巴武蔵司令官

登録日:2011/03/04(金) 12:19:23
更新日:2024/04/11 Thu 20:51:15
所要時間:約 5 分で読めます



かつて少年は、侵略者から人々を守る巨大ロボットと出会った。
そのロボットに乗る事を切に願い、その願いが果たされ、彼は正義の味方として2人の戦友と共に戦火の中を駆け抜けた。
そして少年は、戦友を、愛する人々の未来と平和を守る為に独り敵陣へ赴き、偉大な遺産を遺してこの世を去る。

気の遠くなるような歳月が流れた遥か宇宙の果て、その辺境の星に成長した少年の姿があった。


彼の名は巴武蔵

大佐と呼ばれる彼は多くの人間の兵を引き連れて、かつての戦友の一人息子の危機に颯爽と駆けつけ、満面の笑みでこう言うのだった。


待ってたぜ ゲッターロボ!!



巴武蔵司令官は『ゲッターロボ・サーガ』最終章、『ゲッターロボアーク』に登場する主要人物の一人である。

死んだはずの人間が、未来の世界においてその姿を現し、主人公にして親友・流竜馬の息子でもある流拓馬のピンチを救う。
漫画の展開としてはかなり燃えるシチュエーションであると共に、往年のファンにとっても最高のファンサービスだったであろう。

しかし、そんな幻想はいとも簡単に崩れ去る。
彼が現地で行っていた事は……




大量虐殺侵略行為



……であったのだ。


無力化した敵をさも当然のように殺し、さらにその星に住む一億三千万もの命と共に都市を消滅させる。
そして、あまりに無慈悲なやり方に困惑する拓馬たちに、
「虫ケラを殲滅するのはこの方法が一番だ」
「これは聖戦なのだ 宇宙にははびこる悪を一掃する聖戦なのだ!!」
と、悪びれた様子など微塵もなく言い放つ、その姿は正にかつての宿敵・恐竜帝国と同じ悪の侵略者そのものであった。


ひとまず危機を脱した後、武蔵は事情を把握できないでいる拓馬たちに対し、これまで起きた出来事を映像を込みで説明しはじめる。

拓馬達の世代から何世代か後に、人類は外宇宙にとび出していった事。
外宇宙の星々を植民地化し、あらゆる宇宙に人類が広がっていった事。
それは人間にとって輝かしい未来、新しい進化と言ってもいい出来事であった事。
外宇宙へ進出した事で未知の文明と遭遇し、これまで経験した事の無い大戦争となった事。
宇宙での戦いの掟に、人類はまさに滅ぼされようとしていた事
そして……忘れ去られようとしていた太陽系より、巨大な宇宙戦艦「ゲッターエンペラー」が出撃していき、未知の敵を殲滅していった事。
人類はゲッターの庇護の下、またその勢力を宇宙に伸ばしていった事……。

ゲッター軍団として

「見てみようではないか」
「ゲッターの行き着く先を そこに結論が待っているやもしれぬ!」
「なぜ人類が存在するのか」
「宇宙はゲッターに何を求めているのか」
「かつて人類がそうであったように」

ゲッターの進化はとまらぬ!!

これ以上を知る必要はなく、知りすぎる危険もあるということで武蔵からの説明は終了となる。

そして現在、敵が時空を越えて過去の世界=拓馬たちの世界へ飛び、ゲッターの根源を絶とうとしているため、それを阻止するべくここにいる事。
過去の人間に未来の人間が手を出したら危険のため、同じ世代である拓馬たちに仕上げを任せるためにサポートする事を付け加えて説明した。


武蔵は敵をいぶりだす為に、星の全てを腐らせる兵器・ダークデス砲を使用する。
文明の欠片一つも残さず、数十年後にはこの惑星を人類の植民地に出来るというのだ。

敵もゲッターから逃れるべく必死に抵抗してくる。
敵から発射された光子弾に対し、自分達の力と敵の無力さを見せ付けるため、彼はあえてバリヤーを張って防御しようとはしなかった。

「奴らの攻撃などゲッター軍艦にはなんの効果もないことを思い知らせてやれ!!」

光子弾はメインデッキを直撃。無数の破片が彼の額に突き刺さり巴武蔵は死んでしまうまたかよ武蔵……。
しかし、周囲の部下達は上官の死になんら動揺も焦りも見せず、淡々とこう述べた。

「新しい武蔵指令官を起動させます」


直後、どこかの区画に安置された無数のカプセルのうちの一つが起動し、そこから先程死んだ武蔵とまったく同じ人間が現れた
その男は目覚めてすぐに拓馬たちのいるブリッジに送られると、死んだはずの人間とうり二つの男に困惑する拓馬たちにこう告げた。
「お待たせ!! 前任の俺の間違いは二度とせぬ!!」

そう。過去の世界で死んだはずなのに、遥か未来の世界で拓馬達の目の前に現れた巴武蔵の正体は、
ゲッターエンペラーの記憶に基いて造られた、純粋な人間遺伝子を受け継いだ人造人間だったのである。
先程の無数のカプセルには、起動した以外のものにも全て「巴武蔵」が入っており、「前任」の武蔵が死亡すると「後任」が起動する他、
死んだ「前任」の武蔵から新たに起動した「後任」の武蔵に、記憶も全て受け継がれるという。

