抹消された恐竜の名前

登録日 : 2013/06/21(金) 02:53:41
更新日 : 2017/08/29 Tue 17:36:42
所要時間 :約 23 分で読めます





ブロントサウルスという名前の恐竜をご存じの人は多いかもしれない。

太く長い首を持つ巨体で、恐竜時代を闊歩していたこの恐竜は、昔の図鑑ではほぼ常連のように登場していた。

しかし、この著名な恐竜、実は現在の図鑑ではほとんどその存在が書かれておらず、
今の子供たちは「ブロントサウルス」という恐竜を知らないまま育っている。


「存在」が一時抹消されてしまったのである。


一体どういう事なのだろうか。

実はこのブロントサウルスという恐竜、そもそも 存在すらしていなかった と見做されていたのだ。

この項目では、そんな「存在すらしていない」黒歴史の中に消えた恐竜たち、また消えていくかもしれない恐竜たちを取り上げていく。


<目次>


~~名前の「抹消」理由~~


恐竜を始め、古生物学や生物学の世界では、馴染みのある名前でも様々な理由で容赦なく「抹消」される事が多い。
その中でも多いのは、『先に同じ動物(やその化石)が発掘されていた』というものである。

生物の名前である学名を付ける際には、「先に学会や論文で発表していた学名が正式名称」、つまり早い者勝ちというルールがある。
後で同じ動物が発見され、別の学名がつけられてしまった時にはそちらは「シノニム」と呼ばれるニックネームとなり、
正式な名称としては扱われなくなってしまうのである。(ちなみにシノニムとは「別名」や「同義語」の意)

またこのルールのために、別の動物に先に名前を付けられてしまったという例もある。

そしてもう一つ、恐竜など古代の生物で多いのは『別の動物の骨が混ざっていた』という理由である。
昔で言う河童や人魚のミイラのように様々な動物が混在するキメラのような状態になってしまっているのだ。
当然ながら、そんな状態の化石は新種とすら認められない。

他にも様々な理由があるが、そちらは本文を参照。


~~代表的な「抹消された恐竜」「抹消されるかもしれない恐竜」~~



・ウルトラサウルス / ウルトラサウロス

生息年代……ジュラ紀
消滅理由……別の恐竜に先を越された、複数の種類の恐竜の骨が混ざっていた、そもそも復元が間違っていた
 超巨大な 竜脚類 で、ゾイドでもお馴染みであろうこの名前も、様々な流転の中で「無効」となっている。

 「ウルトラサウルス」という名の恐竜が初めて発表されたのはアメリカ。
 史上最大の恐竜かもしれない、という化石に 非公式な名前 として付けられ、マスコミなどで大々的に取り上げられた。

 ところが、ここで厄介な問題が起こる。

 世界的に有名になった名前なのをいい事に、
 韓国の科学者がなんと別の恐竜に「ウルトラサウルス」という名前を付け、学会で正式に発表してしまったのである。
 早い者勝ちのルールのせいで本家がこの名前を使用できないという事態が起きてしまい、
 結局こちらは少し捻った「ウルトラサウ」という名前で落ち着いた。

 だが、その後このウルトラサウスの骨格自体も、
 別の巨大竜脚類「スーパーサウルス」と「ブラキオサウルス」がごっちゃになっていた事が判明してしまい、今や存在すら否定されてしまっている。

 一方のウルトラサウルスの方も、科学者本人が間違った復元をしてしまった事が判明しており、
 こちらも存在が否定されている。ある意味自業自得かもしれない。
 最終的に双方とも名前は幻になってしまったのだった。

・セイスモサウルス

生息年代……ジュラ紀
消滅理由……先に発掘されていた別の恐竜と同じである事が判明
 史上最大の恐竜として図鑑で見た事のある人も多いだろう。こちらもゾイドでお馴染みかもしれない。

 だが、その後2000年代に竜脚類の一種 「ディプロドクス」の大型個体である という事が判明。
 名前も「ディプロドクス・ハロルム」となってしまい、セイスモサウルスという名前は消えてしまった。
 ちなみにその前に『史上最大の恐竜』の座も、白亜紀の南米に生息していたアルゼンティノサウルスに譲っている。

