怪獣使いと少年(帰ってきたウルトラマン)

登録日 :2011/06/17(金) 00:52:26
更新日 : 2017/09/28 Thu 21:49:37
所要時間 :約 13 分で読めます




「怪獣使いと少年」とは、『帰ってきたウルトラマン』第33話のエピソード。
差別や未知なる物への恐怖、集団心理の怖さなどを題材としたウルトラシリーズ史上屈指の問題作である。

○あらすじ
河原で穴を掘り続ける少年がいた。
その少年をからかった不良が不思議な力で叩きつけられたり、少年を襲った犬が突然爆死するなどの事から人々は少年を宇宙人と忌み嫌うようになっていった。
ある日、少年と不良の仲裁に入った郷秀樹は少年の素性を調べていく…。


○登場人物
  • 郷秀樹(演:団次郎)
我らがウルトラマンジャック。リョウ少年の素性を調べていく内に、ある隠された事実に辿り着く。

  • 伊吹隊長(演:根上純)
MATの二代目隊長、要所要所の場面で郷を導く。

  • リョウ少年
河原で穴を掘り続ける少年。彼の周りで不可解な事が起こった事で人々から宇宙人と呼ばれている。何かを隠しているようだが…

  • 金山
リョウと暮らす老人、親子ではなさそうだが…


尚この話ではMATのメンバーは郷と隊長以外は画面に登場しない(音声だけならば最後に上野隊員が出るが)
これは下記の制作上の都合が関係している



以下、ネタバレ
リョウは北海道は江差生まれのれっきとした日本人だった。
父が就職の為上京後そのまま蒸発してしまい、その間に母も死亡。天涯孤独となった彼は父を追うように上京する。

一方同じ時、地球の気候風土を調査するため一人の宇宙人(メイツ星人)が嵐の中の河原に降り立ち宇宙船を念力で地中に隠した。
丁度その時、怪獣が出現しており同時にリョウも河原にいたが、餓えと寒さと恐怖により死にかけていた。
そこでメイツ星人は怪獣を念力で地中に封じ込め、リョウを保護する。

その後、人間に姿を変え金山と名乗ったメイツ星人はリョウと共に河原で暮らしていく。
その暮らしの中でリョウは金山との間に親子の絆と同じほどの物を感じ、金山もまたリョウの為ならこのまま地球でずっと暮らしても良いとさえ思い始めていた。

しかし、地球の環境汚染は金山の体を蝕んでいき、とうとう埋めた宇宙船を掘り返す事さえ出来なくなってしまった。
メイツ星へ帰れさえすれば金山の体は良くなると知ったリョウは、自力で穴を掘り始めたのだった。

全てを知った郷は、宇宙船探しの手伝いを名乗り出る。
宇宙船探しの中、郷はお父さんはと聞くがリョウは父親なんか要らない、宇宙船が見つかったら金山と一緒にメイツ星へ行くと告げる。
地球は今に人が住めなくなるから、その前に地球にさよならする…と。

複雑な表情の郷。と、その時町の人々が大挙して河原にやってきた。
MATが宇宙人を退治しないなら、自分達の手で退治するとそれぞれに武器を持って襲ってきたのだ。

人々に引きずられていくリョウの助けを求める声も、制止しようとする郷の声も届かない。もはや誰にも止められないかと思われたが…



「待ってくれ!宇宙人は私だ!その子は私を守ってくれていただけだ、宇宙人じゃない!さぁ、その子を自由にしてやってくれ!」



一部始終を見ていた金山が耐えきれず、とうとう人々の前に姿を現した。一瞬静まりかえりリョウを解放する人々。
しかし、宇宙人を放っておいたら何をしでかすか分からないと、金山へ向け刃を向け始める。

混乱の中、リョウはおじさんに酷い事すると大変な事が起きると叫ぶ…そして。


ドンッ


警官の放った銃弾が命中、更にもう一発発砲し、ついに息絶えた。
金山の遺体にすがりつき泣き続けるリョウ、最悪の事態を迎えた悔しさから跪き、地面に拳を叩きつける郷。

すると河原から白煙が噴き出し始めた。金山が死亡したため封じ込めていた怪獣・ムルチが復活したのだ。
驚き逃げまどい、MATに怪獣を退治しろと叫ぶ人々…しかし郷は動かなかった。


(勝手な事を言うな、怪獣を誘き出したのはあんたたちだ。まるで金山さんの怒りが乗り移ったようだ)


