フェイスレス司令

登録日:2011/06/01(水) 02:51:22
更新日:2024/04/14 Sun 15:11:37
所要時間:約 10 分で読めます





運命とは、地獄の機械である


からくりサーカスの登場人物。


【概要】

身体を機械化し、操り人形を使わずとも肉体で自動人形(オートマータ)を破壊できるようになった新世代のしろがね「しろがね-O」のリーダー。
初老の男性で、常にサングラスをしている。


【人物】

一人称は(ぼく)
厳格そうに見えて、よく伸びる顔を引っ張って「うちゅーぢんだよ~~ぴきゃぺきょり~ん」等しょうもないギャグをかます変なところもあり、
そのお調子者な性格は、緊迫した場面でも仲間が殺されようが変わらない為、しろがね達からもしろがね-O含めて、「気味の悪い奴」と忌み嫌われている。
しかし、自動人形に敗北したジョージ・ラローシュを前線から外し、使いっぱしりをさせる等シビアな一面も持てば、鳴海の前ではシリアスな顔を見せる等、一言で言えば掴みどころのない性格。

しろがね-Oのリーダーではあるが、自身はしろがね-Oにはなっていないらしく、サングラスの下もしろがね-O特有の瞳のない銀色の目ではなく、普通の目である。


【戦闘能力】

操り人形や武器らしい武器を持たないが、
  • 機械や人体を問わずありとあらゆるモノを手にした工具で細かくバラバラに『分解』する早技
  • 掌に内蔵した装置から強酸を噴射して全てを『溶解』する機能
を持ち、「三解のフェイスレス」の二つ名を持つ。
あと一つの技については「自動人形を完全に沈黙させる秘密の技」と濁している。
因みに作者はガイドブックでそれについて「この本を隅から隅まで読めば、きっと理解できると思うんです」と答えている。


【作中での活躍】

サハラの戦いにおいて、しろがね-Oの部隊を引き連れて登場。
登場すぐに顔を伸ばしてふざけたり、副官のナイアがいきなり殺されても楽観的な態度を崩さない等、全開で空気を読まない。
しかし小型の手術室とも言える医療用カプセル「エッグ」を届ける等、ふざけた態度でも役には立つ。

そしてフランシーヌ人形へと続く4つの扉の一つに、部下のコーフとしろがね化した犬を連れて入る。
4つの部屋は自動人形の仕掛けた罠であり、3人が戦って勝った者だけフランシーヌ人形に進めると言うものだった。
構造をいち早く見抜いた鳴海は、馬麗娜と壁を破壊して隣の部屋に移る。

そこではフェイスレスと犬だけが生き残っていた。
部下を殺したのではないかと疑う鳴海の疑念を晴らすべく、フェイスレスはリィナだけを逃がし、他のメンバーを救うことを宣言する。

次の部屋ではダールとティンババティが戦わされていたが、彼らを逃がした後、3体の自動人形と巨大な回転粉砕機に苦しめられる鳴海のもとに戻り、「5分だけ生きのび給え」と告げて立ち去る。
奮戦を続ける鳴海が、最後の1体に回転粉砕機に投げ込まれようとした瞬間、回転粉砕機が止まった為鳴海は反撃のチャンスを得て勝利する。
回転粉砕機が止まった理由を知ろうとする鳴海が見たのは、回転粉砕機を動かす歯車に自分の身体を巻き込ませたフェイスレスの姿だった。
瀕死の彼は、鳴海に自分がしろがねになった理由を語る。


孤児だったフェイスレスは、親戚をたらい回しにされるうちに、ふざけ屋の顔を持つようになった。
しかし、愛する幼なじみの前でだけは本当の顔ができ、彼女をかけがえのない存在と思うようになる。

ところがそのふざけ屋の態度が彼女の母親に嫌われ、仲を引き裂かれる。
そしてようやく再会した時に彼女は、人間の真似をする自動人形と結婚させられていた。

彼女を連れて逃げようとするが、"夫"の自動人形に見つかり争いの中で、彼女は井戸に落ちて死んでしまうのだった。

そんな自分の境遇を彼はこう語る。



ナルミ君…僕の好きな言葉にこういうのがある…ジャン・コクトーだったかな…


『運命とは、地獄の機械である』

…面白いよ…本当に僕の運命は―地獄の誰かが設計した巨大な機械のようだよ…
ある日それに何かがはさまって…止まってしまったんだ。あのトゲトゲのようにね…


そして昔話を語り終えたフェイスレスは事切れた。



…なーんてね………
どうも…これをかけてないと…僕は…おしゃべりになって…いかん…な。




























うっそぴょ〜ん!!