・トラコドン

生息年代……白亜紀
消滅理由……先に発掘された別の恐竜と同じである事が判明
 昔の図鑑や特撮などによく登場していた、カモのような嘴を持つ大型の草食恐竜(通称「 カモノハシ恐竜 」)。
 70年代までは水の中に住むという復元図が当たり前のように記載されていたが、現在は陸上を活発に動く、
 今で言うウシやシカのポジションだったのではないかと言う説が主流となっている。
 ただこの名前は現在使われておらず、「アナトティタン」という名のカモノハシ恐竜に合流した形となっている。

・アナトサウルス

生息年代……白亜紀
消滅理由……別の種類の恐竜の化石が混ざっていた
 その「アナトティタン」という名前に慣れない人たちも、「アナトサウルス」の名前は聞いた事があるかもしれない。
 だが、この時命名のきっかけとなった化石骨格には、実はエドモントサウルスという別の恐竜が混ざっていたと発表され、名称が使えなくなってしまった。

 そして、改めて残った化石に「アナトティタン」という名前が付けられた、と言う訳である。
 ところが……。

・アナトティタン

生息年代……白亜紀
消滅理由……先に発掘された別の恐竜と同じである事が判明
 2004年、そのアナトティタンの化石についてとんでもない事実が発表された。
 なんと正体は新種でもなんでもなく、「エドモントサウルスの顔の骨が圧力でひしゃげただけ」だったのである。
 こうして二転三転した化石は、結局元の「エドモントサウルス」の化石として落ち着いたのだった。

 ただ、状況が今後一切変わらないとは言い切れないのが古生物学の難しいところ。
 もしかしたら将来……?

・アーケオラプトル

生息年代……白亜紀
消滅理由……複数の種類の恐竜の化石が混ざっていた
 現在、中国を始めとする各地で「羽毛恐竜」と呼ばれる恐竜が続々と見つかっている。
 文字通り体に鳥のような羽毛を生やした恐竜たちで、「鳥」の進化を辿る上で非常に重要な存在となっている。
 主に肉食恐竜で羽毛が確認される場合が多く、このアーケオラプトルもその一種として大々的に報じられた……

 ……のだが、その後大変な事実が発覚した。
 なんとこの化石の標本自体が古代の鳥と恐竜の化石をごちゃ混ぜにしたインチキである事が判明したのである。
 当然、現在の古生物学上ではこの恐竜の存在は否定されている。
 ただ、このインチキ化石に使用されていた恐竜の骨は、その後の研究の中で新種の恐竜「ミクロラプトル」である事が判明している。

・リオアリバサウルス

生息年代……三畳紀
消滅理由……文章内を参照
 恐竜の初期である三畳紀の恐竜は、まだ未分化だった事もあり現在も分類などで分からない事は数多い。
 この「リオアリバサウルス」は発掘されたアメリカの『リオ・アリバ郡』から名づけられた名前なのだが、
 この名前と並行して、当時の肉食恐竜の代表格「コエロフィシス」として扱われる事が非常に多かった。

 2つの名前を持つというややこしい状態になった事で、その後こういった動物の名前を決める委員会で投票が行われ、
 ここで見つかった恐竜は「コエロフィシス」という名前となり、リオアリバサウルスという名前は使用されなくなったのである。

 だが、肝心のコエロフィシスに関しても、この名前を付けるきっかけになった化石は「(元)リオアリバサウルス」の化石と比べて数が非常に少なく、
 決定的な証拠を掴むまでは「エウコエロフィシス(真のコエロフィシス)」という名前となっている。
 他にも名前が時代によってどんどん変わっており、訳が分からなくなっている。

