


○“棺の織手”ティス

かつての契約者で、青い長髪の少女。
力を授けてくれたアシズを天からの使いのような存在と思い、アシズを恋い慕っていた。
人間を麦の穂程度の食料ぐらいにしか思ってない“紅世の徒”を憎み、徒を討滅し続け、最初期のフレイムヘイズの中で最も功績を挙げた。
戦闘時は額に付けている神器「無銘の金環」が頭上に移動し、背中には白い翼が生え、その外見はまさに天使と言える姿に変化する。
相当の力量の持ち主で自在法・「清なる棺」で最初期に乱立していた徒の集団を多数殲滅した。
実は執筆当初は「アシズの元契約者であり、心を通わせた女性」という以外の設定が全く存在せず、アシズの回想でわずかに出てきた台詞を元に、いとうのいぢ氏がビジュアル化した経緯がある。


○「清なる棺」

アシズの固有自在法。四角形の形をした閉鎖空間の結界を造り上げ、対象を閉じ込めたり、破壊を行う。
体の各所に同時展開・爆破することで、たいていの“徒”は一撃必殺。


○経歴・行動

太古の神殺しの戦いでは、フレイムヘイズとして参戦しており、祭礼の蛇とも戦った。
数々の戦果を挙げ、フレイムヘイズの理想像と称され、英雄とすら呼ばれた程の存在だった。
ちなみに、同時代から現在まで活躍しているフレイムヘイズはカムシン・ネブハーウくらいで、大地の四神の師匠・ノースエアの年代である*1


しかし、ある日、彼女の力を恐れた人間たちの裏切りによって命を落としてしまう。
その時、アシズは彼女の自分に対する想いと、自身もまた彼女に対して深い愛情を持っていたことを自覚してしまう。
彼女の喪失を怖れた彼は、ティスを殺した周囲の人間を喰らう事で“存在の力”を補充。

自らをそのまま顕現させてはティスを崩壊させてしまうため、儀式のプロセスを応用して自らをその場に召喚するという離れ業を敢行し、同一地点に“王”として顕現。同時に彼女の消滅を防ぐために、自在法・『清なる棺』で遺体を特殊空間に包み込む事で崩壊を防いだ。
尚、コレは彼が自在師として、きわめて優れた技量の持ち主であったがゆえの神業*2

そして世界のバランスを守る使命から離反した事で、世を荒らす“紅世の徒”となり、英雄から一転、彼らの敵になった。
討ち手たちは、アシズを絶対に許さなかった。単に裏切ったからではなく、その行いを許せばフレイムヘイズの存在自体が無意味となるからである。つまり、彼らにとっては二重の意味で脅威だったことになる。

“紅世の徒”側は、仮にも元フレイムヘイズに対して即座に歩み寄りはしなかった。
が、自身の欲望を何より優先するという彼らは、全てを敵に回してでも己の望みを守り、その実現に邁進するアシズに感化されるようになり、その力を恐れつつもそのあり方に敬服。いつしか、放浪する彼に付き従う者がぽつぽつと現れ始めた。

放浪の中、アシズは自身の真名である「冥奥の環」の名を捨て、ティスのフレイムヘイズの称号「棺の織手」を自らの真名として名乗るようになる。
つまり、彼の真名「棺の織手」はあくまでも自称であり、彼の本来の真名は「冥奥の環」である。
紅世の徒が通称を変える事はたまにある(例としては、シュドナイはかつて「蚩尤」と呼ばれていた)事だが、紅世における本名の発音である真名を変えるなど有り得ない事であり、彼のティスに対する想いの深さが窺える。
大戦時では既に知れ渡ったためか、勢力を問わず多くの者に“棺の織手”と呼ばれているが、
古株のガヴィダと、世界法則の体現者としてルールに厳しいアラストールからは“冥奥の環”と呼ばれていた。
なお、元の真名は「捨て名」として扱われ、呼ぶことを憚られている。

