ゲド戦記(小説)

登録日:2011/07/17(日) 05:51:36
更新日:2023/06/03 Sat 18:48:58
所要時間:約 5 分で読めます





Only in silence the word,
ことばは沈黙に
only in dark the light,
光は闇に
only in dying life:
生は死の中にこそあるものなれ
bright the hawk's flight on the empty sky.
飛翔せるタカの虚空にこそ輝ける如くに


アーシュラ・K・ル=グウィン作の小説のシリーズ。全6巻。
“Tales from Earthsea”(アースシー物語)が一般的で、邦訳では『ゲド戦記』。
異世界アースシーを舞台に大魔法使い『ゲド』の半生と、彼を取り巻く人々や出来事を描いたファンタジーである。

しばしば『指輪物語』『ナルニア国物語』と共に、世界三大児童ファンタジーとして挙げられるが、これら2つと毛色は異なり、その内容も内面の葛藤や成長が主であることが多い。
大魔法使いゲドは2巻以降はサポート的な役回りが多く、『戦記』という割に派手な戦闘や敵を倒して解決といった展開はほとんど無い。

2006年に3巻を中心にした内容でスタジオジブリによってアニメ映画化されたが……うん……。

原作者が苦言を呈するぐらいに別物(というより、黒歴史そのもの)なので、映画観て失望した人も、ぜひ『原作』の方を読んでください。いやマジで。


各巻のあらすじ


◆1巻『影との戦い』
辺境の島ゴントに生まれたヤギ飼いの少年ゲドは、その魔法の才能を見出した呪い師の叔母に鍛えられ、後に魔法使いオジオンに師事する。
その後入学したロークの魔法学院でその才を開花させたゲドだが、
ささいなきっかけから禁断の術を使用、「影」を解き放ってしまう……。



◆2巻『こわれた腕輪』
カルガド帝国の信仰の中心部、アチュアン神殿。
先代の生まれ変わりとして神殿で育てられた巫女の少女アルハは、ある日神殿の地下墓所で侵入者を発見する。
太古の神の力が満ち迷路のように複雑な墓所で衰弱していた浅黒い肌の男は、ある腕輪のかけらを探しにやってきたのだと言うが……。



◆3巻『さいはての島へ』
大賢人となったゲドの下に、エンラッドの王子アレンが訪れる。
均衡が崩れ魔法が力を失いつつある世界の秩序を取り戻すため、ゲドはアレンを伴い旅に出る。



◆4巻『帰還』(ゲド戦記最後の書)
世界の均衡を崩し竜を滅ぼそうとすらしていた魔法使いクモは倒れ、死の世界との境の扉は再び閉じられたが代償にゲドは全ての力を失った。
故郷ゴントで暮らすテナーとテルーの下で体を癒やすゲドだったが、彼らの平穏も長くは続かなかった……。

3巻から20年近く経ってからの出版。
作者のフェミニズム思想が色濃く出て、雰囲気が大幅に変わったと言われる。当初はこれで終わりにする予定で副題にも最後の書とあったが、約10年後に更に二冊出ることになる。



◆5巻『アースシーの風』
世界の均衡は守られたものの、秩序の形は以前と異なる物になりつつあった。
妻に先立だれた後ある怪異を抱えてしまったまじない師がゲドや各地の人々と出会っていくにつれ見えてくる、アーキペラゴの人々とカルガドの異教徒、そして竜や冥府の真実。
新しい時代に彼らはどう生きてゆくのだろうか……。



◆6巻『ドラゴンフライ』(ゲド戦記外伝)
5つの短編が収録された外伝と、設定などの解説。
アースシーの歴史や人物についての内容で、特にオーム・アイリアンが主役の『ドラゴンフライ(トンボ)』は5巻との関係が深い。




世界観

◆アースシー
大海と島々でできた本作の舞台。
中央部は特に多島世界(アーキペラゴ)と呼ばれる。
作者の人種に関する考えを反映して有色人種が多くを占め、島によって様々な文化や習慣が伝わる。

◆ローク
アースシーの中心付近に存在する島。
長らく空位のハブナーの王に代わり、アーキペラゴに強い影響力を持つ。
大賢人と9人の長が管理する学院があり、ここを卒業しないと「魔法使い」を名乗れず、魔法が使えても一段格下の「まじない師」と呼ばれる。
ハイタカ(ゲド)が去った4巻以降では大賢人は不在となっている。
また卒業した魔法使いは「生涯独身」が半ば暗黙のルールとなっている。
+ ▽長の一覧
  • 風の長:海などを渡る風(気象)を司る長。
  • 詩の長:「詩」(歴史等を語る叙事詩等)の学びを司る長。
  • 姿かえの長:真の名に干渉することで起こる「姿かえ(変化)の術」を司る長。但し姿かえの術は続けていると自分を忘れてしまう危険すぎる技でもある。
  • 手わざの長:様々な「手わざ(まじないや直しの術)」を司る長。
  • 名付けの長:世界にあるものの名を記録していく長。歴代担当はすべて「クレムカムレク」の名を襲名する。
  • 守りの長:学院の門を「守る」門番であり、初代大賢人が晩年付いた役職でもある長。学院生は皆この長に真の名を名乗ることで学院へと入ることが出来る。
  • 薬草の長:その名の通り薬草及びそれから出来る薬などを司る長。
  • 様式の長:島の中心にある「沈黙の森」に住む長。彼から学ぶことは殆ど語られることはない。3巻以降ではロークでは珍しいカルガド出身な魔術師「アズハー」がこの職についている。
  • 呼び出しの長:真の名を使って、人を「呼び出す」禁忌に近い術を司る長。

