街(サウンドノベル)

登録日:2010/01/09 (土) 01:00:44
更新日:2024/04/05 Fri 22:15:47
所要時間:約 6 分で読めます




サウンドノベル 街-machi-

発売:1998年1月22日

街 ~運命の交差点~

発売:1999年1月28日(廉価版:2002年4月4日)

街 ~運命の交差点~特別篇

発売:2006年4月27日(廉価版:2007年8月30日)

Iモード版 街

配信:2005年10月11日

弟切草』でサウンドノベルというジャンルを誕生させ、
かまいたちの夜』でゲームをやらない一般層にまでサウンドノベルを普及させた“サウンドノベルの元祖”であるチュンソフトによるサウンドノベル第3弾。

98年にセガサターンで『街』のタイトルで発売。
ゲームの容量が大幅にアップした次世代機(第5世代)での発売となったこともあり、ゲーム自体のボリュームもSFC時代とは比べ物にならない位に大きくなっている。
尚、現在までに本作を指す名称として使われている“~運命の交差点~”は、翌年のプレイステーションへの移植版から付けられた副題である。
……恐らくは、単に『街』だけだと“何の街”だか紛らわしいと判断されたと思われ、現在は副題も含めたものが正式名称として扱われているようである。

既に、他社メーカーからもサウンドノベル作品が発売されるようになった中で、
元祖であるチュンソフトは『かまいたちの夜』で採用した実写取り込みを発展させて、実際の役者による演技をも静止画として取り込む、という方法を選択。
結果的に、読むドラマとも呼ぶべき意欲作品として世に送り出された。
本作の企画の元となったのは『弟切草』でシナリオ監修に迎えて以来の付き合いとなった、脚本家、小説家の長坂秀佳が予てから持っていた「自分から見れば他人は脇役だが、他人から見れば自分が脇役に過ぎない」……というアイディアである。

そして、それを思い付く経験となった渋谷*1の、多くの人の行き交うスクランブル交差点をシンボルとしてイメージが固められ、実際のゲームに於いても各人のシナリオのスタートが共通して同時刻のスクランブル交差点からとなっている。

……因みに、当初は100人もの登場人物の物語が次々とザッピングしながら繋がっていくというイメージだったそうだが流石に実現は不可能だったとのことで、結局は主人公の数は8人(10人)に減らされている。
とはいえ、実際にゲームにキャラクターとして登場してくる人物は本当に100人以上となっており、8人の主人公の物語の影で各々のストーリーが進行しているキャラクターも居り、ゲーム内で断片的に明かされるサイドストーリーも世界観に没頭しているプレイヤーにとっては気になる要素である。
実は、これ等の人物については、続編の希望もあったのだが……。

ゲーム内の映像の撮影は、1996年に行われている。
前述のアイディアの実現の為に多数のキャストとスタッフが揃えられ、1ヶ月の間に3班体制で必要なキャストを入れ替えながら朝から晩まで撮影を進められたとのことで、この時はスケジュール管理をするスタッフが狂いかけ、毎日のロケ弁代等も相当なものになったとのこと。

しかし、其ほどに作り込んだ作品でも、当時は実写ゲームへの信用が極めて低かったことや、宣伝段階でのコンセプトが伝わり難いと評されていること等も関係しているのか、莫大な制作費に対して売上は芳しくなかった、とされる。*2
とは言え、実際にプレイした人間からの評価は非常に高く、サウンドノベルの最高峰とも評される。
発表当初は登場人物の顔が丸見えなことで“プレイヤーが感情移入し難い”といった意見が出たのを受けて、PS版では『かまいたちの夜』の様なシルエットモードを追加したら反対に不満が出たのは有名な話。作るの大変だったらしいのに。
作品の評価については後述。

また、SS版ではパッケージが黒地に『街』の文字が大きく配されているだけという、シンプルで内容が想像出来ないものだったのに対し、PS版では多数の登場人物の顔が升目の様に配されたパッケージと、少なくとも一目で実写取り込み式のゲームなのだと解るものにはなっている。


