キングコング(1933年)

登録日:2012/05/06(日) 00:00:43
更新日:2024/04/04 Thu 00:24:16
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UNIQUE…! THRILLING! STARTLING!


KING
KONG




キングコング」は1933年4月9日にアメリカで公開された怪獣映画である。日本では9月に公開された。



目次



【物語】

ジャングル映画等を撮ってきたプロデューサーのカール。
彼は新作映画のために、女優志望の女性アンや何回も一緒に船旅をした船員と共に秘境の島である髑髏島へと向かった。

島へ辿り着いた一行を待っていたのは、原住民と古代の恐竜、そして巨大な猿であるキングコングだった。
紆余曲折の末にコングを捕らえたカールはニューヨークで見せ物にしようとするが……



【概要】

世界初のトーキーによる怪獣映画であり、後々の作品に多大なる影響を与えた偉大なる作品である。
上述のように製作されたのは約90年前であり、日本とアメリカが開戦する前の作品である。

本作の特撮は人形をコマ撮りするストップ・モーションアニメを主体にしている。
時間と手間は非常にかかるが滑らかな動きであり、またミニチュアや人物との組み合わせで非常に迫力ある映像に仕上げてある。

本作で特撮を手掛けたウィリス・オブライエンは、後にストップ・モーションアニメで世界的に有名になるレイ・ハリーハウゼンの師匠。
八年前に公開した「ロスト・ワールド」に続いて本作を送り出したことで、その名声は盤石となった。
恐らく世界で初めて特撮関係で認められたスタッフである。
……といいたいところだが、その後は様々な不運に振り回されることとなり、晩年は仕事面でも家庭面でも不遇だったらしい。無常……


登場する怪物もコングをはじめ、恐竜翼竜等バリエーション豊かである。
さらに舞台も船やジャングル、ニューヨークと様々であり、娯楽映画として高い水準の作品である。

世界中で大ヒットし製作会社は倒産を免れ、またリメイク版や続編等も多数存在する。


また、本作は様々な伝説や逸話を持った作品でもある。詳しくは後述で。



【登場人物】


◆アン・ダロウ
本作のヒロイン。
美人だが大恐慌で貧乏生活をしており、泥棒に間違われたところをカールに助けられ女優としてスカウトされる。

髑髏島ではコングに攫われ、ニューヨークでも追い回された末に攫われるなど、コングに捕まるヒロイン第一号となった。
暴走ストーカー被害にあいまくっている状態なので、他のリメイク作品と違ってコングに対して何らの同情も抱かない。
まあ無理やり連れ去られた上に服まで破られて半裸にされれば当然か。

コングは彼女に殺されたともいえる。

演じたフェイ・レイリメイク版にも出演予定だったが直前に急逝した。


◆カール・デナム(デンハム)
映画プロデューサーで、ジャングルやアフリカでロケした映画で名が売れていた。
いい映像を撮って金を儲けることに執念を燃やしており、カメラマンが逃げ出したりしたため今では自分で撮影や演出をしている。
恐竜たちやコングを見つけて大はしゃぎし、周囲の反対をも押し切ってアメリカ本土に連れ込むなどの無茶をやらかした。
ぶっちゃけすべての元凶。ジャック曰く「クレイジー」。

ちなみにコングが暴れた直接原因ははしゃいだマスコミたちが炊きまくったカメラのフラッシュ。
この時デナムは「そんなに炊くな!暴れる!!」と叫んだが、今度はカメラマンたちがデナムの話を聞いてくれなかった。


◆ジャック・ドリスコル(ジョン・ドリスコル)
実質はストーリー面における主人公。
アン達が乗った船の船員で、船上では足手まといなアンを邪険にしていたが、交流を深め、髑髏島やニューヨークではアンを助け出したヒーロー。
追ってきたコングに単身ナイフや椅子で猛反撃し、何度も死にそうになりながらもアンを助けに危地に飛び込んでいく様はまさに
勇敢さのみならず慎重さも備え、とっさの判断力や機知にも富んでいる。飛行機による攻撃を進言したのも彼。
「礼服なんて初めてだ」と語るぐらい生粋の船乗りだが、島の恐怖に怯えるアンに心を配るなどの紳士でもある。


◆エンガーホーン船長
カールの旅に何回か付き合ったベテラン船長。ダンディな口ひげが特徴。押さえ役だが結局はカールに押し切られる。


◆チャーリー
字幕までカタコト日本語の中国人コック。
続編の『コングの復讐』にも登場。


◆原住民
時代が時代なためかかなりステレオタイプな演出をされているが、その分セットはすごい。
目的のためとはいえアンを拉致して無理やり生け贄にしようとするなどかなり強引。
一度は銃の威嚇の前に退散したが、コングが降りてきた時には白も黒もなく協力して扉を閉めようとした。
ちなみに、コングを崇めてはいても本質的には脅威だと認識していたらしく、扉を破ったコングにを投げるなどして応戦している。
結局敗れて相当数の死者を出したが、そもそも彼らが無理やりアンを拉致したことも原因なので先住民の悲哀とかは感じない。