 ちなみにこのコエロフィシス、かつては共食いをしている恐竜と言われてきたが、お腹の中にいたのは実は餌のワニである事が判明している。

・モノクロニウス

生息年代……白亜紀
消滅理由……そもそも化石自体が少なかった
 デジモンのモノクロモンでもお馴染み、この角を持つ恐竜「角竜」の名前は、現在使用する事が出来ない状態になっている。
 その大きな理由は、化石が「新種」認定するにはあまりにも不十分であった事が判明したからである。

 恐竜など古代の生物を新種として認定するには、発掘された化石などの特徴を他の生物の化石と照らし合わせて、それらと違う事を証明する必要がある。

 ところが、このモノクロニウスは昔から「セントロサウルス」という名の角竜と同じ種類ではないかと言われていたのだが、
 それ以前に比較するにはあまりにも化石が不完全すぎるという事が判明したのである。
 一応「抹消」はされていないが、使用するのは非常に難しい。

 ちなみにそのセントロサウルスの方も、トカゲの仲間に先に名前が付けられていた事が分かり
 「エウセントロサウルス」と名前が変えられたのだが、そのトカゲの名前が変更されてしまったせいで、
 現在は2つの名前を同時に有するというややこしい事態になっていると言う。
 なお、似た名前で「ケントロサウルス」という恐竜もいるが、こちらはステゴサウルスと同じ剣竜と呼ばれる種類。

・アントロデムス

生息年代……ジュラ紀
消滅理由……情報が足りなさすぎる
 ジュラ紀を代表する肉食恐竜と言えばアロサウルス。ところが、かつてその名前が「アントロデムス」に変更されていた時期がある。

 元々アロサウルスの化石が見つかったのは1877年の事だったが、それ以前の1873年、「アントロデムス」という名前の肉食恐竜が報告されていた。
 発見した地域の地元の人は馬の蹄の化石ではないかと考えていたが、
 研究者はこれを恐竜の尾の骨であると見抜き、論文にまとめて報告したのである。
 そして1920年代に入り、「このアントロデムスとアロサウルスは同一の種類ではないか」という見方が強くなり、
 早い者勝ちのルールに基づいて『アントロデムス』が正式な名前となり、
 アロサウルスと言う名は消滅してしまったのである。

 ところが、状況が変わったのは1970年代。
 「アロサウルス」の化石が大量に発見され、その詳細が分かってきたのと同時に、アントロデムスとされた化石自体が不備ばかりである事が指摘されたのだ。
 そもそも恐竜の化石を発掘したという論文を作る時には、いつどこで見つけたか、どこら辺が特徴的かをしっかり書かなければならない。
 ところがアントロデムスの論文は特徴が書いていないどころか、
 化石自体がコロラドにある地層のどっかから見つかったのを貰ったものという、
 あまりにもグダグダな立場だったのである。

 当然そんな名前が受け入れられるわけはなく、アントロデムスの名は消滅。
 こうして「アロサウルス」は、見事に復活を遂げたのであった。

※ドラコレックス / スティギモロク

生息年代……白亜紀
消滅(するかもしれない)理由……先に発掘された別の恐竜と同じであるかもしれない
 石頭の恐竜「堅頭竜類」の代名詞である「パキケファロサウルス」という恐竜を聞いた事がある人も多いかもしれない。

 この仲間は現在北米やアジアなど各地で発掘されているが、
 その中で現在、「2種類の恐竜がパキケファロサウルスの若い頃の姿かもしれないか」という説が上がっている。

 スティギモロクは頭のドームが発達していない代わりに周りの角がよく発達しているのが特徴で、
 ドラコレックスはさらに角が多く頭に存在している。すなわち……

 「ドラコレックス」⇒「スティギモロク」⇒「パキケファロサウルス」

 ……という形で成長したのではないか、という訳である。

 ちなみにドラコレックス、正式名称は『ドラコレックス・ホグワーツィア』と言い、
 ハリーポッターシリーズに登場するお馴染みホグワーツが名称の由来の一つとなっている。
 ただし名前が似ているがこれとは関係ないフォイ。

