BAE ハリアー/AV-8B ハリアーⅡ

登録日:2011/06/04(土) 11:03:43
更新日:2022/07/11 Mon 23:08:22
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イギリスで開発されたV/STOL(垂直・短距離離着陸機)。
実際は搭載兵器、燃料の関係から、STOVL(短距離離陸垂直着陸機)として運用されることが多い。

当時、各国で様々なVTOL機の研究が行われていたが、軍用機として実用化されたのは西側では本機かV-22くらいである。
近年ではF-35Bも仲間入りしている。


本機の成功要素である推力偏向型ジェットエンジン「ペガサス」は、ノズルを前後各2つずつ備えており、前の2つからはファンで圧縮された低温排気が、後ろの2つからは燃焼後の高温ガスが噴出する。
ノズルの向きを真後ろ~下方98.5度に変えることによって垂直・短距離離陸/着陸を行う。


BAE ハリアー

原型機のP.1127は1960年に完成しホバリングに成功。その後実験機のケストレルが造られテストが行われた結果、1966年にハリアーGR.1が誕生した。
本機が実用化されたことによりイギリス海軍向けのシーハリアーも作られることになる。


1982年に発生したフォークランド紛争において、イギリスはシーハリアー、ハリアーをかき集め、フォークランド諸島奪還のためアルゼンチン軍と戦う。
送り込んだシーハリアー20機では足りず、コンテナ船で残りの機体を送り込むなどして戦線に投入。空戦では被撃墜0に対して撃墜24機とかなりの好成績を残した。

反面、ハリアーは様々な欠点も露呈した。


1.ノズルからは高温高圧のガスが噴出しているため、未舗装の地面の上でホバリングでもしようものなら一瞬にして乾燥・破壊された地面が吸気口より吸入されてしまう。
ハリアーたん「ウッゲホッ…ちょ、ゲホゲホッ、ブハッ!!
こう書くとなんとも愛らしく見えるが、爆発・墜落してしまうため実際は大問題である。

舗装マットの上であっても、隙間があるとガスが入り込みマットを持ち上げたりしてしまうので、穴や隙間をしっかりと埋めておかなければならない。
「どんな場所でも離着陸できる」というわけにはいかないのだ。
またその排気のせいで赤外線誘導ミサイルに探知されやすい欠点もあり、これにより損耗率が上がってしまっている。


2.航続距離と巡航速度の遅さ。
ペガサスエンジンは機体の中央を占めるほどの大きさで、燃料タンクのサイズは小さく推力も少なく、構造上アフターバーナーなど推力増加装置も付けられない。
ハリアーたん「ちょwwwみんな足速いwww待ってwww」ノロノロ

3.中距離以上の空対空ミサイルの搭載能力が無い。
というか、垂直離着陸を行うには機体積載量を激減させなければならないなどの問題もある。
ハリアーたん「うー、うー、お、重いよう…おっとっと」
コケッ
ボカーン

イギリス海軍は空母にスキージャンプを設置して、短距離離陸・垂直着陸という運用を行うことでハリアーの積載量をカバーする方法などを編み出すことになった。


このような欠点を抱えたうえでもフォークランド紛争にてハリアー部隊が活躍できた理由に、
  • 当時最新鋭であったAIM-9サイドワインダーミサイルのL型を装備していた事*1
  • アルゼンチン軍側の戦闘機部隊もフォークランド諸島は行動限界ギリギリだったことでまともに空戦を挑めず、むしろ空戦を挑むよりも攻撃機のみで艦船に攻撃を集中してさっさと引き上げるほうが効率的と、紛争中盤から護衛の戦闘機部隊を使用しなくなった*2
等が挙げられる。

結果的にハリアーに対する評価は微妙になった点があるものの、垂直離着陸、あるいは短距離離着陸能力をもつ航空機の必要性は確実なものであるため、イギリス空軍/海軍、海兵隊ともこの思想を受け継ぐF-35のB型として開発を求めている。
なおハリアーは後述のハリアーⅡ配備が始まると同時に順次退役していった。



AV-8B ハリアーⅡ

一方滑走路を必要としない、あるいは短距離でよいという利点に目をつけたアメリカ海兵隊も「AV-8A」として本機を採用する。
上記のような問題点もあったことか当初はコンセプトを引き継いだ『AV-16』という別機種を作ることを計画していたが計画は頓挫。
しかしこの時に得られたデータを基に機体の大型化・電子機器の更新・搭載量の増加・空中給油能力などを備えた改修型であるAV-8BハリアーⅡを開発した。
夜間戦闘能力を備えたナイトアタック型も開発されており海兵隊のみならず原型機を開発したイギリスでも空軍が1987年からAV-8BハリアーⅡを
ハリアーGR.5として導入といささか複雑な経緯を辿ることになったが2010年に退役している。
また一部のハリアーⅡは中距離ミサイルAIM-120も搭載可能になったハリアーⅡプラスへと改造されている。
此れは海兵隊所有のF/A-18の強化改造時に余った旧来型レーダーと照準装置を僅かに改造して搭載したもので、当時はやや旧式化したものの元々が空戦・対地攻撃双方に対応可能でコンパクトな設計である上に、尚且つ海兵隊航空隊に使い慣れた人間が多いので教育も容易であった。


ハリアーの改良型として登場したハリアーⅡであったが、湾岸戦争では運用方法が確立されていなかったこともありA-10F-16をも上回る損耗率を出してしまった。
だがこれを教訓にイラク戦争などでは高高度からのレーザー誘導爆撃に切り替えられたため損耗率は大きく減少している。
F-35Aが実戦配備され遅れていたF-35Bも配備が始まったことから海兵隊からも数を減らしており2025年頃には全廃される予定。
しかしそのF-35Bの飛行寿命が予定よりも大幅に少ない問題が発生しており予定通りに入れ替えが進むか不明。


なおアメリカ海兵隊やイギリス以外には垂直離着陸機運用能力を持つ揚陸艦や空母を保有するスペイン・イタリアのみの導入に留まった。
それ以外にも日本や韓国でも計画はあったが当時の情勢や予算問題で見送られている。
退役するハリアーⅡをF-35B導入を予定していたトルコが関心を示したが、ロシアの長距離地対空ミサイル導入を進めたことに不信感を抱いたアメリカが
F-35の納入を凍結し更にはトルコに代わる生産国選出に動いたことで導入はほぼ不可能になった。
台湾に輸出する計画もあったが運用ノウハウがないことや老朽化したハリアーⅡの性能や運用で発生するコストを懸念して見送られている。
その一方V/STOL機自体には関心を示しており台湾もF-35Bの導入を模索している。




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最終更新:2022年07月11日 23:08

*1 これは米軍でも配備直後だった代物でフォークランド紛争で実戦データを採ってもらう意図が有ったとの事

*2 これはフォークランド諸島の空港設備が貧弱で戦闘機の配備に向かず、わざわざアルゼンチン本土から飛来せざるを得なくなったこと、イギリス軍が行ったバルカン戦略爆撃機による空襲作戦「ブラック・バック作戦」により、本土爆撃を警戒したアルゼンチン軍が戦闘機部隊を本土防空に充てたことも影響している。なおそのブラック・バック作戦、空中給油を駆使した結構な珍作戦なので、興味がある人はぜひ調べてみるといいだろう。