スライダー(変化球)

登録日:2009/11/27(金) 12:17:49
更新日:2023/09/29 Fri 02:10:03
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スライダーは野球における変化球の一種。
プロアマ問わず使用する投手の多い、代表的な変化球の一つだが、
野球を知らない人にとってはカーブ、フォークよりもやや知名度が低い。


【変化】
一般的なスライダーは投げる手と反対の横方向に曲がり、重力や空気抵抗の影響で斜めに落ちる変化球である。
多くの投手がカウントを取るのに用いており、プロ野球の世界だとカーブより投げる投手が多い。

また、大きく鋭い変化をさせれば空振りを誘うこともでき、決め球としても用いられる。
サイドスロー・アンダースローの投手はフォークボールが投げにくいのでスライダーを決め球として用いる事が多い。
決め球としてのスライダーは「外に逃げる」変化球の代表例であり、スラッガーから多くの三振の山を築いてきた。
助っ人外国人はまずこの外に逃げるスライダーに適応できるかでその後の活躍が大きく左右されると言っても過言ではない。

曲がりの大きいスライダーの持ち主が強打者相手にワンポイントで登場することもある。
松井秀喜に対する遠山奬志、バレンティンに対する加賀繁などが有名か。

単に曲げるだけであれば、ストレートから握りをずらすだけでも曲がるので、高校生ではストレートとスライダーだけという投手も珍しくない。
もちろんコントロールを付けて曲げる、曲がり幅をコントロールするなど、ただ曲げる以上になればスライダー専用の投げ方は必要になるが、カーブほど腕の振り方を変えたり、フォークのように握り方が完全に違うというわけではないので、他の変化球よりは会得しやすいとされる。
そんなわけで練習時間が限られていても覚えやすいため、高校生の習得者が多いのかもしれない。


一口に「スライダー」と言っても、投手によっては投げ方どころか握りさえも異なり、その変化も様々。
極論、投げ手が「これはスライダーだ」と言い張ればスライダーと見なされるとも言え、分類の難しい球種である。
あえて定義すると「投手の利き手と逆の方に曲がっていく球種の内、カーブや速球ではないもの」とでもなるだろうか?


【投げ方】
基本的には、ストレートの握りから人差し指を中指側に揃え、横の縫い目にかけて握る。
この握りから、縫い目方向に回転をかける、もしくは縦に切ることで変化を生む。


【スライダーの種類】
  • 斜めスライダー/スラーブ
曲がる際、斜めに沈むように変化するスライダー。
スライダーとカーブの中間ということでスラーブとも呼ばれることもある。
通常のスライダーより斜めに曲がり、またカーブよりも球速が速いため、その変化は「曲がりながら落ちる」と評される。
代表的な使い手に石井一久などがいる。
メジャーリーグではニューヨーク・メッツのクローザーであるフランシスコ・ロドリゲスが有名な使い手で、
まるで漫画のように大きく急激な曲がり方をすることから「カートゥン・スライダー」と呼ばれている。


  • 縦スライダー
横ではなく縦に鋭く落ちる変化をするスライダーで、縦スラと略されたり落ちるスライダーと呼ばれたりもする。
縦回転(トップスピン)の縦スラとジャイロ回転の縦スラに分かれるが、前者は習得が難しいとされることや縦のカーブとの区別が曖昧なことから、現在は縦スラといえばジャイロ回転のものが主流のようである。

主な使い手は新垣渚、大塚晶則、松坂大輔、田中将大、山岡泰輔など。
現代メジャーリーグ最高のスライダーの使い手と呼ばれているミネソタ・ツインズのクローザー、ジョー・ネイサンの球もこれ。


