銀の匙 Silver Spoon

登録日:2012/03/08 Thu 22:15:28
更新日:2023/12/20 Wed 17:51:26
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荒川弘作の少年漫画。週刊少年サンデー2011年19号から2019年52号まで連載された。
単行本は全15巻が発売されているほか、「ヒーローズ・カムバック」という複数の漫画家による短編集に主人公の先祖の話が描かれた外伝が収録されている。
2013年、ノイタミナ枠にてアニメされ、翌年には中島建人主演で実写映画も公開された。
2014年には二期も放送されている。

取材、妊娠、育児、他誌で2作品との並行連載、週刊誌の刊行ペースの速さ等もあり、休載無しを貫いた代表作『鋼の錬金術師』(通称ハガレン)とは違い、休載はやや多め。

2014年の36,37合併号からは家族の療養サポートをするために不定期連載化。
それ以降の掲載は3~4話のみ短期集中で掲載し、早くても半年長くて1年以上は休載するという、事情は全く違うがジャンプの某不定期連載漫画とほぼ同じ状態になっていた。
掲載の告知も最後の掲載以外は「連載再開」ではなく一貫して「最新話掲載」と表現していた。
2019年11月無事最終回が掲載され、最終巻である15巻も発売された。

キャッチコピーは「汗と涙と土にまみれた青春物語」。

ハガレン終了後間もなくの週刊誌連載ということで、どんな漫画を描くのかと思ったら、バトルものとは程遠い、農業高校を舞台にした学園モノ。

しかし、『百姓貴族』という作品も連載していたので、ファンにとってはある意味予想内の展開だったかもしれない。


ストーリー

北海道の十勝地方に所在する大蝦夷農業高等学校(通称、エゾノー)は、農業に従事することを目指す農家の子供が多く通う学校であった。
進学校として名高い中学出身でありながら、低偏差値校であるエゾノーにわけあって入学した八軒勇吾は、他のエゾノー生徒たちの多くが明確に将来の夢を持つ中、一人だけ何も夢を持っていないことに焦りを感じ始める。
高校としては日本一の広大な敷地面積を持ち、動物と自然に囲まれ、1年生の間は全寮制という慣習を持つエゾノーで、八軒の青春の日々が始まる。

ちなみに、作品に出てくる大蝦夷農業高校は十勝地方の帯広農業高校がモデルになっている。


登場人物
苗字は(見るからに)北海道内の地名が元になっている。

○八軒勇吾
(CV:木村良平)
本作品の主人公。眼鏡をかけ、学生服にパーカーが基本的スタイルの少年。通称『ハチ』。
新札幌中出身。実家は非農家家庭で、エゾノーでは珍しい一般入学者。部活は馬術部。実習班はA班。
兄・慎吾が東大に入り、自らも有名進学校に通っていたが、激しい学力競争に敗れ自信を喪失。これがきっかけで家族と距離を置くようになり、「家に帰らなくて済むから」という理由で全寮制のエゾノーに入学。
『断らない男』と呼ばれるほどのお人好しで頼まれれば断らず、所謂『余計な面倒を背負う』タイプで、無理をしすぎて倒れたこともあるが、その分友人からの信頼は厚い(労働力としても)。
親が食事に気を遣っていたため、味覚は確か。ただしリアクションがオーバーなところも。
男女共にかなりモテる(労働力的な意味で)。
初期から御影アキに思いを寄せており、御影と駒場の(幼なじみとしての)仲の良さに嫉妬していた事もあった。
後に御影と両思いになり、彼女の受験の面倒も見るリア充(仮)となる。だが、周り(特に先輩の大川)から度々制裁を加えられている。御影の大学合格と共に正式にお付き合いを申し込み、彼氏彼女の関係になる。
入学当初は、酪農の世界の理不尽さと経済動物の命の選択にショックを受けたものの、ゴールデンウィーク明けのピザ作りや夏休みの御影家のバイトを通して徐々に成長している。しかし、馬術部での障害物を飛び越えることが一人できず、中学時代の悪癖が出てしまったことも。
札幌市西区には「八軒」という地域がある。

