道化師の蝶(小説)

登録日 :2012/07/31(火) 00:22:27
更新日 : 2017/07/06 Thu 12:39:03
所要時間 :約 4 分で読めます




何よりもまず、名前があ行ではじまる
人々に。             

それから、か行で、さ行で以下同文。

そしてまた、名前が母音ではじまる人
々に。              

それからbで、cで以下同文。    

諸々の規則によって仮に生じる、様々
な区分へ順々に。         

網の交点が一体誰を指し示すのか、わ
たしに指定する術はもうないのだが、
こうする以外にどんな方法があるとい
うのだろうか。          



『道化師の蝶』とは円城塔の小説。

2012年1月に単行本が講談社から刊行されている。

収録作は以下の通り。
「道化師の蝶」(初出:「群像」2011年7月号)

「松ノ枝の記」(初出:「群像」2012年2月号)



概要
中篇小説をふたつ収録。
どちらもよくわからないお話に概ね属する。

物語が進めば登場人物は入れ替わり、お話は重なりながら組み込まれ、現実と虚構を行きつ戻りつ──無論全くしていないかもしれないけれど──結末へと辿り着く。

入れ子構造だ、いいやフラクタルだ、階層だ円環だ暗喩だ寓意だ戯画だと本書を読む/読んだ/読んでいるあなたは定義をするかもしれず、それすらすり抜けてしまうこれは何かだ。

“このお話はメタフィクションです(Wikipedia調べ)”の一言で済ませる向きもあるが、それは網目が一寸大きい。気がする。多分。


……何を言っているのかよくわからないと思う。

わたしにもよくわからないのだけれど、いや、よくわからないのはこの本であって、それをどうにか表現しようとした結果がこの概要だ。

本書を読んでいないあなたからすれば一切が意味不明で、「そういうのいいから、きちんと説明しろ」と業腹なのは想像に難くない。偏にわたしの力不足ゆえである。


だから、いつかあなたがこのお話を読み終えたときは、本書を読む/読んだ/読んでいるあたなと一緒に項目を書き換えてほしい。

あなたが見た蝶の羽模様を、わたしは知りたい。



目次:イントロダクション
「道化師の蝶」
東京―シアトル間を結ぶ飛行機の中、わたしは本を読めずにいた。

読めないとはいっても、わけのわからない内容が書かれているとか、知りもしない外国語で書かれてるとかそういった理由ではない。単に集中できないのだ。ひょっとして飛行機の速度と関係があるのではと睨んでいる。


そんな他愛ない思いつきを隣の席の男性──名をエイブラムス氏という──に漏らしたところ、

「話をきかせてもらえましょうか」

そう言って、銀色の小さな虫捕り網をわたしの頭へ静かに乗せた。


それは東京―シアトル間を結ぶ飛行中の出来事だ。


わたし
当人。
空港のキオスクで『腕が三本ある人への打ち明け話』という本を買う。
旅行中。

A・A・エイブラムス
事業家。でっぷりとした巨漢。
銀細工で出来た小さな捕虫網を持っている。
飛行中。

友幸友幸
作家。詳細不明。
移動中。



「松ノ枝の記」
出会いは一冊の本だった。しかしまだ出会っていない。

旅先でふと手に取った本は、タイムトラベルを題材にした荒唐無稽な物語だった。
一読し衝動に駆られたわたしは辞書も引かず翻訳を始め、その原稿を出版社に送った。送りつけた、とした方が適切かもしれない。

それでも作者本人から返事が来たのだ。
しかも、わたしの書いた本を翻訳した原稿も一緒に。

こうしてわたしと彼は、お互いの翻訳者となったのだ──。


わたし
作家。英語はあまり得意でない。
物語は「わたし」が「彼」の書いた新作の原稿を取りに行くところから動き出す。


作家。「わたし」は松ノ枝と呼んでいる。
「わたし」とは互いの著書を使って悪ふざけをするような仲。


「彼」の姉をしているという。
詳細不明。



余談・備考など
「道化師の蝶」は第146回芥川賞受賞作(田中慎弥「共喰い」と同時受賞)。
選考委員会は大絶賛派、全否定派、2回寝ちゃったよ派が互いに意見をぶつけ合い、本作の選考はかなり難航したという。
尚、大絶賛派に川上弘美女史、島田雅彦氏(五十音順)がいる。
……あれ? これはデジャヴ


どちらのお話も一 般文芸誌に掲載されたが、純文系の人には「SFですな」と言われ、SF者には「純文ですね」と言われるらしい。





追記・修正・その他何でも宜しくお願いします。

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