  • カット・ファスト・ボール/カットボール/まっスラ
メジャーではカット・ファスト・ボール(もしくはカッター)、日本ではカットボールという名称で呼ばれる変化球。

ストレートとほとんど変わらない球速で来て、打者の手元で小さめに変化する。芯を外して凡打を打たせるのに有効で、多くは横変化だが縦に曲がるものもある。
以前は単なるクセ球と見なされる場合が多かったが昔からよく投げられている。斎藤雅樹なんかも投げていたらしい。日本でも2000年頃を境に使う選手が急激に増え、中日の川上憲伸が2002年にこの名称を使い出してから、急激に変化球のひとつとして定着した。
日本人の投げるカットボールはスライダーに近いらしく、「カット・ファスト・ボール(カッター)」とは別の球種として扱われることもある。ちなみに川上のそれはMLBでも本物のカッターと認められている。

メジャーリーグ史上最高のクローザーと呼ばれたマリアーノ・リベラ(ニューヨーク・ヤンキース)のカッターは152km/hで20cm落ちると言われたえげつない魔球で、この一球種のみでメジャーの並み居る打者を封じ続けた。
彼のカッターは内角を鋭くエグるため頻繁に相手のバットをへし折ることでお馴染み。引退表明後の試合では対戦相手から『折れたバットで作った椅子』がプレゼントされた。
現在はケンリー・ジャンセンが同様のカッター中心のピッチングで活躍している。

「真っ直ぐ」+「スライダー」で「真っスラ」と呼ばれることもあるが、現在は変化球としてこの用語が用いられることは少なく、専らカッター気味に小さく変化するストレートを投げる投手に対して用いられている。


  • 高速スライダー
球速の速いスライダー。
一般的に、スライダーの球速はストレートよりも10km/h以上遅くなるが、これがストレートとさほど変わらない場合、変化の縦横に関係なく高速スライダーと呼ばれることがあり、特にストレートが140km/h台後半以上の速球派投手が投げる場合に呼ばれることが多い。
一例を挙げるなら元中日でリリーフとして活躍した岩瀬仁紀で、キャリア前半の彼は150km/h近いストレートと140km/h台のスライダーの2球種のみで凡打や三振の山を築き上げたという正にこのタイプの典型例だった。

余談だが、あだち充の漫画「H2」では主人公国見比呂が終盤で習得し、ライバル橘英雄から三振を奪った。
橘「見たこともない変化球でした。ただ、名前は知っています。……『高速スライダー』」


  • スラッター/スラット

スライダーとカッターの中間の変化をする球で、2015年頃から認知されるようになった。
ストレートの軌道から鋭くバットに掠めない程度に曲がり、空振りが取りやすい球としては比較的、当てられても痛打になりにくいとされる。
近年のメジャーリーグで注目されており、マックス・シャーザーやクレイトン・カーショウなどが投げる球だが、実は以前から類似の球種を投げる投手は存在しており、松坂などがこの球を投じていたとされている。


  • スイーパー
近年のMLBで流行している球種で、通常のスライダーより若干緩めの球速ながら落差は小さく、かつ横変化が大きい。
曲がり幅や球速からスラーブの一種とする意見もある一方で、従来のスラーブとの相違点として、通常のスライダーより"落ちない"という特徴があり、打者からすればまるで横に噴き上がるかのように錯覚するとも言われる。
大谷翔平がいち早く取り入れたことで日本でも知られるようになった球だが、こちらも以前から実は投げていた投手がいるとされている。


ダルビッシュはこれらのスライダーほぼ全てを投げ分ける。


ことほど左様に種類が多く、研究が進み新しい概念まで登場するスライダーという球種。
パワプロでは、
普通のスライダーは「スライダー」
高速スライダーは「Hスライダー」
斜めスライダーは「Sスライダー」(初期作品)/「スラーブ」(近年の作品)
縦スライダーは「Vスライダー」
と、それぞれ異なる球種として登録されている。2022からは上述のカッター気味に小さく変化するストレートを投げる投手の再現性を上げるため特殊能力扱いで「真っスラ」も追加された。

