根性論/精神論

登録日:2012/01/21 Sat 23:43:31
更新日:2024/03/18 Mon 15:57:50
所要時間:約 5 分で読めます




???「気合いだ!! 気合いだ!!! 気合いだー!!!!」


??「元気があれば、何でもできる!」


??「世界なんて簡単に口に出してんじゃねぇ!! おまえは富士山になるんだよぉ!!!」



まだだ!



精神論または根性論とは、何事も根性次第で苦難を乗り越えていくことが出来るという、教えがいつの間にか歪曲してしまった考え方です。

所謂スポ根もののアニメやドラマ等で、コーチが選手を精神面を鍛えるために必要以上に練習や稽古をさせたり、シコシコさせる行為を指す場合が多いです。

昔のスポ根アニメの筆頭格である、アタックNo.1テニスの王子様等の例を取ってみると……。

コーチが休憩も与えずにひたすらボールを選手に打ち込み続ける→選手は極度の疲労からふらつきはじめる→
コーチはそんなものは甘ったれだといってさらに打ち込む→選手は疲労や無給水による脱水症状から意識を失う→
コーチは意識を失って倒れている選手に向かってさらにボールを打ち込む(以下略無限ループ



……と言った具合です。

これはいくら休憩がなかろうと、無給水だろうと困難な状況で精神的に強くなるのだから、そんなことでへこたれてはいけないということです。

しかしこれは非常に危険な行為であり、選手生命に関わるどころか、命そのものに関わることだとして、
現在では大多数の競技で事実上やってはいけないこととして認知されています。
これで選手が体を壊した場合、監督が責任を問われることもあります。

各競技での根性論がどんな風に存在してきたか、逆に根性一辺倒から改めた結果どんな成果が出たか、見ていきましょう。

バレーボール

東京五輪バレーボール日本代表チームが根性論トレーニングの代表格とされ、その主導をした大松監督は鬼と恐れられましたが、他方でトレーナーとしっかり相談して限度はきちんと測っていました。
世間を騒がせたスパルタトレーニングも大松監督夫人によれば他国への心理作戦としての一時的なパフォーマンスで、実際にはあんな練習は専門的なトレーナーから止められていました。

ただ、モスクワ五輪日本代表女子バレーまではあまり過酷にはしなかったようですが、
その後の指導者には本来の指導法が伝達されていなかったようで、ただただ練習を目一杯させるという方法を採ってしまいました。
結果として怪我人や離脱者が相次ぎ、その後は男女とも散々な状況になったことは周知の通りです。
おかげで、Vリーグから代表に選ばれても、怪我を恐れて辞退する選手が相次ぎ、真の日本代表とは言えないというのが現実です。

柔道

柔道は、元々日本で生まれたスポーツです。
海外の選手が科学的トレーニングをいち早く導入し、成果を出していたのに対し、発祥国のプライドや、日本人独特の美意識が大いに足を引っ張りました。

2012年ロンドン五輪で男子日本代表は金メダルなしという屈辱的成績になりました。
この原因として、当時の日本柔道の指導が根性論に偏りすぎていたことが一因だったと言われています。

代表選手は故障を抱えていても合宿に参加しなければならず、故障を押して参加してもコンディションへの配慮などは何もなく、級の違う選手でも練習は画一的で、たださせるだけという風習から抜け出せませんでした。
国内外の大会への参加も頻繁に求められ、必要性の乏しそうな大会も出なければ代表選考に悪影響が及んでしまうので出ざるを得ない状況で、選手たちは監督を信頼しなくなりました。*1

ロンドン五輪の屈辱的成績を受けて日本男子柔道の監督となった井上康生は、自らの受けてきたトレーニングに固執せず、練習メニューなどを個別にし、科学的データや海外主要選手の研究なども積極的に導入していきました。
データに基づいた練習や指示なら、選手たちも信頼して指示に従えます。
2016年リオ・2021年東京五輪での日本柔道の復権は選手たちはもちろんのこと、井上監督の指導も非常に大きなものであったと評価されています。

