虐殺器官

登録日:2011/01/25(火) 02:46:29
更新日:2024/02/09 Fri 23:34:47
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ヴェーダ語の文献に見られる奇妙な計算によれば、
神々の言葉に付加された人間が表現しているのは言葉全体の四分の一でしかないと見積られている。

――パスカル・キャニール「音楽への憎しみ」



地獄は、この頭の中にある。



虐殺器官(Genocidal Organ)とは伊藤計劃氏のデビュー作品となった長編SF小説である。

第七回小松左京賞最終候補
ベストSF2007国内第1位
ゼロ年代ベストSF国内第1位
PLAYBOYミステリー大賞第一回受賞作

ノイタミナ製作の、伊藤計劃作品のアニメ映画化企画であるProject-Itohのメイン作品として大々的に宣伝されていたが、
制作スタジオのマングローブが制作中に経営破綻し、制作が一時中断。
その後、プロデューサーの山本幸治が本作用に設立したジェノスタジオで制作が再開され、2017年2月3日にようやく公開された。
監督は村瀬修功。主題歌はEGOISTの『リローデッド』。




【あらすじ】

サラエボで核爆弾が炸裂した日、世界は変わった。
ヒロシマの神話は崩れ去り、核兵器は「世界を終わらせる制御不能の怪物」から「使える兵器」へと在り方を変えた。

その結果、世界では核戦争やテロが頻発。
先進諸国はこの危機に対処するため、IDと監視システムによる「追跡可能性」の徹底的な確保によりテロを予防することを目指した。

それから十数年後の現在、先進諸国ではテロの発生件数はゼロとなり、まるでその埋め合わせのように後進諸国で内戦や大規模虐殺が急激に増加していった。

アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は急増した虐殺の陰に常に存在が囁かれている謎の男、ジョンポールを追って世界を巡ることとなる。

なぜジョン・ポールの行く先々で虐殺が起こるのか? そして彼の目的、正体とは?



【主な登場人物】


〇アメリカ情報軍・特殊検索i分遣隊隊員

  • クラヴィス・シェパード
CV:中村悠一
本作の主人公でアメリカ情報軍・特殊検索i分遣隊大尉。一人称は「ぼく」。
虐殺の王、ジョン・ポールを追っている。
父を拳銃自殺で失い、交通事故で脳死状態となった母の生命維持装置を自らの決断で止めた過去を持つ。
そのためか死の観念について深く考える癖があり、夢で死者の国を見るようになる。文学と映画に明るい。

いわゆるハリウッド的なタフでマッチョな軍人ではなく、むしろ内省的で繊細な人物。
比較的理性的に見えるが…。


ぼくは、それをできるだけ音楽に似せようと努めた。


  • ウィリアムズ
CV:三上哲
特殊検索i分遣隊所属。クラヴィスの相棒にして友人。
よくクラヴィスの家に来てはドミノピザで頼んだピザをプライベートライアンの冒頭を見たりしながら二人で食べている。
ゴシップ話とモンティ・パイソンのコントが好きで、常に軽口を絶やさない。妻子持ち。

いわゆるハリウッド的なタフでマッチョな軍人であり、非常に仲間思いかつ家族思いな人物。


「俺は俺の世界を守る。そうとも、ハラペーニョ・ピザを注文して認証で受け取る世界を守るとも。油っぽいビッグマックを食いきれなくて、ゴミ箱に捨てる世界を守るとも」


  • アレックス
CV:梶裕貴
特殊検索i分遣隊所属。カトリックの修士号を持つ信仰深い青年だが、ウィリアムズ曰くセックスドラッグ
バイオレンスな内容の面白いエンターテインメント小説が読みたいと言われて笑って聖書を差し出したり、
カトリックの習慣や教皇、旧約聖書の神々をネタにした冒涜的なジョークをかましたりするらしい。
東欧でのミッションの最中クラヴィスに地獄は頭の中にあると言い、その二年後にガス自殺をした。


