スマイリーキクチ誹謗中傷被害事件

登録日 :2013/07/04 (木) 00:01:09
更新日 : 2017/10/15 Sun 17:52:25
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1988年~1989年にかけて起こった女子高生コンクリート詰め殺人事件(以下、コンクリ事件)は、実に胸が痛む陰惨かつ凶悪な事件であった。


ところが、この事件を巡り、もう一つ別の事件が人知れず起こっていたのを知っているだろうか?
それが、この項目で扱う、 スマイリーキクチ誹謗中傷被害事件 である。
この顛末は、2013年に『ザ!世界仰天ニュース』にて映像化された。


コンクリ事件からおよそ10年の歳月が流れた1999年春ごろ、ピン芸人の スマイリーキクチ氏 (以下、キクチ 敬称略)をこの事件の犯人とする噂がネット上で流れはじめる。
キクチは「ボキャブラ天国」の中期以降の人気に貢献し、後に「冬のソナタ」のヨン様の物マネでもブレイクすることになる芸人であるが、彼にはかつてヤンキーだった過去があり、出身地が事件現場と近く、当時逮捕された犯人たちと同年代だったために疑われたらしい。
だが、当たり前だが、そんな条件と一致する人間は他にもいくらでもいる。
(ちなみに、今は亡き飯島愛も事件関係者であるという噂があった。勿論彼女もこの事件とは一切関わりがない。)


念のため断っておくが、キクチはコンクリ事件の犯行とは一切合財、金輪際、全くもって関係ない。
犯人と疑われて警察や検察に捜査されたことも、マスコミが犯人として報道したことも一度もない。
事件当時、週刊誌などに犯人の実名や顔写真が掲載されたことがあった(現在それをやると回収騒ぎになりかねないが、まれに見る凶悪事件と言うこともあり当時は許容されていた)が、 それらはいずれもキクチとは似ても似つかないものであった


あくまで彼を犯人と言ったのは、web上に噂を流した連中だけなのだ。


まず、キクチは、事件の犯人であるという噂を否定すべく、所属事務所から公式な声明を出してもらった。
掲示板の炎上などに対する対応としては当然の、基本的な対処法の一つである。
ところが、中傷は全く収まらない。
書き込まれた掲示板に削除依頼を出しても、「事実無根を証明しろ」などという回答が返ってくる始末であった。
そんなの無理難題というものである(いわゆる「悪魔の証明」。「疑わしきは無罪の原則」の根拠の一つである)。

悪い噂は広まり、噂を信じた一部の視聴者から 「キクチをテレビで使うな」 という抗議の電凸が押し寄せたり、 お笑いの会場でキクチが舞台に上がるだけで観客がひそひそ話をする 声が聞こえたりするようになってしまった。

運の悪いことに、 本を出版することになった警視庁の元刑事が自著で「コンクリ事件の犯人が芸能界でデビューした」と記してしまい 、キクチを疑う声はますます増えていった。
この元刑事の本には犯人の具体的な情報は他に特に書かれていなかったが、 キーワードでググればキクチ犯人説に行き着くことは自明の理。
事実、誹謗中傷犯の半数近くが、この本に影響を受けていた。


2008年1月、キクチは自分のブログを開設した。
それ自体は芸人にはよくある話ではある。
彼には、ブログで仕事のことを取り扱うだけでなく、これを通じて本当の自分を明らかにすることで、殺人犯の濡れ衣を晴らしていこうという考えがあった。

……が、これはものの見事に失敗に終わる。
コメント欄には彼を犯人扱いする中傷コメントが殺到。 個別のコメント削除では間に合わず承認制に切り替えたが、事件と無関係のサイトにも犯人説を書き込む者が現れた。
彼のブログを扱うスレッドが 2ちゃんねる少年事件板 に立っていた のだから悲惨である。


キクチはもうどうしようもなくなり、 仕事が終われば付き合いを減らしてすぐに帰る (この時点ですでに芸人としての活動に支障が出ている)、
一人では帰らない というような消極的な対応を取らざるを得なかった。
下手を打てば、犯人としてキクチや彼の身近な人物(彼女など)まで襲撃されるかもしれなかったからだ。


たまりかねたキクチは、警察に話を持ち込む。

ところが、警察が返した言葉は次のようなものだった。

「彼らは本気で犯人だと信じてはいない」
「削除依頼して様子を見よう」
「様子を見ていれば落ち着く」
「遊びだと思う」

普通のブログや掲示板の炎上なら、これもあながち間違った対応ではなかっただろう。
だが、この件は何年もしつこく続いた誹謗中傷だったのだ。それなのにこの素っ気無さである。