※トロサウルス

生息年代……白亜紀
消滅(するかもしれない)理由……先に発掘された別の恐竜と同じであるかもしれない
  恐竜の代名詞「トリケラトプスが学名から消えてしまう」というニュースが記憶にある人は多いかもしれない。
 だが実際消えてしまう可能性が高いのはトリケラトプスではなく、この「トロサウルス」という名前の恐竜の方である。

 超巨大な頭の骨を持つこの恐竜なのだが、発掘当時からトリケラトプスとの違いがほとんど無かったことから、
 「そもそもトリケラトプスの成長後の姿ではないか」というジャック・ホーナー博士の説によるもの。
 一方で別の視点で見た研究者からの反論も多かった。
 2016年現在、論文の筆者であるホーナー博士のみが固執している状況らしく、共同執筆のスキャネラ博士も「ゴメンやっぱ違ったわ…」と撤回側に回ったとか。

 将来この項目から無事「トロサウルス」の名前が外される日が来るかもしれない。

※ナノティラヌス

生息年代……白亜紀
消滅(するかもしれない)理由……先に発掘された別の恐竜と同じであるかもしれない
 こちらも恐竜の代名詞「ティラノサウルス」と同じグループに属する肉食恐竜だが、名前の「ナノ」が示す通り小さな体を持つ。
 最初は同じくティラノサウルスの仲間「ゴルゴサウルス」の一種と思われていたが80年代末期に晴れて新種と認定。
 しかしその後、ティラノサウルスの子供の化石じゃないかという説が上がり、現在も議論が行われている。
 化石自体もそう多くないので、こちらも今後の展開が待たれる。

※ウエルホサウルス

生息年代……白亜紀
消滅(するかもしれない)理由……先に発掘された別の恐竜と同じであるかもしれない
 「モノクロニウス」の欄で少し取り上げた「ケントロサウルス」や「ステゴサウルス」は、背中に大きな帆のような骨を生やし、
 尻尾にあるスパイクのような鋭く大きな棘で身を守る「剣竜」と呼ばれる恐竜の一団である。

 しかし、この剣竜は他の恐竜グループと比べて少々不遇な立場にある。
 同じ時期にジュラ紀に生息していた多くの恐竜の系統は白亜紀末期の恐竜絶滅まで生き残る事が出来たのに対し、
 この剣竜は白亜紀前期の時点で僅かな種類を残すのみに衰退してしまったのだ。

 そして、剣竜の歴史の最後を飾ったと言われているのが、このウエルホサウルスである。

 ところが近年、このウエルホサウルスは実はあの「ステゴサウルス」と同一の存在ではないかとする説が上がっている。
 かつてウエルホサウルスの帆は小さく、形も平らで地味なものであると考えられていたが、
 近年の研究でこれは化石になる前後で折れてしまった結果であることが判明。

 これも踏まえ、「実際はステゴサウルスとほぼ同一の姿をしていた」と言う考えが提唱されたのである。
 この場合、ステゴサウルスはジュラ紀後期から白亜紀前期にかけて、北アメリカと中国にまたがって生息していたということになる。

 とは言えやはり反論も多く、剣竜の最期を見届けたのはいったいどんな種類だったのかは謎のままとなっている。

※ティタノサウルス

生息年代……白亜紀
消滅(するかもしれない)理由……「ティタノサウルス」と言う種を定める独自性が無い
 上記に紹介したアパトサウルス、ブラキオサウルス、ディプロドクスの仲間はジュラ紀から白亜紀前期に生息していた一方、
 白亜紀後期に存在していた首が長い草食恐竜である竜脚類の多くは「ティタノサウルス類(ティタノサウリア)」というグループに分類されている。
 世界中で大繁栄を遂げており、史上最大クラスの陸上動物であるアルゼンティノサウルスやドレッドノータス、
 日本で発見された丹波竜ことタンバティタニス、恐竜絶滅後も生き残った可能性があるアラモサウルスもこの一員。

