ゴジラ対ヘドラ

登録日:2011/06/04(土) 22:30:00
更新日:2023/10/22 Sun 00:02:09
所要時間:約 5 分で読めます






げんばく すいばく


しのはいは うみへ


どくがす へどろ


みんな みんな うみへすてる


おしっこも


ゴジラがみたら おこらないかな


おこるだろうな





ゴジラヘドラ



1971年7月24日に公開されたゴジラシリーズの第11作目。観客動員数174万人。




【概要】

本作は、公害問題が当時の深刻な社会問題となっていたことを受けて、
  • 公害そのものを怪獣化したヘドラの強烈なキャラ
  • 不快にさえ感じる公害の描写
  • 分割されたマルチ画面
  • アニメーションの挿入
といった実験的な演出により、シリーズ最大の異色作とも言われている。
グロテスクな場面も多く、つい先程まで確かに生きていた人間が一瞬で物言わぬ死体と成り果てる様は多くの人々の心を強くえぐる。

この映画は強烈な印象を与え、マニアックな内容で有名な映画雑誌『映画秘宝』5の『好きな東宝特撮ベスト10』では、70年代作品で唯一ランクインを果たす。
また、70年代カルト映画の特集本でも監督のインタビュー付きで掲載され、際立った存在感を醸し出している。

そういう意味で、非常に賛否両論…というより非常に人を選ぶ作品。ゴジラ初心者にはお勧めし難い。
ゴジラ制作サイドや著名人の間でも評価はかなり真っ二つであり、大きく分けてべた褒め派と個人的にはちょっと派に分かれている。

監督は板野義光氏。
前作に引き続き一班体制で製作され、監督の演出の元で本編も特撮シーンも撮影された。

少ない予算の配分の仕方として、特撮を含めた映像面に注力することにし、
役者に関しては若手や劇団系の俳優を中心に起用しており、これまでの東宝特撮の常連俳優は出演していない。

音楽は眞鍋理一郎氏。怪しくおどろおどろしい雰囲気の音楽が作品を盛り上げた。
また、本作の主題歌である「かえせ!太陽を」も非常に強いインパクトのある歌詞が特徴である。
なお、伊福部昭氏によるお馴染みのゴジラのメインテーマは一切流れない。

そしてこの映画を語るうえで外せないのは、ゴジラが空を飛ぶということである。
翼もないのにどうやったのかというと、放射熱線を推進力として*1背中を丸めつつ飛んでいる。
その画のインパクトはすさまじく、場面カットが本に載っていたり、バラエティ番組などで取り上げられたこともあるので映画を観たことはなくてもこのシーンは知っているという人も多い。
監督のアイデアとスタッフの熱意により作られた本作は東宝上層部、特に田中プロデューサーから強い反発を抱かれ、田中氏は話題となったゴジラの飛行シーンは最後まで反対していた。
結局、田中氏が入院した隙を突いて話を通したため、板野氏は干されることとなり、以降はドキュメンタリー映画を中心に製作していくことになる。

本作は第二次怪獣ブームの影響もあって観客動員数は持ち直しており、これ以降はゴジラが新怪獣を迎え撃つ形でシリーズが製作されていく。
これによりゴジラはヒーロー・アイドル化が進み、また新怪獣は強い個性を持っていくこととなる。


【あらすじ】

公害による汚染が広がる駿河湾で、おたまじゃくしに似た奇妙な生物が見つかる。
生物は公害による奇形魚を届けていた漁師により海洋生物学者の矢野徹に届けられ、
矢野は息子の研と共に駿河湾の調査に向かうが、研は海岸で謎の巨大生物に遭遇、矢野も海中で襲われ重傷を負う。