「地獄はここにあります」


  • リーランド
CV:石川界人
特殊検索i分遣隊所属。クラヴィスの部下。優秀な軍人であるが、軍人であることにプライドを持っており、PMCと一緒にされると不機嫌になる。


<ええ、痛いですよ。痛いとは感じられないが、痛いのは認識できてます>




〇その他

  • ジョン・ポール
CV:櫻井孝宏
アメリカ人男性。表面はPR会社の社員(後に辞職)であるが、彼がプロデュースした国は混乱に陥り、虐殺が起こるようになる。
クラヴィス曰く虐殺の王(ロード・オブ・ジェノサイド) 。
幾度となく暗殺対象となるもすんでの所で逃げられる。以前はMITで言語学者として言語の研究をしていた。
国防高等研究計画局(DARPA)から金が出ていたらしいが……。
サラエボで妻子を亡くしている

好きだの嫌いだの最初にそう言い出したのは誰なんだろうね?


  • ルツィア・シュクロウプ
CV:小林沙苗
プラハでチェコ語の教師をしている女性。
ジョン・ポールの愛人とされており、ジョン・ポールの追跡任務に就いていたクラヴィスの接近を受けた。
「言語とは器官である」とクラヴィスに説く。
劇場アニメ版ではルツィア・シュクロウポヴァとされている。



【用語】


  • アメリカ情報軍・特殊検索軍i分遣隊
アメリカ全軍の特殊部隊の中で唯一要人暗殺を実行する部隊。
特殊作戦任務のみならず諜報活動などにも投入される「スパイと特殊部隊のハイブリッド」

  • オルタナ
Alternative Realityの略。副現実、代替現実とも。
コンタクトレンズのように網膜に貼り付けるウェアラブルコンピュータで視覚上に様々な情報を映し出すことが出来る。
i分遣隊のオルタナはナノマシン技術を用いた点滴タイプのものを用いている。
要は電脳コイルの電脳メガネ、もしくは現実世界のオーグメンテッド・リアリティの発展型みたいなやつ

  • 痛覚マスキング
劇中でDARPAが開発した軍事用の麻酔技術の一種で、
用いると「痛覚を認識しながらも痛いと感じない」状態となる。
故に腕や下半身が吹き飛んでも冷静な行動が出来る。

  • 環境追従迷彩
ナノコーティングが周囲の色相をスキャンして、リアルタイムで変化するパターンを生成する。i分遣隊が装備。
オクトカムに似ているが、こちらは赤外線の吸収が出来ない模様。

  • 環境適応迷彩
周りの風景に合わせて兵士の体を見えづらくする光学迷彩装備。

  • フライングシーウィード
i分遣隊が所有する侵入航空機。
ステルス性を意識した独特な形状から「空飛ぶ海苔」と言われている。地上から見るとモノリスに見えるらしい。

【真実】








【小ネタ】


作者が「小島原理主義者」や「MGSフリークス」を自称する程小島監督作品を愛して止まなかったという話から、
作中に散りばめられたMGSに出て来たような技術等に目がいきがちであるが、伊藤氏はそれ以外に小説、映画、
ゲームなどの様々な作品からサンプリングをしているので、よく見てみると知っている人はついニヤリとするワードがあるかもしれない。
今作は元々スナッチャーの同人として温めていたものを膨らませて独立させた作品でもある。

また、伊藤と小島秀夫はかなり古い付き合いであり、病床の伊藤にまだ誰にも見せていないMGSの脚本を見せ、勇気付けようとする等の話がある。

小島秀夫がこの虐殺器官を読んだのが伊藤にMGS4のノベライズを依頼するきっかけになったという。











感謝を捧げます――私の困難な時にあって支えてくれた両親、叔父母に。







「貴様を殺して、その死体と追記、修正するさ!」

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最終更新:2024年02月09日 23:34