デビルマン(実写)

登録日:2010/03/15 Mon 01:09:07
更新日:2024/03/21 Thu 18:49:40
所要時間:約 18 分で読めます


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Z級映画 ある意味伝説 あー俺デーモンになっちゃったよ どうしてこうなった なんだよこの展開… カレー沢薫 コメント欄ログ化項目 サタンだからな ススム君が死なない希有な作品 ツッコミどころ満載 デビルマソ デビルマン デビルマンモドキ ネタ映画 ネットミーム ハッピーバースデー、デビルマン 一周回って人気作 原作レイプ→通り越して原作死姦 反面教師 問題点しか見当たらない 山本弘 悪魔 文春きいちご賞 映画 映画界のデスクリムゾン 映画秘宝 本当の主役はミーコとススム君 東映 歴史改変出来たら誕生を阻止しなければならない存在 永井豪 超上級者向け 超問題作 邦画




伝説の原作、ついに完全実写化



俺ハ誰ダ……



概要

アニメ放映と連動する形でスタートし、単行本全5巻に渡る長編となった漫画『デビルマン』の実写化映画作品。
製作・配給は東映。
プロデューサーは冨永理生子、松井俊之、北﨑広実。
監督は那須博之、脚本は那須真知子。

2004年ごろの当時、邦画でもようやくCG技術が普及し始め、長らくアニメーション以外では再現不可能と言われていた漫画的表現が、実写でもある程度可能になってきていた。再現できたとはとても言えないが
そのため、『忍者ハットリくん』『新造人間キャシャーン』『キューティーハニー』など、アニメ・漫画の実写映画化ブームが起こっており、本作もその流行に乗る形で制作・公開された。
例にもれずCGの多用の他、俳優の演技も光る作品である。


【登場人物】

■不動明

有能だが常人離れした親友の飛鳥了に懸命について行く青年。
了からデーモンの存在と親子ともどもデーモンに合体されたことを打ち明けられ、殺してくれるよう頼まれるが断った時、奇しくも自らの誕生日にデーモンの勇者アモンに融合される。
デザインは基本的に原作準拠だが頭の黒い耳などがなく体に紋様の入った中間形態も持ち、コンセプトデザインの肘を前方に突き出したポーズを律儀に再現する。
飛鳥教授が変貌したデーモンを殺し、デーモンになってしまったことを悲観していたときに了からかけられた「人の心を持つデビルマン」の言葉に救われ、
以後は心まで怪物となった者だけをデーモンと呼び、了がデーモンの力を使った時もジンメンに浮かんだ牛久の顔を貫いた自分こそデーモンで了はデーモンではないと訂正する程。
シレーヌ戦で了に助けられたことで、デビルマンの力を「人間を守るための運命」と受け入れる。
しかし終盤、了が亡き美樹を嘲るような発言をしたことで全てを悟り、デビルマンとしてサタンを殺すことを決意。
人間の最後の希望として人間の折り重なった人柱の上に立ち、巨大な生霊を背負って戦う。

■飛鳥了

不動明の親友。原作版と概ね同じ設定だが展開は異なり、
明に自らがデーモンに融合されたことを打ち明け、天使の如きデーモン姿を見せる。
オープンカーで通学しており、ピーポくんのキーホルダーを使っている。
明曰く「笑えない」らしく、美樹を出迎えてウキウキしたしぐさの明の笑顔も理解できない様子を見せ、
周囲からは、明に見せているのとは異なる物騒な顔も噂されている。
アモンやシレーヌといったデーモンの名前や関係にも詳しい。
終盤、デーモン警官に加入して人間を攻撃し、モブのデーモンから、ジンメンも異常者として言及していたサタンの名で呼ばれ、
美樹の生首を教会に納めた明の前に、嘗ての明の決意を否定するかのように「人間に守る価値はあったか」、
生前の美樹が神(原作ではれっきとした登場人物だが本作では一般的な意味)に縋っていたことを知っているかのように「神はいたか」と問う。
明をデーモンに誘うが断られ対決。自分が明に致命傷を与えたことを受け入れられず混乱するも、明から微かに笑顔を向けられ、笑顔を返した。
本作でもデーモンを復活させたのはサタンだが、他のデーモンからの態度に原作ほどの畏怖は感じられない。

■牧村美樹

明が身を寄せる牧村家の長女。明に好意を寄せており、真剣に結婚を考えているが、了のことは警戒している。
強酸を発して学校から逃げたミーコが涙を流していたのを見て人間の心を失っていないと信じ捜索し、悩むミーコに御洒落に目を向けさせるなど、本作における人間の良心。
しかし、ミーコを匿ったことを見ていたストーカー男に通報され、明の自己犠牲も虚しく、暴徒と化した人間によって……。

■牧村夫妻

明が身を寄せる牧村家の両親。 明の秘密を偶然知るが、明が人間のままであることを即座に悟り、ミーコとススムも匿うなどこちらも本作における人間の良心。
牧村家が襲撃された際に結婚してから今まで変わらぬ愛を確かめ合う。

■ミーコ(川本さん)