巨大生物はその後もタンカーを沈めるなどの事件を起こし、やがてヘドロの海から生まれたことからヘドラと名付けられる。

ヘドラはある夜に工場の煙を求めて上陸、ゴジラもヘドラを追って上陸するが戦いは決着が付かない。
その後、成長して空を飛べるようになったヘドラは、沿岸地域に硫酸ミストを撒き散らし壊滅的な被害をもたらす。

一方矢野は重傷の身でありながらヘドラ攻略の糸口を見つけ、自衛隊に協力を仰ぐ。
その頃、完全体になったヘドラは、再度現れたゴジラと富士の裾野で戦い始めるのだった。


【登場怪獣】

本作ではゴジラ以外の怪獣はヘドラしか登場せず、ガチンコのタイマンバトルは実は『キングコング対ゴジラ』以来。

ゴジラ
ご存知我らが怪獣王。
触れたり近づいたりするだけでも危険なヘドラの能力には流石のゴジラも苦戦を強いられ、一度は敗退。
挙句に最終決戦では左目を潰され、右手が白骨化するほど皮膚を溶かされるという過去に無い程の大ダメージを受けてしまう。

この頃の年代では基本的には人類の味方と取れる行動をするが、
本作ではヘドロに熱線をかけ何度も踏みつける、去り際に人間達を睨みつけるなど、公害を生み出した人間には怒りを抱いているような印象を受ける。
その一方、なぜか招き猫みたいな挑発ポーズやスペシウム光線みたい構えをとったりしている。

ヘドラ
詳しくは当該項目参照。
作中のヘドラの被害者数は一千万人近くにのぼり、ゴジラシリーズでもトップクラスの被害を出している。

スーツアクターは後に平成ゴジラのアクターを勤める薩摩剣八郎氏(この頃は「中山剣吾」名義)。
この作品が薩摩氏のスーツアクターとしてのデビュー作である。


【登場人物】

◆矢野徹 演:山内明
海洋生物学者。
息子の研・妻の敏江との3人暮らし。ヘドラに遭遇してからはヘドラを研究し、倒すヒントを発見する。
海中で調査をするシーンでは、監督の板野氏が山内氏の代わりに潜っている。

◆矢野研 演:川瀬裕之
ゴジラが大好きな少年。
上記の作文は研によるものである。出番は多く実質的な主人公といえる。

◆矢野敏江 演:木村俊恵
学校教師。
矢野の妻で研究の協力や矢野の介抱をかいがいしくする良い奥さん。

◆毛内行夫 演:柴本俊夫(現:柴俊夫)
ゴーゴーが好きな青年。矢野の知り合いで研の兄貴分。矢野が重傷を負ってからは研の保護者代わりも務める。
公害反対運動として大規模なゴーゴーを企画するが、参加者は100人しか集まらず、
さらにヘドラが現れてしまい、松明を武器に戦うもヘドロ弾が直撃して死亡する。
曲がりなりにもメインキャラクターの一人だが、その最期はあまりにも呆気ないものだった。
シルバー仮面には変身しない。

◆富士宮ミキ 演:麻里圭子
クラブで『かえせ!太陽』を歌っていた女性。ゴーゴーをしていた行夫と知り合い、彼と共に研の保護者代わりになる。
行夫の主催したゴーゴー大会にも付いていくが、研と共に逃げたために殺されずに済んだ。
演じた麻里圭子はビクター所属の歌手でもあり、オープニングも担当している。


【余談】

劇中で印象的なヘドロの海は、スタジオのプールに本物のゴミや魚を撒いて撮影された。
初夏の撮影だったため、撮影が終わる頃には魚が腐ってスタジオ中が異臭に包まれたとのことである。

また、マルチ画面のシーンに登場するヘドロの中で泣く赤ちゃんは、照明スタッフの初孫だったらしい。




追記・修正は、ゴーゴーを踊りながらお願いします。
途中でヘドロの臭いに気付いたらすぐに逃げてください。

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最終更新:2023年10月22日 00:02

*1 この都合で進行方向には背面向き

*2 ((;゜Д゜