黒賀村で白金、そして才賀貞義の記憶をたどったの前に、ピンピンした姿で現れる。






白金、ディーン・メーストル、才賀貞義、フェイスレス司令。

全員同じ人間。



君らにゾナハ病と災厄をばらまいた男だよーん!



その正体は今作の黒幕『白金(バイジン)』。

厳密に言えば白金本人ではなく、白金の記憶を溶かした「生命の水」を、攫った白家の子供に飲ませることで自身の自我と記憶をその子供にダウンロードした存在が現在のフェイスレス。
フェイスレスとしての本名は「ディーン・メーストル」

彼の目的は彼の正体とここまでの話を見れば理解できるだろうが、フランシーヌの面影を持つ女性と結ばれること。
そのために付きまとわれた女性三人の親しい人のほぼすべてを不幸な目に遭わせており、あまつさえその巻き添えとして全世界にゾナハ病と自動人形の脅威をもたらしたという、何処に出しても恥ずかしい外道である。

才賀貞義の姿で暗躍していた際、正二との戦いに敗れ濃硫酸入りのタンクローリーの中に落ちたのだが、
なんと濃硫酸のプールの中で、タンクローリーを分解して脱出していた。
とはいえさすがに無傷ではすまなかったため、身体の殆どを機械化していたが。
(上記回転粉砕機に巻き込まれたのに蘇ったのもその為)
機械化したおかげか戦闘能力も上がっており、ギイを一方的にボコってみせた。

そしてしろがね-Oを完全にサイボーグ化した半機械人間O、自動人形の生き残りを掌握し、勝に今度こそ転送する為に宣戦布告する。
そこまで勝に転送しようとする理由は、200年間ふられ通しだった自分の境遇を「自分が唯一分解できない地獄の機械に操られた運命」に例え、そこから脱するには勝に転送して、エレオノールに愛されるしかないと思い込んでいる為。

そんなことがうまくいくかと言われても、



だって僕は『自分を信じている』もん。

自分を信じて『夢』を追い続けていれば、

夢はいつか必ず叶う!


と超絶ポジティブ。台詞だけならすごくいい人です。
つまり自分の為になることは全て正しいと思い込んでおり、自分がした所業(史上最悪の病気を作り上げてばらまく、最悪な人類の天敵を作り上げる、三代に渡って一方通行な愛により女性の周りの人々を不幸にする、etc.)についても、罪悪感どころか悪いことをしているという自覚が更々なくこの人が定義する自分が悪だと気づいていない最もどす黒い悪である。
勝はそんな彼を「全てを燃やし尽くして平然とゆらぎもしないどす黒く燃える太陽」に例えた。

そして2年間、「自分が差し向ける刺客から、勝がエレオノールを守り続けるゲーム」を宣告して立ち去る。


その間に勝は修行して強くなり、エレオノールとの絆も深まりつつあった、が……

遂にフェイスレスは行動に出る。
全世界にゾナハ病をばらまき、最後の4人を含む選り抜きの精鋭を連れて、エレオノールを連れ去る。
そして捕らえたエレオノールが自分を憎悪するように仕向け、追跡してきた勝を捕らえて転送を完了させ、勝をフェイスレスの人格に変えてしまう。
エレオノールの前で勝だった自分がフェイスレスの自分を倒すことで、遂にエレオノールが勝だった自分を愛するように仕向ける。
愛し合う2人はロケットで滅び行く地球を離れ、宇宙ステーションで永遠に仲睦まじく過ごすのだった。


……妄想乙。

転送は一時的に成功したものの、勝は柔らかい石により万能の霊薬同然となっていたエレオノールの血を飲んでいた為、転送してきたフェイスレスの人格は病原菌扱いされて排除されてしまったので、戦闘中に勝に戻ってしまい失敗。
勝はエレオノールを連れて脱出し、彼はロケットに一人取り残され宇宙へと飛ばされた。

宇宙ステーションにたどり着いた彼は老人の肉体を捨て、クローン技術で造り上げた本来の姿である若い肉体に替える*1
そして3度目の失恋を経験した彼は、もはや全てがどうでも良くなり、エレオノールもろとも地球全人類を滅ぼすことを宣告する。

なお、サハラで鳴海に親しくしたのは、兄の銀の記憶を持ち、兄と似た雰囲気を持つ彼にエレオノールとの結婚の見届け人になってほしかった為。
無論鳴海に語った過去は嘘八百......なのだが、どうもフランシーヌと銀の最期に類似点が見られる*2


そして奮戦の末、宇宙ステーションにたどり着いた勝を出迎える。
ゾナハ病の治し方を教えるよう迫る勝に対しこの男が素直に答えるはずもなく、自身がカスタマイズしたあるるかんを繰り出し勝と最後の決闘を始める。
激闘の最中、勝がエレオノールに恋していたはずなのに何故鳴海に譲ったのか問いただす。

