てんかん

登録日:2010/04/21(水) 22:45:10
更新日:2024/01/28 Sun 04:05:17
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※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください


てんかん(癲癇、Epilepsy)とは、てんかん発作が繰り返し起こる、脳の慢性疾患の総称。

◆概要・病理


人の脳は約1000億個の神経細胞(脳細胞)から成り立つ。神経細胞は互いに電気信号を発することで情報をやりとりしている。知覚や運動をすることができるのは、電気信号の伝達あってのことなのだ。

ところが、何らかのきっかけで脳内に過剰な電気信号が流れ、神経系(感覚神経や運動神経、自律神経など)の過剰活動が引き起こされると、知覚や運動などに異常が生じる。
これがてんかん発作であり、どの神経系で異常活動が起こるかによって、症状の現れ方はさまざまである。

てんかん患者は日本に約100万人、世界に約3900万人いると推定されており、有病率は100人に1人程度と、かなり身近な病気であることがわかる。

なお、てんかん発作の現れ方は多様であり、これらの患者全員が意識を失って倒れる発作を起こすわけではない
意識障害はあるものの倒れない発作や、身体の一部が痙攣するものの意識清明な発作も存在する。

諸説はあるものの、古くはソクラテスやユリウス・カエサル、中世ではジャンヌ・ダルクやナポレオン、 近世ではレーニンやらドストエフスキー、豊ノ島も罹患していたと言われる。


◆原因


てんかんの原因はさまざま。脳に明らかな損傷や病変*1が生じたことで起こる場合(症候性てんかん)もあるが、検査しても特に原因の見つからない「特発性てんかん」も多い。というかてんかん患者の大多数は特発性てんかんである。

また、てんかん患者でなくとも、素因を有する人が、ある特殊な外的刺激を引き金に発作を起こすケースも存在する。
乳幼児が急な発熱に伴って意識障害・痙攣を起こす熱性けいれんや、ポケモンショックで有名になった光感受性発作などがこれに該当する。

10人に1人は、生涯を通じてこうした発作を1度以上経験するといわれる*2実は全く関係ない人などいない病気である。

◆分類


てんかん発作は全般発作と焦点発作とに大別される。


全般発作
大脳全体の広範囲で過剰活動が起こる。発作時、患者は意識喪失する場合がほとんど。
てんかんのパブリックイメージであろう「突如意識を失って倒れる」のは、この全般発作の場合である。

中でも有名な「強直間代発作(大発作)」は、突然意識がなくなり、体が硬直・痙攣発作を起こしたあげく、30分~1時間程度は意識もうろう状態になるという曲者。
倒れた際に頭を打ったり、もうろう状態のまま事故に遭ったりする危険がある。
この発作を起こしている人を見かけたら気が動転するかもしれないが、まずは冷静になり、けがをしないよう周囲の安全を確保して見守ってあげよう*3

なお全般発作のなかにも、数十秒間意識喪失するものの痙攣したり倒れたりしない「欠神発作」等があり、見た目にわかりづらいので単に注意散漫であると誤解されるケースも多い。


焦点発作*4
脳の一部のみで過剰活動が起こる。
意識障害は、ある場合もない場合も両方存在する。

焦点発作のうち、意識障害がないものは「焦点意識保持発作*5」、意識障害があるものは「焦点意識減損発作*6」という。

焦点意識保持発作では、運動機能の異常(顔や手足の突っ張り、痺れ等)、知覚の異常(眩しく感じる、周囲の音が響いて聞こえる、異味や異臭を感じる等)、自律神経の異常(急に汗をかく、吐き気がする、鳥肌が立つ等)といった症状がみられる。

焦点意識減損発作では、作業の最中に意識がぼんやりと曇り、無反応になったりする。そのまま辺りを歩き回ったり、口をモグモグさせる等、勝手に動いてしまう「自動症」に移行することもある。

焦点発作は他人から見てわかりづらく、知名度も高いとは言えないので、てんかんだと気づかれないことも多い。

なお、最初は焦点発作で始まった発作が、脳の全体に過剰活動が広がり、強直間代発作(大発作)に移行する場合もある*7
この場合、意識を失う前に「前兆」「デジャヴュ」のようなものが感じられ、そのまま倒れてしまうという。