その後はティスの蘇生だけを目指し、千年を超える長い旅を始めた。
再び彼女と共に生きることだけを望んだ彼は、かつて仲間であったフレイムヘイズと敵対しながら世界を巡った。
しかし、あらゆる秘法を学び、試行錯誤を繰り返すもどうしてもティスを蘇生させる術を見つける事は出来なかった。

放浪の中、彼は九人の“王”と出会う。

鎧の竜「御身は、なぜ泣かれているのか?」
鉄の巨人「恩義に報いるためえええ、我が身命をををを、主に捧ぐううう」
奇妙な卵「なにを手に入れたいのか」「差し出せと言うのか」「厚かましき者よ」
牛骨の賢者「私如きを、必要と仰る……?」
牙剝く野獣「喧嘩、できるんだろう?」
氷の剣「私は欲しいだけなのだ、私を振るう腕が」
石の大木「相応の代価は、頂けるのでしょうな?」
黒衣白面の女「永の助太刀も、また一興」
虹の剣士「いいだろう、見せてくれ、貴公の世界を」

アシズに最初に付き従った彼ら九人の“王”は、アシズの持っていた宝具から名を取り「九垓天秤」と呼ばれるようになる。

そして、アシズは放浪の中で“徒”らを次々と傘下に加え続け、何時しかとむらいの鐘という世界最大の徒の組織を結成する事になる。

それでも払えない死に懊悩する中で、彼は全くの偶然から、教授が持ち出した「大命詩編」の断片が刻まれた金属板を入手する。存在を分解する自在式と、存在を定着させる自在式。
これを使い、せめて最期にティスが遺した願い「あなた様と私の子供を授かり、共に暮らしたい」という願いだけは叶えるべく行動を起こした。
このアシズとティスの子供が「壮挙」で誕生させようとした、新たな生物「両界の嗣子」である。

だが、その生成のためには莫大な「存在の力」が必要だった。アシズはこれを手に入れる為に都喰らいと言う術式を開発、オストローデでそれを起動した。
通常、人間以外から「存在の力」を喰らうのは不純物が混ざっている為に適さないのだが、
この術は土地ごと純粋かつ莫大な「存在の力」に変換するものである。これにより、アシズはそこに住む住民ごと土地を存在の力に変換し、それを喰らう事で凄まじい量の「存在の力」を手に入れた。
ちなみに後にフリアグネがこの術に挑戦している。

都喰らいで増大したその力は相当のモノらしく、作者曰わく大戦時のメンバーの中でも別格の強さを誇るという。
彼以外に別格と言われたのはアラストールだけである(槍シュドナイメリヒムマティルダすら別格扱いされていない)。

これで準備ができたかと言えばそうではなく、肝心要の大命詩編が問題だった。
創造神“祭礼の蛇”の手になる神の自在式は、アシズほどの自在師を以てしても難解を極め、彼では起動できなかった。
そこで、あらゆる自在式・自在法を文字通り自在に操る力を持った“螺旋の風琴”リャナンシーを捕えた宝具“小夜啼鳥”を奪取、蓄えた“存在の力”で彼女を支配することで式の起動を試みた。


○愛に生きた果てに

最終決戦においては先代“炎髪灼眼の討ち手”マティルダと対峙。
マティルダとアラストールが愛し合っている事を見抜き、死を覚悟してまで使命に生きようとする二人の姿がかつての自分たちの姿に被り、
不憫に思い彼女とアラストールとの間にも「両界の嗣子」を作る事で仲間に引き入れようとするも、拒否されてしまう。

さらに、リャナンシーがガヴィダからマティルダを介して伝えられたかつての恋人・ドナートの伝言を聞いたことで気力を取り戻し、支配の式を脱して逃走、大命詩編が起動不能になる。

そして、マティルダは自らの死を覚悟で“紅世の徒”一体を生贄に捧げ、天罰神“天壌の劫火”をこの世に神威召喚する儀式「天破壌砕」を行い、
神として力を奮う天罰神アラストールとの一騎打ちとなる。


