デビルマン(実写)

登録日 :2010/03/15 (月) 01:09:07
更新日 : 2017/10/04 Wed 12:24:13
所要時間 :約 18 分で読めます




○目次

【公開前の期待】

アニメ放映と連動する形でスタートし、単行本全5巻に渡る長編となった漫画『デビルマン』の実写化映画作品。
2004年ごろの当時、『忍者ハットリくん』『新造人間キャシャーン』『キューティーハニー』など、アニメ・漫画の実写映画化ブームが起こっており、その流行に乗る形で制作・公開された。

製作費10億円という謳い文句、美麗なCG、そしてエロチックなポスターにより、原作を知らずとも興味津々に映画館に足を運んだ人も多くいたことだろう。
実際、封切当初は多くの映画館が満員になっていたようである。

しかし……


【反響】

微妙なストーリー、役者の演技など数々の問題により、規模・媒体を問わず ネタにすることすらもできない代物 と散々に酷評された。

業界評価は
  • 山本弘(小説家)「娯楽映画製作を志すなら反面教師として絶対観るべき」
  • 前田有一(映画評論家、Webサイト『超映画批評』管理人)「帰りに冨永愛のポスターを見ておけば少しは腹の虫も治るはず」(採点は100点満点中 2点 )
  • 映画秘宝「頑張って観てくれ」
  • 毎日新聞「あの名作が、と思うと腹立たしくてやりきれない」
  • ビートたけし「『みんな~やってるか!』『シベリア超特急』『北京原人』に次ぐ映画史に残る四大おバカ映画」「酔っ払って見たらこれ以上のものは無い」
と惨憺たる有様。
「デビルマン基準」 という言葉を生み出し、後々の映画界の評価基準に混乱と影響を与えたとも言われる。
クソゲーの世界で例えるならば、四八(仮)辺りが近いだろうか。

制作費10億円と前述したが、興行収入は5億円と制作費すら回収できず 大赤字 となった。
週刊文春の、その年の最低映画を決める企画「文春きいちご賞」にて 2004年度1位 を受賞した。

また、監督の那須博之は映画公開から4ヶ月後に病死。また脚本担当の那須真知子も、
2012年に映画『北のカナリアたち』の脚本を務めるまでの約8年間、映画及びドラマ業界から干されることとなった。

監督の名誉を守る余談として、本作の発言権は

「プロデューサー>>>>(超えられない壁)>>>>監督」

であり、映画製作中、特に編集作業中は通常なら監督と編集がお互い意見を出し合い、撮影した映像を作品として組み立てていくのが普通なのに、本作では プロデューサーの独裁 により監督は 全く口を挟むことができなかった

ただし、監督自身も主演の双子を演技の経験がないと知っていながら起用 *1 したり、メディアで爆弾発言を繰り返していたりするので決して監督に非がないわけではない。


【主な問題点】

◇出演俳優の演技

主人公の不動明とその親友である飛鳥了を演じた双子が特に酷いが、彼らは 演技の経験が全くない素人 である。
その一方、本人たちはなぜか自信満々だったようで、
  • 「映画やドラマが好きでよく観るからそんなに難しくないのだろうと思って挑んだ *2
  • 「ジェット・リーを超えるためにトレーニングした」
  • 「(自分の演技を100点満点で採点しろと言われて) 頑張ったという意味で1000点は超えてる
とのコメントを残している。

声の演技が指摘される一方、声以外の演技もつたなく、
  • 運動中、疲れて倒れるシーン
  • 美樹と対面した時の ウキウキしたしぐさ *3
  • 指を切断されそうになったクラスメートに対し、その血まみれの指をくっつけ直そうとする *4
などで不自然さを連発する。
また、終盤でデビルマンであることがバレた場面の 「ほわーん!」 は特に有名(無論良い意味ではない)。

◇特撮、演出、アクションのクオリティが微妙

不自然なワイヤーアクションに、へなちょこなパンチ、おぞましいほどもっさりしたガン=カタもどきなど。
アクションシーンで暗く静かな感じの曲を流すなど、劇伴の使い方もいまいち。

CGは当時の邦画としては割と頑張っていた方ではあるのだが、
2004年と言えば『スパイダーマン2』のようなビルを飛び回る超級CGや、
製作費で言えばこちらよりはるかに少ないであろう映画『ULTRAMAN』での板野一郎が手掛けたCGを用いた非常に動き回る大空中戦など、
名作が公開された年でもあるため、それらと比べてしまうと質が低く見えてしまっている所が物悲しい。

