山賊

登録日:2011/12/08(木) 21:28:06
更新日:2023/04/02 Sun 21:03:47
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山賊とは、山を拠点とした盗賊である。

現代人には想像出来ないが、古来、旅人の山越えは非常に過酷であった。
徒歩で、急勾配の荒道を大量の荷物と共に登らなければならないのだから。
そんな疲弊している旅人の更なる脅威は卑劣な山賊達だったのだ。

他にも、山間の村々も彼らの標的となった。僻地で救助が難しいそれらの村も格好の餌食だったのだ。

また、潜伏しやすく、多少サバイバル技術さえあれば食糧になる山の幸が豊富な事も山を拠点とする利点であった。

海賊現在でもいるように山賊に値するものもアフガンとか山が多く治安の悪い地方にはいそうだが、山賊と言うより武装ゲリラとか言われる方が多い気がする。




ただし一説によると、山賊とはその土地に住むという特性から、自警団のような側面もあったという。
特にその性質が強いのが中国の山賊。
流れの盗賊・流賊と違って、食料攻めにされればすぐに干上がってしまうので、なおのこと地元住民と「仲良くやる」必要性もあったようだ。
それどころか、税の取り立てが苦しくなった地元住民が山賊に変身する場合もあり、「身内」である地元住民は襲わなかった、ともいわれる。

この場合、彼らの狙う獲物は山の近くの街道を通る通行人。それも実質は『通行料』であって搾取というほどでもなく、場合によっては護衛に雇われることもあったという(山賊がいなくても熊や虎がいるから、道中はどのみち危険。山賊は地理をよく知っているので、味方につけると頼もしい)。
もちろん、外から入ってくる流れの盗賊団、すなわち流賊に対しては縄張りを守るためにも迎撃する。
特に官憲の害が盗賊よりもひどいといわれてきた中国では、その武力でもって横暴な官憲とにらみ合い、時には折衝をすることもあったようだ。

つまり彼らのような山賊は、民衆にとってはザックリ現代風に言ってしまえば「良いヤクザ」、もっと聞こえの良い言葉を使うなら「任侠」だったわけである。

こうした中国における「私設税関」「非合法の自警団」「流賊や官憲に対する守護者」という「中国流山賊観念」から生まれたのが、
水滸伝』の「梁山泊」である*1
西遊記』における花果山は水簾洞の孫悟空も、猿ではあるが実質は山賊のボスとしての性格が強い。
『封神演義』にも黄花山を拠点に、四人の義兄弟を中核とする山賊たちが登場し、太師・聞仲の義侠心に触れて協力するという一幕がある。

中国の山賊ついでの余談だが、現代中国においてコピー商品のことを「山賊の要塞」を意味する「山寨」と呼ぶ。


日本における伊賀や甲賀といった山地にて発展したいわゆる忍者も、ある意味では山賊の派生といえるだろう。
「本能寺の変」で孤立した徳川家康が、伊賀衆の案内を受けて伊賀の山中を通過したことはよく知られている。
この際、家康に降伏していた穴山信君(武田氏の残党)は家康の真意を疑い別行動をとっていたが、それゆえに落ち武者狩りにあい殺された。
(その後家康が信君の遺族を厚遇していることから影武者の役目を負っていた、という説もあるとか)

なお、2017年前後から、埼玉西武ライオンズの打線が山賊と呼ばれるようになったが、これは下のイメージにある「骨付き肉付けて踊ってる」みたいなシーンがネタ画像化したり、西武の本拠地が所沢の山中だったり、相手投手陣を蹂躙しやりたい放題するのが山賊のようだと揶揄されたことがきっかけ。


■創作物での山賊

物語においては大抵は粗暴な小悪党として描かれる。義賊的なヒーロー像はまず見かけない。泥臭いイメージが強いからだろうか。
海を拠点とした冒険者やトレジャーハンターがある種の敬意を込めて海賊と言われるのに対し、
山でそれらを行っても山賊とはまず呼ばれない、失礼だからだ…と言うより山を拠点にしている訳でもないので呼ぶという発想自体がないと思うが…
ただの盗賊扱いが関の山で義賊的な面があり好意的な場合でもせいぜい野伏やレンジャーである。

ヒーロー扱いも多い海賊や盗賊に対してこれほど小者、小悪党扱いされる悪党も珍しいかもしれない。
水滸伝の梁山泊という偉大すぎる作例があるにもかかわらず、である。
異様に美化される海賊とは、この意味でも対極の存在と言える。それを考えると美化されている山賊ロビン・フッドは貴重な存在とも言える。