人々に絶望した郷は変身を拒否、ムルチは町へ移動していく。

誰もいなくなった河原に一人うなだれる郷、そこへ托鉢僧姿の伊吹隊長が現れ郷に話しかける。


「郷、町が大変な事になっているんだぞ」

顔を上げる郷、そして


「郷、分からんのか!」


この一言で郷は立ち上がり、町へ向かって駆けだしついに変身した。


涙雨のような豪雨の中での戦い、最後は悲鳴のような鳴き声を上げるムルチにスペシウム光線でとどめを刺す。

その後

リョウは再び穴を掘り始めた。

おじさんは死んだんじゃない、メイツ星へ帰ったんだ、だから自分も宇宙船でメイツ星へ行くから、その時は迎えてくれ…と。


「いったいいつまで掘り続けるつもりだろう?」

「宇宙船を見つけるまではやめないだろうな。彼は地球にさよならが言いたいんだ」

尚、話の方に目が行きがちだがウルトラマンとムルチの戦闘シーンもかなり力が入っており、

  • 豪雨の中での戦い
  • ワンダバがBGM(普段はMATの戦闘シーンでよく掛かるはず)
  • 戦闘開始からしばらくの間、画面が一切切り替わらず、両者の動きに合わせて右にスライドしていく撮影(つまりずっとノーカット)
  • 悲鳴のようにも聞こえるムルチの鳴き声
  • 戦闘後、しばし呆然と立ち尽くすウルトラマン

等、非常にやりきれない気持ちを感じさせる。
しかも戦闘中、ムルチは戦いより町の破壊の方に意識が向いているように思える描写もある。メイツ星人の身体を汚染した原因である工業地帯を…

また佐久間の顔がつりあがった一重の目は、メイツ星人の偽名「金山」とあわせて、彼らが在日朝鮮人の象徴であることを暗示し、出身地、北海道・江差は少数民族「アイヌ」を表しているという説もある。更には河川敷に住むということから、いわゆる「被差別部落」を読み取ることもでき、当時アメリカ占領下だった沖縄も暗示させるなど当時タブーの話題だった差別話題を扱ったとして様々の億刷、考察を生み出した。

上のように非常に重い話ではあるがメイツ星人自身、理由はどうあれ、地球に不法侵入しており、(後のメビウスでも、ビオはその点は落ち度であることを認めている)戦時とも言える状況で宇宙からの外敵に常に晒されている地球の状況を考えれば市民が恐怖を感じることは当然と言えなくも無い。(これと同じ視点を扱った作品として、ウルトラマンマックスの「遥かなる友人」がある。)
またメイツ星人の「地球の風土、気候を調べていた」理由も明かされておらず、悪意の無い来訪だったのか(仮に金山自身に悪意がなかったとしても、母星の方がどうであったか)怪しい部分もある。

他方、不法侵入する一方で超能力を行使して怪獣を抑えるなどはまさにウルトラマンがこれまで取ってきた行動と同じであり、ウルトラマンがヒーローとされ、メイツ星人だけが認められないという矛盾もそこには存在しているがウルトラマンがヒーローと認められるだけの積み重ねがあったのに対して、メイツ星人にはそれが無かったから起きた悲劇でもあった。
さらに、宇宙人が恐怖の対象であるにもかかわらず、原始的な武器と数を頼りに取り囲むというある意味では滑稽な事態は群集心理の恐ろしさを示しているともいわれている。
また、作中の地球は毎週のように怪獣による災害や宇宙人の侵略に晒されている「事実上の有事体制下」であり、市民一人ひとりが「宇宙人及びその疑惑の立った人間をかばう」という選択を取りづらくなる同調圧力がかかっていたとも考えられる。
そのようなことをすれば、自分自身も売国奴ならぬ「売星奴」、または非国民ならぬ「非星人」の誹りを受け、迫害される立場になるという恐怖により、誰もが極端な行動をとらざるを得ない心理状態に置かれていた、
この心理状態をわかりやすく言うと、怪獣や宇宙人も恐ろしいが「 怪獣や宇宙人よりも隣人の目の方が恐ろしい 」ということである。

メイツ星人が差別されていた一人の少年に手を差し伸べたのは事実であり、また劇中でリョウが町に買い物に出かけた時に差別してパンを売らない訳でもなく、同情してパンをあげるでもなく、一人のお客さんとしてリョウに接しパンを売ってくれたお姉さんがいるなど悲しい物語の中にも光は存在していたのも事実である。