警察は言葉を続ける。

「(キクチさんは)インターネットなんてやらなければいい」
「殺されそうになったとか、誰かが殺されたとかがないなら刑事事件にできない」
「殺されたら捜査しますよ」

(゚д゚)

念のため言っておくと、事実無根の相手を凶悪殺人犯扱いしているのだから名誉棄損は成立するであろう。
実際にはこれでしょっぴかれた奴はいないが、事務所にまで「抗議」を行っていれば威力業務妨害にも問われる可能性がある。
つまり、 明らかな犯罪行為により実害をこうむっている のである。この辺は後述。

案の定、一向に事態は改善されず、キクチは泣き寝入りを余儀なくされた。
数年後、キクチが改めて警察の別の部署に話を持ち込むと、幸いなことに今度はネットの被害に詳しい警察官がいて、本腰を入れた対応が採られることになった。
この時、担当刑事はコンクリ事件の資料を取り寄せて、 コンクリ事件とキクチが全くの無関係であること、そもそも芸能界デビューした犯人はいないことを確認している。
(先述した犯人が芸能界デビューしたと記載した元刑事の書籍には情報の出処は明示されておらず、何らかの根拠に基づいて書いたのだとしても軽はずみな記述だっただろう)



まずキクチは、改めてブログ記事で「自分は事件とは無関係」と宣言した上で、 「誹謗中傷の書き込みをしたら刑事告訴をする」と最終警告を発した。
特定事件の犯人であると人を名指しするのは 名誉毀損罪
さらにそのために脅し文句を書き込めば 脅迫罪 になるのだから、れっきとした警察の出番である(それだけに、警察の初期対応には色々なものが掛かっているのだ)。


刑事裁判にかけられるかもしれないとなれば、流石に威力は強力。ピタッと嵐は収まった……


とでも思ったか?


これで終わったらわざわざ項目を立てるような事件になるわけがない。
やはり、最終警告でも収まらずに書き込む奴が登場。ついに警察が腰を上げた。

検挙第一号となったのは30代の男であった。
警察は「もうしません」と男から反省の言質をとった。ただの警告ならまだしも、流石にリアル警察が出てきて叱られれば収まるだろう……


とでも思ったか?


(※キクチはそう思っていたそうです)


これで終わったらわざわざ(ry
この男のDQNっぷりはそんなものでは済まされなかった。なんとこいつは 警告のたった3時間後に即座に再び中傷を書き込んだのだ。 舌の根も乾かぬうちに…とはまさにこのためにあるような言葉である。

警察も、臨戦態勢に入っていたとはいえ「ここまで悪質な連中ばかりだったのか」と戦慄を覚え、事態の重さを再認識。
ついに特に悪質性が高い書き込みをする奴を 日本中で一斉摘発する という強硬手段に打って出た。
この試みは当時日本初だったともいわれている。

その後、2008年9月から2009年1月までに、中傷犯19人の家に刑事が直接出向いた。
北は北海道、南は大分。
年齢は上は47歳、下は17歳(当然、事件当時には生まれてもいない)。
有名大学の職員や、妊娠中の母親までいた。
事件は軒並み書類送検。事情を聴かれることになった。

検察官は、彼らを名誉毀損罪(3年以下の懲役か罰金)や脅迫罪(2年以下の懲役か罰金)で調査。
一旦説教した上で処罰せず解放する、と言う形を取り、法律的には事件はひとまず終息した。


あれっ?処罰はないの?


検察官が処分しなかった理由は、
「やったことが間違いない奴も、他の人たちが多数処罰されないのに彼らだけ処罰するのは不公平。反省もしている」 ということがキクチに伝えられている。


キクチはやることはやったということで、犯人たちに対する処分をひとまず受け入れてはいるが、
検察については、事件について十分認識していないのではないかと不信感を抱いている。

この事件はテレビでも大きく取り上げられるに至った。
今となっては、 キクチ犯人説は全く信用性を失っており、その点ではキクチの目的は達せられたと言えよう。

また、誹謗中傷被害中にキクチが始めた発信するためのブログ「どうもありがとう」は今でも続いており、現在は事件とは関係ない日常がつづられている。




警察ではなく情報による冤罪事件として有名なのは松本サリン事件であろうが、
マスコミが積極的に冤罪を作り出したのではなく、インターネット上で発生した冤罪事件として、非常に重要な一件となった。
これによって警察が動いた事件も珍しく、キクチが出版した本には、事件を経験して学んだ、事態への対処法も詳しく書かれている。

なお、この件でマスコミは、キクチ犯人説自体は把握していたようだが、あまりに根拠がなさすぎたため、キクチを犯人として取り上げた週刊誌等はなかった。
誹謗中傷被害を報じることで、キクチの名誉回復にも一役買っている。
しばしばネット民にマスゴミと非難されるマスコミだが、この件に関してはマスコミよりネット民の方が遥かにゴミであったと言わざるを得ないだろう。