野球


野球では、近鉄で発生した鈴木啓示監督を巡る内紛が有名です。
当時の近鉄にいた立花龍司コンディショニングコーチは自身が過剰練習で体を壊し、選手となることを断念した経験から最新のトレーニング理論を身につけていました。
92年まで監督だった仰木彬監督は他のコーチの懸念を押し切って立花コーチを信頼し、立花コーチも知識をフルに生かして故障を減らす等の成果を出し、選手からも信頼されていました。
ところが93年に鈴木監督に交代すると、鈴木監督による根性論トレーニングが始まり、立花コーチは冷遇されてシーズン終了後に退団、立花コーチを信頼していた野茂英雄などの主力選手と監督の関係も悪くなります。
94年に近鉄は一時首位に立ったものの、野茂が肩を痛めてシーズン中離脱して失速し、95年には主力に故障や不調が続発して近鉄は最下位に転落しました。
野茂や吉井理人といった主力は鈴木監督や球団ともめて近鉄を去り新天地で大活躍、立花コーチも主にロッテで力を見せた一方、鈴木監督は95年のシーズン途中で監督を辞め、それ以降監督として全く声がかからなくなりました。

鈴木監督は現役時代300勝以上を挙げたレジェンド投手で根性論トレーニングは彼自身の成功体験に基づくものでしたが、それはあくまで鈴木個人に有効なものでした。
その上「自分にも他人にも厳しい」「誰にも否定できない成功体験」を持った鈴木監督にとって、選手経験のない立花コーチや選手の反発を受け入れることは甘やかしとしか思えなかったのです。
現在は鈴木元監督も自身に落ち度があったことを認め、自身に反発して辞めた選手に賛辞を贈るなどしています。

長距離走


箱根駅伝も1月の寒空の下、高低差の激しい道路を20キロ以上を走ると言う厳しい環境下で大ブレーキを起こしても、全国に放送されてしまう上に他の選手のためにタスキをつなぐ要請から
棄権することもなかなかできず、結果として逆に選手に過剰な負担を与えてしまっているという批判がされています。
独裁国家から出てきた五輪選手が下手に出場辞退すると粛清されるため、体を壊したのに出場する現象がありますが、日本でも同じことが起こっていると言われています。
箱根駅伝が大学選手たちにとって大きな目標となっている半面、箱根駅伝のせいで日本の前途有望なランナーがその芽を摘まれている、とすら言われているのです。

企業経営


企業経営においても、精神論に基づく経営を行う経営者や営業活動を行う営業マンは後を絶ちません。
安易に諦めるのではなくなにくそという頑張りが一定の成果を残すことは間違いありませんし、甘さを捨てた断行力あってこそ成功した企業があったのも確かです。

しかし、そのために明らかに過度な目標設定を押し付け、達成できない者に根性論を押しつけてレッテルを貼ったり、パワーハラスメントを連発する企業は後を絶ちません。
結果として、無茶、時には違法な営業活動が実施されてしまい、多くの被害者を発生させ企業そのものを潰したり大幅な縮小を余儀なくされてしまったケースも少なくありません。

また、企業内で重箱の隅をつつくような掃除などをさせたり服装を統一させることで従業員の意識の統一やモチベーションを上げることを殊更に重視し、そのために時間を割かせる企業もあります。
確かに士気向上や来客を考えて服装や掃除も重要ですが、そのために本来なすべき業務の時間を削らせるか、ブラック企業化するなどの本末転倒な事態が、精神論によって正当化されてしまうのです。

悪の組織

アンドロイドの集団であるにもかかわらず、根性論に陥って構成員のロボットを精神注入棒で殴った結果、精神に異常をきたして人格が破壊されるに至った組織もあるようです。
首謀者の博士はそのロボットを蔑ろにする姿勢に激怒した特捜ロボにより、その火力の全てを叩き込まれるところでした。ちょうど警察がやってこなければチリ一つ残さず消滅していたでしょう。

人間の身体と根性論


因みにヒトの身体の個性をおおざっぱ*2に特徴付けると以下のような種類がありまして

  • ガチムチ系-パワー半端ないけど持久力に恵まれない

  • ナイスメン・ウーメン・イケメン系-パワー系だけど持久力も若干ある

  • 細マッチョ、頬痩けてる系-どちらというと持久力特化だけどパワーも若干ある

  • ガチスリム、幼顔系-持久力半端ないがパワーに恵まれない

東アジア系の人とヨーロッパ系白人(一概には括れませんが)の人達は殆どナイスメンと細マッチョです。

そう、米英様達と骨格とか以外はあんま変わんないんですね。

なのにジュニア期だと欧米の強豪とあんまり違いのない日本のランナーが陸上競技のトラックレースで勝てなくなるのは、
走らせ過ぎてスプリント系の能力が削られてしまっているんじゃないかという話があったりします。

