ハテナ(生物)

登録日 :2013/06/28(金) 00:25:19
更新日 : 2017/04/28 Fri 11:26:57
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動物 」と「 植物 」の違い、と聞いて皆様は何を思い浮かべるだろうか?
 植物はその場から動けない、というのを考える人は多いかもしれないが、動物側にもサンゴやフジツボのように同じ場所に留まって動かない(動けない)種類がかなりいる。一方の『植物』も、最近の科学の世界ではばかりでは無く、海藻を始めとする様々な藻類も含む言葉となっている。その中には、ミドリムシのように積極的に動く「植物」だっているのである。

 動物と植物を分ける決め手としてはもう一つ、『 葉緑体 』という存在がある。植物の細胞の中だけに存在し、太陽の光や水、二酸化炭素などを利用して栄養分や酸素を作りだす「光合成」をする器官としてお馴染みのあれである。これを体の中に有する事で植物は餌を探さなくても自分の体の中で栄養補給をする事が出来、「独立栄養生物」とも呼ばれる。一方、大半の動物はせっせと食べ物探しを頑張らなければならないのはご存じの通りで、こちらを「従属栄養生物」と呼ぶ。

 そんな便利な葉緑体の由来は、実は『 シアノバクテリア 』という、光合成を行う事が出来る小さな生物。これがより大きな生物の細胞内に取り込まれ、そこを安住の地にした代わりにせっせと栄養を供給するようになったと言われている。ただ、その中でどのような事が起こっていたのか?という疑問についてはまだ詳しい事は全然分かっていないのが現状である。

動物 」と「 植物 」、その境目で何が起きたのか?
 その秘密を握る一つの生物種がいる。その名を「 ハテナ 」と言う。



???? ハテナのひみつ ????

 ……まず最初に言っておく。「ハテナ」という名前は冗談でも、日本オリジナルの和名でもなく、論文にもしっかりと記されている ちゃんとした学名(Hatena arenicola) である。なんでこんな「 !? 」となりそうな名前になったのかと言うと、初めて発見されたのが日本の砂浜、そして研究したのが日本の科学者チームだったからである。 

 2本の長い鞭毛を操って泳ぐ『鞭毛虫』と呼ばれる単細胞の微生物で、カタブレファリス科というグループの一員。形状のイメージとしては「毛が生えた米粒」という感じである。
 このカタブレファリス科に属する微生物の大きな特徴は、細胞の中に「 葉緑体 」が存在している事である。地上の植物と同じように、太陽光や二酸化炭素などを使って光合成を行うのだが、地上の植物の持つ葉緑体とは少し違う点がある。ハテナやその仲間たちの持つ葉緑体は、実は元を辿ると地上の植物と同じ『体の中に 葉緑体 を持つ生物』なのである。
 ハテナの持つ葉緑体は、同じく単細胞生物の『 プラシノ藻 』と呼ばれるグループが由来であると考えられている。このプラシノ藻の小さな体の中にはちゃんとした葉緑体があり、構造は地上の植物たちと変わらない。そして、ハテナはこのプラシノ藻ごと体の中に葉緑体を取り込み、光合成が出来るようになったのである。「 ?? 」となりそうな話だが、マトリョーシカのような入れ子人形のような感じと考えて頂ければありがたい。
 ちなみにハテナの内部の葉緑体はだいぶ『生物』から『細胞の部品』へと変化しているものの、まだ核の名残が残っているらしい。

 実はハテナ以外にもこういった形の葉緑体を体に持つ生物と言うのは結構多い。特に「○○藻」と総称される顕微鏡サイズの単細胞の植物ではよく見られる形である。しかし、ハテナが変なのはここからである。なんとこの生物、「 植物 」にも「 動物 」にもなれてしまうのだ。
 「 」となりそうなので、ここからそれをじっくり説明していく。


???? ハテナのふしぎ ????

 普通、葉緑体を用いて光合成を行う生物は、細胞分裂の際に両方の細胞に葉緑体が受け継がれる。分裂して数が2倍になる時、細胞の中でも葉緑体が分裂し、それぞれの細胞に同じ数だけ割り振られるようになっている。非常に良く出来たシステムである。だが、ハテナの葉緑体はそんな器用な事をせず、細胞分裂でハテナの数が2倍になると、何故か 右側 のハテナの方に全部ついていってしまうのである。そして、残された 左側 のハテナはもぬけの殻、透明な細胞になってしまう。当然、体の中で光合成は起きず、自分で栄養分を探すしか無くなってしまう。
 つまり、ハテナは一度分裂すると、光合成で栄養を得る「 植物 」のハテナと、外部からの餌を糧にする「 動物 」のハテナに分かれてしまうのだ。

 光合成を行える側のハテナの方はそのまま元気に過ごすいっぽうで、葉緑体が無いハテナの方はそのまま微生物を食べる生活に移行すると言う。ただ、やはり体の中で光合成をしないとどうも落ち着かないようで、近くを泳いでる単細胞の藻類を体の中に取り込み、内部で光合成を行わせている。とは言え、現在の所、ハテナの葉緑体の元になったものとは別の種類の藻類のみで実験が行われているようで、まだまだ謎が多いようだ。

 なお、前述したとおりハテナはカタブレファリス科というグループの一員だが、そのカタブレファリス科は現在の生物の分類では『クリプト藻類』という「 植物 」の一員となっている。やはり体の中に葉緑体を持っている事が決め手になっているようだ。野生でも葉緑体持ちのハテナの方が見つかる率が高いと言う。


!!!! ハテナはすごい !!!!

 そんな「 」となりそうな不思議な生活を送るハテナだが、生物学の観点からは非常に重要な発見とされている。

 前述した通り、植物では細胞分裂で葉緑体が均等に双方の細胞に分配されている。だが、そのシステムがどのように創り上げられたのか?という事についてはさっぱり分かっていないのが現状である。何せ既にシステム自体が完成しきってしまい、取扱説明書も無い状況だからである。ゲームだと説明書が無くても何となくやればクリア出来る事もあるが、しっかりとした土台が必要な科学の世界ではそうはいかない。
 そこで、この「 」な状況を解く重要な手がかりになるかもしれないのが、均等に葉緑体が分配されないハテナである。まだ仕組みが完成しきっていないと言う事は、もっと研究が進めば「 葉緑体 」が現在に至るまでの進化の流れが解明できるかもしれない、というのだ。そして、葉緑体だけでは無く、同じように細胞の中に存在する「元」生物である『 ミトコンドリア 』の成り立ち、さらには生命の進化の秘密まで分かるかもしれないと言う。



 いくつもの「 」の答えを持つかもしれない生物「 ハテナ 」。
 もしかしたら、その秘密を解くのは追記・修正をした貴方かも?

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