マスケット銃

登録日:2011/06/28 Tue 16:06:12
更新日:2024/03/26 Tue 00:40:16
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「古い物には古い物なりの
使い勝手の良さや用途がありますので
重宝しています」


よろしければ、私が解説しましょう。
マスケット銃とは先込め式の歩兵銃の事です。銃口から弾を込めるので「先込め式」。
映画などで古式の銃が登場した時に「銃口から火薬を入れ、弾を入れて突き固め…」といった場面をご覧になった事はありませんか?

正確には「マスケット」でありこの語だけで銃を意味しますが、この語が一般的ではない日本では「マスケット銃」と呼ばれています。

銃が開発された頃の初期の銃であり、15世紀初めのフス戦争(1419~1436)において初めて使われたとされています。
フス戦争は「九十五か条の論題」(1517)より約100年前のことです。


○構造-1 

「どのように火皿の火薬に点火するか」で種類分けされています。

  • マッチロック式
所謂種子島銃、火縄銃。引き金を引くと火縄が火皿の火薬を着火させ、銃身内の発射薬に引火し発射する方式です。
生火を使うので悪天候に弱く、燃え続ける火縄の補充と管理が面倒ですね。

  • 火打ち式
a.ホイールロック式
引き金を引くと黄鉄鉱片に押し付けた歯車状のやすりがゼンマイの力で擦れ合い火花を発生させ、火皿の火薬に着火する方式。
構造が複雑で確実性に乏しく、なおかつ高価なため、普及しませんでした。
貴族の決闘用拳銃としてはメジャーだったとか。
1510年頃には開発されていたものと言われています。

b.フリントロック(flint=火打ち石)
1620年頃の発明でしょう。
引き金を引くと、火打石がバネの反発力で火蓋に取り付けられた鋼鉄製の火打ち金に倒れ込み、火花を発生させると同時に火蓋が開いて火皿の火薬に着火する方式。
私の銃もこれです


○ここで一休み 

マッチロックは火縄の生火、ホイールロック式は黄鉄鉱とやすりの火花、フリントロック式は火打石と火打ち金の火花を使って火皿に点火しています。

アメリカ独立戦争時(1775~83)の銃はフリントロック式で、ライフル(施条式銃)の普及もこの頃です。
この頃の銃をライフルド・マスケットと呼びます。勿論先込め式ですよ。
ライフリングが見えますので彼女の愛銃はライフルド・マスケットではないかと。

ライフリングの有無がマスケット銃か否かの判断材料ではありません。

あくまでも「マスケット銃=先込め式の銃」ですので。
ライフリングのないマスケットの事を「滑腔式マスケット銃」と呼ぶ事もあります。
因みに日本の幕末史などで「ゲベール銃」などと珍妙な名前で呼ばれているものは、他国から買い集めた滑腔式マスケットの総称です。

19世紀なかばにはライフルド・マスケットの中でも従来の球状の銃弾でなくドングリ形の「椎の実弾」を使用するミニエー・ライフルが登場します。
火薬の発射ガスを漏らすことなく使用し、ライフリングを有効に活かせる「椎の実弾」は従来の弾丸の数倍の威力を発揮しました。
その威力と言ったら、従来のマスケットと同じ感覚で使用でもすれば、一度の着弾で殿方の腕すら粉砕するほどです。
ミニエー・ライフルはアメリカ南北戦争やクリミア戦争などで使用され、これらの戦争はミニエー・ライフルの威力もあって、今までと比べ物にならないほどの死者と傷病兵が増えたとも言われています。
日本においても幕末期に大量輸入され、戊辰戦争に陣営を問わずに投入されました。

ですが、根本的構造に由来する装填時間のデメリットが存在するマスケットは、徐々に銃身の後部から弾を込められる元込め式の銃に取って代わられていきます。
移行期にはスナイドル銃などのマスケットを改造した単発元込め式の銃なども現れましたが、より簡単な操作で給弾可能なボルト・アクションに取って代わられてゆくのです。


○構造-2 

雷汞(らいこう)*1が発明されこれを火薬の着火に応用する試みがなされました。

  • パーカッションロック
1822年にアメリカ人のジョシュア・ショウが発明したと言われています。
銃身の後端から伸びた細いパイプの先端にパーカッションキャップと呼ばれる雷汞を詰めた金属管をはめ込み、
引き金を引くとハンマーが落ちてキャップを叩き、雷汞が発火して発射薬に着火する方式となっています。
銃口以外の開口部がなくなり水の入り込む余地が少なり、発射が天候の状態に左右されなくなりました。
ちなみにハンマー周り等の機関部の構造はフリントロックとの共通点も多く、フリントロックからの改造も楽だったそうです。

日本語ではパーカッションは音楽用語ですが、英語だと「percussion」と綴り、「衝突、衝撃」を意味します。名前に偽りなしですね。


○パーカッションロックの発明以降 

先込め式から元込め式に変わり、発射ガスの漏れを防ぐために金属薬莢が考案され*2、次第に連発銃へと進化していきます。
ここから弾薬(カートリッジ)の時代に入ります。
そして連発銃の完成版がブラウニングのボルトアクションライフルでしょう。

これが38式歩兵銃M1ガーランドになり、StG44AK-47の開発を促し、現代の突撃銃、M16やM4、89式へと進化を遂げるのです。


○長所と短所 

さて、ここで先込め式全般での長所と短所をば。

●長所
  • 比較的構造が簡易で扱いやすい
  • 不発でも再びコックすればやり直せる
  • 寝起きの悪いお嬢様を起こして差し上げる道具としては、優秀

●欠点
  • 装填に時間がかかる(一発あたり、撃つだけでも数秒、通常は十数秒かかる。) 「慣れてしまえば、どうということはございません」
  • 単発式で連射出来ない
    • 複数の銃身を束ねて連射もしくは一斉発射可能にした銃も存在しますが、一斉装填が出来ない以上、結局は銃身1本1本に装填していく必要がありまして…
  • 滑腔式だと命中精度が悪い
    • 先述の通り18世紀頃まではライフリングも一般的では無かったですので。
  • 引き金を引いてから発射までの時間差

彼女のように

数を揃えれば(所謂戦列歩兵)欠点もある程度解消されますし、銃剣を付けることにより防御力も高まります。マスケットは徐々に軍隊の主戦力となっていくのです。
「標準装備です」


○余談 
  • パーカッションロックまでは弾と発射薬は別々でそれぞれ銃口から詰めておりました。創作物で「弾丸を込める」と表現できるのはここまでです。
    これ以降の銃に対してこの表現は不適切で、「弾薬を込める」が適切な表現です。

  • 日本の場合、江戸時代末期までマッチロック式。良質の火打ち石が産出できず、バネの力を強くすると引き金が重くなる・衝撃でブレるなどの問題点のためです。
    高温多湿で雨が多い日本では生火を使った方が効率良いことから火打ち式が普及しなかったとも言えます。皮肉ですね。

  • もののけ姫に出てくる石火矢もマスケット銃でしょう。マッチロック式と火打ち式があったと思われます。




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最終更新:2024年03月26日 00:40

*1 白色の針状結晶で、加熱・衝撃・摩擦などで爆発しやすく、現在でも雷管に使われています。

*2 金属薬莢以前にも装填を楽に行うために発射薬と弾薬を紙で包んだ紙薬莢がありました。エンフィールド銃はこれを使います。牛と豚の脂が塗られているという噂がイギリス占領下のインドで広まり、インド大反乱(1857~59)へと繋がります。