バルカン人

登録日:2012/03/05 Mon 01:17:03
更新日:2023/10/01 Sun 12:07:45
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論理は我々を、混乱から文明へと導いたガイドである。

バルカン人とは、ドラマシリーズ、スタートレックに度々登場する異星人種族。
なお、現実の地球における「バルカン半島の人々」という意味ではないし、ましてやバルタン星人でもない。

概要


惑星連邦創設から加盟している、アルファ宇宙域でも屈指の科学技術と文明を誇る知的種族である。
論理による理性を重んじ、感情を制御することが社会的な通念になっている。

生態


Dr.マッコイ曰く、「論理的な耳」、「緑の血のクソったれ」。無論、悪意のない(?)冗談である。
痩身で背が高く、尖った耳をもつ。眉毛はややつり上がっており、真っ直ぐに切り揃えた前髪が特徴的。
血液の主成分は銅であり、色は緑色。
母星のバルカンは、強い重力に高い気温と地球人にとっては過酷で、そのような環境で育つせいかバルカン人の筋力は、地球人の約3倍。
他にも骨格の強度が高かったり内まぶたがあって日差しに強かったりと強靭な肉体を持つが、惑星全体が温暖なためか寒さに若干弱い。
他にも嗅覚にも優れるらしく、バルカン人にとって地球人の体臭はやや強く感じる。
不必要に他者と接触することを好まず、握手やハグなどは基本的に行わない。食事中の談笑も好まず、地球人(というかアメリカ人)的なコミュニケーションが馴染まないバルカン人も多い。

種族特有の能力として、強力なテレパスを有している。相手の頭部に触れ記憶を読む、記憶に自分を投影する、または自らの記憶を見せる等が可能。
普段は抑え込んでいる感情を相手に流し込むことも可能で、これは地球人が相手になると、その者の精神はかなりの危険に曝される。地球人の精神構造では、バルカン人がその内奥に抱える激しい感情の渦を受け止めることが難しく、最悪の場合は精神を破綻させることにもなりかねない。
精神融合の際には大抵の場合、「我の心を、汝の心に」「我の思考を、汝の思考に」といった祝詞を唱える。多少の訓練は必要らしいが、バルカンの血を引いていれば習得が可能。
さらには魂(カトラ)と肉体を分離し、再統合もしくは保存することすら可能。

また他の種族に出来ないものとして、相手の首筋の神経を圧迫し、ものの数瞬で気絶させる、「バルカン・タッチ(バルカン・ピンチとも)」がある。
ヒューマノイドであれば大抵の種族に有効で、しかも後遺症を残さずに意識を奪える、という非常にスマートな技である。*1
ヒューマノイド種でこれを受けて耐え抜いたのは、『イントゥ・ダークネス』における優生人類のカーンくらいである。
なお地球人では筋力と動作の精密性がバルカン人に劣るために習得出来ない、とされていたが。
『新スタートレック』にて、アンドロイドで他種族人類より能力の優れるデータ少佐は一回見ただけでマスターし、スポックから称賛されている。
『ヴォイジャー』では元ボーグ集合体のドローンであったセブン・オブ・ナインが成功させている。
特にフォーカスもされなかったが、『ディープ・スペース・ナイン』においては流動体生物のオドーが艦隊士官にやむなく使用し、成功させている。
また『ディスカバリー』の主人公バーナムは地球人であるが、バルカンで育ったためか習得しており、ジャージョウ船長に対して使用している。とはいえ、バルカン人のそれより効果が弱かったのか、バーナムの予想よりも早くジャージョウの覚醒を許してしまっている。
地球人にバルカン人のカトラが入っている場合は人によるのか、スポックのカトラが入ったマッコイは失敗したのに対し、スラクのカトラが入ったアーチャーは成功している。 

常に論理的に【IDIC】


バルカン人の大きな特徴は、その頑ななまでの論理への執着である。
本来は地球人以上に感情発露の強い種族であり、地球暦4世紀頃には核戦争によって滅亡寸前にまで至ったことすらある。
後に「目覚めの時代」と呼ばれることになるこの時期に哲学者スラクが提唱した、「IDIC(イディック)=無限の組み合わせでの無限の多様性」*2という思想によりバルカン人は感情を抑制し、論理による平静と秩序を重んじる種族となったのである。
ちなみにそれに反対した者も多く、その一部はバルカンを離れた後にロミュラン帝国を建国するが、それはまた別の話。
そのせいか23世紀以降のバルカン人も保守的な者が多く、感情的な種族を未熟と捉える向きもある。ただし情熱的な種族と見る節もあるため、特別他の種族を蔑視するわけではない*3

論理的でないことには否定的で、争いも嫌うため、前述の力を行使するのはあくまで自衛手段のみ。映画11作目ではスポックがカークをボコボコにしていたが気にしてはいけない*4
……というか、後述のポンファーなど何らかのきっかけで自制を外されるとものすごく強烈に感情を発露することがままある
尤もこの論理偏重な面は地球人を含めた他種族人類からは揶揄されるケースが多く、特に名誉を重んじるがかなり感情的なクリンゴンなどからは非難されやすい。
母星の温暖さから、地球人向けの環境では肌寒いと感じ、また嗅覚の鋭敏さから他種族の体臭もきつく感じ強いストレスを覚えているが、これらも彼らは精神を鍛える修行の一環と捉えている。
このような環境の差による不快感は、カーデシア人にも共通する感覚である。

