スプリングリバーブ

登録日:2012/07/17(火) 03:40:13
更新日:2020/12/19 Sat 14:14:33
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スプリングリバーブとは、リバーブ用エフェクター(リバーブレーター)の種類のひとつ。
もっとも古くから存在しているリバーブレーターの原点的存在であり、まだデジタル技術が発展していなかった60〜80年代に広く用いられていたアナログのテクノロジーである。

回路の中にバネが組み込まれており、音の信号がそのバネを経由することによって性質が変化し、響いて聞こえるようになる…というのが基本的なメカニズムである。
中に組み込むバネの形によって音色は違い、小型のものから大型のものまで様々な種類が存在する。

このメカニズムは音響機器としてはかなり初歩的なものであり、構造もシンプルなので、ある程度の知識さえあれば自作することも十分可能らしい。


アナログ式のリバーブにはこれ以外にもプレートリバーブという種類があり、エフェクターとしての性能や汎用性はそちらのほうが上だったが、構造の都合上小型化することが不可能で、業務用の大型機しか存在しなかった。
なので、民間人でも扱えるような手軽なリバーブレーターは、最初はこのスプリングリバーブしか選択肢が無かったと言ってよい。

〈その音色と特性〉
さて、このスプリングリバーブ、具体的にはどんな音がするのか?というと。
その音色は、大抵の場合銭湯、もしくは洞窟に喩えられる。
中には安いカラオケ屋と言う人もいる(実際、スプリングリバーブは安価だったこともあり、昔はカラオケマイクなどにも搭載されていた)。

要するに、分かりやすすぎるくらいにメッチャ響くのだ。

音にクセがあるうえに、あるひとつの特性があり、そのことで当時の音響エンジニアは頭を悩ませた。

スプリングリバーブは構造がシンプルな割には妙にデリケートな所があり、あまり強い衝撃には耐えられない。機材に(物理的な)振動が加わるとそれだけで音に影響が出るうえに、入力された信号が強すぎると回路の許容量を超えてしまい、



ピチョンッ


ピチョンッ



などという奇妙なアタック音を発してしまう。
これは俗にバネ鳴りと呼ばれており、水滴が跳ねたような音がする。


こうなってしまうと、ますます銭湯にしか聞こえない。

こんな気難しい機材をなんとかして使いこなさなければならなかった、昔のエンジニアの苦労が偲ばれるところである(もちろん、前述したような欠点を克服した高性能な機材もあるにはあったが)。


〈使い道〉
だが、これらの特性を逆手にとり、意図的な演出として音楽に取り入れるミュージシャンも現れた。

代表的なのは、やはりザ・ベンチャーズを始めとするサーフロック勢だろう。

日本でも有名になったあのテケテケ…というサウンドは、スプリングリバーブのバネ鳴り抜きではあり得ない。
テケテケとピッチョンが組み合わさり最強に聞こえる。

今でも、「ベンチャーズサウンドはスプリングリバーブも用意して初めて成立する」と主張する音楽マニアは多い。

本来バネ鳴りはイレギュラーな事態であり、エンジニアはそれを起こさないために心血を注いできたはずなのだが、世界有数のお風呂大好き民族である日本人は目の付けどころが違うのか、バネ鳴り音が目立つサーフロックのレコードを有名・無名問わず積極的に取り入れて、すっかり楽しんでしまっていた。


〈アニメとスプリングリバーブの関係〉
スプリングリバーブは一時代を築きあげた音響機材なので、当然アニメや特撮ヒーロー番組とも密接な関わり合いを持っている。
アニソンなどのレコード音源にエフェクターとして用いられるのは勿論、番組本編でも音声に特殊効果を生み出すために頻繁に使われた。
特に70年代ごろのアニメだと、当時はまだエフェクターの種類が少ないので、登場人物の台詞や周りの物音にエコーが掛かるようなシーンが出てきたら、それはまず間違いなくスプリングリバーブによって作られた音と言ってもよい。

そういえばあなたは、こんな場面を目にした(耳にした)ことがないだろうか?

主人公が、敵の秘密基地や人気の無い廃墟の中などを散策していて、足音だけが寂しく響く……

コツン…

コツン……

ピチョン


…あれ?なんだか、水溜まりを踏んだような足音が聞こえてくるよ?

これこそが、今まで説明した「バネ鳴り」の分かりやすい例のひとつである。キャラクターの足音にスプリングリバーブが耐えきれなかったのだ。
また、スプリングリバーブは本来の用途とは別に、簡易シンセサイザーとしても重宝されていた。
なんせ、ちょっと衝撃を与えただけでも音が変わるような機材である。
どんなことをしたらもっとヘンな音が出せるか?ということも研究され、宇宙空間などの非現実的な世界を演出するのに一役買っていた。


〈スプリングリバーブの現在〉
現在はデジタル式のリバーブで質の良いものが十分に普及していることもあり、アナログのスプリングリバーブの実物を使うような機会は非常に少ない。
ただ、だからといってスプリングリバーブの音そのものが完全に忘れ去られたわけではなく、たとえば、多機能なデジタルリバーブエフェクターなどでは、スプリングリバーブの音を再現したものがプリセットのパターンのひとつとして組み込まれていることも多い。
また、フェンダーなどのギターアンプには、今でもスプリングリバーブが内蔵されている。
やはり、ベンチャーズを弾きたい人向けに残しておいているのだろうか…。
中古の楽器店などに行くと、年代物のスプリングリバーブエフェクターが売られているのに出くわす可能性もある。
その大多数は「伝説の名器」のような扱いを受けていて、とても手がだせないような代物ばかりであるか、ごく稀に安価な民生機の中古品を見つけられることもあるので、興味があったら手にとって、そのサウンドに触れてみるのも良いかもしれない。
きっと、新しい世界が開けるだろう。





追記・修正は、お風呂で歌を唄いながらお願いします。


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最終更新:2020年12月19日 14:14