【誹謗中傷した連中の行動・発言】


☆警察の前ではしおらしくしながら、 3時間後にもう中傷を書き込む。

☆最初はしらを切り、警察から証拠を突きつけられて認める。

☆友人や同僚・知人のなりすましと言って辻褄が合わなくなり、やっと認めるに至る。

キクチ犯人説を信じてさえいなかった。

☆キクチを貶すだけでは飽き足らず、 (コンクリ)事件を茶化す形で、そちらの事件の被害者さえも冒涜 した。

☆警察が出向いたら 意味不明な言動で包丁を振り回し、家族の話で精神病だった ことが明らかになった。

☆「ネットに騙された」
※せめてネットリテラシーくらい身につけてから犯人探しをやるべきであっただろう。

☆「本に騙された」
※元刑事が書いたこともあり信ぴょう性はネットに比べれば高いかもしれないが、裏をとっていない。上と五十歩百歩と言える。

☆(検挙時臨月であった中傷犯の動機)「赤ちゃんがきちんと育てられるか不安だったんです」
※多くの犯人は、スマイリー犯人説がデマであることを知ると、「仕事や人間関係など私生活でつらいことがありムシャクシャしていた」と、 本当の目的が日頃のストレスを発散させるためだったと認める始末だった 。しかし、インターネットで人を中傷するのであれば、せめて自分と同じ悩みを持つユーザーと気持ちを共有するなどできたはずであり、鬱憤晴らしで人を傷付けることは子供でも悪いことだと分かるだろう。

☆「離婚してつらかった。 キクチさんはただ中傷されただけじゃないですか。 私の方がつらいんです
※キクチは芸能活動に影響をきたすところまで行っている。一個人としても辛い上に、芸能人としては致命的であろう。

「他の人は何度もやっているのに、なぜ一度しかやっていない自分が捕まるのか」

「こんなに書き込みがあるんだから、この人は絶対悪い人です」
  「証拠は?」
  「書き込みが証拠です。事件をネタにしたのを見たという人がこれだけいるんですよ(ドヤッ」
※勿論、刑事たちは、この自信満々な態度を見兼ねて、警察側がスマイリーと事件が無関係である趣旨を伝えても、書き込みがデマであることを認めようとしなかったが、最後には刑事たちにことごとく論破された。


「表現の自由だ!」
  「表現の自由なら自分の名前が書かれてもいいんですか?」
  それは嫌です! キクチさんは芸能人だからいいですけど、 自分は一般人で将来もありますから!
※とりあえず、キクチにだって将来はある。一応議論の的にはなっているテーマではあるが、内容が事実無根となれば論外であろう。スマイリーは、後のインタビューにおいて、この犯人の言い草を「自由を主張するなら、自分の書いたことはきちんと責任を取ってほしい。そうでなければ、インターネットがただの無法地帯になってしまいます」と非難している。

(泣きながら)「キクチさんに謝りたい」実際に謝ってきた人はゼロ (検察官がこの謝罪を鵜呑みにしたのも、処罰がない理由の一つとなった)


……もう何と言ったらいいやら。


当たり前のことだが、 仮に本当に何らかの犯罪の被疑者になっていたとしても、 誹謗中傷すれば犯罪 である。
もし真犯人であったとしても、面白半分での誹謗中傷は犯罪になりえる。

加えて既に懲役を終えて刑務所から出所しているなら、個人的感情はどうであれ 罪は償われている のだ。
刑罰の重さなどは難しい問題があり、簡単に判断できるものではなく、ましてや個人がマスコミの情報だけで重い軽いを決められるものではないことは、死刑廃止論などを見るまでもなく明らかであろう。
だからこそ我々一個人は、犯罪者は未来永劫犯罪者であり、罰を受けても許されることはないという認識は、 例え持っても決して表に出してはいけない 。例えば、殺人事件被害者遺族の会(いわゆる「宙の会」)が出所した殺人犯に私刑を行っているだろうか?