ウルトラマンシリーズ内でも屈指の重いエピソードであり、現在では放送も危うい作品。

過去の書籍ではムルチに「メイツ星人からの指令を受けるアンテナ」があるという解剖図が書かれており、出身地が「メイツ星」と書かれているものがあるがメイツ星人はムルチを封印しただけなのでこの説明は誤りである。

人は美しい花を作る手を持っているのに、何故、その手に刃を握って血と涙と憎しみを生み出すのだろう…

このようにシリーズ屈指の重いエピソードになっているが、実は制作当初(原題は「キミがめざす遠い星」)このように極端に重いストーリーではなく、

  • 坂田家の風景とMAT隊員がいつもどおり登場
  • アキは佐久間良少年に、にっこり笑って自分のパンを譲ってあげる
  • 伊吹隊長のやり取りは「人は美しい花を作る手を持っているのに」の台詞はなく、「花の松前、紅葉の江差、開く函館菊の紋・・・」などいつものMAT基地の会話
  • 市民に襲われたのは、佐久間良とメイツ星人だけではなく、それを制止しようとした郷秀樹も投石によって血を流し、さらには次郎くんまでもが木切れを投げつけられて倒れる

など、シリアスながらも救いようがない話ではなく 坂田家の人々の優しさや、MATの人々の人間理解 なども含まれていた。
これは脚本の担当した上原正三氏が(自身の経験により)「差別はどこにでもあり、立場により変わる」「本土に来ることじたい、ここで沖縄人として生きてみよう、自分の肌で感じる差別、それが何なのか突きとめてみよう」など、単に差別だけを上げただけでは意味がなく一歩を踏み出さなければ意味がないという考えがあった故のことであったのだが、監督が映像では上記の場面を全てカットしてしまい救いようのない物語として生まれたのがこの怪獣使いと少年であった。
(それ故に上記のMAT隊員が登場しない不自然な点や、人々が疑心暗鬼に苛まれる面の仕方なさやメイツ星人側の問題点などそのまま残されている。)

このような脚本からかなり逸脱した背景とファンがこの作品ばかり気にするため、上原氏は「あの作品は僕のなかの差別に対する反発がちょっと出すぎている」「自分の本音は殺して書くんですけれども、あのときはナマ過ぎたというか」など複雑な心境で語っており、「24年目の復讐」で脚本解説の會川昇が「脚本と映像は必ずしも同一でなくてもよいのだ」とも語っている。
ちなみに怪獣使いと少年はTBS内での受けは非常に悪く、一度納品拒否を食らい再編集を強いられたうえ、上原氏は第38話を最後に干されてしまい、復帰は最終回を待たなければならなかった模様。


昭和ウルトラシリーズの世界観を引き継いだ平成ウルトラシリーズ『ウルトラマンメビウス』にて、後日談と言えるエピソード『怪獣使いの遺産』も制作された。

地球との友好関係を結ぶために地球を訪問しに来たメイツ星人ビオが現れ、地球人との対話を要求。怪獣ゾアムルチを連れてきてはいるが、護衛用だという。
同時にビオはミライ(=ウルトラマンメビウス)に接触し、過去に地球に来たメイツ星人の味わった陰惨な過去を語る。
しかし、まず話し合うつもりで来ていることを改めて示し、
『これはメイツ星人と地球人の問題。本来無関係な貴方には関わらないでほしい』と不干渉を要求する。

しかし、その現場を見たリュウがミライが襲われていると誤解して発砲、ビオを傷付けてしまう。

その行為に激怒し、やはり地球人は信じられないと憤るビオ。
そう、彼はかつて地球人に殺されたメイツ星人、金山の息子だったのだ。

怒りで我を忘れたビオは、怪獣ゾアムルチを召喚。
地球の領土を割譲しないとゾアムルチで町を破壊すると脅迫する。

やむなくミライはメビウスに変身し、ゾアムルチを止めに向かう。

破壊をやめろと詰め寄るリュウを意に介さないビオの前に、幼稚園の保育士の女性が子供達と現れる。
彼女はかつて円盤を掘り起こそうとしていた少年と会ったことがあるという。

語られた少年と父と思しきメイツ星人の話を聞き、
また、宇宙人だと知りながらも自分の傷を心配してくれる子供達と触れたことで決して地球人全てが悪いわけではないと実感しながらも、
父を殺された憎しみを消し切れないと絶叫するビオ。
彼の涙と共に、その心境を表すかのように激しさを増す雨。