「何故だ……何故、愛する者を捨てるフレイムヘイズが、私の前に立ちはだかるのだ」
「何故、愛を選ばない。かけがえのない、この世に唯一つの、愛を」
「愛し合う者が、互いの生きる道を……何故、選ばぬのだ!!」

アシズにとって、愛とは共に歩くことだった。それを選ばず、死別を選んだアラストールの選択が彼には信じられなかったのだ。
だが、当のアラストールは、怒り、あるいは歓喜を載せた声で告げる。


「貴様は、何処を、見ているのだ」
「我らは、共に生きて、此処に在る」

言うなり、アシズが抱いていた「両界の嗣子」となるはずだった結晶と「大命詩編」の金属板、そしてティスの亡骸を収めた「清なる棺」を一撃で粉砕。「壮挙」は潰え去った。


「――――――ッ!!」
「我が女、マティルダ・サントメールの……生き様を、見よ」

ブロッケンの山上で、紅蓮と青が激突する。天罰神といち“王”の、あまりにも一方的な戦い。
しかし、その意志だけは互角。


「死んで、死んで、なんの生き様だというのだ!!」
「貴様と同じだ! 契約者の生き様が、今の貴様と共に――在る!!」

死んでは意味がない、傍にいられなければ何の意味もない、と嘆くアシズ。
生きて、戦って、死んだ、その「生き様」こそが大切なのだとアラストールは吼える。


「違う!! 死に様だ! 私と共に在るのは、ティスの死に様だ!!」
「“徒”を討ち果たしたティスを、人間の為、力を使い果たした、我が愛する娘を――」
「弱さから恐れ、強欲から利用し、挙げ句に殺したのは、人間どもだ!!」

だが、アシズにはそれが受け入れられない。
叶わぬ夢を抱いたまま、裏切りに死んだティス―――彼女の最期の言葉が彼を突き動かしている。
だからこそ、今共にあるのは討ち手としての生き様ではなく、一人の少女としての死に様なのだと。


「だから喰らった! 守るのを止めた! ティスと共に生きる、それだけを望みとした!!
ただ、共にあろうと……それを世の理が許さぬのなら、理をすら変えてみせると!!」

新しき世に響き渡る、古き理を送る、故に我らは[とむらいの鐘](トーテン・グロッケ)!!

だからこそ、たとえ世界の全てを敵に回してでもこの想いを貫いて見せる、と青い天使は叫んだ。
それを許さないという古き世界に、とむらいの鐘を響かせてやると。

「その意気やよし、“冥奥の環”……いやさ、“棺の織手”!」

その意志が、想いが、天罰神をしてそう言わしめた。
“棺の織手”―――その名こそが、アシズそのものであると。


だが、世の理は、過ちを決して看過せぬ!!


過ちでなどあるものか!! 我が――愛が!!


アシズの抱いた愛を否定する権利は誰にも―――神にすら、ない。
だが、そのために成した行いは決して許されてはならない。

青き炎弾は紅蓮の炎弾に一瞬の拮抗も許されず吹き散らされ、アシズは敗北。
紅蓮の炎に呑み込まれ粉々になって消滅、討滅された。




彼が遺した、「生命が死を乗り越える一つの方法」は後に、同じ結論を下したとある人物らによって受け継がれ、一つの命を芽吹かせることになった。


  • 余談
彼のモデルは旧約聖書に登場する堕天使アザゼル
元は高位の天使だったが、人間の少女に恋をして禁断の知識を与えたがために堕天したとされている。



追記・修正は愛のために全てを捨てる覚悟を持ってお願いします。

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最終更新:2023年05月17日 23:29

*1 参戦した中で、別の人間と再び契約した形で登場している”王”にはタケミカヅチやウァラクがいる

*2 仮に力が桁違いなアラストールがやろうとしても不可能