クローン技術もびっくりのこのシステムには、子どもの時にゲッターロボを読んで武蔵の最期に涙した事のあるファンからすれば正にトラウマ物である。


その後、時期が来たと判断して拓馬たちに出撃を求める武蔵であったが、拓馬たちは未来のゲッター軍団に疑念を抱き暫く誰も動かなかった。

そんな彼らに対し武蔵は
「どうした!? 地球の生存は君達にかかっているんだぞ」
と、半ば強制するように出撃を促す。
疑念を抱きつつも出撃する拓馬たちであったが、彼らの世代のゲッターでは敵に叩きのめされると言う事で、
戦闘の全ては未来のゲッター軍団が請負い、自分たちは過去の人間を殺す為だけに誘導される。
敵を一方的に蹂躙していく未来のゲッター軍団に対し、自分で闘ってる気がしないと呟く拓馬であったが、ゲッター軍団の一人より恐ろしい言葉が返ってくる。

自分などという個はどうでもいい
ゲッターは大いなる意思の戦いなのだ!!
それでなくては宇宙に存在するゲッターの意味が無いのだ!!
本能に身をゆだねれば全てがわかってくる!!
生物が、人間が何故存在するのか、宇宙が……何故……存在するのか!!

そして お前たちがなぜ殺し合うのか!




これしか道は…… 無いことも……



やがて、拓馬はゲッターの意思と関係なく母の仇であるマクドナルを倒すためにアークに向かい出撃する。
それが後に共に戦ってきた仲間と袂を分かつことになるのを知らずに……。


最後に

作者の石川賢先生はこう述べている。

人類が「進化」して宇宙に飛びだしてった場合、それは「正義」なのか「悪」なのか
主人公=「善」では無い
ゲッター=「絶対悪」のイメージを持っていた

正義か悪かを問う作品は数多く存在する。結果、どちらともが「正義」で「悪」なのだと結論付けられる事が多い。

しかしこのゲッターロボ、経緯が少し異なる。
最初こそは、真に正義の味方として誕生した存在であるのだが、
時を経て時代と向き合った事で作者の明確な意思により「絶対悪」へと変貌しているのである。
当時の子ども達が憧れた正義の味方、ゲッターロボの姿はどこにも無かったのだ。

絶対悪を具現化したものがゲッターエンペラーであるのなら
「正義」から「悪」への変貌を具現化したものが巴武蔵司令官なのであろう。

ただし、かといってゲッター軍団に蹂躙されているアンドロメダ流国が正義であり、可哀そうな被害者かというとそれも違う。
彼らも人類に対しては徹底的に残虐で無慈悲であり、ゲッター軍団に勝てたら彼らにとってかわって宇宙支配に乗り出す気である。
つまり、ゲッター軍団を「絶対悪」足らしめている要素をアンドロメダ流国も持ち合わせており、
ゲッターエンペラーや巴武蔵司令官のやっていることは、蹂躙される側から見れば「悪」に他ならないが、
「宇宙全体で見れば未熟で、他星に滅ぼされかねない地球人類を保護する」という観点からすれば、「ほかに道はない」と言える手段である。
宇宙を「家」に例えるならば、家に入り込み繁殖している、猛毒を持つ凶暴な害虫が(地球人類からすれば)アンドロメダ流国であり、
駆除する手段があるのであれば徹底的に害虫を駆除するのが当然の帰結で、視点によって「住民」と「害虫」の立場が入れ替わっているだけと言える。

このため、仮に拓馬たちの行動によって、(彼らにとっての)未来でゲッター軍団を善意の集団に変えたとしても、
アンドロメダ流国のスタンスが変わらないのならば、絶滅戦争に発展するのは避けられないと思われる。


余談

小説『スーパーロボット大戦』では、武蔵のクローンによってゲッターロボや真ゲッターロボが操られ、ゲッターロボGの前に立ちふさがった。

擬人化企画『ロボットガールズZ』では武蔵が死んでいない*1ため、
遠い未来におけるゲッちゃんの子孫のゲッペラー様には、武蔵の子孫の六つ子のイサシ、ニサシ、ミサシ、シサシ、ゴサシ、ロサシが執事として仕えている。

2021年夏アニメ版「ゲッターロボ アーク」にも登場。
声を担当したのは、OVA『真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日』で武蔵を演じた辻親八氏。
真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ』で武蔵を演じた梁田清之氏は車弁慶を演じており(扱いとしては『新ゲッターロボ』の武蔵坊弁慶から続く弁慶役と言った形の様子)、
奇しくも新旧OVA版武蔵のキャストが出演することになった。
また、原作ではアーク初登場時にヒゲが生えていたが、アニメ版では整合性を取ってヒゲが無くなっている。

アニメ版アーク第10話「異星の聖戦」放送後、アンドロメダ流国の兵士となって無数の武蔵を撃退するブラウザゲームMUSASHI NEVER DIESが公開された。
詳細は個別項目にて。



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最終更新:2024年04月11日 20:51

*1 『グレートマジンガー対ゲッターロボG 空中大激突』の展開をなぞる形でグランゲンに衝突してしまったが重傷で済んだ。もっとも、即座に弁慶が補充されたのは武蔵司令官を彷彿とさせる。