…真面目に考察すると、海賊は専門知識の必要性と活動する場所の特性上「トレジャーハンター」「冒険者」といった闊達で活動的と、
ある種の英雄的な属性を付与されやすいのに対し、
山で定住生活を送りがちな山賊は主人公系キャラにありがちな「冒険」「旅」といった肯定的な属性を付与しにくく、
「邪魔者」「障害物」といった負の属性と関連付けやすい事と、
山に関する知識などが必要な場合でも山に定住している、あるいは狩場にしているキャラクター等で換えが効く事から、
主人公にやられるいわゆる「かませ犬」と扱われるのである。

実際、同じ山に住む者に協力を仰ぐなら、ムサイ山賊のおっさんよりも世捨て人の魔女とかの方が物語が盛り上がるので当然であるが…


いや、海賊だって悪辣な行為なんだからやはり不公平だ。

…いや、やっぱ海賊のがカッコイイ。


村人「海賊が来たぞー!!」

海賊「海賊だって!?上等じゃねえか!もっと呼んで!!」


村人「山賊が来たぞー!!」

山賊「山賊だって!?失礼な!!せめて盗賊と呼んで!!」



■武器・アイテム類

史実、創作問わず、ステレオタイプの山賊の持ち物を記す。偏見もあるが世間の人々の認識も多分大差無い筈。


凝った装飾などのない無骨な見た目が粗野なイメージを際立たせる。脳筋らしさを出すために大ぶりの大剣を持たされることもある。
スマートなイメージを出さないようにか、切れ味がいい描写をなされることは少ない。

◆銃
文明の利器を持たせると愚鈍なイメージからかけ離れてしまうせいか、あまり高度なものを持っていることは少ない。
近世以降が舞台ならばマスケット銃を持っている場合もあるが、その場合も大体拳銃かラッパ銃がメインウェポンとなる。


典型的なパワータイプの武器。こちらも脳筋らしさを出すためか、良く持っている。
持っている人間の腕力の強さ(と同時に噛ませ犬フラグ)を表現するための記号であるといえる。
薪割り(or伐採用)の片刃の斧だったり両刃のバトルアックスだったりとそこそこバリエーションには富んでいる。


その辺にある手入れしてない鉈。武術の心得なくても使えるし、か弱い人々には十分脅威だし。
ファンタジー系ではややマイナーか。

鎖鎌
テクニカルなイメージを持たせる。ゲリラ戦を得意とする山賊にはイメージが合致した攻撃的な武器だといえる。
特異な武器ゆえか噛ませが多い山賊キャラの中でも微妙に強い奴が持っていることが多い。

ナイフ
スマートな美形キャラが持つと映えるが、ムサいオッサンが持つとたちまち下品な小物キャラに早変わり。
これを使って人質を取ったりすると卑劣な属性も加わってまさにフルコンボ。

こんぼう
こんぼうというよりは、ただの太い木の枝というイメージがある。
強度はアレだが、山なら材料はいくらでもある為、貧乏山賊にはお似合いか。

弓矢
英雄的な山賊ロビン・フッド御用達の武器だが、スマートなイメージが出るため、他の山賊にはあまり持たせられない。
「集団で襲ってくる敵」の印として、モブの山賊が木や崖の上、仲間の後ろなどから矢を番えていることはある。

眼帯
争いで失った片目が、逆説的に本人の粗暴で好戦的な性格を表現する。山賊だといかにも噛ませっぽく見えるのは大海と山という地形のスケールの差故か。

◆酒
船乗りである海賊と違い、新鮮な水が手に入る山賊には、ただの嗜好品。下戸でも山賊にはなれる。
…下品に飲む姿しか想像出来ないのは分捕った略奪品というイメージがついて回るからか。

◆骨付き肉
海賊なら「豪快に食べる」なのに、山賊だと「(ケダモノのように)下品にかぶりつく」になるから不思議。山には獣が豊富なので、新鮮な肉がその場で手に入るため、よほどのことが無ければ人肉を食べる蛮行には出ない……はず。
また、火気厳禁な船の上で生活を送る海賊と違いも使えるので焼肉も食べれる。

◆魚
何故か海にいる海賊よりも食べてるイメージがある。
長期航海のため保存性を重視した海賊の食糧に比べ、新鮮な食材がその場で手に入るからかもしれない。

◆毛皮
文明の象徴である「服」から離れた野蛮なイメージを持たせるためか。臭そう。


陸ならではの移動手段。
これを乗りこなして優秀さを示せるのが海賊には無い利点だが、当の山賊が馬を颯爽と駆って人を魅了していることはほとんど無い。
それどころか蹄の音を響かせながら街道筋の旅人や村を襲撃・蹂躙していく山賊の姿は、弱い物いじめや災いの象徴として罪なき人々を恐れさせている。

