中村主水

登録日:2010/02/18(木) 14:53:20
更新日:2023/11/13 Mon 21:57:03
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中村主水(なかむらもんど)は、朝日放送・松竹制作の時代劇「必殺シリーズ」に登場しした藤田まこと演じる架空の人物である。
※シュスイではない。


概要

初登場は必殺シリーズ第2作の『必殺仕置人』。
同作では主水ではなく、念仏の鉄が事実上の主人公だったが、そのキャラクターの完成度と演じる藤田まことの魅力がハマり、放送中には主水が中心に描かれる様になり、その後のシリーズで正式に主人公として描かれる様になる。

なお、主水は中村家の婿養子で、姑のせん、嫁のりつとの3人暮し。
中村家に婿入りする以前の実家の名前は北大路で、下総の筆頭同心職にある家柄だが次男であるために家督を継げず、僅かな伝を辿って代々同心職にあるが家督が尽きそうな中村家にやってきたということらしい。
尚、後の『必殺仕事人Ⅳ』にて、中村 主水佑 玉五郎(なかむら もんどのすけ たまごろう)が本名であるとされている。

職業は佐渡金山での同心見習い→北町奉行所同心(定町廻り同心)→南町奉行所同心(定町廻り同心・牢屋番同心)→書庫番→自身番。

同心職に就いたのは、天下太平の世では如何に剣を修めても其れだけでは身を立てれないし、上記の様に実家への未練があったからかもしれない。
奉行所では仕事をしないので昼行灯と呼ばれ無能者扱いされ、家庭ではせん、りつにいびられ、子供ができないため種無しカボチャと罵られるが、その一方で裏では悪人を仕置する殺し屋稼業をしている。
また、当初は酒が苦手で甘いものを好んでおり、本当に裏の顔以外では男として冴えない人物として描かれていた。
頭脳明晰でチームではリーダー、参謀役を務め、更に奥山神影流・小嶽新影流・小野派一刀流の免許皆伝の腕を持つシリーズ最強格の剣客でもある。

こうした「会社でも家庭でもいびられる冴えない凡人」という現代社会に翻弄されるサラリーマンの生き写しとも言える姿でありながら、
「実は裏世界で理不尽な世の中に立ち向かっている凄腕の男」という別の顔をも備えた中村主水はサラリーマンの憧れとして多くの男性の心を鷲掴みにしてきた。
ある意味、なろう系の隆盛に通ずるものがあるかもしれない。

主水のキャラクターを考案したのは名匠深作欣二で、コンセプトは「人殺しをする警官」であった。藤田まこと以前にも候補となる役者が居たと云うのが定説だったが、そもそもキャラクター自体が急ごしらえで藤田まことが演じる事を前提に作り出されたので、前述の話は藤田に対する冗談であったらしい。
追加で『必殺仕置人』に主水を加える事を決定した時から山内プロデューサーらは藤田に打診するつもりだったと云う(『必殺!』DVDマガジンより)。

以上の経緯から原作の無いオリジナル作品に登場した架空の人物であるが、水戸光圀や徳川吉宗、長谷川平蔵等実在人物を主人公に置くことの多いテレビ時代劇では非常に珍しい存在である。


人物

元々は高い理想を持っており、実際に幾つもの流派で剣術を修める等、才能にも恵まれていたが先述の様に長子で無いために家督を継げず遠縁の中村家に婿入りし、江戸で同心職に就くものの、そこで見たのは強きには媚びへつらい、弱きには権力を盾に脅しをかけて袖の下を要求する腐りきった奉行所の実態で、理想を砕かれた主水は絶望。
更には、期待されていた子宝にも恵まれず家庭でも冷遇されるようになり、悩んだ末に心の底では同僚達を馬鹿にしつつも、自身も目立たない為に市井に小金を要求する腐った役人となっていった。

一方、江戸には佐渡島で同心見習いをしていた時に出会った囚人であり、立場を越えて親交を結んだ悪友の念仏の鉄が居り、お互いに小悪党となった後は干渉し過ぎないようになあなあな関係を続けていた所に、当の鉄から処刑された大盗賊の替え玉疑惑の話を持ちかけられる。

その話は鉄と同じ〝かんのん長屋〟に住む棺桶の錠が持ち込んだもので、当初は昼行灯が板に付いてしまい気乗りのしなかった主水だったが、燻っていた正義感が刺激されたこともあり、牢名主で主水の器量を見抜いている裏社会の大物の天神の小六の協力も得た主水は、遂に替え玉は事実で、しかもその絵図を書いたのが表向きは商人を装っていた大盗賊と癒着した奉行と、上役の与力であることを突き止める。

