走れメロス

登録日:2011/06/05(日) 00:13:43
更新日:2023/03/27 Mon 22:57:57
所要時間:約 8 分で読めます




メロスは激怒した。


『走れメロス』とは太宰治の代表作の一つ。



●概要

昭和十五(一九四〇)年五月「新潮」に発表された。太宰の明るさを代表する作品で、圧倒的な知名度を誇る。
信頼と友情と正義をテーマに、シラーの『担保』という作品を下敷きにして執筆された。
簡潔かつ躍動感溢れる文体で書かれている。

世評高く、ついでに尺も短く取り上げやすいため、学校の国語の教科書に採用されており、日本人は嫌でも読まされている。


●あらすじ

ある時村の青年メロスは、妹の結婚式に必要な買い物をするために、シラクスの市にやって来た。
そこには人は信用できないと語り、人を殺す邪智暴虐の王が支配していた。
正義の士メロスは激怒し、短刀を懐中に王城に侵入するが捕縛されてしまう。
捕まったメロスとの問答の後、王はメロスに三日間の猶予を与え、竹馬の友セリヌンティウスを人質にして解放する。
帰還を誓うメロスと友を信じ待つセリヌンティウス。果たしてメロスは三日以内に帰還し、友情と信頼の力を王に示すことが出来るのか。



●登場人物

メロス
主人公。村の牧人。正義感が強く、友情に熱い妹思いのお兄ちゃん。例によって例のごとく太宰の分身。
実はなかなか走ってくれないし、実は計算するとそもそも走ってないんじゃないかという話は結構有名。
冷静に考えると、噂話だけでテロを起こしかけた挙句「妹の結婚式だから」という理由で命乞いをし、人質として友人を差し出す上結婚式の日取りを無理矢理捻じ曲げる、おまけに通りすがりの山賊を王の手先と決めつける*1…など、かなりの畜生である。

セリヌンティウス
シラクスの石工。メロスの竹馬の友。メロスを信じ待ち続けるダンディーな男である。モデルは太宰の竹馬の友、檀一雄。

ディオニス
暴君。人間不信に陥っており、人を殺す悪人。実はツンデレである。モデルは村上旅館の親父。

メロスの妹
メロスの妹である。近く結婚するらしい。出番は少ない。
劇場版アニメでは、全裸で花婿と……ゴクリ。

妹の花婿
この度メロス一家に加わることになった。出番は少ない。

フイロストラトス
セリヌンティウスの弟子。遅れたメロスに、せめてあなただけでも生きて下さいとひき止める優しい男。


●評価

教科書に採用されるなど高い評価がある一方、星新一を始めとする太宰ファンや研究者には余り問題にされない、評価が分かれる作品である。
この作品は特にオチが優れているとされる。最後に、正義を実行したメロスに恥ずかしさを感じさせるという、太宰文学のテーマが見られるのである。

欠点としてよく指摘されるのは、メロスが倒れた際の心理描写が長すぎることと、心理が現代的でリアリティーがないことである。
ネガティブ思考を書くのは太宰の得意技であり悪いクセであった。

ちなみに太宰の友達である評論家、亀井勝一郎と山岸外史はそれぞれ、
「再読三読、いよいよ、よし。傑作である」
「その義、神に通ぜん」と評しており、太宰は、
「友人は、ありがたいものである。山岸君も、亀井君もお座なりを言うような軽薄な人物では無い。この二人にわかってもらったら、もうそれでよい」
と語り別に、
「青春は、友情の葛藤であります。純粋性を友情に於いて実証しようと努め、互いに痛み、ついには半狂乱の純粋ごっこに落ちいる事もあります」
と述べている。

この作品は今でも人気が高いため、アニメに漫画、ドラマや映画になっている。またしばしば劇の題材になる。


●余談

元ネタはシラーだが、実体験も含まれていると言われる。

ある時、熱海の村上旅館で遊んでいた太宰の元に、彼の妻の依頼で檀一雄は金を持ち駆け付ける。
しかし太宰はあろうことか、檀をひき止め遊び倒して、金を使い切ってしまう。人間失格
呑み代や宿代が払えないので、太宰は檀を人質にし、師匠の井伏鱒二に金を借りに東京に駆ける。

「逃がした小鳥が帰って来るというのか」
「そうです。帰って来るのです」

しかし何日待っても帰って来ない太宰に、檀は痺れを切らし、ディオニスに支払いを待ってもらい井伏を訪ねる。
すると太宰は呑気に井伏と将棋を指していたという。何でも迷惑をかけ続けた師匠に、金を借りるとは言いにくかったそうである。
激怒した檀に太宰は「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね。」と逆ギレいきり立って反駁したという。