【怪物達】

◆キングコング
本作の敵役にして、一番の主役。髑髏島ではおそらく最強の存在の巨猿。
アンに惚れたのか攫い、また服を破る。
また、原住民を食い殺したり*1踏みつぶしたりといった残酷描写も目立つ。

島内では暴君竜や翼竜、首長竜と戦い勝利。船員の銃も島民の投げ槍も通用しないが、ガス爆弾の麻酔で眠らされ、どうやったのかニューヨークまで運ばれる。
ニューヨークでは捕まえられたショック(デナム言う「恐怖の鎖」)でいったんおとなしく鎖につながれていたものの、目の前にアンが出てきたのを見て本気を出し、鎖を壊して拉致。
そのままアンを連れエンパイアステートビルに登った所を、四機のカーチス複葉機に攻撃される。
一機を引きずり落とすなど奮戦したが、手の届かないぎりぎりの距離*2から撃ちこまれる機銃の波状攻撃に力尽き、落下し死亡した。

撮影には人形の他、実物大の顔や腕も作られ効果的に使われた。ちなみに獣の質感を求めて熊等の毛皮を使っていた。
デザイン者はマーセル・デルガド(1901~1976)というメキシコ人の彫刻家で、
「キングコングは猿と人間、両方の特徴を兼ね備えた造形でデザインしてほしい」とプロデューサから命じられていたという。
撮影用モデルの大きさは18インチで、フェイスパターンは四種類確認されている。

ちなみに、誤解されがちだが名前の「キング・コング」とは直訳すると「コング」、即ち「コング」とは彼の固有名である。
劇中でも「コング」というマレー人の伝説の話をデナムが船長にする場面があり、この世界では妖怪や魔物の類として一部の人には既知の存在だった模様。
東宝怪獣で例えると『大怪獣バラン』のバランが、地元の人から山の神扱いされてた名前の「婆羅陀魏山神(ばたらぎさんじん)」に当たる。
「キング・コング」はこれに興行師が勝手に肩書をつけ「王者・婆羅陀魏山神」(『バラン』にはこのような呼称はない)とやってしまった感じ。
別にゴリラの英名とか学名とかではない。


◆暴君竜
モデルはティラノサウルスだが指は3本である。
日本公開時のパンフレットに書かれていた名は「ティラントサウルス」だったらしい。
木に括りつけられたアンを見つけて襲おうとしたが、慌てて戻ったコングに襲われる。
コングと激しい死闘を演じ、ほとんど互角の立ち回りを演じたが、最後は後頭部に飛びつかれてそこから顎を裂かれて殺された。
余談ながらスティーヴン・アトリーが1976年に執筆したSF短編『テーマからの脱線』(早川書房『キング・コングのライヴァルたち』に収録)
ではコングに勝利したが、その後すぐ事故死している。

東宝の怪獣ゴロザウルスはこいつのオマージュである。
また、登場する際に頭を掻くシーンがあるが、これは後に『恐竜グワンジ』や『恐竜の惑星』といった作品でもオマージュされた。


◆翼竜
プテラノドンがモデル。羽ばたきながら飛行する。
コングの住処でアンを捕まえるがコングに殺される。
ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』の大コンドルはこいつのオマージュである。
なぜか歯がある


◆首長竜
蛇に似ているが、設定上は首長竜である(その証拠に4本の鰭がある)。コングにまとわりついて攻撃するが殺された。
キングコングの逆襲』に登場した大海ヘビはこいつのオマージュである。


◆剣竜
モデルはステゴサウルスだが、尻尾のとげの数が四本ではなく六本になっている。
上陸したクルーに襲い掛かるもガス弾で昏倒し、最後はライフルでヘッドショットされて殺された。
余談だが撮影後、撮影用モデルは米国のSFコレクターのフォレスト・J・アッカーマンの手に渡った。


◆雷竜
ブロントサウルスがモデル。実際には植物食恐竜であるが作中ではどういうわけだか水中でも活動可能な獰猛で俊敏な肉食恐竜という設定で、
沼地を筏で渡っていたクルーに襲い掛かり大勢を食い殺した。
さらに陸へと逃げたクルーたちをものすごいスピードで追撃し、逃げ遅れて木に隠れようとしたクルーをかみ殺している。
撮影用モデルには下の台車を滑らすとそれと連動して首が動くギミックがついていた。撮影後上記の剣竜と同じくアッカーマン氏の手に渡った模様。


トリケラトプス
デロス・ラブレスの小説版に登場している。
こいつも雷竜と同じく作中では獰猛で俊敏な肉食恐竜という設定になっており、クルーを角で刺し殺したりした。
複数匹登場し、コングと戦った個体は頭に複数回、巨大な天然アスファルトの塊を投げつけられて死亡。
映画版にも登場する予定があり、映画版のバトルシーンではコングがアスファルトの塊を頭部に投げつけて角を折り、ひるんだところに正面からコングが突っ込むというものであった。撮影用モデルを写したスチール写真が複数現存しているが結局本編で使われることはなかった。


