ブラックボックス

登録日:2011/12/19(月) 00:41:39
更新日:2024/04/10 Wed 20:11:29
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「ねぇトム、聞いてよ!この箱、すごいのよ!」

「へぇ、どうすごいんだい?」

「まずジャガイモやニンジンといった野菜を入れるの」

「ふむ、それで?」

「それから水を入れて、肉とスパイスを入れるの。しばらく待てば、なんとカレーができちゃうの!」

「へぇ、そりゃすごい。それで、普通の鍋となにが違うんだい?」








ブラックボックスという概念は、理屈や理由はわからずとも、とにかく使い方がわかっていて、確かに利用できているものを全般的に指す。
たとえば目の前に黒い箱があるとする。蓋がついていて、簡単に開閉ができる。中の様子は黒い空間が広がってるようで、確認することはできない。
この箱の中に卵を入れてから蓋を閉めてしばらく待つと、ゆで卵ができている。
あるいは鶏肉を入れてしばらく待つと、今度はローストチキンができている。

このことから調理されていない食べ物を入れてしばらく待つと、調理された料理になる、ということがわかる。
しかし、なぜ調理されたものになって出てくるのかはさっぱりわからない。

理由はわからないがなんの労力もなく調理してくれるのだから、それを利用しない手はない。材料を入れるだけで簡単に本格的な料理にしてくれるのだ。

「理由がわからないのに結果のためだけに使うなんて、恐ろしい」

そう思う人もいるかもしれないが、身の回りを探してみればブラックボックスなんてものはいくらでも存在している。

多くの人は携帯電話を使っているだろう。だが、携帯電話についてどこまで知っているだろう?
なぜ携帯電話はどこにいても通話ができる?

なぜ携帯電話は文字を入力できる?
なぜ入力した文字を漢字やカタカナに変換できる?
なぜ携帯電話は振動したり、音を出したりできる?
液晶画面が文字や絵をカラーで表現できる理由は?
携帯電話に絵を保存できる理由は?
画面の明るさが自動で調整される理由は?
携帯電話が自分の操作したいように操作できる理由は?


そもそも携帯電話を操作できるが、材料と設計図を渡されたら作ることができるのか?


それらの質問にすべて答えられる一般人はそうそういないだろう。知る必要はないし、知らなくても特に問題ないからだ。
あるといえば、不具合や破損の際にどうしたら良いかわからないくらいだろう。

あるいはパソコンをよく使う人もいるだろう。パソコンもブラックボックスと化している。

「おれはパソコンを自分で組むことができるし、プログラムだって書くことができる」

という人だっているだろう。だが、パソコンを組むといってもすでにできているパーツを使っているはずだ。
マザーボードもグラフィックカードもCPUも自分で一から作っている人間が果たしているだろうか?

パソコンのOSとして一般的なウィンドウズで機能するプログラムを書いていても、
ウィンドウズで機能するというだけでウィンドウズそのものを理解している人間も少ないはずだ。

技術の進歩によってブラックボックス化もまた進行する。
大昔のアイロンは文字通りただ熱した鉄を使っていたのだろうが、今や電源プラグをコンセントに繋ぐだけだ。
アイロンをかけるにしても、なぜ発熱するのか、なぜほどよく蒸気が噴き出すのか、そんなことを知る必要はない。

また、ブラックボックスという概念は技術そのものにも当てはめることができる。
たとえば電卓。数字と記号を叩けば簡単に答えが表示される、非常に簡単な仕組みでできている機械だ。
その電卓よりも高性能で、遥かに複雑に計算できる機械をつくれる人間は山ほどいるだろう。
だが、その電卓そのものを、より安価で、より簡単につくれる人間はそうそういない。
今や電卓は機械的に生産される電子回路を人件費の安い国でつくっている場合がほとんどで、わざわざつくろうとする人はいないのだ。

また、飛行機にもブラックボックスというものが積まれている。
この中身はフライトデータレコーダーやボイスレコーダーで、墜落事故などの際にその原因を突き止めたり、その様子を知るために利用される。
ちなみに航空機のブラックボックスはその名前に反して黒色ではない(発見・回収しやすいよう、赤色やオレンジ色に塗装されていることが多い)。また、円筒形や球形など箱状ではない場合もある。

内部を見せたくないもののように、意図的に外部との接触を遮断し、密閉してあるものもブラックボックスとして扱われる。



余談だが、かの有名な奇書『ドグラマグラ』もこのブラックボックスの概念をいち早くモチーフとして物語に取り込んだ先進的な作品であると言えるだろう。
人間がもし脳髄を以て物を思うのだとすれば、その脳の機能・構造について人間(の脳髄自体)が未だその大部分を知り得ていないこと、
また誰(の脳髄)もそれに疑問を持たないことは、一体何を示しているのだろうか……?













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最終更新:2024年04月10日 20:11