世界終末時計

登録日:2012/01/13 Fri 21:08:51
更新日:2024/04/18 Thu 13:52:32
所要時間:約 4 分で読めます






世 界 変 革 の 時


概要

1947年、広島長崎の原爆投下から2年後の冷戦直下のアメリカで発行された雑誌「原子力科学者会報」(Bulletin of the Atomic Scientists)で発案された時計
単に「終末時計」とも呼ばれる。英語では「ドゥームズデイ・クロック」(Doomsday Clock)。なんとも不穏当な名前である。
現実に「終末時計」が存在するわけではないが、シカゴ大学には終末時計のオブジェが設置されている。

ご覧のように時計の左上4分の1の部分を切り取った形をしており、時刻は9時から0時までしか存在しない。
時計の秒針が0時ちょうどを差した時、
即ち『深夜(Midnight)』がめでたく人類滅亡、すなわち世界の終わりとなるわけである。

秒針が進むのは、この時計が作られるきっかけとなった「核戦争」の脅威が迫った時や、
地球温暖化などの異常気象が起こった時に、同雑誌が設立した委員会の役員が自らの手で進める。


しかし、核も地球温暖化も全ては人間のエゴが生み出した問題である。
にもかかわらず終末の時を人類自らの手で刻んでいくとは、なんとも傲慢というか皮肉というのか…

現在針が指しているのは、今までで最も進んだ90秒前。ロシアとウクライナの戦争により2023年に到達した。イスラエルとハマースの戦闘が行われている2024年現在も同じ時間である。


終末時計の推移

1947年に7分前で始まったが、二年後の1949年にはソ連の核実験成功により3分前となり、
朝鮮戦争最中の1953年にはアメリカとソ連の水爆実験成功により2分前とと並ぶ終末まで差し迫った時間帯となる*1

…だがどういう訳かあわや全面核戦争一歩手前という情勢だった1962年キューバ危機時点では針は7分前を示していた
その上ケネディ大統領暗殺まで起きた1963年には針が12分前まで戻っているどういうことなの…

その後核軍縮や米ソ間の雪解けもあり、1972年には12分前とかなり時計の針は戻るものの、'74年の米ソ間SALT I(第一次戦略兵器制限交渉)の難航や両国のMIRV(多弾頭弾道核ミサイル)配備により9分前まで進み、
'80年にはテロリズムの増大やイラン・イラク戦争などもあり7分前まで、'81-'84年には世界の軍拡競争激化が原因となり3分前まで進んだ。
しかしその後は米ソの中距離核戦力全廃条約の締結、それに伴う冷戦終結、そしてソ連・ユーゴスラビア連邦の崩壊もあり'91年には17分前まで戻った*2

しかし1998年、インドとパキスタンの核保有宣言が行われ、時計の針は14分前から9分前へと進む。

そして2002年のアメリカの弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)脱退(事実上の無効)やアメリカ同時多発テロ事件に端を発するテロリストによる大量破壊兵器使用の懸念などで7分前まで、5年後の2007年には北朝鮮やイランの核実験、地球温暖化の進行によって針は5分前まで迫ってしまう。

2010年にはアメリカ合衆国バラク・オバマ大統領の核廃絶運動宣言で6分前まで戻されたが、それも空しく2012年には前年の福島第一原子力発電所事故を初めとする原子力の安全性低下などを理由に再び5分前に進められた。
…が、実際には原発事故よりもイランの核実験の方が原因で針が戻っていたらしい。

実際に1986年にチェルノブイリ原子力発電所事故が起こり、その影響が懸念されていた80年代後半から90年頃にかけては、1984年→3分前 1988年→6分前 1990年→10分前 1991年→17分前と終末時計の針は戻っている。

2015年には気候変動や核軍備増大により3分前へ、そして2017年2月、アメリカ合衆国大統領にドナルド・トランプが就任し、その『世界の警察』のトップにそぐわぬ過激な発言、核廃絶や気候変動対策に消極的な姿勢で時計が2分半前まで進んだ。
さらに2018年、北朝鮮の連続核実験など不穏な情勢が続く中、時計は過去最高の2分前にまで進む。

それ以前に読者も承知のとおり2017年後半には北朝鮮から中距離弾道ミサイルが実験と称して日本へ向けてワンサと飛んでくる異常事態であったにもかかわらず、原子力科学者会報はなんの反応も示していない。
「やっぱりアメリカに被害がなけりゃいいのか」と言いたくなるが、日本は在日米軍や日米安全保障条約などアメリカにとっても割と無視できない領域(のはず)であり、さらには前述したキューバ危機も、当時はまさしく一歩間違えれば米ソの全面戦争で世界が終わる一触即発状態であった。にもかかわらず終末時計は微塵も針が動いていない
そのくせ大統領の発言ひとつで1分戻ったり30秒進んだりするし、気候変動と言うどちらかと言えば政治に利用される学問で進んだりするし。