◆巨大昆虫(クモガニ)
中盤、コングによって丸木橋から撮影クルーが谷底に落とされるシーンがあるが、実はその後の谷底のシーンが撮影されており、そこに登場していた。
役回りとしては谷底に落とされてまだ生きているクルーに群がり、寄ってたかって食い殺すというものだった。
しかし、試写会で放映したところあまりにもクレームが多く、オブライエンは会心の出来と自負していたが泣く泣く削除せざるを得なかった。
その後、残念ながらオリジナルのフィルムは行方不明になってしまったが、
2005年にコングのリメイク版が作成された際に当時風の味付けでそのシーンをピータージャクソン監督が作成し、復活させた。
興味のある方は拝見してみるのも良いだろう。
なお、特撮の資料本によっては「spider-pit」とも表記されている。撮影用モデルのいくつかは後年オブライエンが手掛けた、巨大さそりが暴れまわる映画『黒い蠍』で使われた模様。


◆オオトカゲ
デロス・ラブレスの小説版では大グモに変更されている。
上記のクモガニのシーン後に登場した前足しかない(一説には後ろ足があったとも)オオトカゲ。色は人工着色版によれば緑。
谷底からツタに上って忍び寄り、隠れていたドリスコルを襲撃しようとしたがすんでのところで彼にツタを切られて転落死。
…という印象には残りづらいちょい役だったのだが84年後…。
なお正式名称かは不明なものの、海外版ウィキペディアでは一時期「メガラニア」と記されていたこともあった(ソースは不明)他、英国でかつて出版されていた書籍では「ポリサウロ」とも呼ばれていたそうだ。

また、予算や尺の都合またはクレームでボツになったが、
スティラコサウルス、アルシノイテリウム、エリスロスクス、ギガントフィス(大蛇)なども登場する予定があった。
このうちスティラコサウルスは続編の「コングの復讐(コングの息子)」に登場した。



【本作にまつわる逸話】

◆コングは本物かという問い合わせが映画会社に殺到した。これをネタにしたのか同じスタッフが1949年に作ったゴリラ映画『猿人ジョー・ヤング(Mighty Joe Young)』では、キャスティングでゴリラのジョー(正式名ジョセフ)・ヤングの配役に「彼自身(Himself)」という表記がある。

アドルフ・ヒトラーも本作のファンで、封切りから視聴していた。

円谷英二はフィルムを個人用にわざわざ輸入して1コマずつ研究した。
これが後の「ゴジラ」を頂点とする特撮に生きてるため、キングコングが無かったら日本の特撮は発展しなかったといえる。

◆本作では電車が襲撃されて破壊されるシーンがあるが、これには裏話がある。当初『キングコング』はフィルム巻数が13巻の作品になる予定だったのだが、「13」という数字が西洋で不吉なものとされて忌み嫌われるので急遽作られたのだ*3。結果としてフィルム巻数は14巻となったが、後年初代ゴジラなどでオマージュされるなど名シーンとなったので、作った意味は大いにあったといえるだろう。

◆日本で公開された際、鎌倉に全高14メートルの張りぼてが作られたほか、浅草の大勝館でも実物大模型が劇場前に作られた。お客さんはコングの股をくぐって劇場に入るような仕掛けになっていたらしい。また口の中には赤い電球が仕掛けられていて、夜の街に真っ赤な口を浮かび上がらせていたとのこと。さらに『和製キング・コング』や『江戸に現れたキングコング』という便乗映画まで作られた。

◆本作の恐竜やコングの出血描写は溶けたチョコレートで表現された。

◆コングの鳴き声はライオンのうなり声を録音して逆回転で再生し、速度を落として音を1オクターブ下げたものを再度録音して作っている。暴君竜の鳴き声はピューマの声と高圧縮した空気の漏れる音を合わせたものである。また登場予定だったトリケラトプスの鳴き声はひょうたんを鳴らしたブーブー音になる予定だったとのこと。

◆一般人の認識的にゴリラの胸叩き(ドラミング)はグーであるが、実際はパーである(パーで叩いたほうが音が大きくなるため)。これは本作のキングコングがグーで叩いたことが要因であると言われている。ドラミングの音は音響係の一人が背中に高感度マイクをつけて、パッドでくるんだドラムスティックで自分の胸をたたいて出したものを使用していた。




追記・修正はリアルタイムで本作を見た方にお願いします。

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最終更新:2024年04月04日 00:24

*1 ノベル版では原住民たちが「アンがコングに生きたまま連れていかれた」のを驚く描写があるので、今までの生贄は祭壇でコングに殺されてたらしい。

*2 コングは飛び道具を持っていないのになぜ距離を十分とらないでいたのかはノベル版で説明があり、アンを巻き込む恐れがあるので、立ち上がったコングの上半身しか実質狙えないため。

*3 証拠として脚本をベースに作られたノベル版ではここのくだりがなく、アンがさらわれた後すぐにコングがビルを登ってどんどん上に行ってしまう場面になる。