○御影アキ
(CV:三宅麻理恵)
本作品のヒロイン
ショートカットが特徴の明朗で社交的な少女。
清水第一中出身。実家の酪農業を継ぐためにエゾノーに推薦入学したが、実家を継ぐことに関して悩みがある様子。部活は馬術部で祖父の縁から帯広の「ばんえい競馬」に親しんでいる。
仲良くなってからは八軒に女の影がちらつくと、無表情になってものを落とす等の反応をするが、自覚があるかは微妙なラインだった。
しかし八軒の努力と本人の意識の変化もあって八軒を意識することが多くなり、うっかり『好き』といいかけて黙るなど、異性として気にし始めている。
本番には弱いとはいえ、馬術の技能は高く、実家の手伝いをしていたこともあってか体力はあるが、成績は悪い。試験結果を見た八軒が「常磐よりぜんっぜんいいよっ!」としかフォローできないレベルだったが、八軒の勉強指導により推薦入試の枠を掴み取る。
また、中学時代までは方言を使っていたが、八軒のような人がいることを考えてエゾノー入学を機に標準語で喋っているが、気が緩んだり感情が高ぶると素に戻ってしまう。
やはり荒川氏の描く女性キャラ故か、高1にしてはスタイルがかなりいい(グラマーという意味で)。実写映画では南九条あやめによく「太ったんじゃない?」と言われている。
北海道十勝支庁、現在の清水町の辺りにはかつて「御影村」という村があった。(現在も同名のJR駅はある)

○駒場一郎
(CV:櫻井トオル)
短髪に鋭い目つき、大柄な体格の少年。アキとは幼なじみで、彼女からは「いっちゃん」と呼ばれる。
清水第一中出身。父親を早くに亡くし、他になり手のいない実家の酪農業を継ぐために推薦入学。
部活は野球部で、甲子園出場からプロ野球選手を目指している。実習班は八軒と同じA班。
このような過去があってか、斜に構えた考えだが一本気な性格。
授業中は基本寝ているがその分部活動に専念しており、一年でありながら秋の選抜高校野球大会の投手に抜擢される程。
しかし蝦夷農野球部が全道大会の準決勝で敗れ、プロ野球選手の夢も駒場牧場の経営維持も不可能となり、御影家が家の保証人として共に負債を負ってしまうこともあり自主退学して借金返済のために働くことになる。
その後、母親が酪農ヘルパー組合の正社員になり借金返済の目処が立ち「あんた自身は何が一番したいの」と発破をかけられ、新たな夢を追うことになる。
北海道網走市に「駒場」という地名がある。

○常盤恵次
(CV:庄司将之)
長めの髪を一つ結びにしているが、夏休み明けに調子に乗りすぎた結果丸刈りにされ、以降は丸刈りが定着化している。
中札内南中出身。鶏農家の長男で、家業を継ぐために推薦入学した。実習班はA班。
教わったことを3歩歩いただけで忘れる鳥頭。愛すべき(?)バカ。
バカだが行動力はあり、犬の副ぶちょーのおやつ代を稼いだり、寮の男湯を利用した「男風呂ヨーグルト」の作成など様々なアイデアを実行する。
作者のお気に入りで、作中屈指のネタキャラ。
札幌、旭川、根室など複数の地域に「常盤」という地名がある。

○相川進之介
(CV:島﨑信長)
目が細く穏やかな印象。
幕別東中出身。幼少期から獣医師を目指しており、少しでも早く医学研究に携わるために、研究設備の整っているエゾノーに入学した。部活は、授業外でも家畜を見たいためホルスタイン部に入部。クラスの実習班はA班。
誰に対しても物腰柔らかに接し、敬語を使うまでではないが、クラスメイトを呼ぶときには必ず『君』『さん』を付ける。(※ただし常磐は除く)
血を見るのが苦手であり、家畜の手術や屠殺の現場で失神するという、医師として致命的な欠点を抱えており、獣医に向いていないのではないかと悩んでいる。
幼少期に血を克服しようとスプラッタ映画を見続けた結果、作り物の血は克服した。
「人を救う獣医になりたい」という信念のもと獣医学部進学を目指すが、現実と同じく獣医学部はかなりの難関で厳しい受験となる。
北海道十勝支庁には「相川」という地名がある。

