K1(戦車)

登録日:2012/10/17 Wed 09:26:53
更新日:2024/02/21 Wed 13:08:11
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K1とは、大韓民国が開発した第2.5〜第3世代に分類される戦車で、韓国陸軍と海兵隊主力戦車である。
本項目では改良型のK1A1、K1E1も解説する。

K1

性能緒元*1

・乗員 4名
・全長 9.67 m(9.71 m)
・車体長 7.47m
・全幅 3.59m
・全高 2.25m
・重量 51.1t (53.2t)
・懸架方式 油気圧/トーションバー併用
・最高速度 65km/h(整地),40km/h(不整地)
・行動距離 437km
・渡渉水深 2.1m(渡渉装備を付けた場合)
・エンジン MTU MB871Ka-501ディーゼルエンジン
・最高出力 1200馬力

兵装

・KM68A1 51口径105mmライフル砲
・KM256 44口径120mm滑腔砲一門
・12.7mm重機関銃 1挺
・7.62mm機関銃 2挺

装甲

・複合装甲(車体前面及び砲塔前面)
・空間装甲(車体及び砲塔側)

【開発経緯】

韓国陸軍は、創設以来、供与された米国製戦車を主力戦車として運用してきた。だがそれは米陸軍の機甲師団のような装備を保有していたことを意味しない。理由は韓国が超貧乏だったからである。
具体的にいうと、韓国と北朝鮮のGDPが逆転したのは1970年代の半ば。日韓国交正常化以前は、国民一人当たりGDPで二桁ドル台。韓国人が漢江の奇跡と自画自賛する経済発展がなされた60年代後半でも韓国のGDPは北朝鮮の1/3以下だった。北朝鮮から食糧援助の申し出を受けたことがあるほどの最貧国でありながら日本国内では話題にならないあたり、昭和の時代から公然と「近くて遠い国」扱いされていたのは伊達ではない。
当然、これは装備する戦車にも影響を及ぼす。つまりは、アメリカからの無償提供でなければ保有できないし援助がないと維持できない。
韓国陸軍の設立以降まず受け取ったのは100両のM4シャーマンと70両のM10駆逐戦車であり、朝鮮戦争後に25両のM18ヘルキャットと531両のM47を入手している。M48はベトナム参戦のご褒美として1965年に受領した50両のみで、90ミリ砲装備のA3であった。

一方(名目上の)仮想敵国である北朝鮮陸軍は、1970年に115mm滑腔砲を装備するT-62を350両、ソビエトから輸入する契約を結び(76年に配備を確認)、また天馬号の名でライセンス生産するなど戦車部隊を強化していた。当時でも南北のGDPは2倍以上北朝鮮が大きいという状況で、強力な125mm滑腔砲を装備するT-72の配備も時間の問題と考えられていた。まったくもって隔世の感があるが。

しかしながらニクソンドクトリンによって韓国から米陸軍第7師団の撤退が決定しており、かつ105ミリ砲装備のM60のおねだりもベトナム戦争による財政赤字から断られており、750両の中古のM48の追加供与とアップグレードを韓国国内で行うための技術支援でお茶を濁される状況であった。

かかる状況においてクネパパこと朴正煕大統領以下韓国首脳部は、自国戦車の開発を決意する。

ところまでは良かった

とはいえ、韓国陸軍には戦車を自力開発した経験もノウハウも皆無。なにせクネパパに「現代」財閥のトップ、別の言い方をすると開発独裁における政商である鄭周永が呼び出されて「戦車工場を作れ」と言われ権力者相手に「必ず完成させます」と答えたあと、秘書に「電車じゃなくて戦車じゃね?(朝鮮語では発音が同じである)」と指摘されて自らの勘違いからとんでもないことを安請け合いしたと愕然としたくらいに、韓国の能力では無理無茶無謀な話であったのだ。
国産戦車開発は独裁者の決意だけではどうにもならず、紆余曲折を経てM60A3の輸入あるいはライセンス生産を勧めるクライスラー・ディフェンス社にM1戦車をベースとした設計開発を請け負わせるには、さらに8年の歳月が必要だったのである(なお朴大統領はクライスラー社との提携案が具体化する前年の1979年に暗殺された)。
そして紆余曲折を経て1988年12月、クライスラー社設計・現代財閥内の重工業会社(現:現代ロテム)製造でソウルオリンピック終了直後にやっと開発完了と正規採用が決定。順次陸軍への配備が開始された。
なお正規採用決定の前年、当時の大統領全斗煥氏は開発予定の1988年とソウルオリンピックに合わせ「88戦車」と本車を表したが、結局シンプルに「K1=コリア戦車1号機」の方が名称として採用された模様。