後に発表された『走れメロス』を読んで、熱海の件が執筆のきっかけではないかと思ったと檀本人が語っている。

漫画家、久米田康治に『走れエロス』なる題でパロディーされている。
同じく漫画家のえんどコイチも『ついでにとんちんかん』にて『走れヌケス』というパロディ回がある。

また、漫画家ながいけんも『走れセリヌンティウス』と言うパロディ漫画を書いている。
当作品ではメロスはセリヌンティウスを見捨てて助かろうとする悪人であり、
セリヌンティウスも友人の代わりに死ぬのを良しとしない。
逆に王は友情の尊さを信じる善人なのだが、物語は意外な結末を迎える事になる。

また、小説家森見登美彦も自身の著作「新釈 走れメロス」でメロスのパロディを書いている。
その内容は、真の友情を示すべく腐れ大学生が『約束を守らせようとする』図書館警察館長から京都中を逃げ回るという、
なんとも森見登美彦らしい阿呆臭漂うものになっている。

太宰の故郷である青森を走る地方鉄道、津軽鉄道のディーゼルカーには「走れメロス」と愛称が付けられている。
何故かパチスロ化している。ART中はバイクに乗ったりとやりたい放題している。

太宰が元ネタとしたのはシラーの詩だが、その更に元ネタの『ピタゴラス伝』に登場する「ダモンとピンティアス」は西洋では友情の代名詞となっている。
これはディオニシウス(ダモクレスの剣で有名な王)が忍耐と友情で知られるピタゴラス教団の悪い噂を吹き込まれ、その精神が本物か実験するという話であった*2
この話も明治から日本でも「デイモンとピシアス」として訳されて教科書や童話として親しまれており、太宰も『新ハムレット』の中で用いている。
尚シラー自身は後の改訂でヒュギーヌス 『ギリシャ神話集』に準拠していた登場人物の名を元ネタ通りメロスからピンティアス、セリヌンティウスからダモンに戻している。
またシラーの詩にない「帰還を妨害しようとする王*3」「一瞬でも疑ったことを告白する人質」などの設定については
二人が王の政敵という設定のアイルランドの詩人ジョン・バニムの1864年の戯曲『デイモンとピティアス』が初出とも言われている。
主な設定の変遷は以下の通り。
『ピタゴラス伝』 『デイモンとピシアス』 『ギリシャ神話集』 『担保』初版 『デイモンとピティアス(1864)』 『走れメロス』
処刑される人 ピンティアス ピシアス モイロス メロス デイモン メロス
人質 ダモン デイモン セリヌンティウス 記載なし ピティアス セリヌンティウス
二人の素性 ピタゴラス教団 ピサゴラスの学徒 記載なし 記載なし ピタゴラス教団員で
独裁に反対する議員
村の牧人とシラクスの石工
捕まる理由 実験のための冤罪 日頃の反抗 暗殺未遂 暗殺未遂 暗殺未遂 暗殺未遂
猶予の理由 身辺整理 ギリシャの実家の身辺整理 妹の婚礼 妹の婚礼 最期に妻に会うため 妹の婚礼
期限 日没まで 不明 三日 三日 日没まで 三日
期限ギリギリになる理由 記載なし 記載なし 増水した川 増水した川
盗賊
疲労
従者による妨害
王による迎撃(?)
増水した川
盗賊
疲労
気の迷い


信じているから追記・修正を依頼するのだ。面白い、つまらないは問題ではないのだ。ついて来い! フイロストラトス。

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最終更新:2023年03月27日 22:57

*1 メロスを信じていなかった王にメロスを妨害する理由はなく、推測が事実だとしたら最後の改心が茶番となってしまう

*2 なので最後の「仲間に入れてほしい」の申し出もニュアンスが違ってくる。ちなみに童話などではカットされているが入会資格を満たせないため果たせなかったらしい

*3 王が第三者を装ってピティアスの妻に告げてピティアスに脱獄を唆しているが、デイモンは道中の障害について「反対する従者に馬を殺されたので通りすがりの人から馬を奪ってきた」以外に言っておらず、ピティアス自身デイモン到着の報を「ディオニシウスに妨害されているはず」と最初疑っているため、信頼を揺さぶるためのハッタリかも知れない