【あらすじ】

10月11日水曜日、渋谷ハチ公前スクランブル交差点から、8人の老若男女それぞれの数奇な運命が始まる―
まるで面識のない8人の主人公が、知らず知らずのうちに影響を及ぼし合いながら、それぞれの5日間を無事終えるのが目的。

尚、後述の様に牛尾と馬部のみは3日でストーリーが終了し、そのことは取説ぐらいにしか書いていなかった。
一方、8人全員をクリアした後に読める追加シナリオが2人分ある。(ただし、片方はショートストーリー)
PSP版では、更に2人分のストーリーが追加されたが、シナリオ作成時のゲームのシステムには落とし込んでいない内容のものなので、プレイヤーにとっては文字通りシナリオを“読まされる”だけで、しかも他のゲーム本編に採用されたシナリオとは、微妙にニュアンスが違う等、プレイヤーからの評価は余り高いものとは言えないものとなった。


【システム】


「TIP」

文章中に色の違う文字列「TIP」があり、ボタンを押しその語句を選択することでその語句の説明・解説が行われる。緑色の語句はこのゲームの中の登場人物や設定等の解説が行われ、水色は一般に使用されている語句の説明が行われる。
今でこそこの用語辞典的なシステムは物珍しくもないが、当時は割と斬新であった。
このTIPを追っていくことで、正志編のパチンコ男など脇役の描かれない5日間や、劇中劇「独走最前線」「セーラードールズ」の内容を、大まかに把握できる。
また、各シナリオ毎に主役に合わせてTIPの説明文の毛色も変わっているのが特徴で注目。(市川⇒文学的表現が多くて小難しい 美子⇒食べ物関連に小ネタ多し 青井⇒オタク的)

「ZAP」

ある主人公のシナリオから、別の主人公のシナリオの特定の時間へ飛ぶシステム。ザッピング(zapping)の略。
TIP同様、文章中に緑色で示された文字列を選択することで、別の主人公のシナリオへ移動する。
直接主人公同士が遭遇した時は勿論、全く関係のない場面の全く関係のないTIP中に、お互いの状況の共通点を示すなどしてZAPが仕組まれたりしていることが多々ある。
これにより、全く関係のない人物同士が、人や物を介す等して何処かで関連しあっているという本作の醍醐味が感じ取れるようになっている。

また、読み進めていて画面右下に「つづく」と出て、シナリオがそれ以上進められなくなってしまう事がある。
この場合、別の主人公のシナリオからZAPPINGすることで「つづく」が解除され、次へと読み進めることが出来るという「鍵」の役割も果たしている。

一方、システム的にはSS版ではZAPがある箇所に後で戻る場合には「しおり」を挟んでおく必要があったが、PS版からはPS版『かまいたちの夜』と同じく、シナリオを何処まで読み進めたのかのチャートが実装され、其処からZAPに飛べるようになり管理が大幅に楽になった。


「マルチフラグメント」

要は「選択肢」
サウンドノベルお馴染みの展開を変える為の選択肢だが、本作では『弟切草』等と違い、基本的なストーリーが一本道となった為か、選択を間違えた場合には即BADEND(ゲームオーバー)に繋がるパターンが増えた。
また、その主人公にとってはBADENDにもならない選択肢が、別の主人公のBADENDを呼び起こすパターンも存在するので、その場合はその選択までに戻ってやり直しをしなければならない。
これも、PS版以降は楽である。
また、BADENDを選択した主人公が、他の主人公を巻き込んで連鎖的にBADENDとなることもある。
ゲームに慣れてくると、BADENDを回収しながらシナリオを読み進めるようになる。
細井美子シナリオのある選択肢(レコード店にて)では、本作の主題歌である『夜明けのうた』のPVが見られる。


「BADEND」

上記の様にゲームオーバーではあるのだが、その名の様に“別の結末”ではあるので、主人公によってはこっちの方が幸せそうというものも。
全部で122個もあり、見るのにコツが要るBADENDも存在する。
上記の様にマニアになってくると順番に回収しながら読み進める猛者へと成長する。
何れも楽しいものが多いが、桂馬シナリオは殆どが使い回しの爆発なので、これについては“手抜き”との声も。