事実を知って怒りに燃えた三人は、奉行達を惨たらしい方法で裁くと、この事件を機に世にはびこる悪を裁く闇の処刑人「仕置人」稼業をスタートさせ、これが主水の長い長い裏渡世の始まりとなった。

尚、初期には表稼業(同心)との兼ね合いから徹底して自らの正体を隠していた主水だが、流石に長年に渡り裏渡世で生きてきたためか、後半のシリーズともなると既に余所からやって来た江戸の裏稼業を仕切ろうとする勢力に正体を知られている場合も多くなり、反対に主水の腕と頭を買われて懐柔を受けるパターンも多くなった。

また、裏稼業での基本的なスタンスは『仕置人』当時から変わらず、少数の信頼出来る仲間と直接に頼み人と関わるというもので、顔見知りになったとしても特定の元締めの子飼いになることは無かった。
シリーズでも最大級の裏稼業の斡旋組織である『新仕置人』の「寅の会」についても、寧ろ主水は命を狙われた立場であり会員だったのは鉄。
主水自身は会を信用しておらず、鉄が寅を信頼している内は従うというスタンスだった。
『仕事人Ⅴ』の「闇の会」の頃には正体も知れ渡ってしまっていたが、会としても主水の腕と名を頼りに直接に仕事を回してくることもある等、別格の扱いを受けていた。


変遷

次作の『助け人走る』でゲスト出演した後、再レギュラー化の第4作『暗闇仕留人』では仲間の糸井貢の壮絶な死を目の当たりにし、裏稼業から足を洗う。
しかし、第6作『必殺仕置屋稼業』で世の中の不満を再認識、裏稼業へ復活をする。
第7作『必殺仕業人』では表の地位を降格させられ生活に困る。
飛んで第10作『新必殺仕置人』では再会した盟友念仏の鉄との最強コンビで活躍していたが、最終回にて鉄との永遠の別れを迎える事になる。

第12作『江戸プロフェッショナル 必殺商売人』では必殺シリーズの中でも最強の一人と言われるほどの強さを誇り、処刑も過激なものだった。
(他の最強候補は鉄、市松、先生など)
  • 1人対複数人
  • 相手の首を刎ねる
  • 5コンボ
※この頃、遂にりつを懐妊させるも死産であった…。

しかし、第14作目「翔べ!必殺うらごろし」の大失敗が影響し、必殺シリーズ打ち切りの可能性がでてきた。

なんとしてでも打破するべく原点回帰した作品が…。



第15作目『必殺仕事人

新必殺仕置人以降、中村主水は物語の最重要人物から離れていったが(象徴としての後見人的立場)、この作品でシリーズは確固たる地位を得た。
…それ以降の必殺仕事人では同じ流れを組み、『新必殺仕事人』でフォーマットが完成。
これ以降のシリーズはバラエティ化が進み、第23作目「必殺仕事人V」では主水が某キン肉オトコと会う回も。

しかし、「必殺仕事人Ⅴ・旋風編」では主水がワープロを打つなど無茶苦茶な路線に藤田が難色を示しだし、新たに主演を務めた『はぐれ刑事純情派』が軌道に乗り出したこともあり、ここで一旦必殺シリーズはスペシャル版を除き終了。
その数年後、第30作目『必殺仕事人・激突!』で再度した。



1996年公開の映画『必殺!主水死す』ではかつての仲間との抗争の果て、その生涯を閉じた(ライバル役は、シリーズ初期から大物悪役としてゲスト出演して来た津川雅彦)。





と思われたが、小説の中ではこの事件の三年間行方不明ということになっていた。

スペシャル番組『必殺仕事人2007』、及び久々のTVシリーズとなった第31作目『必殺仕事人2009』では遂に『仕事人』では初めての主役降格となった。


残念な事に、藤田まことが亡くなった後、その日に必殺仕事人の次の特番の台本が届いたという。
当人は台本が届くのを楽しみにしていたらしいが、台本は枕元に一晩置かれ、棺に入れられた。
藤田の没後に制作された『必殺仕事人2010』では、急な命により西へ引っ越し、江戸を去ったという設定になっている。
その後旧中村宅には別な人物が住んでいる。
しかし、そこには中村主水の十手が残してあった。


ところで、西というならば、江戸から見たら京都の方をさしており、本来ならば「京の方へ」や「上の方へ」がふさわしいのだが、あえて西をさしており、張り紙には菊の花が書かれていた。

西は浄土を表しており、菊の花は葬式などで帰らぬ人に送る花であり、これらは藤田まことの追悼を表している。
ちなみ本編で経師屋の涼次は悪人を仕置したときになぜか合掌していたが、こちらも藤田まことの追悼を表している。
(このときのBGMは中村主水のテーマ)
以後、登場しなかったが2018年放送の必殺仕事人スペシャルでは合成で僅かなシーンだが出演している。