◇ツッコミどころ満載な描写の数々

土砂降りの雨が一瞬で止むなど、不自然なシーンが盛り沢山。
やや無理のある会話やリアリティを削ぐ言動が散見される。
  • 屋敷の中にいたデーモンが 一ヶ所しかない出入り口に殺到して悪魔特捜隊に蜂の巣にされる 。裏口や窓はないのか?というか デーモンなら壁くらい壊せないのか?
  • 「デーモンの疑いのある人間は即射殺」という法律がある(らしい)のに、デーモン姿の明を わざわざ拘束して処刑場まで運んでから殺害ジュラル星人並みの回りくどさ。
  • 障害物が何もない屋上で、至近距離にいるを持った標的相手に 銃を抱えたまま体当たり しようとする。銃はどうしたんだ。
  • さっきまでそこらじゅうの通行人を撃ちまくっていた暴徒が素手で殴りかかってくる明に 格闘戦を挑む 。弾切れでもしたんだろうか。
  • そもそもデーモンは原作だと蜂の巣にされるくらい撃たれまくっても動き回れるが、本作では 銃撃一発で死ぬ
この他、台詞回しのクオリティも低い。
  • ミーコが登校するなり、唐突にデーモン扱いするいじめっ子。いじめの一環にしても、ストーリー展開に無理に合わせた台詞になっていて唐突さは拭えない *5
  • やや時代錯誤な美樹の多産願望。致命的な脚本のミスだとは言えないまでもそれが一般性のある発言とは言い難く、学生が愛を語り合うセリフとして不自然さを感じてしまう。
など、ところどころ会話シーンに粗が見られ、後述のストーリー展開を抜きにしても微妙な脚本になってしまっている。
本作を有名にした評論家の一人である前田有一氏は、出演者の演技に苦言を呈した上で「それでも役者を責めるのは気の毒。あんなセリフを読まされるなら、まともな人が演じたとしても結果は同じ(大意)」とコメントしている。

細かいところでは、演出過剰な小道具や衣装がなんかやたら多い。
  • 何故か文字の全く書いてない絵本 。ストーリーも見受けられない。
  • 家でケーキ作るだけなのにわざわざパティシエ帽を着用。
  • 常にスケッチブックを持ち歩いてる牛久(本作オリジナルキャラ)。
  • デーモンのジンメンに最初に襲われる子供の出で立ちが、丸眼鏡に学童服(学帽付き)。なぜ時代錯誤な服装をしているのか謎。
  • 重箱入りの愛妻弁当
  • やたら本格的なストーカー男(原作には存在しない)。 彼の異常性を強調するためなのか、部屋には美樹を映したディスプレイが沢山置かれている。だが 彼自身から見えない位置にあるため、意味を成していない


◇謎のゲスト多数

ボブ・サップ、小林幸子、KONISHIKI、鳥肌実、布川敏和、的場浩司、果ては 原作者 など、妙に豪華なゲストが何人も出演している。

ちなみにボブ・サップは メインキャストよりも明らかに演技が上手い
小林幸子は第14回「東京スポーツ映画大賞」特別作品賞(2005年)の表彰式においてビデオレターを寄せた際に、
「突然呼び出されて何が何だかわからないうちに出演することになった」という旨のコメントを残しており、出演自体が唐突なものであったことがわかる。


◇はしょりすぎなストーリー

ここからが、ある意味最大の問題点。
上述の問題点は、映画に見入らない人ならそれほど気にならないレベルのものも多い。
本作が散々な評価を受けた原因としては、上記に加えてストーリーの問題が加わり、原作ファンをことごとく失望させた部分が大きいだろう。

大筋だけは割と原作に沿ってはいるが、 ストーリーの過程や心理描写をばっさりカット
原作が名作たる要因・設定をことごとく削っており、思わず「なんでそれ削っちゃったの?」と言いたくなるような省略ぶりを見せる。

かと言って、劇場版『ハリー・ポッター』シリーズのように詰め込み過ぎるからこそのしわ寄せかと思えばそうではなく、尺にそれなりの余裕を持ってストーリーが展開している。
そのくせ、オリジナル要素が妙に多いため「詰め込み過ぎた」という説明は通用せず、むしろ 原作の魅力を活かしていない簡略化 が非常に多い。

原作を知らない人からしても、原作が持っていたテーマを何一つ理解できないまま陰惨な展開が続く上、その過程も強引でとても納得の行くようなものではなく、知らない人が見れば 「ただ理不尽で暗いだけの、何が言いたいのかわからない話」 となってしまっている。


本作の黒幕であり、名悪役でもある飛鳥了は先述の通りのっけからデーモンに合体されたことを明かしており、結果的に飛鳥がストーリーの裏で行った数々の策謀もカットするハメになり、自己催眠やスパイの役目といった要素は何一つ残されていない。
明との最終決戦直前での「人間は嫌いだが明だけは好きだった。明に生きて欲しかったからデーモンにした」という旨の発言から、幼少期から人間のフリをして生活していた様だが、その場合原作と違い他人とすり替わっておらずサタン自身の記憶・人格も封じられてはいないため、「じゃあ両親との関係はどうなるのか」「どうして何年も経ってから攻撃を始めたんだ」「デーモンが復活したのはつい最近なのになんでお前は昔からいるんだよ」などなど、こちらも色々と矛盾が生じてしまう。

