スライダー(変化球)

登録日 :2009/11/27(金) 12:17:49
更新日 : 2016/05/15 Sun 02:27:06
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スライダーは野球における変化球の一種。
使用する投手の多い、代表的な変化球の一つだが、
野球を知らない人にとってはカーブ、フォークよりもやや知名度が低い。


【変化】
一般的なスライダーは投げる手と反対の横方向に曲がる変化をする。
回転による変化は横のみだが、重力や空気抵抗によりやや斜めに落ちる。
大きく鋭い変化をするので空振りを誘いやすく、フォークボールと並ぶ強力な決め球の代名詞として知られる。

しかし一口に「スライダー」と言っても、投手によっては投げ方どころか握りさえも異なり、その変化も様々。
極論、投げ手が「これはスライダーだ」と言い張ればスライダーと見なされるとも言え、分類の難しい球種である。
あえて定義すると「投手の利き手と逆の方に曲がっていく球種の内、カーブとムービングファストじゃないの」とでもなるだろうか?


【投げ方】
基本的には、ストレートの握りから人差し指を中指側に揃え、横の縫い目にかけて握る。
この握りから、縫い目方向に回転をかける、もしくは縦に切ることで変化を生む。


【スライダーの種類】
  • 斜めスライダー
曲がる際、斜めに沈むように変化するスライダー。
スライダーとカーブの中間ということで「スラーブ」とも呼ばれることもある。
通常のスライダーと違い縦変化の成分が入っており、またカーブよりも球速が速いため、その変化は「鋭く曲がりながら落ちる」と評される。
代表的な使い手に石井一久などがいる。
メジャーリーグではニューヨーク・メッツのクローザーであるフランシスコ・ロドリゲスが有名な使い手で、
まるで漫画のように大きく急激な曲がり方をすることから「カートゥン・スライダー」と呼ばれている。

  • 縦スライダー
スライダーの回転軸をそのまま90度傾けることにより横ではなく、縦に鋭く落ちる変化をするスライダー。
「縦スラ」と略されたり「落ちるスライダー」と呼ばれたりもする。
フォークをはじめ、縦の変化球の多くは、回転を減らすことで空気抵抗を大きくし、結果「落ちる」というもの。
これに対し、縦スラは回転による変化のため、言うなれば下に曲がる変化球である。
しかしこれにも「トップ回転」のものと「ジャイロ回転」のものが含まれる。
前者の方が習得が難しく、現在は後者・2シームジャイロの縦スラが主流のようだが、いずれにしろややこしい。
主な使い手は新垣渚、大塚晶則、松坂大輔、田中将大など。
現代メジャーリーグ最高のスライダーの使い手と呼ばれているミネソタ・ツインズのクローザー、ジョー・ネイサンの球もこれ。

  • まっスラ(カットボール)
「まっすぐ」+「スライダー」から生まれた和製語。現在カットファストボール(カットボール、カッター)と呼ばれているのがこれ。
ストレートとほとんど変わらない球速で来て、打者の手元でクッと変化する。芯をはずし凡打を打たせるのに有効。
以前は単なるクセ球と見なされる場合が多かったが昔からよく投げられている。斎藤雅樹なんかも投げていたらしい。、日本でも2000年頃を境に使う選手が急激に増えた。
カットボールの名称が普通に使われ始めたのは中日の川上憲伸が2002年に使い出してからであろう。以後、急激に変化球のひとつとして定着した。
メジャーリーグ史上最高のクローザーと呼ばれるマリアーノ・リベラ(ニューヨーク・ヤンキース)のカットボールは常時155km/h前後を計測し、
これ一つだけで打者をねじ伏せることができるほどえげつない魔球。

  • 高速スライダー
単に球速の速いスライダー。
一般的に、スライダーの球速はストレートよりも10km/h以上遅くなるが、
これがストレートとさほど変わらない場合、変化の縦横に関係なく高速スライダーと呼ばれることがある。
「ことがある」というのは、その呼称がストレートの球速に依存しているためで、
例えば、130km投手が125kmのスライダーを投げたところで、速いという印象は抱かない(もちろんプロの話)。
よって、ストレートが140km後半以上の速球派投手が投げて初めて認められる、一種の“称号”と言えるだろう。