ちなみに男子校*1なのでこの世界では魔法が使える女性は皆『まじない師』となる。


◆カルガド帝国
アースシー辺境にある白い肌の異教徒たちの国。
魔法を信じず使えず、独自の文化と信仰を持ち言葉も異なる。


◆真の名
アースシーの全てのものには太古の神聖文字で表される真の名前が存在する。
真の名を知ることは魔法を掛けるのにも必要で、そのものの本質を支配し、操り、あるいは変質させることに繋がる。
そのため人々は普段「呼び名」という仮の名前を名乗り、真の名は特別に親しい者にしか明かさない。

+ 『その真実』
5巻終盤にてカルカド辺境や異端魔術に伝わる伝承、ローク島の記録と竜の証言を重ね合わせた時、この真の名の法則は始原の魔法使いによる後付けと判明。
そしてその真の理由を知ったレバンネン達は、ゲドが取った解決法を半ば否定するような決着を選ぶ



太古の言葉を操り、強靭な肉体で空を自在に飛び回るファンタジーの例に漏れず強い力を持つ生物。
最も有名なのは、おそらくはオーム・エンバー(オームの子孫)や長老カレシンだろうか?
元々はヒトと同じ存在だったが、求めるものの違いから別の種族に分かれたが稀に両者の境を越える者が現れることがあるという。



●登場人物

カッコ内が真の名。

  • ハイタカ(ゲド)
(特に1巻の)主人公。
才能に溢れる傲慢な青年だったが、その傲慢さから呼び出してしまった「影」との対峙を通し、成長して丸くなった。
中年~壮年になり大賢人となるが、最果ての島で魔法の力を失ってからは自信をなくした普通のオッサンに。
5巻ではオジオンの遺した家でテナー・テハヌーと同居し、幼き日と同じく山羊飼いとして余生を過ごしている(諸事情で島の人々の殆どに煙たがれてるけど)。
同巻エピローグでテナーと交わした会話はどこか悲しい。


  • オジオン(アイハル)
ゲドの師匠、名付け親。後にテナーの後見人。
大賢人に推薦される程の魔法使いだが、本人は故郷のゴントで静かに暮らすことを選ぶ。
ゲドやテナーに様々な影響を与えた人物。


  • アルハ(テナー)
2、4巻の主役。
カルガド帝国のアチュアン神殿の大巫女。外と隔絶した神殿で祭り上げられながら育てられたため最初は頑なだったが、ゲドとの触れ合いを通して心を開いていく。
ゲドと助け合いアチュアンを脱出、彼と共に平和の象徴(正確には違うが)エレス・アクベの腕輪をハブナーに届ける。
その後はオジオンに預けられ、普通の女性として生きることを選ぶ。4巻時点では成人した子供がいる未亡人。そして5巻では周囲からハイタカの妻とも見られるようになった。
真の名を隠さないのはカルガドの文化の特徴で、アルハは巫女としての名前。


  • アレン(レバンネン)
3、5巻の主役。
アーキペラゴで最も由緒正しい王家の一つ、エンラッドの王子。
旅の途中ゲドに不信感を抱くこともあったが彼を尊敬し、力を失ったゲドを支え、帰還した後にハブナーの王になる。
王位についてからはなぜか真名を隠さなくなり、変わり行くアースシーを治めるべく苦悩する日々を送る。
5巻ではカルガド辺境から嫁候補として姫を送り付けられ、お互い言葉も通じないため頭を抱えるも、テナーが王女と対話し仲を取り持った事で関係が改善されることに。


  • テルー(テハヌー)
4、5巻の主役。
テナーの養女。親の虐待が原因で顔の半分と片腕を酷く火傷していて、人前に出るのを避け喋ることもほとんど無い。
実は古き竜に見込まれている竜に近い存在で、血筋的には竜族においてもお姫様(のような感じかもしれない)。
5巻では似た様な存在であるアイリアンと出会うことに。

  • トンボ(オーム・アイリアン)
テルーと同じく、人に生まれながら竜である存在。
自分が何者かを探す途中、例外的に迎え入れられた女人禁制のローク学院にて、竜として覚醒する。



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最終更新:2023年06月03日 18:48

*1 6巻で語られたローク起源編時点では女性がいた