【特徴】

韓国側が6000万ドルを費用負担することでどうにかやっと開発してもらったのが本車。とはいえM1は開発費7億ドルをかけた最新鋭高性能戦車である。韓国にはこれを買い揃えるカネもなければアメリカもこれを売るつもりがない。K1の開発とは端的に言うと「105ミリ砲装備の無印M1からなるべく手間をかけずに機密性と値段の高いものを差し替える」ことにあり、良く言えば尖った装備や運用をしない保守的な設計、悪く言えばそれほど重要でもない同盟国に輸出許可が降りる程度のコンポーネントを寄せ集めた設計、であった。

コンセプトの性能的な要求は「北朝鮮のT-62に優越する」であり、それ以上でもそれ以下でもない。というか、政治的あるいは安全保障政策上の見地から「韓国が戦車を自国で開発・生産できる」ことを達成するのが本プロジェクトの目的なのだから、貧乏人が背伸びしたくても先立つものがない。
そのため主砲はタングステン弾芯のAPFSDSを使用する第三世代向けの120mm滑腔砲ではなく、無印M1と同じ英国・ロイヤルオードナンス社製L7 105mmライフル砲を米国でライセンス生産したM68を、さらにライセンス生産したKM68を採用した。これはM48A5の韓国版アップグレードであるM48A5Kにも搭載されている。理由はもちろん「費用増に直結する手間はご法度」だからである。タングステン合金の弾芯など「どうすれば韓国で作れるのか想像さえできない」のが当時の韓国であった。

当然、そうなると防御もM1からどれだけ機密部分を抜くかという話になる。それでもクライスラー、のちのジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムとの契約は「当時の」最新の特殊装甲を供給するとされており、正面要部に無印M1の使っていたバーリントンアーマー、日本で言うチョバムアーマー系複合装甲が、側面には中空装甲が採用され、防御面では日本の第二世代戦車74式戦車を上回る。ただし詳細開示不可、装着もアメリカ人技術者によって行われ完全なブラックボックスとなっている。

防御にも直結するのが機動性である。遮蔽物から遮蔽物への移動、射線に晒す時間を最小にするための急加速急制動もさることながら、坂道や傾斜を登れないようでは部隊移動でも戦術機動でも制約され、敵に移動を読まれたら大損害必至となる。
K1の試作車、ROKIT (Republic of Korea Indigenous Tank) はMTU製パワーユニット…ではなく、テレダインコンチネンタルのAV-1790、平たく言うとM48以来の700馬力級エンジンの改良型を搭載していた。もちろん、700馬力を1200馬力にするからにはいろんな仕掛けが必要で、その最たるものが可変圧縮比(VCR)で、これは60年代のMBT-70用に1500馬力を目指し延々といじくり回し続け、しかし一向に完成しない技術であった。
そして案の定、加速性能は時速31.8キロ(時速19.8マイル)まで目標10.5秒に対して14.6秒、60%勾配…30度の傾斜の登坂は目標値時速9.8マイルに対して、登坂不可という有様だった上、複数のエンジン火災も起こしている。「予想外の火災試験であったがクライスラーの生残性設計の正しさを照明した」とか言われていたようだが。
とにかく、韓国人は1984年の後半にはアメリカ製エンジンに見切りをつけ、西ドイツ製にスイッチするための設計変更をGDLSに依頼し、1986年2月には最初のMTU製エンジン搭載車が韓国軍に引き渡されている。