 その名前の由来となった恐竜こそがティタノサウルスなのだが、21世紀に入り研究が進んだ結果、
 これまで世界各地で発見されティタノサウルスとされていた化石が実際は骨格構造が異なる別種であるという事実が次々に明らかになり、ネウケンサウルスやイシサウルスなどの新種に認定されていった。
 残されたティタノサウルスの化石についても、
 そもそも発見された化石に「ティタノサウルス」という種類が存在する事をはっきり示すだけの証拠が残されておらず
 正式な学名ではない「疑問名」に格下げされてしまっている。

 なお、ゴジラシリーズに「チタノザウルス」なる恐竜が登場しているが、首が長い事以外全く関係ない。

※ゴジラサウルス

生息年代……三畳紀
消滅理由……先に発掘された別の恐竜と同じである事が判明?
 その怪獣王ゴジラの名を冠した事でお馴染み、アニヲタwikiに単独項目まで持つこの名もまた、とんでもない事態になっている。

 上述した通り、三畳紀の恐竜は未だに不明な点が多く、時代が進むごとで常識がどんどん変わっている。
 その中で、三畳紀を代表する恐竜として君臨していたのが先程も登場した「コエロフィシス」とその仲間たちである。

 そしてこのゴジラサウルスもまた、このコエロフィシスの大型の仲間である……とされていたが、2000年代後半に出された論文で、
 この「ゴジラサウルスの化石自体がそもそもコエロフィシスの大型個体そのものである」という研究結果が出されたのである。

 つまり、ゴジラサウルスという恐竜そのものが存在しなかったという事になるのだ。

 一応コエロフィシスとは別種であるという証拠もあるのだが、こちらも再検証が行われており、
 ゴジラサウルスの名前は、正当な恐竜の名前として扱われない「疑問名」となっている。

 恐竜界のゴジラもまた、歴史の中で抹消されてしまうのだろうか……。

※ミクロラプトル・グイ

生息年代……白亜紀
消滅(するかもしれない)理由……複数の種類の恐竜の化石が混ざっていた可能性が浮上
 上記の「アーケオラプトル」の項目で少し紹介した「ミクロラプトル」という恐竜は、現在「ミクロラプトル・ザオイアヌス」と「ミクロラプトル・グイ」という2つの亜種に分類されている。
 その中で特に有名なのはミクロラプトル・グイ
 発見された化石に「後ろ足にも生えた羽」という現在の動物では見られないユニークな構造の跡が残されていたのである。
 その後の研究で羽は光を反射して玉虫色に輝き、文字通り極彩色の恐竜であった可能性が高くなっている。

 だが、そのミクロラプトル・グイに関して近年とんでもない疑惑が生じている。
 以前からミクロラプトル・ザオイアヌスと同じ種類だという説があったのだが、
 最新の研究でなんとこのミクロラプトル・グイの化石は2つの別の化石が混ざったものであるという可能性が出てきたのだ。
 つまりアーケオラプトルと同じ「合成化石」である。

 「ミクロラプトル」という種類自体はザオイアヌスがそのまま受け継ぐことになるものの、
 亜種として有名な「ミクロラプトル・グイ」の名前が、もしかしたら今後消えるかもしれない。

※トロオドン

生息年代……白亜紀
消滅(するかもしれない)理由……「トロオドン」という種を定める化石が不足している
 肉食恐竜の系統「トロオドン科」に属する、全長1.5~2メートルほどの華奢な恐竜。 
 身体の大きさに対して脳容量が大きかったことから、恐竜が絶滅せず進化し続けた場合、
 この種類が知的生物=恐竜人(ディノサウロイド)になったかもしれないとの説も発表されたほどである。

 一時は「ステノニコサウルス」と同種であるとみなされ、こちらのほうが発見した年月が早かったことから有効名=正式な学名となり、恐竜で一番の頭脳派の異名を誇る種類となっていた。
 ところが、実はトロオドンの立場は古くから非常に危ういものであった。
 元々「トロオドン」という恐竜が存在したという証拠を示す標本「ホロタイプ」は、アメリカで見つかったたった1個の歯だけであった。
 21世紀に入り、歯1つだけでトロオドンという種類がいたと認定するのは無茶なのではないか、という声が挙がっていたのである。

