立山砂防工事専用軌道

登録日:2012/11/14(水) 06:05:01
更新日:2022/03/12 Sat 19:21:00
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立山砂防工事専用軌道とは、富山県に存在する鉄道路線。610mmという非常に狭い線路幅を有する軽便鉄道である。
工事用の路線であり、時刻表にも当然掲載されていないので名前を知らない人は多いだろう。
だが、実はこの鉄道は富山県にとって文字通りの「生命線」となっている。


◎誕生まで
富山県の観光地であり、美しい山が連なる「立山連峰(連邦ではない)」。
そこから富山市に流れる常願寺川は、かつてから途轍もない暴れ川として恐れられてきた。
川の長さに対してその高低差は非常に高く、世界的に見てもかなりの急流となっており、昔から水害が相次いでいた。
しかも江戸時代末期以降、さらにその脅威は増した。
上流域に和田川という名前の支流が流れているのだが、その周辺にある立山カルデラが牙を向いたのだ。

1858年に起きた大地震で、立山連邦の大鳶山(おおとんびやま)と小鳶山(ことんびやま)が崩壊。
凄まじい土砂による土石流や、それに伴ってせき止められた常願寺川の決壊で大量の人々が被害を受けた。
しかも、元々カルデラ自体も火山灰が大量に降り積もって出来た不安定な土地。
それ故、この地震以降何度も土砂の流出被害が起きている。
もしカルデラの土砂が全て流出したら、富山市を始めとする富山平野は完全に土の中に埋もれてしまうのだ。

それを防ぐべく、富山県も砂防ダムを作り、土砂の流出を阻止しようとした。
だが、何度作っても続けざまに自然の力によって破壊されてしまう。
もはや県レベルでの話では無くなり、1926年以降、国が管轄する大規模な公共事業となった。
そして、それと同時に輸送用の鉄道が計画される事となる。


◎概要
最初の路線が開通したのは1929年。建設が続く砂防ダムへの機材や人員を輸送するべく列車が走り始めた。
その後も路線の延長は続き、一時は一部区間を貨物用のロープウェー(インクライン)として開通した後に鉄道に置き換える形で建設が行われている。
標高も高く厳しい山岳地帯の気候に対応するために、ここでしか見る事が出来ない様々な特徴がある。
前述の狭い線路幅や小さな車両たちもその一つだが、路線もトンネルやスイッチバックが多く、途中路線にはなんと連続18段もの連続スイッチバックが存在する。
また、技術の進歩や危険な場所の回避などから路線の改良も進んでおり、全盛期よりもスイッチバックの数が減少していたり、
岩をくりぬいて作った「オーバーハング」路線が使われなくなるなどの変化も起きている。
ただ、それでも自然環境は厳しく、豪雨や落石、倒木などの被害も多い。

そして、この鉄道は今も砂防ダムの工事用として運行を続けており、その工期は無期限である。
そもそも砂防ダム自体が不安定な土砂だらけの土地の上に作られており、かなり脆弱なもの。
そのためにダムで土砂の流出を完全に防止するのは不可能であり、延々と新しいものを作り続けるしかないのである。
現にカルデラの様子は一年中警戒態勢が取られており、不測の事態の際にはいつでも避難できる準備も整えられている。
ただ、日本中のこういったナローゲージ路線が自動車などに置き換わって軒並み消滅していく中で、
皮肉にもずっと活躍を続ける事が約束されるという結果にもなっているのだ。

車両の色は緑色。ディーゼル機関車や客車や貨車を牽引し、時々モーターカーと呼ばれる車両も現場の人々を乗せて走る。


◎一般客の利用について
最初でも述べた通り、この立山連峰は日本有数の観光地であり、さらにこの鉄道は大量のスイッチバックや小型の車両から人気が高い。
そのため、昔から鉄道ファンのみならず観光客からも乗りたいという要望は多い。
だが、原則としてそのような事は認められていない。
そもそもこの鉄道自体が富山平野を守るための工事に活躍する路線であり、沿線では落石や倒木など危険も大きいためである。

ただ、決してこの鉄道の活躍を見る事が出来ないという訳ではない。
事務所の近くに「立山カルデラ砂防博物館」という博物館があり、そこが毎年夏に体験乗車を企画しているのである。
博物館を見学した後、この小さな車両たちに乗る事が出来る。ただし事前申し込みの抽選式なので狭い門となっており、さらに悪天候の場合は中止の場合もある。
繰り返すが、あくまでもこの鉄道は工事のための路線なのだ。
ちなみに、新車の試験や訓練用に用いる「訓練軌道」というのもあり、こちらも体験乗車が行われる事がある。
訓練用と言う事もあり、スイッチバックや急勾配も存在するとか。


◎余談
  • 登場してから現在まで蒸気機関車が運行した事は無いが、全国から小型鉄道が集まる「トロッコサミット」が開催された際、
    千葉県で動態保存されている蒸気機関車がやってきた事もある。
    ちなみにこの時は最新型のバッテリー機関車から人車までゲストで登場し、大いに盛り上がったらしい。

  • 豪雪地帯という事もあり冬は一旦工事を中止し、橋も一旦撤去している。



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最終更新:2022年03月12日 19:21