そして--


「だって、しろがねを最初に好きになったのは、ナルミ兄ちゃんだもん!!」

この言葉にフランシーヌを奪えども決して幸せではなかった過去を思い出して、動揺し敗北する。

それでもゾナハ病の治し方は言わず、勝をナイフで刺そうとするが、自分の分身と言える名もなき犬が勝を庇ったことでさらに動揺を重ねる。

そこに彼を追って現れたディアマンティーナ。彼女は宇宙ステーションのあちこちに爆弾クマちゃんを仕掛け、それを盾にしてフェイスレスに自分を愛するよう強要。

「フェイスレス様ァ」

「ねぇ、ワタクシ一人をずぅーっと、愛してくれるって言ってェ~~」

熱っぽく、かつ醜い笑みを浮かべて嘯くディアマンティーナ。
その身勝手で厚かましい姿は、フランシーヌに暴力を振るってまで自分を愛するよう迫ったかつての自分自身そのものだった。

自分と同じ運命に対して真逆の答えを出した勝と、醜い愛を自分がやったように押し付けるディアマンティーナ。
合わせ鏡のような二人を見て200年の時を経て遂にフェイスレス、白金は遂に真理を悟る。


己こそ、己を含めた関わった人物全てに対して理不尽を強要した『地獄の機械』そのものなのだと


「…さすがは僕の作った自動人形だな、ディアマンティーナ。おまえは僕にそっくりだよ…」

「愛されるほうにも都合ってもんがあってさ、愛されたからって、そのヒトを一番に愛するとは限らないんだよ」

「僕が別のヒトを愛する自由だってあるんだよーん」

「ククッ、勝。お前が言いたかったのはこういうことなんだろう?」

自身の余りの業の深さを自嘲しながら幽鬼のような雰囲気でディアマンティーナを拒絶し分解するも、逆上した彼女に刺され、さらに爆弾クマちゃんの爆発によって、宇宙ステーションが黒賀村へ向けて墜落し始める。

なんとか方向を変えようと奮闘する勝を見ているうちに、叱咤するように勝を指導して、2人で協力してブースターを噴射させる作業に取りかかる。
その中、いつも駄目な自分を教え導いてきた兄の気持ち、そして自分が我慢して大切な人を含めた人の笑顔が守られるなら、それで十分という自己犠牲の心を理解する。

作業を終えた後、自分に唯一残された観客である勝の為に、彼の望みであるゾナハ病をまきちらす虫型の自動人形を止めるカギが、エレオノールの歌う子守歌であることを教える。
そして一緒に脱出しようという誘いを断り、勝を一人で脱出させた。

崩壊する宇宙ステーションに残った彼は、懐かしい子守歌を聞きながら、孤独な自分に付き合って残った自動人形のグリュポンを抱きしめ、恐らく200年もの間、口にしてこなかったであろう反省の言葉を涙を流しながら述べ、人生の幕を閉じた。



本当にバカだよなァ…あのガキ。

僕の大きな計画の、ほんの小さな歯車にすぎなかったヤツが…結局全部ぶち壊してしまった…
…バカのくせにさ

でもな…弟を助けるのが、兄だもんなァ。

銀…兄さん…



僕が、まちがっていたよ。


最終巻末のカーテンコールの最後には、勝や鳴海やエレオノールと共に、満面の笑顔で手を振る彼の姿がある。


全くの余談であるが、ディーン・貞義・フェイスレスと、名を変え顔を変え暗躍した彼だが、勝に宣戦布告してからはずっと「フェイスレス」の顔をしている。

実は思い入れがある顔なのだろうか?


なお、「三解」の最後の一つの技は『理解』

自分が造物主であることを自動人形に『理解』させ、自分に従わせること。


実はガイドブックの時点で、作者自らによって思いっきりネタバレしていた。このさり気ないやり方は見事としか言わざるを得ないだろう。


兄と恋した人との絆を『分解』し、己の体と魂を『融解』させ、多くの顔と名を作り上げて愛を求めた男は、
最後の最期で、己の人生の中で最高の輝きを持つ『黄金』を錬成し、己の過ちを『理解』したのだった…。






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最終更新:2024年04月14日 15:11

*1 この時のコマの隅で、古い肉体は用済みのように放り捨てられているのが見える

*2 正確には自動人形=銀、幼馴染の恋人=フランシーヌを置き換え、「自動人形(銀)が恋人(フランシーヌ)を横から奪い連れ去った」という自分に都合のいいように解釈したような話になっている