◆手下
「部下」でも「配下」でも「腰巾着」でもない、まさに「手下」と表現するのがぴったりなお頭の取り巻き。
よく考えると大したことないような頭の悪い発想でも、「さすがお頭!俺たちのできないことを平然と(ry」とヨイショする。むろんその手下ももれなくバカである。
そして散々もてはやしたくせにリーダーが窮地に陥ると我先にと逃げ出す。←ここまでテンプレ。


■フィクションでの扱い

大体悪者
しかも序盤の経験値であることが殆ど。

基本的に物語に関わらない雑魚扱いである。
実は悪の組織の尖兵という展開もあるが、その場合も大抵ははした金で雇われている捨て駒扱いというレベルである。
山賊を名乗る悪の組織としては漫画コロッケ!に登場するBB7が該当する。


ドラクエ8のヤンガスは山賊キャラの中でも数少ない非悪役だが、
時系列的には最序盤に雑魚っぽく登場して仲間に加わっており、ありがちなイメージを上手く活用したキャラ付けがなされている。
また、かいけつゾロリのイシシとノシシは山賊キャラでも数少ない主人公の付き人である。


ファイアーエムブレムシリーズ
ぱっと思いつくだけでも、海賊は3人(ダロス、ギース、ダーツ)は仲間になるのに対し、山賊はゴンザレスという人物たった1人である。
しかもゴンザレスはクラスこそ山賊ではあるが、設定的には山賊に利用されている存在である。
なお、山賊稼業から足を洗ったという意味では『トラキア』のダグダ一味やゴンザレスと同じ『封印』のキャラであるガレットも該当する。

そして山賊は本作においてソルジャーに次ぐ雑魚敵として登場する事が多い。
序盤は敵軍の正規兵との戦闘は少なく、近隣の村を救う展開や武器の相性的に考えて山賊が出る事が多い。
中でも印象に残りやすいのは、『烈火』でリンの故郷を滅ぼしたタラビル山賊団や『蒼炎』2章のミストらを人質に取った山賊あたりだろう。
直接戦闘よりもむしろ村や家を破壊する性質の方が厄介であり、中盤以降は山賊の存在に四苦八苦する事になる。

初期の作品では山賊の方が強く、海賊は海を渡れる代わりに気持ち弱めに調整されている。
戦う順番もガルダの海賊→サムシアン(デビルマウンテンを根城にする山賊)。

ロードス島戦記(水野良、角川書店)
第五巻のカノン編にて当時のファンタジー系作品としては珍しい善玉の山賊が登場する。
彼等は山道を利用する旅行者を野生動物や怪物から護衛するという方法で収入を得ていたが、英雄戦争でカノン王国が崩壊して以降はマーモ帝国に抵抗し圧政から逃れる難民を支援する活動も行っていた。
其処に王家の三男で卓越した剣技を持つザックことレオナ―王子が食客として逗留。更にカノン王国の現状を偵察に訪れたパーン一行が彼らに加わりカノン義勇軍として本格的に旗揚げ。
カノン方面司令官のアシュラムの手腕で一時期は追い詰められるも、ベルド亡き後の帝国の足並みの乱れのおかげで何とか持ちこたえ、最終的にアシュラムのマーモ本島への撤退に乗じて王都ルードの奪還に成功し一応諸王国の手を借りずに王国を再建した形となった。

デルフィニア戦記
タウと呼ばれる山岳地帯を拠点としており、周囲の国々からは山賊と呼ばれているが、本人たちは自由民と称している。
元々は犯罪者や流れ者が居ついた土地で、封建制の国が主流の中で共和制に近い統治形態をとっている。
厳しく統制されており、山を通過する商人などから積み荷を少しばかり頂戴はするが堅気の人間を襲うことはない。
戦闘力も高く、主人公勢の味方をするなどただの雑魚や小悪党などでは決してない。


エロい作品
ヒロインを輪姦したりする役で出る事が多い。
海か港町にしかいないために出しにくい海賊に比べると、山のどこにでも住んでそうなイメージがあるために山賊はホイホイ出て来る。


とまあ色々言ってきたが、山賊にもカッコいい連中がいないわけではない。

例えばV&Bのゴーレム山賊団
首領のブラッドは作品の主人公であり、イケメンである。
世界を救ったりもするんだぜ!!
…まあ、序盤の方で山賊団改め騎士団になりますが。


他に挙げるとすればソウルクレイドルテイルズ オブ レジェンディア
古典からは百八星(水滸伝)、ロビンフッドと仲間たち。



追記・修正は「山賊王に俺はなる!!」と叫んでからお願いします。

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最終更新:2023年04月02日 21:03

*1 正確には、梁山泊は沼地なので「山」の賊ではないが。