ちなみに「スライダーは誰が投げても真横に曲がる」という誤解はおそらくパワプロシリーズが原因。

H=High speed、S=Slant、V=Verticalを意味すると思われるが、これはコナミの造語。
そのため、パワプロから野球に入った人間はこの言葉が一般的と思い込みやすく、
実際に野球を見たりやったりするとカルチャーショックとともに軽蔑を受けることがある。
しかしパワプロを遊んで育った世代がプロとなった現代では、プロもこれらの言葉を使うことがままある。
プロスピでは普通に「高速スライダー」「縦スライダー」「スラーブ」と表記される。また「縦カット」も対応している他、高速スライダーとは真逆の「スロースライダー」なる球種も存在する。「真っスラ」はストレートに微妙な癖を付けることで再現しているため、実在選手のみの扱いで架空選手に付けることはできない。


いずれも非常に強力なボールとなるが、スライダーを語る上で欠かせないのが故障の問題である。
変化球のなかでもスライダーは特に肘や肩に多大な負担をかけるとされており、時に投手として致命的な故障にもつながる。

  • 伊東智仁のスライダー

最後に、スライダーを語る上で最もよく名前が挙がる投手がいる。
ヤクルト伊藤智仁である。

伊藤は150km/hを超える速球と“真横に滑るような”スライダーを武器に、
社会人時代はバルセロナ五輪に出場し、ギネス記録となる「1大会27奪三振」を記録。
プロ初年には前半戦だけで7勝2敗 防御率0.91の驚異的な成績をあげ松井秀喜を押し退け新人王を獲得した投手である。

彼のスライダーは140km/h以上を計測することもあったほどの“高速スライダー”だった。
球速以上にその変化も凄まじく、まるでゲームのように横に曲がっていく。ちなみにこの高速スライダー以外にも複数のスライダーを投げ分けていたという。

捕手としてその球を受けていた古田は、のちに
「普通の投手なら『右打者にぶつけるつもりで投げろ』と言うが、伊藤智には『右打者の背中側を通せ』と言っていた」
「捕手だから受けられたが、打者としてでは絶対打てない」
今まで受けた最高の投手は伊藤智」

と語っている。

反面、身体への負担も大きく、元々ルーズショルダーだったことや、能力への信頼から完投が多かったことも相まって、初年の7月に早くも肩を故障。

以来常に故障との戦いとなり、97年には高津の代理で抑えを務めカムバック賞を受賞するなど、一時的に復活したかに見えたが、再び故障。
数回にわたり手術を受けたものの、その後も完治することはなく、2003年の秋季コスモスリーグでの登板を最後に引退となった。
往年の豪速球は鳴りを潜め、最後の試合でのストレートはわずか109km/hであった。ドラマティックな悲劇性もあり、現在は「本物のスライダーを投げたのは藤本英雄、稲尾和久のほかは伊藤智仁だけ」とまで伝説化されている。

スライダーをウィニングショットとする投手は比較的投手寿命が長いが、無茶な変化をするボールは威力はあるが投げると肘肩に爆弾を抱えるという危険も伴うといえよう。

  • スライダーの元祖は誰なのか

勿論伊東や林のようなスライダーを投げた投手は以前にも存在するが、誰が先駆けかがイマイチわかっていない。

伊東のスライダーが脚光を浴びるにつれ「ワシのスライダーは150キロでベースの端から端まで曲がった」などといった土橋正幸御大や稲尾御大の与太話を聞かされることとなったが、日本でのパイオニアである藤本氏のスライダーはストレートと殆ど同じ握り方で指の力加減だけで投げていたという。今で言うカットボールのような球筋だったらしく、御大のスライダーもそれに近いものだったとされる。

しかしカットボールが脚光を浴びると、御大は一転して「わしが最初に投げた」「いや、わしが開発した」と言っていた。どっちなんだよ。本によって握り方も違うし。最近はノムさんまでカットボールはワシが元祖と言い始めている。まあ、ほんの少し握り方や投げ方を変えるだけで変化が変わる球種なので誰が発明したというものではないのだろう。


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最終更新:2023年09月29日 02:10