 そして2017年、それまでトロオドンの化石だと見做されていた骨格を再調査した結果、
 トロオドンとは異なる「ラテニヴェナトリクス」と呼ばれる新種として認められてしまった。
 その結果、後述の通り産出された化石が多いステノニコサウルスが復活した一方、ホロタイプが歯だけしかないトロオドンは「疑問名」になり、正式な学名では無くなってしまったのである。

 一度疑問名に格下げされてしまった名前が復活するのはなかなか難しいようで、今後トロオドンという名前が図鑑から消える日が訪れるかもしれない。
 ただし消えてしまったのは「トロオドン」という種類の恐竜のみであり、
 上記のラテニヴェナトリクスやステノニコサウルスが属する恐竜のグループの名前は引き続き「トロオドン科」と呼ばれ続ける事になる。

 なお、これと同時に「ポリオドントサウルス」と呼ばれていたトロオドン科の恐竜も疑問名になってしまっている。


おまけ①:ティラノサウルス

生息年代……白亜紀
 ナノティラヌスの成長後の姿かも?と言われているティラノサウルスだが、
 実は2000年代初頭に危うく名称が消えてしまうという事態になった事がある。

 実は「ティラノサウルス」と呼ばれるようになった化石が見つかる数年前、
 先に「マノスポンディルス」と名付けられた化石が発掘されていた。

 冒頭に述べたルールなら、ここでティラノサウルスという名称は消えるはずだったのだが、後者の化石が一つしか見つからなかったためか、
 何故かそのまま放置され、「ティラノサウルス」という名前が恐竜界のスターとして有名になっていくのであった。

 そして2000年、その「マノスポンディルス」の発掘現場から、100年以上前に掘り残されたと思われる化石が見つかった。
 ここで改めて、ティラノサウルスという名前が消えてしまうと言う危機が生まれたのである。

 しかし、ここでなんと『 強権 』が発動された。

 具体的に言うと、「有効な学名で様々な文献に使用されている学名を、昔に使われていたシノニム(使われてない名前)にしてはいけない」
 ……要するに『知名度の差』というか、「さすがにこれだけ有名な学名を変更したら色々とマズイでしょ」という理由。

 かなり強引な手段だが、こうして何とかティラノサウルスの名前は守られたのだった。

 すごいね、知名度。

 なお、その他のティラノサウルスのシノニムには『ディナモサウルス』『ディノティラヌス』『スティギヴェナトル』などがある。

おまけ②:エゾミカサリュウ

生息年代……白亜紀
 最初は恐竜だと考えられていたが、その後の研究で別の爬虫類である事が判明した例も数多い。
 その一つが、このエゾミカサリュウ。かつて(樺太を除く)日本で初めての大型恐竜の骨だと持て囃されたが、
 現在は海の爬虫類である首長竜「タニファサウルス」である事が判明している。

 詳細は項目を参照。

 なお、似たような例には、かつて恐竜扱いされていた三畳紀の凶暴な肉食爬虫類「テラトサウルス」がある。

おまけ③:メガプノサウルス、ミクロケラトゥスなど

生息年代……ジュラ紀前期、白亜紀後期
 コエロフィシスに似た・ケラトサウルス下目・コエロフィシス科の恐竜。アフリカのジンバブエで大量の化石が発見されている。
 この恐竜、かつてはシンタルススという名で1969年に命名されたが、実はこの名前が1869年に命名された甲虫類を指すことが発覚。
 この恐竜の学名としては使えなくなり、代わりにメガプノサウルスと新たな学名が付けられることになった。
 かぶった対象が昆虫の仲間・甲虫類というこれまた学名の厳しさを分からせてくれる存在。抹消されたのは本人ではなく名前である。

 同じ例としては、ダニと名前が被ったためにラエラプスという名前から変わった「ドリプトサウルス」がある。

 そして2015年に公開された映画『ジュラシックワールド』のパンフレットにおいて、「ミクロケラトゥス」という名前を見つけて「誤植か?」と思ったオールド恐竜ファンも多いのではないだろうか。
 かつては「ミクロケラトプス」と呼ばれていたのだが、やはり学名被りが発覚して改名させられたのである。
 しかし、上2つの例と比べてなんかやっつけ感が漂う改名である。