「難易度」

PS版からは難易度が選択出来るようになっており、EASY、NORMAL、HARDから選択出来る。
HARDがSSと同じ難易度で、EASYとNORMALはBADENDに繋がる選択肢が出ない、BADEND回避の為のヒントが出る、といった違いがある。
基本的なゲーム内容に違いはないものの、PS版は反対に隠しシナリオを見るための条件が厳しくなり、BADENDを全て回収する必要が出た為、完全クリアを目指すのならば、総合的にちょっと簡単になった程度に落ち着いていると言える。


「その他」

家庭用ゲームのレベルだが、SSでは18禁指定ゲームの発売が可能だったので、下ネタ等が際どい所まで表現されていたのに、PS版以降は修正が掛けられている。
また、ある人物のシナリオでは当時から問題となっていた“ホームレス狩り”が描かれているが、PS版ではその表現は登場してこない。
この他、SS版に存在していた一般公募されたプリクラ画像を使用した場面や、シナリオ募集のお知らせ、といった要素もPS版以降は消えている。
漫画家の柴田亜美も募集し、特別に名前付きで紹介されている。
TIPSの内容についてもSSとPS版以降ではメーカー的な意味で変えられている箇所もある。



【シナリオ】


渋谷中央署のオタク刑事・桂馬は、渋谷のオーロラビジョンに映る謎の文章を爆破予告だと断定する。桂馬は5日間渋谷を走り回る。
BADENDの多さ、エピローグから、本作のメインシナリオと思われる。
実際、普通にプレイした場合には桂馬篇が最後になるように最終日のシナリオが展開する。(途中で中断する。選択肢を含むシナリオ終了時間が最後。)

  • 牛尾政美『The wrong man 牛』
ヤクザから足を洗った牛尾は、宝石店店員高峰綾にプロポーズをするため宝石店に足を運ぶ。
しかしその時元舎弟の三次が宝石強盗を働き、居合わせた牛尾は共犯者と間違われてしまう。
しかも逃走した先で役者の馬部に間違えられ、一時しのぎのため芝居をする羽目になる。果たして牛尾は容疑を晴らし、綾にプロポーズすることができるのか?
牛・馬役の松田勝(現:松田優)さんのブログは必見。

  • 馬部甚太郎『The wrong man 馬』
売れない役者の馬部は、テレビドラマで初めて大役を勝ち得たが、うまく演じられず自信をなくしていた。
そんな時逃走中の三次に牛尾と間違えられたため、馬部は仕方なしにヤクザの世界に足を踏み入れる事に。人生最悪の3日間が始まる。
馬部と牛尾のみ、3日目でシナリオが終了する。

平凡な大学生・正志は、大手企業にコネで内定が決まっていたが、日曜日と名乗る謎の女性が内定取消になるような事実をつきつけ脅迫してくる。
脅迫に屈した正志は日曜日の属する組織・七曜会の金曜日として他人を脅迫していくことに…。

市川はテレビドラマのプロットライター。しかし低俗極まりないその作品は自分が寝ている間に「誰か」が書き起こした身に覚えの無いもの。
市川は作家として、テレビ業界に一石を投じる為、最高傑作を書こうと作品に取り掛かるが……。
数多くのプレイヤーにトラウマを植え付けたシナリオ。
そして間違い電話がよくかかってくる。

緑山学院高校3年生の陽平は学校一のプレイボーイ。
しかしある日一夜限りの女性から「私、できちゃいました」と衝撃の告白を受ける。さらに元カノも現われ、本命からも結婚を迫られ…。
現代で言う「これなんてエロゲ?」な展開が繰り広げられる。
ちなみに陽平と市川シナリオは携帯アプリではカットされている。

  • 高峰隆士『迷える外人部隊』
フランス外人部隊レジョンに身を置く隆士は3年ぶりに日本へと戻ってくる。
しかし戦場での出来事がフラッシュバックし、久しぶりの日本にいても苛立ってばかり。自分の存在意義を見出すために渋谷を徘徊する。