涙と雨に濡れながら、ビオは叫ぶ。


「お願いだ!私の憎しみを消し去ってくれ!!」
「ウルトラマンメビウス!!」


その絶叫を聞いたメビウスは、ビオの憎しみの象徴たるゾアムルチを撃破するのだった。

その後、ビオは地球人に謝罪。
メイツ星と地球との間に、友好関係が結ばれたところで話は終わる。
ただし、ビオはリュウからの握手の希望に対しては「握手は父の遺産の咲かせた花を認めてからにしよう」と言い残すだけに留めた。


シリーズ屈指の重い物語の後日談として注目されていた。
和平を結びに来るという動機、なおも消せない憎しみ、今なお残る差別に、安易なハッピーエンドで終わらせていない点はまずまず評価されていると思われる。
他方、謝罪や賠償を求めるを飛び越していきなり領土の割譲を要求しつつ攻撃というビオの行動が唐突すぎるとか、メイツ星も本来ならビオではなく別の人を派遣すべきだったのではという批判もある。
尺の都合だった可能性は否定できないが、物語的には賛否両論といったところである。



  • 小説版 第4話『怪獣使いの遺産』

地球側に無断で気候調査をしていたメイツ星人が殺された事件は、地球だけでなくメイツ星でも闇に葬られなかったことにされつつあった。
父の存在を忘れられることを許せないメイツ星人ビオは、両方の星の人間の心に刻み付けるために独断で地球に訪れる。

和平交渉を装い、死刑になることを匂わせながら同胞を殺した地球人を差し出すように要求し、
地球とメイツ星の問題とウルトラマンメビウスの介入を拒否した。

GUYSの前で子供たちに近付くなど怪しげな行動を見せ、地球側に先に攻撃させることで反撃の口実を作り、
攻撃を始めるが、街を破壊する様子を見ていられなくなりメビウスが現れたのを見て、怪獣ゾアムルチを呼び出す。

金山の同僚のメイツ星人が、連絡が取れなくなった金山を探しに地球に来訪した際に発見した金山の思念派が残るムルチの細胞片を、
形見として受け取ったビオが、憎悪(ゾア)の念を籠めて培養した擬似超獣。

ここで殺されたのが、ただの同胞ではなく実の父親であったことを明かす。
小説版の主人公ハルザキ・カナタは幼い頃、父親を宇宙人に殺された過去を持ち、ビオを自分自身と重ねて見てしまう。

メイツ星に戻れば死刑となる身だと、憎悪ムルチを止めたいのなら自分を殺せばいいと言うビオに、
カナタは地球人の子どものために命を落とした優しいメイツ星人の話を語り、
「真実は別の方法で明かして欲しい。自分一人の命で済ませて欲しい」と自分の心臓に向けてトライガーショットの引き金を引く、
それを見たビオは興醒めし、カナタが本気だったことはわかったと銃身を吹き飛ばし、カナタの名前を覚えて、
かつてムルチが現れた河川敷に憎悪ムルチを封印し去って行った。
「もともと、キミらのものだから」



なお、地球側で、メイツ星人についての記録は、
『ドキュメント・フォビドゥン(禁じられた知識)』として、ジャミラなどと共に封印されていた。



  • 小説版 最終話『幸福の王子』

宇宙人の襲撃で行方不明になったカナタの父親が乗っていた宇宙船『ガーベラ』の救難電波を繰り返す怪獣が地球に現れる。

ディレクションルームのスクリーンを乗っ取り映し出されたビオは、
カナタを気遣いレジストコード『ギガンティア』と名付けられた怪獣への対応を込まねくGUYSに語りかける。

「母星に戻れば死刑は確実だ。旧式の宇宙船だが自動操縦機能くらいはついている。 私の代わりに 母星に帰ってもらった」と、
地球への滞在許可を求める。

ユキ総監代理が滞在許可を出したのを受けて、
「父にもそう言って欲しかったものだ」と呟くと、
怪獣ギガンティア、正式名称ユーゼアルについて忠告を送り通信を打ち切った。

「ギガンティア? また、恐ろしげな名前を付けたものだな。見知らぬ存在を、とりあえず敵と考えるキミたちらしいよ」


  • 余談
『空想法律読本』においては、この物語を題材として、宇宙人の人権享有主体性を認めるべきであると主張されている。


追記・修正お願いします。

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