地球人にも年中発情している者はいるが、バルカン人には7年に一度の発情期があり、このため彼らは7歳(バルカン暦)の時にパートナーの異性が決定される。
これはポンファーと呼ばれる習性で、この時期のバルカン人は普段論理的行動で抑えている分の感情的衝動なども解放される為、少々危険。
身体機能のバランスも崩れるため、感情の発散を行わない場合は最悪死亡することもあるので、必ず発散させる儀式を行う。
主な手段は子作り、ホロデッキでのVR体験*5、もしくは婚姻に異議のある者との決闘。
無論だが彼らは大真面目である。ポンファーが過ぎれば元のバルカン人に戻る。スポックはこれを鮭の産卵期の遡上に例えている。

なお、多くのバルカン人はこの性質を恥としているらしく、詳しいことは他の種族にはほとんど明かされていない(実際エンタープライズ船内の誰も知らなかった様子)*6し、バルカン人同士の間でもほとんど口にすることはない。
バルカン人のトゥボックと長い付き合いであるキャスリン・ジェインウェイ(USSヴォイジャー艦長)ですら、ポンファーを迎えたトゥボックのそれが、「7年前にもあったアレ」であると合点がいくまでには、それなりの時間を要した*7
島流し同然のヴォイジャーでは当然妻と会うことも不可能であり、しかも当初ホロデッキが不調であった為、トゥボックも瞑想によって乗り越えようと努力したが、結局は操舵手トム・パリス謹製のホロデッキプログラムで発散するに至っている。

長じるとこれらの論理的思考や感情の抑制に支障が出るらしく、特に「ベンダイ症候群」に罹患した者はバルカン人にそぐわず感情的になってしまう。さながら地球人の更年期障害を過激にしたようなものである。
そのためか、ある程度の年齢に達したバルカン人は「コリナー」と呼ばれる修行に臨み、一切の非論理的な感情を廃することを望まれる。

文化


バルカンの科学力は相当なもので、早い段階でワープ航法を開発している。
バルカン人の教育は典型的な詰め込み教育で、休みなく問われる問題に答えていく形式。バルカン人が総じて理知的で、どこか天才臭がするのも頷ける。
前述の通り保守的なところがあり、地球人の宇宙探査にも「未熟だ」として一世紀近くも強く反対していた。

論理的に妥当であると考えられる自死については、推奨とまではいかずとも容認する文化があり、自ら論理的に判断した場合であれば死を選ぶ権利を認めている。その為の儀式すら存在している。

バルカンの挨拶、バルカン・サリュートはトレッキーならば誰もがやるもので、手のひらを相手にむけ、親指と人差し指、中指と薬指の間を開けて、
「Live Long And Prosper(長寿と繁栄を)」ヽV
というハンドサインである。TwitterなどではLLAPと略されることも多い。
これはしっかりUnicode等で絵文字として登録されており、「ばるかん」「すぽっく」から変換して入力が可能。さっそく試してみよう。
トレッキーやスタートレックシリーズ出演者には定番のハンドサインだが、指が攣ってできない人も多いらしく、カーク役のウィリアム・シャトナー氏は苦手としていたらしい。
対になる「平和ととこしえの命を」という挨拶もあるのだが、作品外ではあまり使われない。 


主なバルカン人


ちなみに、以下の名前は通称である。正式なバルカン名は発音できないためにつけられた、仮の名前である
……という設定もあったのだが、破棄されたのかバルカン語のセリフでも明らかにそのまま発音している

トゥポル
22世紀に地球初の深宇宙探査に飛び立ったNX-01 エンタープライズのオブザーバー兼副長。
この時期のバルカン人は後の世以上に保守的かつ独善的な面が目立ち、彼女も例にもれず度々アーチャー船長らクルーに苦言を呈することも多かったが、旅の中で段々と折り合いを付けていった。

トゥパウ
22世紀に「シラナイト」と呼ばれるスラク原理主義の一派に属していた人物。
当時のバルカンが後年に比べて独善的だったのは当時の指導者ヴラスが実はロミュランのスパイであり、彼によってスラクの教えを含むバルカン社会そのものが歪められていたからだったのだが、アーチャーやトゥポルの協力を得てスラクの教えの原典が収められた装置「キルシャラ」の再発見に成功し、バルカン社会を立て直した。
23世紀には長老の一人としてポンファーを迎えたスポックの婚儀に出席した*8