MB871Ka-501はレオパルト2が積んだ12気筒47リッター1500馬力のMB873の8気筒版で、32リッター1200馬力、重量も500キロ軽い。出力重量比は23.4馬力/トンで、第二世代戦車がトンあたり20馬力を切っており、第三世代が改修で25馬力を割り込む現在であれば「なかなか悪くない」数字となる。なるのだが。

MB871Ka-501を戦車のエンジンとして採用しているのは実は韓国だけである。装軌車両の採用例であれば90年代にドイツがM48の車体を流用して製作した地雷処理車両ケイラーがあるが、53トンの車体を動かすのに986馬力に減格して使っているのだ。このドイツ人の「12気筒1500馬力を8気筒にしたら1000馬力」という出力設定が正しいのであれば、K1の出力重量比はたちまちトン20馬力を切ってしまう。
そもそもMB871Ka-501を12気筒に戻すと1800馬力相当になるが80年代前半にそんなエンジンは無い。当時絶賛開発中の日本の90式が、エンジンが難航して出力が1200馬力程度だから、総重量44トンで作ろうか、と迷っていたし、10気筒排気量27リッターで1500馬力(つまり8気筒で1200馬力)のユーロパワーパックのエンジン側であるMT-883の登場は10年も未来の話となる。
K1のエンジン出力も辻褄が合わないのだ。

【K1A1】

2001年配備のK1に改良と言う名の改悪を施した戦車。
元々はアップグレードを図る目的が、性能向上=攻撃力アップと言うかつてのどこかの旧帝國陸海軍のような
何かトチ狂った方程式の元、実行。

◆主な改悪点

主砲を120mm滑腔砲へ換装

世界の主流や、在韓米軍のM1エイブラムスの規格に合わせる為であろう。
…が、諸悪の根元に。

複合装甲の強化

K1で装備したアメリカ製SAPを独自改良したKSAPを装備するとされる。劣化ウランを使っているとかいないとかという話もあるが、たぶんSAPという単語を劣化ウラン装甲と同義と勘違いしたのが原因。
アメリカ陸軍では無印M1の装備したチョバム装甲系のバーリントンラボラトリー研究1型(BLR-1)だろうがM1A2 SEPv4の装備する劣化ウランを使った次世代装甲パッケージ(NGAP)だろうがぜんぶ特殊装甲(SA)に分類されていて、それをパッケージにしたものを特殊装甲パッケージ(SAP)と呼ぶ。
21世紀になってM1の輸出の引き合いが増えたときに、劣化ウラン装甲を輸出したくないアメリカと、劣化ウランを使った装甲が迷惑な輸出先の利害が一致したために劣化ウラン抜きの特殊装甲パッケージがいまの技術で開発されるようになり、輸出装甲パッケージ(EAP)という単語が使われ始めた。SAP=劣化ウラン装甲、ではないのだ。

火器管制装置(FCS)や外部視察装置改良。

射撃精度と索敵能力向上。

……etc
確かに改良により走攻守全ての面で第3世代に肉薄する性能にはなった。

カタログスペック上は

改めて説明することでもないが、カタログスペックだけで性能が推し量れる訳がない。むしろ兵器にはそれ以上の能力が評価されることが多い。

第三世代の技術使用とはいえ、この改良により、バランスの良い第2世代戦車最強候補のK1が、第3世代戦車モドキの劣悪戦車に成り下がったのである。


【問題点】

だいたい120mm滑腔砲を搭載したことが全ての元凶である。逆に言えば全ては120mm滑腔砲に起因する。

  • 105mmライフル砲を前提に設計されたK1は他の第3世代戦車に比べ小型であり、無理やり大口径の滑腔砲を載せた結果、機動性が悪化。
  • オマケに砲弾搭載数が47発から32発に減少。
  • 砲塔内部の空間が著しく狭くなり居住性が悪化。
  • 整備がし辛くなった。
  • 装弾困難。

