花守の竜の叙情詩

登録日:2009/11/22 Sun 21:22:08
更新日:2024/03/21 Thu 21:00:22
所要時間:約 6 分で読めます




レーベル:富士見ファンタジア文庫
著者:淡路帆希
イラスト:フルーツパンチ


叙情詩は『リリカ』と読む。全3巻。
作者が学生の頃に原型ができており、何だかんだの巡り合わせの果てに出版された作品。それだけに作者にとっても思い入れが強いらしい。


【概要】

ざっと特徴を述べれば『ファンタジー』+『かなり恋愛重視』なライトノベル。後者の特徴に関しては作者自身「レーベル的にコレで受けるのか?」と気にはしたが、やはり前述の思い入れもあって執筆に踏み切ったという。
実際のところその心配は杞憂に終わり、当初の予定(1巻で終了)とは裏腹に続編が出る程の反響を得た。

女性作家らしいしっとりとした感情表現と落ち着いた言葉選び、重量感を醸しつつもテンポ良く進む展開、そして思わぬミスリードを誘う巧みな伏線技術などは素晴らしいの一言。
確かによくある“ラノベ”からは少々ズレているが、軽めの文章に食傷気味の時には本作のような読み口が心地よく感じられるかもしれない。



【あらすじ】

隣国エッセウーナによって制圧された、小国オクトス。家臣や家族を皆殺しにされた上で囚われの身となったオクトスの王女エパティークは、絶望の中にあった。

ある日、そんなエパティークの前にエッセウーナの第二王子テオバルドが現れ、告げた。
「これから、俺と君とで旅に出る」
テオバルトの兄、ラダーの命令によって始まる『旅』とは、願いを叶える伝説の銀竜を呼び出すというもの。エパティークは竜を呼び出す生贄として囚われていたのである。

テオバルトは伝説を信じてはいない。しかし王位継承争いに敗れた自分の安全を、また唯一慕ってくれる妹を守るためには兄に従わなければならない。
対してエパティークは、命令に従わなければ殺され、従ったとしてもいずれは命を奪われる運命を知る。

支配した者とされた者。
互いを憎み反発しながら始まる孤独な二人の長い旅だが、予期せぬ道連れの登場によってその関係性を変えてゆく――。



【登場人物】

○テオバルト
エッセウーナの第二王子。妾腹の子なので継承権は低い。
母も早くに亡くなったために後ろ盾が無く、暗殺などに備えて過ごす内にかなりの人間不信となってしまった。
戦争に出た経験こそないものの、そうした成長を経ただけあって馬術・剣術などの腕は並の騎士以上を誇る。
不安定な立場と唯一自らを慕ってくれる妹を守るため、無意味と思いながらエパティークを連れて旅に出る。

自らの罪すら自覚していなかったエパティークに当初は嫌悪の念を抱き、非常に冷淡かつ乱暴に接していく。兄に従ってその命を奪うことにも躊躇いは無かった。
しかし道中で彼女が優しく強く変わって行く姿を見るにつけ、逆に浮き彫りになってゆく自身の心の冷たさに直面、それまでの振る舞いを悔い始める。
いつしかエパティークを喪うことを惜しむ気持ちがあることに気付き、使命との板ばさみに苦しんだ結果……。


○エパティーク ⇒ アマポーラ(偽名)
オクトスの王女。美しい金髪と『リラの瞳』と謳われる紫の瞳を持つ。
王女として完璧な淑女に育てられるも、性格は世間知らずかつ高慢。
エッセウーナに討たれた父王が圧政を敷いていたことと、父を止めなかった自分が国民に恨まれていたことすら知らずにいたが、旅の間にそれらの罪深さを痛感させられ、失意に暮れる。

そうしてこれまでの全てを否定された結果、初めは鬱陶しくすらあったエレンの存在を切っ掛けに新しい自分を模索し始める。
テオバルトとの関係も改善され、旅の終わりでは自身の罪を贖う為、進んでその命を差し出そうとするが……。

ちなみに、本名のエパティークは『雪割草(ユキワリソウ)』の意味を持つ。また、旅をするうえでの偽名としてテオバルトに押し付けられたアマポーラは『雛罌粟(ヒナゲシ)』を指す。
当初はこの偽名を嫌っていたが、やがてはただ美しい『雪割草』を棄て、野辺に強く咲く『雛罌粟』としてのあり方を選び取る。


○エレン
旅の途中で元オクトス国民に“憎き王女”の生存が知られたため、知れ渡った『二人連れの男女』という情報へのカモフラージュとしてテオバルトが買い入れた貧しい少女。
四歳という幼さの割に賢く、また優しい心根を持つ。それ故に盗みを強要する母親に従えず、パン三日分と引き換えに売られてしまった。

結果として初めて心を預けられる“お母さん”と“お父さん”に出会えたのは幸運と言うべきか否か。彼女の存在はアマポーラを変え、堅く閉じたテオバルトの心をも少しずつ開いてゆく。


○ラダー
エッセウーナ国王の嗣子。
常に人を見下したような態度だが、それに見合う実力の持ち主。
テオバルトを嫌悪している。


○ロゼリー
ラダー、テオバルトの腹違いの妹。父の愛情を一身に受け、少々我儘。
王族のしがらみに関係なく接してくれたテオバルトによくなついている。
王女の宿命として、いずれ政略結婚など政治の道具扱いされる運命にある。
テオバルトが危険な旅に出る決意をしたのは、報酬としてその運命から妹を開放することを兄に約束させたからでもある。


○銀竜
オクトスに伝わる伝説の竜。
オクトスとエッセウーナの間にある聖峰スブリマレにて、王家の女性を生贄に捧げることで月神が遣わすとされているが……。




以下、1巻のネタバレ
(これから読もうとする人はブラウザバック推奨)












伝説の真相とは、生贄を捧げることで銀竜が現れるのではなく、儀式に身を捧げた本人が銀竜そのものになるというもの。
生贄とされる人間も、実は王女でなく誰であっても構わない。
ただし儀式に際して月神の審判をクリアできなければ、銀竜になれないどころか悲惨な最期を迎える羽目となる。
また、仮に成功したとしても『ある代償』を支払わされるのだが……。


旅の途中、テオバルトはエパティークの知る歌からその真相にたどり着き、旅の最終地点にて一つの決断を下す。
それはエパティークと妹を同時に救う為に自らの身を捧げることだった。
タイトルの『花守の竜』自体がある意味のネタバレで、『花』はエパティーク(アマポーラ)を、『竜』は人の身を捨ててまで『花』を守ったテオバルトをそれぞれ指している。


ついでに、ロゼリーは重度のヤンデレ。
ただただ純粋な子だとテオバルトが思っていた妹の本性は、父王の威を借りて散々好き放題する狂った自己中娘だった……最後に報いが待っているとも知らずに。



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最終更新:2024年03月21日 21:00