赤い蝋燭と人魚

登録日 :2012/11/17(土) 05:22:51
更新日 : 2017/10/19 Thu 07:56:44
所要時間 :約 7 分で読めます




人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。


「赤い蝋燭と人魚」は、小川未明によって書かれた創作童話。1921年(大正10年)に発表されてから、多くの童話集に収録されており、未明の代表作のひとつである。
この童話に登場する人魚の娘にはモデルとなった存在があり、
未明が中学時代に下宿先で世話になった足が不自由な母と、売春婦として売られていったらしい娘がそうではないかといわれている。
また、新潟県の雁子浜に伝わる人魚塚伝説と似ている点が多々あり、この伝説をモチーフにして書かれたとされている。
アニメ化や舞台化もされている。



◎ストーリー◎

北の海に身重の人魚が住んでいました。
人魚は生まれてくる子供が、話す相手もいない暗く寂しい北の海でずっと暮らさなければいけないことを不憫に思っていました。


「街は明るく賑やかで素敵ね。私たちは体の半分は人間によく似ているし、人間は世界中で1番優しい生き物で、弱い存在を虐めたりしないときいているもの。
陸でこの子を生んでも、人間たちはきっと大事に育ててくれるはずだわ」

人魚は陸で産んだらもう我が子に会えないと知りつつも、子供の幸せを願って、陸で出産する事にしました。
はるか彼方で揺れる、港町にある山の上の神社の灯火を見た人魚はそこまで泳いでいき、陸に上がって子供を産み落としました。


さて、神社のある山の下では、老夫婦が小さな蝋燭屋を営んでいました。
町の人や近くの漁師がお宮でお参りする時に蝋燭を買っていくことで、生計を立てていました。


「私たちがこうして暮らしていけるのも、神様がいてくださるおかげですねぇ。丁度いい機会だから、ちょっくらお詣りに行ってくることにしましょう」

お宮への参拝を終えた帰り道、お婆さんは石段の下で泣いている赤ちゃんを見つけました。
お詣りの帰り道に見つけたのも何かの縁、このまま見捨てては罰が当たると思ったお婆さんは、家に連れて帰ることにしました。
赤ん坊が人魚だと知りつつも、老夫婦は神様からの授かりものだと考え、赤ん坊を育てることにしたのでした。


その日から、娘は大切に育てられました。
娘は黒目がちで髪がツヤツヤしている、大人しくて怜悧な子に育ちましたが、他の人とは違う姿を恥じて引きこもっていました。
ある時、娘は絵を描いたらもっと蝋燭が売れるのではと考えて、お爺さんに相談しました。
お爺さんの了承を得て、娘は赤い絵の具で蝋燭に絵を描いて売ってみました。
すると赤い蝋燭はたちまち大ヒット商品となり、
赤い蝋燭を山の上の神社に捧げ、お守りにして漁にでると、どんな悪天候でも無事に帰ってこれるという噂がたつようになりました。
噂が噂をよんで、蝋燭の人気は鰻登りです。


「人間でない私を拾ってくれて、いままで大事に育ててくれたんだもの。その恩にむくいなきゃ」

娘はそう思い、蝋燭を作るお爺さんの側で、手が痛むのを我慢して絵を描き続けます。
噂が広がると、次第に山の上の神社の評判も上がりましたが、誰もろうそくに一生懸命絵を描く娘に対して、可哀想だとは思いませんでした。
娘は疲れ、北の海を眺めては涙ぐむこともありました。


ある日南の国から香具師がやってきて、娘には内緒で、大金を出すから娘を売って欲しいと老夫婦に頼みました。
老夫婦は断りましたが、香具師はめげずにやってきて、


「人魚は不吉です!側においていたら悪いことが起きますよ!」

と言いました。
老夫婦はこの言葉を信じ、また大金に釣られ、娘を香具師に売ることに決めてしまいました。
そのことを知った娘は、売るのだけは止めてほしいと泣いて頼みましたが、鬼の心のようになった老夫婦は聞きいれません。
娘は部屋に閉じこもり一心に絵を描き続けますが、その姿を見ても老夫婦はいじらしいとも感じなくなっていました。
そして、香具師が娘を連れて行く日になりました。娘は数本の赤い蝋燭を残し、獣を入れる箱に入れられて去っていきました。

穏やかな晩、老夫婦が寝ていると、長い黒髪がびっしょりと水に濡れている女が訪ねてきて、娘が残していった蝋燭を買っていきました。
その夜のこと、急に天気が崩れ、大嵐になりました。それは丁度、娘を乗せた船が沖合を航行しているころでした。
この大嵐ではあの船は助からないだろうと、老夫婦は話していました。
その夜から、お宮に赤い蝋燭が点ると、その晩は必ず海が荒れるようになり、赤い蝋燭は不吉ということになりました。
老夫婦は神様の罰があたったと、蝋燭屋を畳みました。しかしそれからも赤い蝋燭はお宮に点り、蝋燭を見ただけでも災難にあい、死んでしまった人までいました。
噂が広まるとお宮を参拝する者はいなくなり、町の人からも怨まれるようになりました。



数年も経たずに、その町は滅びてなくなってしまいました。





人魚を乗せた船が大嵐に合った所から推測するに、恐らく人魚は海へ放たれ無事で済んだと思われる。
しかし、ただでさえ孤独だったのに唯一信頼できる親に裏切られた人魚の悲しみは計り知れないだろう。
娘を想っての行動とはいえ結果的に母親が事態の大元の原因であることは否定できない。
だが、それは我々が老夫婦や商人と同じ種族、すなわち人間であるから言えることであり、どう母親を責めても老夫婦と商人の方が非は遥かに大きいのだ。
自分とは違うものを恐れ、金に目を眩ませた結果娘を売ってしまった老夫婦と、人魚を商売道具として捉え不幸へと導いた商人。
これらはまさに人間の醜悪な性質である。
このような醜悪な性質のままに動いた人間のせいで、最終的に赤い蝋燭の祟りで町は滅ぼされた。
異形の者だからと平気で裏切ったらどうなるか、という結果の一つをこの作品は教えてくれている、今でも。

しかし人魚をいい子に育てたのも老夫婦であるということは皮肉でしかない。
ただ、この一件で人魚が確実に人間に対して不信感を抱いたのは確かであろう。

文学アニメ『まんが赤い鳥のこころ』でもエピソードの一つとして取り上げられており、
老夫婦の内お爺さんは自分のしたことを悔やむなど僅かながら人物面が改善されている。
また、船の沈没と(ぼかし気味ではあったものの)商人が死亡するシーン、そして娘の無事な姿と母親との再会シーンも追加された。




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