K1からK1A1に乗り換えた乗員は皆不満の声を挙げる。


【後継】

K1を通じて得られた生産ノウハウと各種外国戦車技術を基に1995年から後継機のK2が開発開始された。
だが開発は難航、特にエンジンの欠陥により2011年実戦配備予定が2013年に延期されてしまう。
挙句更なるトラブルを重ねた末に一時期は配備が打ち切られたほど。
その後諸々の問題点を何とか解決し、2024年現在は次期戦車として量産・更新が進められている。
ついでに欧州にも売り込みをかけてポーランドが採用。アジア製主力戦車としては初めて欧州で採用された戦車となった。
ただ韓国軍内においては開発と配備の遅れは如何ともしがたかったようで、K2配備と並行してK1のさらなる近代化改修も実施されている。
その他詳しくは該当項目を参照。


【K1E1】

2014年より配備されたK1戦車に改良を施した戦車。
K1A1のような改悪ではない。未改修のK1をベースとした改良である。

K1戦車にC4Iシステムをはじめとする電子機器類と予備電源を追加装備し、照準システムも更新している。
主砲は旧式の105mm砲で装甲やエンジンも手つかずのままなので、現代の主力戦車と呼ぶには甚だ不完全ではあるものの
一応韓国の実情に即した改良と言える。やればできるんです

【K1A2】

こちらはK1A1にK1E1と同じ改良を施した後期生産型。2013年より配備。
K1E2相当の更なる改良も予定されている。
一応改良なのだろう。元の戦車の欠陥を置いておくなら。

【K1E2】

2024年配備予定のK1E1の更なる改良型。
装甲やパワーパック、空調、乗員保護システムも一新され、主砲以外はK2戦車に準じる3.5世代相当の戦車になるとされている。
戦車兵待望の冷房がやっと装備されるぞ!


【フィクションでの活躍】

Wargame:Red Dragon

自衛隊が登場することで有名な冷戦期を舞台としたRTSで、韓国軍戦車としてK1とK1A1が登場する。K1は中コストでK1A1はやや高コストとなっている。
K1はまさかの中コスト帯最強戦車。性能に対し異常なコスパを誇り、韓国軍=K1が強いとまで言われるレベルの強さを持つ。強すぎてナーフされてなお強戦車の一つに挙げられるほど。
キャンペーン1つ目の釜山包囲戦では装備的に格下の北朝鮮軍相手なのでK1無双になりやすく、特に印象に残りやすい。
一方でK1A1は史実の改悪のせいで他国同コスト帯戦車に一歩劣るといった性能。
日韓連合デッキのBLUE DRAGONSでは74式戦車が微妙な自衛隊を韓国軍のK1で、K1A1が微妙な韓国軍を自衛隊の90式戦車で補完できる関係にあるのは面白いところ。


【余談】

実はこのK1戦車。マレーシアへ輸出打診をしたことがあるが、残念ながら不採用となった。

2010年8月。訓練中に砲身が爆破で破裂する事故が発生。
主砲は理論上1000発の発射に耐えられるはずだが、事故を起こした戦車は360発しか射撃をしていなかった。
事故原因について軍関係者は「砲身をきれいに掃除しなかったため、異物が混入したことによるものと推定する」と説明。

2011年3月に実施された砲撃演習中、火災検知器センサーが作動。火災消火用のハロンガスが自動的に車内に放出。
国防部が調査したところ、2010年12月30日以降、装備する火災検知器を米国製から国産に変更されていた。
左側に旋回射撃すると火災検知器センサーが誤作動することが判明。全車改修。

2011年6月知識経済部(省に相当)傘下の韓国機械研究院は変速機に重大な欠陥があるとの結論を出し、これを防衛事業庁と監査院に通報。
国防部は「変速機に問題があることが明らかになれば、全てをリコールする」という条件で戦車を配備し続けてきたため、現在配備されている約450輌の全てが回収となる事態もあり得るとみられる。

2011年8月、自動消火器不具合で97台がリコール。





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最終更新:2024年02月21日 13:08

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