あとガチスリム(ACTN3欠損型)の方々は持久力に恵まれてるはずなのに日本のランナーだと数が少ないんですね。

これには諸説ありまして、一つ目は一般人と比較して持久系アスリートにACTN3欠損型が多かったというデータは白人の被験者が中心で、
日本人の被験者ではないということ。

二つ目は筋肉が大きな力を安定して発揮する為の遺伝子が無いこのタイプは走る能力全般で劣ってしまっている可能性があること。

そして三つ目は、筋肉の構造が脆くダメージが回復しにくいこのタイプでは、欧米に比べればジュニア期から距離を踏ませ練習量が多く、
トップに行けば駅伝で酷使される日本型のシステムではきついのかもしれないということです。
このタイプが今の日本で成功するには、一般的なルートから外れて少ない練習量で成功したマラソンの川内優輝選手が最良のモデルケースとなるかもしれません。


がこの遺伝子が欠けていても、事例は少ないですが400m走や走り幅跳びで成功している選手もいる上に運動能力に関連する遺伝子は200以上もあり、
あくまでもその中のひとつにすぎないことに注意してください。
遺伝子上、最良の条件がぴったり当てはまる体を持って生まれる可能性は、単純計算すれば天文学的な奇跡であり、全世界に一人すらいなくて当たり前なのです。 

精神論は不要ではない


根性論精神論の問題点を指摘してきましたが、根性や精神はいらないものではありません。
何かしらの目的があってそれを達成する為に練習を積むのに、そこから精神性だけ持ち出して重視するために問題になるのです。

何も考えずただ頑張るだけでは努力は報われないのは前記したとおりですが、根性や忍耐がなければ目的を達成できないのも確かです。
体を壊さないことがいくら大事だからといって、自分を追い込むトレーニングなしで勝てるほど甘い世界でもありません。

叶えたい理想があり、それを叶えるためにはどうすればいいかを自身はもちろん、時には人の力を借りてでも考え、自分自身で行うべきことは忍耐を持って遂行する、

その思考と遂行の両方が自発的にできるのが本当のメンタルタフネスです。
……逆にどちらか一方だけで強くなれる人はそれだけ精神的にも肉体的にも優秀だということになります。
しかし、今のスポーツ界では、世界中で双方を鍛える選手たちが存在しています。
そうした選手たちの中でトップになろうとするのに、一方だけのハンデマッチでトップを目指すなどは単なる無謀でしかないのです。

トレーニングの心構え


トレーニングの五大原則というのを紹介します。

継続性の原則
練習効果はすぐに現れません。1~2週間で効果がないと諦めるのではなく2~3ヶ月は続ける必要があります。
筋肉がつくというのは、練習で一旦組織を壊してそれを再生させることなのですから、そのサイクル分は続ける必要があります。

個別性の原則
トレーニング効果の個人差を理解すること。十人十色、人生いろいろ。
何の根拠もなく優れた他人の真似をしても効果は現れませんし、効果の現れ方も人次第です。

オーバーロードの原則
十分なトレーニング効果となりうるには一定レベル以上の負荷をかけなければいけません。
いかにスポーツ科学的に正しいトレーニングでも、世界を目指すアスリートならば一般の人から見ればとても持たないくらいのトレーニングは必要になります。

全面性の原則
専門種目に求められる特殊性ばかりを追求してトレーニングをしていると片寄った発達を招いてしまいます。故にオールラウンドに鍛えていくことが必要になります。
腕立て伏せをしても腹筋は鍛えられないという簡単なことなのです。

意識性の原則
他人にいわれるがままこなしていたのでは強くなれません。自分で考えながら取り組むことが大切になります。

根性論と信頼関係


上に書いてあるようなトレーニングを自分の力だけで行うことには限界があります。「自分の体のことは自分が一番よくわかる」というのは幻想にすぎません。
特に上を目指すアスリートならば、これらを正しく実行するためには優れた指導者や専門家の力を借り、二人三脚の態勢を作ることが必要不可欠です。
こうした指導者や専門家には選手の正しい訓練を見極める力量と同時に、選手との信頼関係が非常に重要になります。
すぐに効果の現れない負荷のある練習には、ひたすら辛いばかりで無駄に終わる不安が付きまといます。その選手に向上心があればあるほどそうなります。
そんなときのために、指導者と選手の間には「この人の言うことに従えば成果が出る」という信頼関係が必要になります。
信頼関係をおろそかにした結果としてアニヲタ界隈で有名なのが「まるで成長していない…」の例です。