殺し技

  • 電光石火の居合い抜き
  • 正面から突っ込んで行く
  • 不意をついて脇差で急所を突き刺す(※このとき相手に皮肉を呟く)
  • 偉い人に対しては自害工作(※主水「見事な御自害でした」)
  • 刀の柄の部分に刃を仕込む
  • 床下から突き刺す

※他、二刀流や手裏剣、捕縛術を披露した事もあり、剣術を基本に武芸全般に通じている様子が見られる。

良く言われる「せこ突き」だが、完全に殺気を消した状態からの究極の暗殺剣であり、裏の世界でしか生きられない主水を象徴した業とも言える。
特に刺客業を本格的に生業とし始めた作品では、剣術大会や奉行所の稽古では無力を装い、終始接待モード。

天下太平の時代に何故、主水が実戦的な剣術を修めていたのかはファンの議論の的でもある。
ただし、太平の世であっても、役職に就く上で箔をつける程度の意味はある。
が、逆に言えば、良い家柄や世渡り上手等の剣術とは異なる分野が必要になる剣術指南役や道場主でもなれない限り、その程度の意味しか無く終わる。
刺客業に手を出した頃の主水が抱えていた鬱憤も、そこから来るものもあると推察される。

ちなみに「せこ突き」以外を使う主水が見たければ『必殺仕置人』(居合い&十手術)『新必殺仕置人』(一対一の名勝負、他)『江戸プロフェッショナル 必殺商売人』(前述の様に歴代最長の殺陣)をどうぞ。



関連人物

  • 中村せん
姑。
実家(北大路家)を離れた主水にとってはただ一人の母親。
初期はかなり冷たく接していたが、後には頼りにする一面も見せる様になる。
「ムコ殿よりも長生きする」…と云う台詞があるが現実の事に…(泣)

  • 中村りつ
妻。
せんと共に冷たくあたるイメージがあるが見合いの席で主水に一目惚れしたらしく、あからさまに甘えたりする場面も多い(母の手前、つい意地悪していると云うのが本当らしい)。

※二人併せて戦慄となるのは有名。

佐渡時代に知り合った破戒僧で、立場を越えて親交を結び、後に共に裏稼業の道に進む事になる。
主水と鉄のコンビは「歴代最強」と称される。

  • 天神の小六
「仕置人」時代の主水達の後見人である裏社会の大物。
表の世界に居ると常に命を狙われる危険があるというので、敢えて牢屋に入っているだけで、見張りを買収する等、牢屋を私物化している。
主水達に負けず劣らずの怪物で、昼行灯を装う主水の実力を直ぐに見抜いた後は、密かに親交を結んでいた。
小六の様な存在が居ると殺し屋チームが強くなりすぎる為か、惜しまれつつも以降のシリーズには小六は勿論、似た立場のキャラクターも配置されていない。

  • 筆頭同心田中
田中様。
『新仕事人』から登場した名物キャラクター。
オカマ口調で主水にイヤミを言う姿は後期シリーズを代表する物。
尚、初登場時はオカマ口調では無かった。

  • 渡辺小五郎
『2007』から登場したもう一人の主人公。
『2010』にて主水が残していった十手を受け取り、仕事の度に持ち歩いている。
それ以降、彼の殺し技も「主水のテーマ」をバックにしたセコ突きにシフトし、事実上主水の後継キャラとして位置づけられている。

ちなみにテレビスペシャルでは、現代の主水の子孫が出てくる。
相変わらず中村家の婿養子で、職業は山手〇央署の刑事…ではなくて、保険会社の外交員をしている。





一掛け 二掛け 三掛けて
仕掛けて殺して日が暮れて
橋の欄干腰下ろし 遥か向こうをながむれば
この世はつらい事ばかり
片手に線香、花を持ち
おっさん、おっさん、何処行くの
私は必殺仕事人 中村主水と申します
それで今日は何処のどいつを殺ってくれとおっしゃるんで

─『必殺仕事人』より。


余談

  • トレードマークのマフラーは元は寒さを凌ぐ為にスタッフが借した物。
  • 演者の藤田は本作まで、時代劇コメディ『てなもんや三度笠』の主人公「あんかけの時次郎」として知られていた。番組終了後人気は急落し、キャバレーでのドサ周りが中心となっていた氏にとっても転機となったキャラクターでもあり、「コメディアン(喜劇役者)」扱いされていた彼がシリアス路線に開眼するターニングポイント的キャラだと言える。








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最終更新:2023年11月13日 21:57