余談だが、あだち充の漫画「H2」では主人公国見比呂が終盤で習得し、ライバル橘英雄から三振を奪った。
橘「見たこともない変化球でした。ただ、名前は知っています。……『高速スライダー』」


ことほど左様に種類の多いスライダー。パワプロシリーズでは明確に分けられていて、
普通のスライダーは「スライダー」
高速スライダーは「Hスライダー」
斜めスライダーは「Sスライダー」
縦スライダーは「Vスライダー」
と、それぞれ異なる球種として登録されている。
ちなみに「スライダーは誰が投げても真横に曲がる」という誤解はおそらくパワプロシリーズが原因。

H=High speed、S=Slant、V=Verticalを意味すると思われるが、これはコナミの造語。
そのため、パワプロから野球に入った人間はこの言葉が一般的と思い込みやすく、
実際に野球を見たりやったりするとカルチャーショックとともに軽蔑を受けることがある。要注意。
しかし解りやすい言い方なのは確かなので、実際にTVで使われる造語でもあったりする


いずれも非常に強力なボールとなるが、スライダーを語る上で欠かせないのが故障の問題である。
変化球のなかでもスライダーは特に肘や肩に多大な負担をかけるため、時に投手として致命的な故障にもつながる。

  • 伊東智仁の高速スライダー

最後に。

スライダーを語る上で、最もよく名前が挙がる投手がいる。
ヤクルト伊藤智仁 である。

伊藤は150km/hを超える速球と“真横に滑るような”スライダーを武器に、
社会人時代はバルセロナ五輪に出場し、ギネス記録となる 「1大会27奪三振」 を記録。
プロ初年には前半戦だけで7勝2敗 防御率0.91 の驚異的な成績をあげ松井秀喜を押し退け新人王を獲得した投手である。

彼のスライダーは140km/h以上を計測することもあったほどの“高速スライダー”だった。
球速以上にその変化も凄まじく、捕手としてその球を受けていた古田は、のちに
「普通の投手なら『右打者にぶつけるつもりで投げろ』と言うが、伊藤智には 『右打者の背中側を通せ』 と言っていた」
「捕手だから受けられたが、打者としてでは絶対打てない」
今まで受けた最高の投手 は伊藤智」

と語っている。

反面、身体への負担も大きく、元々ルーズショルダーだったことや、能力への信頼から完投が多かったことも相まって、初年の7月に早くも肩を故障。

以来常に故障との戦いとなり、97年には高津の代理で抑えを務めカムバック賞を受賞するなど、一時的に復活したかに見えたが、再び故障。
数回にわたり手術を受けたものの、その後も完治することはなく、2003年の秋季コスモスリーグでの登板を最後に引退となった。
往年の豪速球は鳴りを潜め、最後の試合でのストレートはわずか109km/hであった。ドラマティックな悲劇性もあり、現在は「本物のスライダーを投げたのは藤本英雄、稲尾和久のほかは伊藤智仁だけ」とまで伝説化されている。

スライダーをウィニングショットとする投手は比較的投手寿命が長いが、無茶な変化をするボールは威力はあるが投げると肘肩に爆弾を抱えるという危険も伴うといえよう。

  • スライダーの元祖は誰なのか

勿論伊東や林のようなスライダーを投げた投手は以前にも存在するが、誰が先駆けかがイマイチわかっていない。

伊東のスライダーが脚光を浴びるにつれ「ワシのスライダーは150キロでベースの端から端まで曲がった」などといった土橋正幸御大や稲尾御大の与太話を聞かされることとなったが、日本でのパイオニアである藤本氏のスライダーはストレートと殆ど同じ握り方で指の力加減だけで投げていたという。今で言うカットボールのような球筋だったらしく、御大のスライダーもそれに近いものだったとされる。

しかしカットボールが脚光を浴びると、御大は一転して「わしが最初に投げた」「いや、わしが開発した」と言っていた。どっちなんだよ。本によって握り方も違うし。最近はノムさんまでカットボールはワシが元祖と言い始めている。まあ、ほんの少し握り方や投げ方を変えるだけで変化が変わる球種なので誰が発明したというものではないのだろう。


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