松岡修造

元プロテニスプレイヤーの松岡修造は、熱い発言の数々から根性論が大好きだと誤解されがちです。
しかし修造は「裏付けのない根性論は一番嫌い」「根性論では何も達成できない。小さな子であっても、きちんと道筋をつけることが『できる』につながる」といっています。

実際の修造のコーチングを見てみると、科学的な裏付けあるトレーニングを準備し、「まず方法論を学ぼう」「根性で押し切ろうとするのではなくよい方法を考えよう」と言う姿勢であることが分かります。
もちろんそれでも厳しい内容なので、へこたれてしまいそうになる教え子は出ます。
松岡修造の熱い発言はこう言ったときに一押しとして出ています。

精神論や根性論をただ否定するのではなく正しく付き合っていくやり方として、松岡修造の考え方が参考にできるかも知れません。

※そもそもの精神論/根性論の出自


根性論/精神論のそもそもの出自は旧・大日本帝国陸海軍のアイデンティティな『大和魂』精神に由来しています。
軍隊が解体された後、各界に散らばった元軍人達が再就職後に、軍隊時代に教わった『大和魂』精神をそれぞれの再就職の職場で持ち込んだのが始まりです。
一昔前の中学から高校では体育教師の事を「体育教官」などと別称していたのはその名残です。
スポーツ界のコーチも戦後しばらくは『戦前、もしくは太平洋戦争中に従軍経験があった世代』で占められており、世の中にも旧軍の経験があった人達が大勢いました。
東京五輪女子バレーボール日本代表チームのトレーニング風景がジャーナリズムで宣伝され、彼女たちが金メダルを取ったことで、選手をしごきぬく事が正しいと思い込んでしまう空気がありました。

それを信じる子供も続出していき、その時の子供達が指導者になった時代、『上辺だけの特訓』に酔いしれ、スポーツ医学無視な特訓をさせた結果、逆効果になってしまうケースが各スポーツ界で続出しました。
バレーボールや体操、マラソンなどの競技での凋落は精神論の普及で起こったと言って過言ではありません。
アマ界でも、近年の箱根駅伝で、脱水などが原因で上記のようなリスクを越えてでも棄権するケースが相次ぎ、その翌年から塩分も補給可能なスポーツ飲料が解禁になった事例が知られています。

かつて、旧軍の風習を叩きこまれた世代は、戦場や苛酷な訓練の経験から、限度をある程度は知っていました。
スポーツ医学という考え方自体が当時は未発達でしたし、戦場であれば命にかかわりますから、多少の無茶は仕方ない所もあったでしょう。
きちんとした専門家や指導者を連れてくるには相応の金銭や人手が必要になりますが、それを準備して多数の兵の面倒を見る余裕は旧日本軍にはありませんでした。
その意味で、旧軍の精神論や根性論はやむを得ない面があったと言えます。

しかし、後代になると、世代交代で経験的な限度の知識はなくなってしまいました。
そもそもスポーツは命に関わる戦場ではないのですから、軍隊の発想をそのまま横滑りさせて良いわけではありません。
当時と比べてスポーツ医学も発達してきていますし、少人数の限られたアスリートにさえ専門家も付けられない訳ではありません。
スポーツ医学が「甘やかし」としてその発展の成果が反映されず、旧来の精神論や根性論の悪い点が表出してしまう一方、先進諸国がスポーツ医学を取り入れていったため日本は取り残され、お家芸と言われた各競技の凋落を招いてしまったのです。
精神論者が心の拠り所としている東京五輪女子バレーボール日本代表チームですが、実は当時としては高度なスポーツ医学に支えられていたという歴史的事実は、戦後の精神論者の多くが嫌う旧軍の精神を最も受け継いでいたという皮肉を妙実に表しているのです。




追記・修正は強固な目的を描き、それを達成するためのプロセスを考えてから、忍耐と根性を持って適切な練習をして、目的を達成してからお願いします。

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最終更新:2024年03月18日 15:57

*1 後年、当時の篠原信一監督本人がこれらの問題点を反省し、自身は監督に向いていなかったと述懐するに至っています。

*2 ※かなり噛み砕いた内容なので正しく知りたい人はACTN3、ACE、運動能力に関連する遺伝子でググってみてください※