美子は何よりも食べるのが大好きなフリーター。
しかし恋人のようちゃんに5日間の間に17キロ痩せなければ別れると告げられ、美子は愛のダイエットファイターとなるが……。
最終日の鬼気迫る様子は市川編並に薄気味悪い。
尚、設定に反して、演じる伊藤ちゃんが太れなかった為に、実際の撮影では詰め物をする等して実際より太目にしている。
シーンによって太さが違うのはこの為。


【隠しシナリオ】

どちらも選択肢は存在しないが、他主人公の選択によりBADENDを迎えることがある。

  • 青井則生『青ムシ抄』
陽平と同じ高校に通うオタク高校生・青井の物語。
このシナリオのみ唯一実写ではなく、デフォルメされたアニメ絵のシナリオになっている。
アニメ調じゃないと“見てられない”なんて意見もあるノデ!
デフォルメで見てると青ムシが好きになったなんて声もあるよ!……クククみんな素直になるといいネェ。
でも“ある理由”から一部のファンには嫌われているヨ。


  • 高峰厚士『花火』
隆士の父親、厚士の物語。花火が大好きだった息子のためにあることを実行する
涙腺崩壊シナリオ。


【余談】


  • 鈴木結女の歌う主題歌『夜明けのまち』とEDテーマ『One and Only』は名曲として有名。
    作曲は本作の音楽プロデューサーである難波弘幸。
    当時は8cmシングルCDが発売されていたが、それ以外には収録されず(鈴木結女のアルバムでは別アレンジ)、後から本作を知ったファンを悶絶させていたが、後の05年にSS発売10周年を記念して発売された『セガサターンヒストリー VOCALコレクション』に復活収録された。
    しかし、このアルバムでは『クロス探偵物語』の主題歌等、別収録曲がゲームとは別アレンジになっていて微妙な印象を抱く者も少なくない。


  • 前述の様に製作費や労力、開発の大変さと比して、対コスト的な意味で決して売れたとは言い難いが、プレイした人間からは非常に評価が高く、長らく続編が待たれるゲームとしてに度々挙げられていた。
    かつてファミ通にあった「読者が選ぶTOP20」において、サターンソフトで最も長くランクインした。

  • 止まない続編希望に対するチュンソフトの回答では、制作費(とりわけギャラ・著作権・技術料・撮影隊出演者の弁当代)に対する売上見込みが殆ど絶望的であったため否定的な回答ばかりであった。
    ……が、ある時期から「エキストラ募集」なる広告が出され、続編への期待が爆発的に高まり、
    ついに続編とも言える、428の発売に至った。
    しかし、流石に街と同じ手法は取れず、一つのストーリーの中で各々のキャラクター達の動きを見せるシステムとなっている。





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  • 以前の「街(サウンドノベル)」の方がよかった。あっちがオリジナルだし。 -- 名無しさん (2013-05-21 18:25:50)
  • 高峰隆士がジタン(ルパン三世と同じタバコ)吸うのは有名だよな。「鰹節の様な香りだ」とか何とか描写されてた。 -- 名無しさん (2014-10-31 21:50:11)
  • 犬のクソ入り鰹節風味。すごい形容だ。 -- 名無しさん (2017-02-12 15:48:13)
  • 「大人になったら女性に膝枕される機会はない。だから膝枕してくれる女性を見つけたら一生かけて幸せにしなくてはいけない」って一文に感動して座右の銘にした。なお -- 名無しさん (2020-08-04 12:46:37)
  • ↑私は「男にとって故郷とは生まれた場所ではない生きていく場所のことだ」…みたいな奴かな。なお。 -- 名無しさん (2020-09-12 00:28:06)
  • 故郷なら再開発で云々。 -- 名無しさん (2021-12-28 17:10:18)
  • 正志のパチンコの隣の席のやつとか宝くじのやつとかストーリー作れそうな脇役が結構いる -- 名無しさん (2023-08-19 13:11:44)
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最終更新:2024年04月05日 22:15

*1 長坂曰く、渋谷で電話ボックスに入っていた時にガラスをガンガンと叩いて出るのを催促された時に、ムカつくと同時に相手から見ると自分が邪魔な親父に見えてるんだろうなあ、と思ったとのこと。

*2 12万本と報告されているが、SSでの発売のみなのか、全機種での総合なのかは不明。