マクスウェルの悪魔

登録日:2011/07/24(日) 04:46:58
更新日:2023/12/23 Sat 12:05:21
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マクスウェルの悪魔

さぁ
アニヲタの諸君にマロンある項目を。


▽目次

☆話をしよう☆

今から─
おっとネタが古いか。
まぁいい。
マクスウェルの悪魔……彼女の話をする前に、諸君にはまず押さえておいてほしい言葉がある。

「熱力学第二法則」だ。

こいつは『物質の温度は低い方から高い方へは移動しない』という物理法則。
熱いお湯を置いておいたら冷めてぬるくなるが、
水を置いておいていても熱を勝手に周りに放出して氷になることはない、
こうなるのは分かってくれるだろう。
この現象を科学的に言い換えた言葉が熱力学第二法則というわけさ。

で、だ。
この法則が発見されたことによって、「永久機関は絶対に作れない」という事実が証明されてしまった。この法則がある限り、人類の夢とマロンの結晶である永久機関はこの世界に存在しえないんだよ。


☆で、マクスウェルの悪魔って?☆


19世紀の物理学者・マクスウェルに生み出された空想上の悪魔のことだ。
この悪魔は、とある『箱』の中に棲みついている。

『箱』は密閉されていて、その中は小さなドアのついた薄い仕切りで2つのスペース、AとBに区分けされている。
そして、両方のスペースには同じ温度の空気が封入されている。「同じ温度」というのがポイントだ。
加えて言っておくと、このドア付きの仕切りと『箱』は熱を一切漏らさない素材でできている。


さて、悪魔についての話に戻ろうか。
彼女はこの薄い仕切りの前にいる。そこから箱の中に漂う空気分子を監視していて、分子の動きが早いか遅いかをチェックしているんだ。
速く動く空気分子がAに近づいてくればドアを開け、動きの(のろ)い空気分子がやってくればドアを閉める。
逆に、速い空気分子がBに向かってくればドアを閉め、鈍い空気分子はドアを開けて誘導する。
これを繰り返し、彼女は速く動く空気分子を片側の部屋に集めたのさ。


☆どういうこと?☆

物理学に造詣のある者ならこの時点でもう察しはついているかもしれない。
……おっ、その顔は。「気づいた」って顔だな。

物質の温度、いわゆる熱い寒いってのは、突き詰めていくと「分子の動き」なのさ。
たとえば、熱くて手を触れられないような熱したフライパン、これは「フライパンを構成する分子全体が激しく震えている」と言い換えることができる。逆に、冷たい氷は「あまり震えていない」んだ。*1

絶対零度という言葉を聞いたことがあるだろう?これより温度が下がらないという「冷たさ」の限度。
これは、分子が全く震えていない、動いていない状態でもある。
逆に言えば、それより温度が高い存在ーーー氷も、人体も、水もすべて、ある程度は熱がある。つまり、多かれ少なかれ振動している。動いているんだ。

そして、この分子の震え、動き……これらは、俗に「熱量」と呼ばれる。
おや、ピンとこない?わかりやすく言い換えてやろう。「エネルギー」だ。エネルギーとは、分子の動きそのものなのさ。

温度分子の振動の激しさエネルギーの量

こういう図式が、すなわち成り立つのだよ。



……ここまで説明すれば、彼女――マクスウェルの悪魔ちゃんがやったことの意味を理解できるのではないかね?

彼女は分子を仕分けした。仕分けしたことで2つの部屋の温度に差が生まれた。
ただ分子運動を見てドアを開け閉めしただけでAの部屋の温度を上げた。

そして、温度と熱量とエネルギー量は根源的には同じ。
ということは、マクスウェルの悪魔は、利用可能なエネルギーのない場所からエネルギーを取り出したことになる。
ヒーターもカイロも何一つ使わず、高温の部屋が発生しているのだ。
仕切りを動かしたことで外からエネルギーを加えた様に見えるが、「分子・原子の速度を観察せずに」同じ回数ランダムに仕切りを動かした場合はエネルギーを取り出せないので、仕切りを動かしたことに関しては問題ではない。

ここで冒頭の熱力学第二法則の話に戻るが、
物質の温度は低い方から高い方へは移動しない』というこの原則を、マクスウェルの悪魔は破った。


つまり、「熱力学第二法則があるから永久機関は絶対に作れないって話でしたけど……分子の動きを観測する手段があれば、その法則、突破できるんじゃないですかね?えっと、その……永久機関、作れるかもしれないですよ?」と言ったのだ。