◆治療


治療の基本は薬物療法。抗てんかん薬を毎日服用することで、発作を抑制する。
薬物療法の適応は幅広く、発作型や患者の特性に合わせて様々な抗てんかん薬が処方される。
規則正しい服薬と規則正しい生活を行うことで、発作を起こすことなく、他の人と変わりない生活を送っている患者も多い。
長年発作が起こらなければ、医師の指導の下、断薬を目指すことも可能。

+ 抗てんかん薬の例
バルプロ酸Na
商品名 デパケン
さまざまなてんかん発作に対して有効であると言われているが、一般に全般発作や混合型発作の第一選択薬として使用されている。
副作用として肝障害、出血性膵炎が報告されているので、肝臓や膵臓に障害を持つ人は服用に注意する必要がある。
妊娠中の多量服薬も推奨されないため、妊娠を希望する場合はあらかじめ主治医に相談するのが望ましい。

カルバマゼピン
商品名 テグレトール
主に焦点発作の第一選択薬として使用されているが、三叉神経痛と躁病にも効果があると考えられている。
この薬剤は抗コリン作用を有するので、副作用として便秘、尿閉、口渇が起こる場合がある。
また、血小板の減少も若干報告されている。

フェノバルビタール
商品名 ルミナール or フェノバール or フェノバルビタール
バルビツール酸系に属する薬剤で、強力な抗痙攣、鎮静剤としての力を有する。
反面、睡眠薬にも用いる程の強力な催眠作用、
適正値のほんの5-10倍の部分(上記の2つは60-300倍)にある致死量(経口-1g 静注-0.3g 適正値は経口で30-50mg)、
薬剤アレルギー、依存性など、かなりの危険を有する。
睡眠薬としての力から、夢遊病などの睡眠性行動障害と隣り合わせでもある。
今これが処方される場合、ほとんど最後の手段となる。


抗てんかん薬全般にいえることだが、自己判断で服薬を減らしたり中止したりすると、症状の悪化や、最悪の場合てんかん重積状態によって命に関わる事態を招くため注意が必要。

また、発作が脳の一部分のみで起こる場合、外科手術による治療が有効なこともある。
薬を何種類も服用しても症状が改善されない場合も、手術が考慮されることがある。
いずれの場合も、手術が本当に有効であるかどうかは、慎重な検査によって調べられる。
手術が成功すれば発作の減少やQOL向上が期待できるが、発作が完全消失するとは限らないため注意。


◆余談


  • 脳神経の異常であるが、障害者手帳などの交付の際には「精神障害者」の区分に入る。

  • てんかんの症状は体調によってかなり左右される。てんかん持ちの人が自身の生活リズムを何より気にするのはこれのせい。
極端な体力低下でも起こりうるので、100%の力を発揮するのは相当の勇気が必要であり、てんかん持ちで常に全力を出せる者は本当に勇者である。

  • かつててんかん患者は運転免許を取得できなかったが、2002年以降は、発作が2年間起きていない状態で、主治医の許可があれば免許を取得できるようになっている。
これだけ見ると基準が甘くなったみたいだが、実際のところ2002年以前は、てんかん患者であるか否かは申告制であったうえ、免許取得時に申告が必要なこと自体もさほど知られていなかったため、多くの患者が申告せずに免許を取得していた。
2002年以降は運転免許証の取得・更新時に申告書の提出が義務付けられ、虚偽申告も罰せられるようになったほか、医師の診断書も必須となっている。



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最終更新:2024年01月28日 04:05

*1 脳腫瘍や脳出血などの脳疾患や、アルツハイマー病、脳外傷、出生時の低酸素状態などが主な原因となる。

*2 このうち「てんかん」の病名がつくのは、こうした発作が繰り返し起こる場合に限られる。

*3 昭和中期までは「発作中に舌を噛まないよう、口の中にタオル等を咥えさせる」という対応がとられることもあったが、現在は不適切とされている。場合によっては窒息の恐れすらあり、非常に危険だからだ。そもそも、発作中に舌を噛みちぎってしまうことはほとんどない。

*4 「部分発作」ともいう

*5 「単純部分発作」ともいう

*6 「複雑部分発作」ともいう

*7 「二次性全般化」という