 こちらと似たような例には、「サウロファグス」→「サウロファガナクス」と改名させられた肉食恐竜が存在する。
 元の学名の意味は「トカゲを食う者」だったのに対して「ビッグサイズのトカゲを食う者」とスケールアップしている。

おまけ④:ドラヴィドサウルス

生息年代……白亜紀後期
消滅(?)理由……恐竜じゃなかった、はずなのに?
 上述した通り、剣竜は白亜紀前期の時点でウエルホサウルスなど僅かな種類を残すのみとなり、そこで息絶えてしまったのである。
 ところが、かつては「ドラヴィドサウルス」という剣竜が白亜紀末期まで生き残っていたのではないか、と言われていた。

 しかし、その後の研究で、エゾミカサリュウと同様に恐竜では無く、こちらも海の爬虫類「首長竜」である事が判明。
 剣竜が恐竜の最期を見届けたという希望は潰えたのであった……

 ……のだが、現在、このドラヴィドサウルスの「子孫」を名乗る恐竜が存在している。しかも、日本に。
 皆様もよくご存じ、 緑のスーパー五歳児ガチャピン である。

 2013年、『ガチャピンは何という恐竜?』という子供の疑問に応えるべく、福井県にある県立恐竜博物館が発表した「研究論文」の中身に、
 南の小島で生まれたガチャピンの祖先は、前述のケントロサウルスやドラヴィドサウルスではないか、と記載されていたのである。
 そこから二足歩行に進化し、現在の姿になったと言う。

 一応「大真面目」に取り組んだ論文形式の書物なのであまり突っ込まない方が良いかもしれないが、
 考え方によっては博物館がドラヴィドサウルスという「恐竜」の存在を認めたという事にもなる……。

 真相を知るのは、どうやら ガチャピン 本人しかいないようだ。 やっぱり緑はトラブルメーカーですぞ!




 このように、恐竜など生物の名前は、研究が進むにつれてどんどん変わっていく。「十年一昔」の言葉通り、昨日までの常識が今日の嘘になってしまう事もあるのだ。
 もしかしたら、馴染みのある恐竜の名前も数年後には抹消されてしまう事もあるかもしれない――。



 ――だが、それは逆に、抹消された名前が復活する場合もあり得る、という事でもある。
 上述の通り、アロサウルスも一度その名前が抹消された後、数十年経って復活しているのだ。
 最後に、そんな(ある意味)蘇った恐竜たちを紹介する。

~~一時期抹消されたが後に復活した(またはその可能性のある)名前~~


・ブロントサウルス

生息年代……ジュラ紀
一時消滅理由……先に同じ恐竜の化石が発掘されていた、複数の種類の恐竜の骨が混ざっていた
 冒頭でも述べた、一昔前の恐竜の代表格。首が長い草食恐竜「 竜脚類 」の一員と言われていた。
 というか、日本ではブロントサウルスを日本語訳した「雷(かみなり)竜」という竜脚類全体を表す言葉になるくらい有名な存在である。

 学名を付けたのは、19世紀に活躍していたアメリカの古生物学者マーシュ。

 彼は当時ライバルだった古生物学者コープと恐竜の化石の発掘を競っており、
 その中で数稼ぎのために同じ種類でも別の名称を平気で付ける事がよくあったと言う(わざとじゃないのもあるが負けないためというのはほぼすべて)。

 その中の一つがこの「ブロントサウルス」なのである。

 そして、その後すぐにブロントサウルスの存在は否定された。

 1903年、アメリカにある博物館の館長が発表した論文で、
 マーシュがブロントサウルスより前に発見された恐竜「アパトサウルス」が、この恐竜の若者であると発表したのである。
 冒頭にも述べた早い者勝ちのルールに従い、ブロントサウルスの名前はこの時点で既に消滅した。