スポック
ご存知、我らがエンタープライズ副長。
地球人とのハーフであり、しかも地球人の義姉*9も居た為バルカンの理性と地球人の感情に悩むことも。Dr.マッコイとは度々口論するが、仲が悪いわけではない。
色々あって父親や義姉とは折り合いが悪く、長く顔さえ合わせなかった。
一度死んだり過去に飛ばされたり悪夢を見て自分から精神病棟に入ったと思ったら脱走したりと忙しい。
口癖は「おもしろい*10」、「それは非論理的です」。
父親はバルカン人のサレク、母親は地球人のアマンダ・グレイスン。義姉と継母も地球人。あと異母兄サイボック(こちらはサレクの前妻との子)が居る。
宇宙艦隊を退役後は駐ロミュラン大使に就任。裏で民族再統一運動に関わっていたのだが、2387年の恒星ホバスの爆発からロミュラス星系を守れずに恨みを買い、その挙句並行世界の過去に飛ばされ帰れなくなってそのまま生涯を終えた。
皮肉なことに、彼の悲願であった再統一はこの後ロミュラス崩壊をきっかけとして成就することとなる。彼がそれを知ることは叶わなかったが、32世紀の時代で生きることとなった義妹がその結果である「ニヴァー*11」こと新生バルカンを目撃することとなった*12

トゥボック
悪魔艦長の艦、ヴォイジャーに乗船する黒人バルカン(バルカン星の赤道近くの日射量が高く特に暑い地域の出身という設定がある)。
タラクシア人のニーリックスとは奇妙な友情を築いており、あるときは転送事故で二人が融合するに至ってしまった。
実は23世紀にエクセルシオールにも乗船していた*13が、地球人の感情的で非論理的な側面を多く見たせいか、惑星連邦と宇宙艦隊そのものに愛想を尽かし、一度除隊しバルカンに帰郷していたらしい。その頃に妻子をもうけたようだ。
その後復隊し、艦隊アカデミーの教官など経たのち、キャスリン・ジェインウェイと出会いヴォイジャー含めて3隻の宇宙艦で任務を共にした。
ジェインウェイの時折見せる無謀さには呆れながらも、そのバランスの取れた判断力と決断力は高く評価しており、ある種カークとスポック以来の地球人-バルカン人コンビとして互いに深い信頼と尊敬を抱いている。

オウ
24世紀末における宇宙艦隊保安部長。階級は准将。
人工生命を巡る陰謀に関与しているらしく、ロミュラン人諜報員なども用いて策謀を巡らせているが……
その正体はロミュラン人とのハーフであり、かつロミュラン秘密組織のジャット・ヴァッシュの指導者である。人工生命を危険視しその殲滅と、連邦・ロミュラン間の関係を悪化させる工作を実施した。

なお、余談ではあるが野球において「バルカン・チェンジ」と呼ばれる変化球がある。
これはボールをバルカンサリュートの形で挟み、指の間から抜きながら投げることで比較的速いスピードで落ちるボールである。日本ではグライシンガーが持ち球にしている。









追記・修正は論理的にお願いします。


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最終更新:2023年10月01日 12:07

*1 非暴力主義のバルカン人に相応しい防衛術として、スポック役のレナード・ニモイ氏が自ら提案した

*2 地球言語翻訳。バルカン語ではKol-Ut-Shan

*3 ただし個人レベルでは他種族を強く見下している者もいる。

*4 もっとも、これに関してはカークがわざと地球人的な感情を引き出したせいもある。未来のスポックの入れ知恵だったりするが……

*5 ただしパートナーへの執着が強くて効果がない者もいる様子。

*6 艦隊など他種族の間で働いている者はスポックもそうであったように、夫婦ともに同じか近い職場にいるのでない限り基本的に離れていることになるのだが、他の種族に開示されていないとなると、この時期を迎えたとき通常どのような対応がなされるのか疑問ではある。スポックは無断で針路を設定するという強硬手段を取った。

*7 本人がインフルエンザと詐病していたことも一因だが

*8 実は、ENTの企画段階では彼女がトゥポルのポジションになる予定だったのだが、そうすると全エピソードで初出となるTOS『バルカン星人の秘密』のライター(の子孫)に対して権利料が発生するため新キャラになったという経緯がある。

*9 連れ子とかではなく養女であり両親とも血縁はない。

*10 「Fascinating」。小説などでは「魅惑的だ」とされることが多い他、度々他のキャラクターがオマージュ的に発するセリフでもある。

*11 バルカン語で「二面性」の意。ちなみにこの名前は元々ファンジン(つまり同人誌)が初出でTOS放送後に出版された公式アンソロジーに取り入れられていたものであり、TVではENTに出てきた宇宙船に使われた程度のものだったため当該エピソード『真の統一』配信時にはファンから驚きの声が上がった。

*12 さらに余談だが、『真の統一』の原題は『Unification Ⅲ』で、TNGのスポック客演回『Unification Ⅰ/Ⅱ(潜入!ロミュラン帝国・前編~ミスター・スポックの失踪~/後編~ミスター・スポックとの再会~)』の続きであることを示している。もし邦題をこれに合わせるなら『潜入!ロミュラン帝国・続編~ミスター・スポックが遺したもの~』といったところだろう。潜入はしてないしロミュラン帝国もなくなっているが。

*13 ジェネレーションズにおけるエンタープライズB(これもエクセルシオール級)のよく似た黒人士官は別人である。俳優が同じティム・ラス氏なので非常にややこしい