☆その後の顛末☆


マクスウェルの悪魔がやったことは今言ったとおりだが……
彼女の業績を一言でまとめると、さしずめ「熱力学第二法則の否定」ってあたりになる。

もちろん、悪魔ちゃんによって理論を否定されたせいで全世界の物理学者は大混乱。

この悪魔ちゃんは一見何もしていない。何もしてないのに熱量が動いてしまうという存在を認めてしまえば、
電気も使わず冷蔵庫が冷たいままだったり、ガソリンも電気も使わずに車を走らせるという事が可能だと宣言してしまうことになる。

だから世の物理学者はこの悪魔ちゃんを滅することに必死になった。
この問題が解決されるのには一世紀近く時間がかかった。


問題が提起されて約半世紀後。
先の悪魔ちゃんを使った実験の空気を分子一個に置き換えた実験をジラートさんが考えた。

これはあれだ。
分けられた箱で、分子が無い方は真空、つまり中に物質がないから温度は絶対零度で、
分子がある方は、一個だけ分子があるからちょっとだけ温度があるよってことで、
仕切りを開けてこの一個だけある分子を通すことで、絶対零度だった方はちょっと温度が上がって、ちょっと温度があった方は絶対零度になったよ
ってこと。

温度が低い方から高い方へ移動したのが分かるだろう?
これも立派に熱力学第二法則を破ってるんだ。



☆決着☆


悪魔ちゃんが永久機関の可能性を提示してくれたとはいえ、彼女を放っておくと既存の物理学が成り立たず、これまで組み上げてきた理論が滅茶苦茶になってしまう。それでは科学の発展を妨げてしまうので、熱力学第二法則の矛盾をどうにかして解決する必要があったのだ。


よし、では考察に入ろう。
悪魔ちゃんは分子を見て仕切りを開け閉めする
→分子が移動し熱力学第二法則が破られる
→熱力学第二法則に矛盾しないためには悪魔ちゃんが箱に何かしたって事実が必要

さて。ここで悪魔ちゃんがしたことを振り返ってみよう
  • 分子の観測
オンリー。ってことは、だ。
『見る』という行為は箱に何か『する』という行為と等価
なのではなかろうか?

ここで
見る=情報を得る
する=エネルギーを与える
と言い換えよう。
そして言葉をほぐすと、
情報それ自体をエネルギーに変換できる
ってことじゃね?

つまりどういうことかというと、
「情報そのものをまるっとエネルギーに変換できたなら、熱力学第二法則の矛盾は解決される」
というわけだが……







そして約20年後


   *   *
 *   + 実験で確かめられました
  n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
  Y   Y  *

まぁ間接的にだが、はれて情報とエネルギーが等価(情報をエネルギーに変換できる)だと証明されたのだ。
その後も色々な実験があり、情報を忘れるときにエネルギーが発生するということが分かってきた。
その副産物で、悪魔ちゃんの記憶力は1ビットってこともこらそこアホの子とか言うな!!
そして時は流れ
2010年11月11日
中央大学は東京大学と共同で情報をエネルギーに変換することに成功した
もちろん世界初←NEW
アニヲタのNEWS板にも出てたから記憶にある人もいるのではなかろうか。

つまり悪魔ちゃんは何もしてないんじゃなくて、「見る」という事でエネルギーを移動させてただけだったって結論になったんだ。
何もせずに熱量が動いた訳じゃないって証明したわけだね。


☆何がマロンやねん☆

考えて見て欲しい。
情報がエネルギー
では我々に最も身近な情報を運ぶモノは何だ?
そう、文字だ。

文字からエネルギーを抽出するとかもう魔法じゃないですか!
まんま魔導書じゃないですか!!


まぁここでいう情報は物理的に意味のある情報だから文字から直でエネルギーって訳にはいかないが、
文字も我々にとって情報を持っている。
ならば我々が文字情報を物理的情報に変換する装置を作れば文字からエネルギーを取り出すこともできちゃうのである。


ちなみに本家によれば、
約2.39×10の7乗テラバイト
で1ジュールらしいです

……ま、まぁ記憶装置の大容量化が進む現代。
いつかケータイみたいな情報端末に情報送りそこからエネルギーを取り出せる日が来ると信じようじゃないか


かの文豪アーサー・C・クラークも言っている。
『充分に発達した技術は魔法と見分けが付かない』


説明は以上だが、マロンは感じられただろうか。
その妄想力で感じとってくれたら嬉しい。




追記・修正はエネルギーから取り出した情報でお願いします。

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最終更新:2023年12月23日 12:05

*1 この仕組みを利用したものに電子レンジがある。電子レンジはこの分子を振動させることで、熱を使わずにものを温めることができる。