罪を償った受刑者は、一般社会へと復帰が許されているのだから。
社会から拒絶されれば、彼らの行き場所はなくなり、罪を犯して刑務所へ戻るしかない……。
そうやって生まれた犯罪者を刑務所にぶち込んだところで、被害者には1円の金さえも戻ってこない。
犯罪に対する刑罰が軽いという被害者の不満があるのは確かだが、どれだけ刑罰を重くしても被害者が満足する結果にはならない以上、再犯を防ぐことが重要だということも、肝に銘じる必要がある。



日本は法治国家であり、司法で裁かれる以上、私刑を下す奴は 法を無視した犯罪者と同レベルでしかない のだ。

よって、この一件は、キクチが冤罪を被ったから問題だというわけではなく それ以前の問題である ことに注意する必要がある。

「どーせ今回は真犯人だからいーんだよ!」とか思って似たようなコメントを続けるならば

「真犯人であるという前提はない」
「例え真犯人であったとしても私刑にかけていい訳ではない」

という二重の意味で間違いである。


インターネットにおけるユーザーの言論は、この件以外でも言論の自由などでは済まされないものは決して少なくない。
キクチは芸能人でもあり、信用が死活問題になる立場だったから警察にも複数行ってここまで対処してもらうことができた。
だが、多くの被害者は、キクチのように訴え出ることもできず、また訴えたならばこの件の警察の初期対応のような対応をされ、泣き寝入りを強いられているのである。
ただし、前述のように真剣に対応された場合は例え中傷した相手が迷惑ユーザーであったとしてもその行為の正当性を警察や検察庁に説明しても聞き入れてくれる事は無いだろう。


例えば、痴漢の容疑で逮捕された(裁判前、つまり有罪と確定されていない)人を叩くのと同じ口で、
痴漢冤罪について批判を繰り返してはいないか?
自分たちが痴漢冤罪と同じことをやっているという自覚はあるのか?

アニメやゲーム、漫画、ラノベ作家などのクリエイターを叩く人々はどうだろうか?
誤解や思い込みだけで、作品や作者の発言を確認せずに叩いた事はないか?
みんなが叩いているから叩いて良いと思って好き勝手な事を言ってはいないか?

芸能人に対してはどうだろう?
AKBやジャニーズを、自分が気に入らないからというだけで叩いてはいないか?
ネット上の噂や憶測だけで、相手を馬鹿にしたり笑ってはいないか?
一時期、 あのマイケル・ジャクソンですら世間の笑い者にされてワイドショーを騒がせていた ことについて、あなたはどう思うか?

プロではなくアマチュアに対してはどうだろう?
紳士だスコッパーだのといって他人のネット創作品を粗捜しし、
活動場所に乗り込んで騒ぎ、煽り、叩くヲチ板の住人はどうだろうか?
画面の向こうに人間がいるという事を忘れてはいないだろうか?

wiki等に情報が纏まっている迷惑ユーザーに対してはどうだろう?
相手が個性の強かったり、挑発に乗りやすかったり怒りっぽいかったりする事を良い事に相手の汚点を出来るだけ多く収拾して晒し、より酷く見えるように歪曲し、誇大に批判したりしていないだろうか?
罪を憎んで人を憎まず、ガンディーやマザー・テレサの言葉を忘れていないだろうか?
特に「拒絶」を迷惑ユーザーの対策として推奨した場合、訴えられれば慰謝料として奪われる物はお金だけでは済まない可能性もある。
法律で裁くのが難しい迷惑ユーザーに関してもガンディーやマザー・テレサの言葉を信じて出来る限り説得・矯正を試みて欲しい物である。

近年、科学的に 「ネット上の荒らしはサイコパスと共通する特徴を持つサディスト」 と証明されたという。
心理学的に犯人に悪い事をしたと自覚させる事は大事だが「おまえは悪いことをした、世間を騒がせた、絶対に許さない、おまえは最低最悪だ」や「お前は悪い人間だ、だからダメなんだ、もう善良な人々の中では生きていけないぞ」等と言ってしまうと、更生は難しくなってしまうと証明された。
彼らが更生を阻害すれば、また新たな被害者が生まれてしまう。
更生より厳罰が必要なことはあるが、新たな被害者を生み出して、自己満足で更生を阻害することなどもはや正義など何でもない。
つまり 「自分にダメージは無いから、相手を一方的に痛めつける事に快楽を覚えている」 という
ウェブではなくリアルにいれば犯罪者間違いなしの危険な連中こそが、荒らしの正体なのだ。

インターネットにおいて、匿名性に基づく自由な批判というのは尊重されるべきなのかもしれない。

しかし批判・批評と、誹謗中傷は、似て非なる行為である。

もしも自分がそういった者ではなく、まともだというのであれば。
安易な叩き、誹謗中傷は徹底的に戒めるべきであろう。

あなたの知っている情報だけが全てではなく、事実ではなく、真実ではない。
あなたの主義主張が絶対的な正義ではない。
匿名性とは、あなたに責任が無いという事では、決してない。





「彼らに共通していたのは無責任さであった」


当のキクチ本人はこう指摘している。




どんなに義憤に駆られても責任を持って発言できる人にのみ追記・修正をお願いいたします。

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