センモウヒラムシ

登録日:2012/11/13 (火) 01:20:40
更新日:2024/04/12 Fri 18:08:02
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地球に生きる動物は、様々な「門」と呼ばれる大きなグループに属している。
人間は脊索動物門、昆虫は節足動物門、ミミズは環形動物門と言ったように、それぞれの門の中には多種多様な生き物がおり、グループに賑わいを見せている。
ところが、その「門」の中に、たった一種類の動物しか含まれないものがある。
それが、平板動物門(Placozoa)という種類のグループである。
そして、そこに唯一所属しているぼっちな動物の名前は「センモウヒラムシ(Trichoplax adhaerens)」と言う。


この動物が最初に発見されたのは1883年と非常に古い。ドイツの研究者が、海の水を溜めていた水槽の中に変わった生き物がいる事を確認したのである。
そのアメーバに似た動物の正体はその後様々な説が出されたが、やがて同じ水槽にクラゲがいたことからその子供である、という判断が下された。
それからずっと長い間、この生物の記録は途切れ、次第に忘れ去られていった。
だが、事態が急変したのは1960年代。改めてこの生物の発見がなされ、培養が成功した事に伴い詳細な研究が行えるようになったのである。
その結果は、クラゲも含めて今まで見つかったどの動物とも全く違う動物であるというものだったのである。
そして、このセンモウヒラムシのために新たに「平板動物門」が設立されたのは1971年のことである。

生息地は世界各地の海の中で、日本でも関東以南や沖縄で見る事が出来る。
大きさは0.5mmと顕微鏡が必要なサイズで、その姿は前述の通りただのでかいアメーバである。
しかし、単細胞生物であるアメーバと違い、このセンモウヒラムシは数千個の細胞で構成されている多細胞生物。
背中とお腹の区別もあり、どちらにも名前の通り繊毛が並んでいる。お腹側からは食べ物を消化する細胞があり、単細胞生物や藻を見つけて食べる。
アメーバらしく分裂増殖で仲間を増やすが、体内に卵細胞を宿す有性生殖も行っているようだ。
ただし人間のように精子と卵子を作りだすような仕組みは持ち合わせていない様子。

体内には胃や肺のような器官も神経も無いが、最近の遺伝子研究でクラゲに近い仲間である事が示唆されている。
あながち発見時の誤認は的を射たものだったのかもしれない。
また、その研究の中で意外にも私たち人間の持つ遺伝子の多くを彼らも有する事が分かった。
まだ研究途上のためにはっきりとした系統上の位置は分かっていないが、もしかしたら進化の謎にも関わる重要な動物なのかもしれない。


☆余談
  • センモウヒラムシと名前が似ている「ヒラムシ」という動物が同じく海の中にいるが、
    こちらはプラナリアの仲間で大きさもでかく、ついでに凶暴な肉食性である。


  • 同じように一種類の動物のみが含まれるとされる門に「一胚葉動物門」がある。
    ただ、サリネラ(Salinella)と名付けられた肝心の動物が最初の発見以降一世紀以上も見つかっておらず、今や未確認動物一歩手前の状態である。
    一方、最近に入って新しく設立された動物門もあり、エビの口あたりにひっついて生活するパンドラムシこと「有輪動物門」、
    僅か0.1mmと動物の中で最も小さいと言われるリムノグナシアという種が含まれる「微顎動物門」が含まれる。
    後者はまだ一種類しか見つかっていないが、前者のパンドラムシはいくつかのエビから見つかっており、脱ぼっちに成功している模様。



追記・修正はセンモウヒラムシやリムノグナシアをぼっちから脱出させた人がお願いします。

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最終更新:2024年04月12日 18:08