 しかも、その後研究が進むにつれ、そもそもこの恐竜の骨格自体が、
 「胴体がアパトサウルス、頭がカマラサウルス」というごった煮状態であることが判明し、存在すら無効となってしまったのである。

 ところが、これらの研究結果が世間に広まったのは相当後の事になり、図鑑や映画、歌はおろか博物館にまで、
 存在しない恐竜「ブロントサウルス」が闊歩する結果になったのである。

 さすがに現在は冒頭にも述べた通り黒歴史の彼方に消えた名前となっているが、
 やはりこの分かりやすく親しみやすい名前に馴染みのある人は多いようだ。
 現在、竜脚類に属する恐竜の一つが「エオブロントサウルス(初期のブロントサウルス)」という形で名前を受け継いでいる。

 そして近年、長年幻とされてきたこの恐竜に纏わる重大な事実が判明した。

 2015年に発表された論文によると、かつて「ブロントサウルス」と呼ばれた化石と現在ブロントサウルス(の体)の正体とされているアパトサウルスの化石を比較したところ、
 別の種類とみなしてもおかしくないほど異なる特徴を多数有していることが判明したのだ。
 これを基に、論文では「ブロントサウルス」の種類を復活させる事を提案している。

 まだ正確には決まっていないものの、もしこれが受け入れられば、1世紀以上に渡って抹消されていた恐竜の名前が、
 今度こそ『本当の名前』として恐竜図鑑に戻ってくる事になるだろう。
 (もっともこの「ブロントサウルス」は、アパトサウルスと同じく細長い頭骨を持っており、丸い顔で知られるかつてのブロントサウルスとは違った外見だったようである)

・ステノニコサウルス

生息年代……白亜紀
一時消滅理由……先に発掘された別の恐竜と同じだと考えられていた
 上記の「トロオドン」でも登場した、トロオドン科の恐竜。
 かつてはこちらが恐竜人(ディノサウロイド)になったかもしれないと言われており、
 『ドラえもん のび太と竜の騎士』を始めとするフィクション作品でもステノニコサウルスを起源とする恐竜人が多数登場していた。

 しかし1987年、「トロオドンという恐竜と同種である」という研究発表がなされ、存在が否定されてしまう。
 それ以降はトロオドンのほうが知的生命体になれたかもしれない恐竜として知名度を上げてきていた。


 ところが2017年、とんでもない逆転劇が起きた。
 「トロオドン」の項目でも取り上げた通り、新たな種類「ラテニヴェナトリクス」が認定された際、
 1個の歯の化石しか見つかっていなかったトロオドンが疑問名に格下げされてしまったのである。
 一方、そのトロオドンに吸収される形となってしまったステノニコサウルスの方は以前から多数の化石が発見されており、
 ラテニヴェナトリクスなど多種のトロオドン科との恐竜との比較がし易い状態になっていた。
 その結果、化石が多かったステノニコサウルスの名前がめでたく復活することになったのである。

 皆様も古代生物の新種を発表する際はなるべく多くの化石を見つけるようにして頂きたい。

・スコロサウルス

生息年代……白亜紀
一時消滅理由……復元ミスが判明
 硬い鎧のような皮膚で身を守っていた、ずんぐりとした草食恐竜「鎧竜」の一種とされていた。
 マイナーだが昔の図鑑や漫画で見た事のある人も多いかもしれない。
 ただ、その後復元ミスが発覚してしまい、現在は「エウロプロケファルス」という名の恐竜に吸収される形となっていた。

 だがその後の研究で、2009年以降にエウプロケファルスのこれまで見つかった標本について再調査が行われた結果、
 「やはりスコロサウルスとエウプロケファルスは別属」という説が唱えられ、再び独立種として扱われるようになっている。

 この「スコロサウルス」の標本は、東京の国立科学博物館で見ることができる。
 (解説板も改装に伴い「エウプロケファルス」から「スコロサウルス」に変更されている)。


 恐竜の名前がまた一つ消えたり復活したら追記・修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/