ジークフリート(ニーベルンゲンの歌)

登録日:2013/07/16(日) 17:15:00
更新日:2024/04/16 Tue 02:21:23
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中世ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に登場する背中が弱点の騎士。



~物語での活躍~

ニーダーラント……つまりオランダの国王の息子としてクサンテン(現在はドイツ領)で生を受けたジークフリートは、両親と周囲の愛情を一身に受けて育ち、立派な騎士に成長した。
多くの家臣は彼が王位を継承することを期待していたが、本人は両親を尊敬していたので、両親の命がある限りは王位を継承せずに戦場で戦い国を守ろうと考えていたのであった。


さてそんなある日、ジークフリートの耳にある噂が飛び込んできた。
それはブルグントの国にはクリームヒルトというそれはもう可愛らしい王女がいるという噂だった。
それまでは冒険や戦で色恋沙汰には縁の無かったジークフリートだったが、この噂を聞くと俄然彼女への興味が燃え上がり、彼女こそ高きミンネ(当時の騎士の徳目であった奉仕愛)を捧げるべき相手だとして思いつめるようになった。


両親の心配をよそに、「いざという時はブルグントと戦してでも彼女を嫁にしますよHAHAHA!」と完全にクリームヒルトにお熱になってしまったジークフリート、たった12人の部下を引き連れ、一週間かけてブルグントの国に辿りついた。


ブルグントの国に辿りついた一行、応対に現れた国王グンターに対してジークフリートは何をトチ狂ったか開口一番「この国をよこせ」とのたまいだす。
当たり前だが向こうもプッツンし、場は一気にヒートアップする。
どうもジークフリートは完全にクリームヒルトのことで頭がいっぱいなようで、「いざという時」という話だった選択肢を最初に持ちだしてしまったようである。
第2の国王ゲールノートとの会話の時も思い浮かべていたのは彼女のことだった。
しかし第3の国王、若きギーゼルヘアの親切な対応で場は収まり、ジークフリートは客人としてブルグントの国に迎えられた。


その後1年、彼はブルグントの国で彼らと楽しい日々を過ごしたが、当初の目的だったクリームヒルトへの求婚はとうとうすることができなかった。
とんだヘタレである。


だがそこに転機が訪れた、ザクセン国の連中がブルグントに宣戦布告したのである。
今ではすっかりブルグントと仲良くなったジークフリート、これを知ると最前線で軍勢を率いて戦い、見事彼らを打ち負かすことに成功した。
ブルグント勢もこれには感謝し、戦勝の宴ではクリームヒルトが彼の世話をすることとなった。

しかしここで問題が起きる。
クリームヒルトのあまりもの可愛さにタダでさえヘタレだったジークフリートの心はは完全に折れ「こんな可愛い子が俺を好きになるはずが無い!」と絶望してしまうのだった。
そして戦後処理が終わると、そのまま何もせずに国へ逃げ帰ろうとした。恋愛は最初の勢いが大事ということがよくわかる場面。
が、いざ帰る時にギーゼルヘアが熱心に退きとめたのでジークフリートはもう少しだけこの国に留まることにした。
きっと心の底では胸をなでおろしていたんだろう。


その後、グンターがアイスランドの女王ブリュンヒルトを嫁にしたいと言い出した際に、ブリュンヒルトと面識のあったジークフリートは協力するよう頼まれた。
彼女は求婚者に対して3種競技を挑み、1種目でも彼女に負ければ求婚者を斬首するという恐ろしい風習を行っていた。
彼女がいかにヤバい女かを知っていたジークフリートは、ここがチャンスと「じゃあ協力する代わりに妹を僕にください」と切り出し、これは受け入れられた。


ところで、ブリュンヒルトというとジークフリートの恋人というイメージだが、この叙事詩の中では互いに恋愛感情は一切ない。
ジークフリートはご覧の通りクリームヒルトまっしぐらだし、ブリュンヒルトはというとジークフリートに対して「求婚してきても命取りになるだけよ。私ジークフリート怖いと思わないし(要するに自分より弱い)」と思っている。
恋人関係になるのは「ニーベルングの指輪」などでメインヒロインを張る戦乙女な方のブリュンヒルト。


さてグンターの部下という体でアイスランドへ同行したジークフリートは、彼女が求婚者に要求する三本勝負の最中に『タルンカッペ』という透明マントを使いグンターを支援。
見事に彼女を欺き、グンターは彼女を嫁にすることができたし、ジークフリートもクリームヒルトを嫁にすることができた。


しかしここで一つ問題が起きる。

ジークフリートはアイスランドに行った際、「自分はグンターの家臣」と彼女に嘘をついたのである(グンターをヨイショするため)。
つまり彼女から見れば、王族であるクリームヒルトが身分が低いジークフリートと結ばれるという形になり、これは非常に不名誉なことだと思ったのである。
事の次第をグンターに問い詰めるブリュンヒルドだが、グンターは本当のことが言えず適当にはぐらかすばかり。
これを不審に思ったブリュンヒルトはグンターとの初夜を拒み、彼をフルボッコにして部屋に吊るしあげたのだった。
一方「ゆうべはおたのしみでしたね」だったジークフリート、凹んでるグンターから酷い目にあった話を聞くと、乗りかかった船という事でブリュンヒルトがちゃんとグンターを受け入れるよう協力することにした。