○稲田多摩子
(CV:高垣彩陽)
タマゴのような体型をしている。
帯広川西中央中出身。実家は共同経営型牧場であり、農業経営を学び、世界と渡り合える農業を築くことを目指している。実習班はA班。
体型により男子から異性と見られていないが、顔のパーツ自体は美形なので「トリミングしたら美人」と言われている。
実際夏バテで激ヤセした時にはまるで別人のようになってしまった。その変わりぶりは八軒曰く『詐欺』。
しっかりしすぎている故に、両親は「後継ぎという言葉に洗脳されて本当にやりたいことに気づかないんじゃないか」と心配していた。
しかし当の本人はお金が大好きで、合理的に高い収益を出すことに充実を感じている。つまり自分がやりたいことを現在進行形でやっている。
それどころか「私が入社したら父さんはお払い箱よ!」と下剋上宣言をした。
後に学生起業に乗り出した八軒の(経理、経営戦略面での)強い味方になる。

○吉野まゆみ
(CV:井澤詩織)
そばかすとツインテールが特徴。
下浦幌中出身。酪農家である実家の牛乳を使ったチーズ工房を立ち上げることが夢。
ズバズバものを言うタイプであり、そのツッコミは斬れ味鋭い。
作中で、八軒と不純異性交遊を噂された。後に寮の女子会で八軒の事を「(非農家の次男という)条件的にはいいけど、あいつめんどくさそうでやだ!」と評している。
フランスの農業高校に短期留学し、蝦夷農ではチーズ研究会会長となり確実に夢への道を進んで行くが、連載終盤で思わぬ試練の数々が降りかかる。

○西川一
(CV:高梨謙吾)
八軒のルームメイトで農業科学科1年。実家は芋農家でトラクターなど農業機具が運転できる。じゃがいもと二次元の嫁をこよなく愛する。
立地の面積をマクロスで例える、バッグにアニメキャラのキーホルダーなどと初期からオタクっぽいと言われていたがガチでオタクだった。
しかも寮の共用パソコンで堂々とエロゲやギャルゲをする、某イベントにも参加するなどの筋金入りのオタク。
痛ソリの作成、じゃがいもの品種別擬人化(美少女)などそっち方面では神絵師の才能を持つが、進路は家業の農業志望でアニメゲームは消費者として楽しむスタンス。
作中でも屈指の有能なキャラだが、彼にも三次元の女子を攻略することだけはできなかった。

○別府太郎
(CV:こぶしのぶゆき)
八軒のルームメイトで食品加工科1年。
丸顔でかなり太めの体格で大食い。
おいしいものを作りたいという理由で食品加工科に入った。
普段は(-〇-)な顔だが、真面目な話をする時は何故か劇画風になる。

○八軒慎吾
(CV:小西克幸)
勇吾の兄。かなり軽い性格で勇吾とは真逆な性格。
東大を中退しラーメン修業の旅をしている。
味覚は素晴らしいが、料理の腕は壊滅的。
父親を嫌っているらしく、顔を合わせようとしない。東大をやめたのも父親への嫌がらせだとか。
後に年上のロシア人の嫁とハーフの娘ができる。

○稲田先輩
(CV:小野友樹)
食品科学科の3年で、タマコの兄。体型は普通。名前は真一郎。
逃げたニワトリを捕まえてくれた八軒達に、礼としてスモークチキンを食べさせる。その時、チキンが無添加食品という事を見抜いた八軒を気に入っている。

○大川進英
(CV:水島大宙)
農業土木工学科3年生で、中盤までの馬術部の部長。
手先が非常に器用だが、器用貧乏で将来に対する明確な夢が無く、特技も履歴書に書けない代物ばかりなため、就職に苦戦していた。
就職に行き詰まり「誰か今すぐ社長になって俺を雇え!」と切羽詰まって叫んだ一言が、八軒の進路希望に大きな影響を与える事になる。
初登場時はモブキャラだったが次第に出番がどんどん増え、12巻あたりからは八軒や御影と並ぶほどの完全なメインキャラクターになる。
出番の増加と同時にネタキャラ化も進行し、登場するたびに大小様々なトラブルを巻き起こす事となる。
14巻では八軒達の大事な金を全額馬券にぶっこむというとんでもない騒動を引き起こし(一応当たった)、罰としてしばらくの間前が見えねェ顔にされた。