その結果、先述の人間が殺し合う経緯も原作 *9 と違って ただの嬉しい誤算 という驚きの少ない展開になっている。

そして、なんと 両性具有設定もカット
そのせいで明を愛した動機がただの友情にとどまっており、原作での人智を超えた愛は影も形も残らなくなっている。
このしわ寄せなのか、 原作最大級の見せ場であるラストシーンも改変


この他にも、細かい部分で改変が多い。

余談だが、デビルマンの映像化作品は幾つか存在しており、その中に傑作と名高いOVA版がある。
これは不動明が飛鳥了と共にデーモンから逃れ、サバトでデビルマンになるまでを描いた「誕生篇」、
デビルマンとジンメン、アグウェル&ゲルマー、シレーヌ&カイムとの激闘を描いた「妖鳥死麗濡(シレーヌ)篇」、
そして諸般の事情でドラマCDとしての発表となった「アルマゲドン篇」を合わせて 約160分で原作を完璧にまとめている
ちなみにOVA2巻分だけでも計116分。 実写デビルマンと同じ時間 である。
無論、アニメと実写でいろいろと事情も変わるから単純に比較はできないし、当初から三部作予定だったOVAと、恐らく映画一作での完結を要求されたであろう実写版という違いはあるが……。


【評価点】

散々な酷評を喰らっている本作だが、評価できる部分もある。
  • しばしば挙がるのが、当時最先端のCGを利用した高クオリティなアクションシーン。円谷プロの人間も関わっており、一瞬劇画タッチに変化する効果 *10 など、演出も魅力的。
  • 同じショッピングモール をロケ地に使用したことが批判の対象に挙がる一方、同じ場所を多用したことで人間社会の堕落が効果的に演出されている。序盤で平和な雰囲気を漂わせていた場所が廃墟のような地と化すインパクトは強烈。
  • オリジナルキャラの牛久だが、このキャラの背景はインパクトの強い仕上がりになっている他、明との友情も効果的に描かれ、同時に明の優しさを象徴するキャラとなっている。掘り下げがなされている分、ジンメンに殺された悲壮感も大きくなるはずだった……多分。
  • 明がアニメ版での私服を着ている、ちょっとしたファンサービスあり。
  • 原作の脇役に対する良改変。明に次ぐ初のデビルマンとして読者をワクワクさせた一方で活躍を描写しきれなかった不遇のキャラ・ミーコを準主人公レベルに活躍させ、原作では理不尽に殺されるススム君 *11 を救済。そして、この二人を軸にサブストーリーを展開。これに関しては、原作ファンにとって胸の熱くなる展開であることに異論はないだろう。
  • そしてラストの改変は、特に評価すべき場所として挙げる人が少なくない。

また、これは評価点とは若干異なるのだが、フォローしておくと本作の欠点に対する指摘に関してはいくつかデマも流れている。
これに関しては、本作の出来具合を世に広めた山本弘の責任が大きい *12 。その内容も、実際に見れば分かる物が多い。

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*1 フォローしておくと、演技経験のない一般人を主役級に起用して成功した映画はいくつか実例がある。『隠し砦の三悪人』『ターミネーター2』など。

*2 当たり前だが「観る」のと「演じる」のは全く違う。

*3 そもそも毎日家で会っているはずなので、ウキウキすること自体がおかしい。しかし、これに関しては監督か脚本に問題がある。

*4 字面だけだとわかりにくいが、ちぎれそうな指をギュッと握っていて明らかに悪化させようとしている。

*5 それ以前に、いくら遅刻とは言え授業終了時の視聴覚室にミーコがやってきたり、人の見てる前で女子がいじめを行ったりするなど、若干不自然。この後、隣の部屋に置いてある地球儀を使ってちょっとしたメタファーが描写されるのだが、その描写をしたいがために教室以外の場所にストーリーを展開した不自然さが見受けられる。

*6 劇中の設定を考えると、漫画版終盤の展開同様に殺害を止めるようシレーヌに指示して追い払ったと考えられる。

*7 シレーヌ版ポスターの美麗さは、本作における評価点の一つである。

*8 確かに疑心暗鬼に陥る状況ではあるが、だからと言って無差別に殺すのは状況的にも早計過ぎるし、国家レベルの行動ではない。

*9 原作におけるデーモンの作戦は「人類の弱点を知るため、人間が抱く恐怖をテレパシーで受け取る」というものだった。そのためにサタンが自己催眠をかけて飛鳥了という人間になりかわり、この作戦を実行した。

*10 T-VISUALと名付けられており、手書き部分の製作は東映アニメーションが担当した

*11 ある日突然、世界中の大人から子供への愛が無くなる永井豪のホラー短編『ススムちゃん大ショック』の主役。他の永井作品でも登場するたび理不尽に死ぬ。

*12 氏は以前に『ザ・コア』という映画に対して、劇中の描写と完全に食い違う欠点を思い込みで存在するかのように勘違いし、批判した事がある。