目黒のさんま(古典落語)

登録日 :2012/09/15(土) 11:17:39
更新日 : 2017/09/12 Tue 16:05:30
所要時間 :約 5 分で読めます




目黒のさんまとは古典落語の演目の一つである。

さんまという、現代でも馴染み深い食材が主題の演目であるため、知名度は高い。



【あらすじ】


ある殿様がお供を連れて目黒まで遠出にやってきた。

さて、弁当にしようとすると、なんとお供が弁当を忘れてきてしまった。

もう皆腹が減ってどうしようもない。困っているところに何やら嗅いだことの無いような良い匂いがしてきた。

殿様が「これは何の匂いだ?」と聞くと、お供は
「これは庶民の者が食す"さんま"という魚を焼く匂いでございます。それゆえ、とても殿の口に合うようなものではございませぬ」

と言ったが、もう殿様は腹がへって腹がへってしょうがない。

そんなことはいいから、そのさんまを持ってこいと命じる。
さて、持ってこられたさんまはさんまをそのまま火にぶち込んで焼いた「隠亡焼き」というもので、とても殿様の口には合わないようなものだった。
が、そこはとてつもなく腹が空いている殿様、食べてみると非常に美味であった。
これ以来、殿様はさんまが大好物となってしまった。


それからというもの、殿様はさんまが食べたくてしょうがなくなるのだが、周りの家来達がそれを許さない。さんまは下賤の者が食す魚だからである。
殿様のご膳には勿論さんまなど登る由もないので、毎日さんまさんまと恋こがれていた。


そんな時、殿様にチャンスが訪れる。

親族の集まりの席で、「何かお好みの料理はございませんでしょうか。何なりとお申しつけ下さいまし」という家老の申し出があった。
そこで殿様、待ってましたとばかりに「余はさんまを食べたい」と即答。
しかし、城にさんまがあるはずもないので、急いで日本橋は魚河岸から最上等のさんまを買ってくることになった。


そうしてさんまを取り寄せたまでは良かったのだが、
「このように脂の多いものをさし上げて、お体にさわっては一大事」
と家来が要らぬ気をまわして、充分すぎるほど蒸して脂をすっかり抜いて、骨も毛抜きで一本残らず抜き去った。
おかげで身がグズグズのパサパサ。

そうして出来上がったさんまの出殻らしきものをやっと殿様が食べると、これが非常にまずい。そりゃそうだ。


殿様はあまりにまずいので、これはどこから取り寄せたさんまだと聞いた。
家来は「日本橋魚河岸にござります」と答え、それを聞いた殿様はこう言った。


「それはいかん、さんまは目黒に限る。」



【補足等】

目黒とは厳密には目黒方面(上目黒元富士という記述あり)を指していて、
そもそも殿様が目黒に行ったのは遠乗りであるという設定と、鷹狩であるという設定があるが、どちらでも大差はない。
江戸時代、将軍は鷹狩場を複数持っていた。単に「御場」とも呼ばれた。
当然鷹狩り場なので、広い土地であることが求められる。
その中の一つが「目黒筋」である(旧称:品川)。
江戸期に「目黒筋御場絵図」という地図がまとめられ、鷹狩り場の範囲を知ることができる。
馬込・世田谷・麻布・品川・駒場など、とんでもなく広い範囲がすべて含まれる。


まあそれはそれとしてオチの意味がわからないという方のために。
目黒といえば、現代においては東京でも指折りの人気を誇る住宅地である。
自由が丘とか代官山とか、なんかこうおしゃれでセレブでブリリアントな街もたくさん。
江戸時代にも街道が何本も通っていてわりと活気があった。



ただ、 海はない。
もちろんさんまなんて、獲れない。

城でふんぞり返ってる殿様はさんまも目黒がどんなとこかも知らないのね、と揶揄するような笑い話。
なのだが、アニメ『ミスター味っ子』では「さんまは熱い状態の物が美味い」ということのたとえ話として登場したりと人によって色々な解釈が可能な奥の深い話である。

また、この話からは江戸時代の風俗についても窺い知ることができる。
実際、江戸っ子はさっぱりとした味の魚を好む傾向があったようで、さんまは「焼くときに煙が出やがるし、脂もたんまり出やがる」から好きじゃない、という人も多かった。
今では寿司の高級品として知られる「マグロのトロ」も、江戸時代は「あんな脂っこい魚、何が美味いんでぃ」と
海で捕れても浜にうっちゃってしまうことも多く、
猫でも食わねぇでまたぐ、として「ネコマタギ」なんて綽名をつけられていた時代もあった。なんと、もったいない……。
ただし、葱鮪鍋(ねぎまなべ)としては食べられており、こっちは割合好評だった。

ちなみに、「目黒といえばさんま」というくらいあまりに有名になったので、
これが縁で現代でも目黒区役所と目黒駅(実は品川区)では毎年さんま祭りが開かれていたりする。
祭りでは大量のさんまの塩焼きが振る舞われるが、無論、これも目黒産ではない。


ほかにもいつぞや配布された地域振興券のど真ん中にもさんま様が鎮座されていた。
もはやさんまは目黒のアイデンティティーなのである。


おしゃれな街・目黒にも、魚臭い過去があったことを覚えておいていただきたい。


主人公が落語好きという設定の伝奇ADVアカイイトでも、主人公が今夜の献立のさんまの引き合いに出している。
それもメインヒロインと言うべきキャラのトゥルーエンドで。

余談だが笑点の元司会者でお馴染みの五代目三遊亭圓楽(馬面な方。紫の腹黒は六代目円楽)はさんまをいわしと間違えて目黒の鰯で無理矢理演じきった。
また、2016年まで笑点のOPで桂歌丸の紹介アニメで使われていた。珍しく女装ではない。


やはり追記・修正は目黒に限る

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