〇南九条あやめ
(CV:矢作紗友里)
金髪ロールヘアが目立つアキの幼馴染で、駒場とも面識あり。
プライドが高い高飛車なお嬢様気質でアキを一方的にライバル視しており、乗馬を始めたのも彼女をギャフンと言わしめるためだが、アキ本人からは友達と思われている。
とはいえ、八軒が学園祭の準備に追われて倒れた際にはアキの頼みを承諾したり、八軒の名前を何度も間違えたり、エゾノーの推薦入学に落ちる程の残念なオツムの持ち主だったりと、憎めない面も多い。

○校長
(CV:三ツ矢雄二)
波平みたいな髪型をした、顔も身長もコロポックルみたいなエゾノーの校長先生。本作のマスコットキャラの一つ。
常にニコニコしていて表情の変化が少ない。その代わりに頭頂部の一本の髪で喜怒哀楽を表現する。
悩み事の多い八軒を中心に生徒達の悩みを察知して、度々助言を与えてくれる。

○中島美雪
(CV:増谷康紀)
仏の姿をした食品化学の担任で、馬術部の顧問も務めている。
基本的には仏のごとく穏やかな性格なのだが、競馬とチーズに関わると豹変。
畜産管理棟の地下にチーズ倉庫をこっそり作ってはいるが、吉野に何度も無断で使われた時には悪鬼羅刹のごとき表情をするほど。
また駒場の退学後農産系全般の厳しい財政状況を知り「農業で一攫千金する方法」を色々人に聞いたあげく(実際に競走馬生産する農業高校があると聞き)「馬で儲ける」とのたまった八軒を、「おやめなさい」の馬券の雨をバックにした一言で制した。

〇富士一子
(CV:湯屋敦子)
豚舎棟を管理する女教師で、アーミーキャップに迷彩柄のカーゴパンツとサングラスがトレードマーク。
軍隊の教官のごとく冷徹な口調で生徒に厳しく接するリアリストだが、意外と酒豪で射的の名人という一面も。
後に教師を辞め猟師に転職する。
おまけ漫画によれば実はお嬢様らしい…。

○轟 剛
(CV:内海賢二)
鍛え抜かれた筋肉と口にたくわえたカイゼル髭と、どこぞの筋肉の錬金術師そのまんまな体育教師。
完全にチョイ役なのだがインパクトは抜群。
アニメ第1期ではこのキャラが内海氏の遺作となっている。(2期では台詞無しで登場している。)

○豚、牛、鶏、馬、犬
本作によく出てくるマスコット動物たち。
前者3つはもちろん食品としてもよく出てくる。

カーネル・サンダース人形
1巻8話に登場。農業高校の敷地内に捨ててはいけません。
名前は1字だけ伏せられている。(でも台詞毎に伏せられている字が違うので意味ない)
ネタとしてアレなのでアニメでは登場しないだろうと思われていたが1期4話でシチュエーションを少し変えて登場した。


この漫画の魅力と言えば、なんと言ってもリアルな描写である。
前述の学校、帯広農業高校は作者の母校であり、実際の授業内容がしっかりと書かれている為。
普通の授業から本当にやるの?と言った実習まで、農業に詳しくなくても十分に楽しめる内容となっている。

(身内ネタになるが、教師の名前等も作者が通っていた頃につとめていた実在の人物からとっている等、知っている人ならニヤリと出来る部分も多い。)

しかし、アニメ化でファンが増えた結果か、実際の農業高校に押しかけるマナーの悪いファンが出てきたため、アニメのEDの最後に「興味本位で行かないように」という内容のテロップが出るようになった。

ちなみにエゾノーの校訓は「勤労・協同・理不尽


2012年に第5回マンガ大賞で大賞を受賞しました。



追記、修正は農業高校に入学してからお願いします。

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最終更新:2023年12月20日 17:51