…お分かりいただけただろうか。
この終末時計、ことの壮大さの割になかなか胡散臭い代物なのである。
第一、「人類への警告」を謳っている割には事が動いてから針の動きを審議する後出しじゃんけんっぷりであり、その針の動かし方もかなり恣意的なものとなっている。
そしてこの時計に関する批判は多いのだが、実は識者の間ではこうした批判的な意見に対して「これは単なる内輪ネタのひとつであり権威でも何でもない」という反論を行い、
批判に対する批判を後出しじゃんけん的に行うことが慣例化している。つまり「普段は権威のように掲げ、批判されたら権威じゃないですと引っ込める」「批判しないのが知識人の間での当然のマナー」のようになっており、割と聖域化の著しい時計である。

しかし科学者がある程度の議論の末に進めるかどうかを決めているものであり、針が進むということは世界情勢がかなり不穏当であることの表れでもある。
決して「適当なことをほざいているだけの壊れた時計」「滅びますよー!世界が滅びますよー!と叫んでいるだけのオオカミ少年みたいな時計」と言い切れるわけではない。
そもそも残り100秒の状態が続いている現在がかなり差し迫った時代にあるということは、この時代に暮らしている我々も肌で感じていることだろう。
まぁどうせコロナ禍が明けて戦争が終わってしばらくしたら「人類が復興に向けて結託したので終末を乗り切れたのだ」って名目あたりで針が戻っていくことだろうが。

結局のところ、終末時計も人類のエゴが生み出した皮肉のひとつに過ぎないのかもしれない。
いろんな意味でファミ通のクロスレビューのようなものと思っておくくらいでちょうどいいかもしれない。

元々この世界終末時計は、広島の原爆投下の「効果」を目の当たりにした科学者たちが「自分たちが積極的な社会的責任を負わなければならない」という危機感を抱き、
世界を破滅に追いやらないための核エネルギーの管理や軍拡への歯止めといった議論を科学者が積極的に論じあった*3
そういった科学者基準の危機感や見解をうまいこと視覚化するための、悪い言い方をすれば「一般人へのパフォーマンス」がこの世界終末時計であり、元々は核戦争の危機を訴えるもので原子力以外に評価基準を持たないこともあって割かし合理的な見解に基づくものであった。
つまり人類への警鐘というよりも「科学者が考えた破滅の瀬戸際までの距離の発表」のようなものだったのだが、これが視覚的に分かりやすすぎたこともあって新聞や教科書などで取り上げられるようになってくると、次第に「権威のある代物」のように誤解されるようになっていったのである。
しかし2015年に気候変動で針を進め、さらに2017年にトランプ大統領の発言で針を進め……とやっているうちに、2019年末以降一気に世界情勢が不穏当なものになってしまう*4
戻すきっかけがないしこれ以上進めるわけにもいかないというわけで100秒前をキープしながら世界の破滅を訴えるという状況であり、「胡散臭い代物」「政治の道具扱い*5」という批判が高まる要因になってしまったのである。
匿名掲示板などではすっかりパフォーマンス扱いとして物笑いの種にするのが流行しており、そのたびに「これは単なる内輪ネタでブラックジョーク」のように指摘する人が出てくるなど、様々な意味で終末と化している。


針がその数字を指すに至る理由はちゃんと明示されているため、世界で何が起きているかということを知るにはちょうどいい代物である。
特に温暖化の進行や気候変動について軽視されがちだという科学者の見解はかなり参考になるものだろう。
上述のようにキューバ危機を反映する前にデタントが進んだせいで進むタイミングを逃したり、北朝鮮からミサイルが同盟国に降り注いだりしても動かなかったりとあてにならない部分は多いのだが、ひとつの基準にはなるだろう。

ここまで胡散臭いだのパフォーマンスだのと批判的に取り上げたが、科学者たちはかなり真面目に議論を行い、一般人にも分かりやすい形へ引き下げて行ってくれているのだ。
それが適切に伝わっているかどうか、信頼性を伴っているかは議論の余地があるが…。



そもそも実際には15分でも、1分でも無く、世界は、我々は…


終焉に向かっているのではないだろうか?











余談

広島県広島市、原爆ドームにも似たような意味合いを持つオブジェが存在する。その名も『地球平和監視時計』。
同市出身の彫刻家岡本敦生氏による作品であり、高さ3.1mの花崗岩(御影石)の上部に現在の時刻を示すアナログ時計、そしてその下の2段の日数カウンターで構成される。

一段目は広島への原爆投下からの日数、二段目は最後の核実験からの日数を表しており、最後の核実験からの日数は新たな核実験が行われる度にリセットされる。
最新のリセットは2021年1月18日、2020年11月行われた事が明らかになったアメリカの臨界前核実験によるもの。

世界最高峰のアメリカンコミックと名高い『ウォッチメン』では、この終末時計が一貫して作品の象徴として扱われていた。





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最終更新:2024年04月18日 13:52

*1 ちなみにこの頃は「午前0時=全面核戦争勃発」ということになっていた。

*2 ただし4年後の'95年には「ソ連は終わったけど後継のロシアが核を持ったままだ」と言う理由で14分前まで進んだ。

*3 当時はまだ「核の平和利用」という概念すら存在しなかった。原子力発電なんて言葉がまだ夢物語だった時期である。

*4 分かりやすいところではアゼルバイジャンとアルメニアの衝突、2020年東京オリンピックの延期などをはじめ世界情勢が非常にきな臭いことになっている。

*5 大統領の発言だけで戻ったり進んだりということではなく、核開発への懸念や気候変動への政策不備などというところを論拠に針を進めることを批判したもの。