そしてその晩、また透明マントを着たジークフリートはブリュンヒルトとバトル開始。
12人分の力が加わるタルンカッペを着ても危うく殺される一歩手前まで追いつめられたが、何とか彼女から降伏宣言をひきだすとグンターと入れ替わり、こうして彼の仕事は無事完遂された。
ブリュンヒルトは処女を失うとともに驚異的な戦闘力を失ったばかりか、エロゲのヒロインのごとく完堕ちして以後はグンターの忠実な妻となったのである。
しかし、この時何を思ったかジークフリートが彼女の指環と腰布を持ちかえったのが悲劇の発端となるのだった。


あ、そうそう。この時の話で「ジークフリートがブリュンヒルトの処女を奪った」とする本もあるが、それは『ティードレスク・サガ』でのお話か、そちらをベースに改変したお話なので注意するように。
ティードレスク・サガでのお話では、ブリュンヒルトから処女を奪わなければ彼女の怪力を消すことかできなかったのである(グンターからの許可ももらっている)。


そして事件は数年後、嫁と共にグンターの下に遊びに行った時に起きた。
求婚の一件から「ジークフリートはグンターの家臣」と思い込んでいたブリュンヒルトが、クリームヒルトの旦那自慢をバカにしたために口論になり、最終的にクリームヒルトが先の指環と腰布を持ちだして「ジークフリートの側室だ」と罵ってブリュンヒルトを泣かしたために、前々からジークフリートの力と財力を警戒していたハーゲンが、これを口実に彼の殺害を計画したのである。


計画は「ジークフリートをぬっ殺せば財宝ぶんどれるYO」とそそのかされた恩知らずことグンターの協力もあって粛々と進行。
「ザクセンがまた攻めてくる」という嘘の噂を広め「戦場で彼を守るために、もし何か弱点があったら教えてください」とクリームヒルトを騙して彼の背中の弱点を知ると、「ザクセンは攻めるのを中止した」とまた嘘をつき、今度は「せっかくだから戦の代わりに狩りでもやらないか?」と誘いをかける。


そしてホイホイついて行ったジークフリートは、彼らの罠にはまり、水飲み場の泉で弱点の背中を槍で刺され、あえなく逝ってしまった。


彼の死後、ブルグンドの国では盛大な葬式が執り行われ、老いも若きも彼の死を嘆いた。当然、クリームヒルトの嘆きは特に深かったという。
オマケにジークフリートの財宝も全部強奪されたため、特に暗殺の下手人のハーゲンを酷く恨んだ。
それが後にブルグントとフン族を滅ぼす悲劇に発展したのだった。


~人物像~

基本的には誠実な人間であり、頼まれごとがあれば断らない人物。だがあまり細かいことは考えないのか、時々よくわからない行動をする。これはキリスト教的な騎士像とゲルマン的な勇士像が混在しているからだとか。
力はめっぽう強く、戦場では後にフン族の宮廷で無双するブルグントの勇士すら足元にも及ばなかった。だが恋愛面ではヘタレだった。
あんま興味ない人でも聞いたことはあるだろう、竜を退治した時にその血を浴び、背中の一点を除いていかなる武器も通用しない身体になった人でもある。

ドイツ人ジャーナリストのヴァルター・ハンゼンによれば「ジェームズ・ボンドの原型」。ホンマかいな。
この説は彼の著書ではジークフリートの説明をするたびにこの説が語られている。


~彼の持ち物~

・バルムンク
彼がニーベルンゲン国へ冒険した時に手に入れた剣。
元々はニーベルンゲン族の2人の王子、シルブングとニベルングが都合よく訪れたジークフリートに「親父の財宝を納得いくように配分してくれ」という条件で前払いで渡された。
そして、配分に納得できなかった2人が12人の巨人の如き勇士と700人の勇士・・・合計714人で襲いかかってきたので、この剣で全員皆殺しにした。後にこの剣は彼を暗殺したハーゲンに奪われることとなった。そしてハーゲンも剣を奪い返したクリームヒルトに殺された。とんだ呪いの剣である。


・タルンカッペ
ニーベルンゲン族の家臣の小人アルベリヒの持ち物だったが、ジークフリートに敗北した後、彼に奪われた。
装備すると12人分の力が加わり、姿が見えなくなる。
ジークフリートの死後はどっかにいってしまったようで、アルベリヒは残念がっていた。


・ニーベルンゲンの財宝
文字通り、ニーベルンゲン族の財宝。統治者であるシルブングとニブルングを殺ってしまったので、なし崩し的に国ごと頂いてしまった。
財宝の所持者とその一族が気づくと強制的に「ニーベルンゲン族」と呼ばれるようになり、最終的には所持者が死んだり一族郎党滅んだりする呪いの財宝である。
ジークフリートの死後、クリームヒルトからハーゲンが強奪し、とりあえずライン河に隠された。後にハーゲンが財宝のありかを語らないまま死んだため、財宝は行方知れずとなった。



~他作品など~

剣のサーヴァント、セイバーとして登場。
なんかシグルド(シグルズ)とごちゃまぜになっているところがあるが、Fateではよくあることなので仕方ない。
その後設定が整理され、シグルドとはよく似た別人という形に落ち着いた模様。



追記修正は竜の血を浴びてからお願いします。

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最終更新:2024年04月16日 02:21