明と同じ学校で虐められていた少女。終盤の主人公。
いつの間にかデーモンに融合されていたが、人間の心を保っている。
身体から強酸を発射する他、蝶のような翅の生えたデーモン姿を持ち、割と強い部類。
報道されたデーモンの存在をダシにエスカレートした虐めにより、本当にデーモンに融合されていたことを暴かれ、学校から逃げ出す。
美樹を頼って牧村家にススムの保護を頼み、一緒に匿われる。
暴徒の襲撃に先立って牧村家から逃がされ、翅の生えてからでの戦いでは、ススムや暴徒のリアクションで一際美しさが強調される。

■ススム

学校から逃げたミーコが出会った小学生。ミーコに両親の異変を打ち明ける。
デーモンと化していた両親はすんでのところでミーコが倒し、以後はミーコと行動を共にする。
ミーコともども原作から大きく改変されたキャラで、脚本家としては原作者に怒られることも覚悟して報告に行ったところ、
「原作のテーマを良く表現している」と絶賛されたらしい。
ちなみに演じたのは、後に人気俳優となる染谷将太。

■牛久

過去に明を虐めていて了に指を半ばまで切断されたことのある同級生。
本編中に更生し海岸で明曰く「面白い絵」を描いていて明と和解し、了の危険性への警告を発するが、直後にジンメンに捕食され……

【デーモン】

現代に復活した古代生物。それ自体は弱く、他の生物と融合することでその能力を奪う。
なのでアモンなど一部の例外を除き、人間と融合したデーモンは人間並みの力しかない。
融合後にはデーモンの意思が勝つことも人間の意思が勝つこともある。
弱い生物だということに起因してか、ジンメンによればデーモン同士は殺し合わないはずだという。

■シレーヌ

頭に巨大な翼を持ち、白い羽毛に覆われた女デーモン。デビルマン同様、翼を畳み大人の事情で露出度を落としたアニメ版準拠の衣装を着た中間形態も持つ。
了曰く、アモンのことが好きだったために乗っ取った明に怒り襲撃し、デビルマンを圧倒する。

■ジンメン

最初に登場したデーモン警官であり、亀を虐めていた子供を「殺すな 喰え 」と叱って取り上げた亀を捕食、亀型のデーモンとなる。
牛久を含む多くの人間を捕食したデーモン。
牛久を捜索する明を仲間のデーモンと勘違いして自分から声をかけたことで交戦。
「食うだけで無駄に殺したわけではないから罪は浅い」という原作同様の台詞を、人質目的の原作とは違い本気の命乞いとして発言する。
その際「サタンとは違う」と、「無駄に殺すデーモン」の名にも言及する。終盤はサタン以外も食わずに殺すデーモンの方が多くなるが。

■ゼノン(?)

中盤よりオープンモールの大モニターで流れていた外国人のニュースキャスターを乗っ取った名称不明のデーモン。
終盤、三つの頭を持つ姿を現し宣戦布告する。モチーフは原作の悪魔王ゼノンと思われるが三つの頭は全て同じボブ・サップ。

■デーモン警官

警官隊の姿をしたデーモンの軍団。拳銃を所持しており、街で殺戮を繰り広げた。素の戦闘力は人間と大差ない。
中盤で行方を晦ました了が所属しており、冒頭で意味ありげに写された ピーポくんのキーホルダー と併せて警察に浸透したのは彼の手引きであることが示唆されている。


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【公開前の期待】

製作費10億円という謳い文句、美麗なCG、そしてエロチックなポスターにより、原作を知らずとも興味津々に映画館に足を運んだ人も多くいたことだろう。
実際、封切当初は多くの映画館が満員になっていたようである*1

しかし……


【反響】

微妙なストーリー、役者の演技など数々の問題により、規模・媒体を問わずネタにすることすらもできない代物と散々に酷評された。

余りの酷さから、ネットではデビルマンとの明確な区別の為にデビルマとも呼ばれている。
……うん、この映画はデビルマンとはとても呼べないよ。


業界評価は
  • 山本弘(小説家)「娯楽映画製作を志すなら反面教師として絶対観るべき」
  • 前田有一(映画評論家、Webサイト『超映画批評』管理人)「帰りに冨永愛のポスターを見ておけば少しは腹の虫も治るはず」(採点は100点満点中2点)
  • 映画秘宝「頑張って観てくれ」*2
  • 毎日新聞「あの名作が、と思うと腹立たしくてやりきれない」
  • ビートたけし「『みんな~やってるか!』*3『シベリア超特急』『北京原人』に次ぐ映画史に残る四大おバカ映画」「酔っ払って見たらこれ以上のものは無い」
と惨憺たる有様。
「デビルマン基準」という言葉を生み出し、後々の映画界の評価基準に混乱と影響を与えたとも言われる。
クソゲーの世界で例えるならば、四八(仮)、作中作で例えれば星のデデデロボ刑事番長辺りが近いだろうか。

制作費10億円と前述したが、興行収入は5.2億円と制作費すら回収できず、大赤字となった。
週刊文春のその年の最低映画を決める企画「文春きいちご賞」にて2004年度1位を受賞した。というよりこの映画のせいでこの賞ができたとも言え、そういう意味ではアイ惨に近いとも言える。

最初に呼ばれたライター陣が提案した「ウイルス感染により人間がデーモンに変貌する」「キューティーハニーなど同作者の他作品の人物がデビルマンとして登場するバトルロイヤル」「明と了を探偵としたミステリー」といったアレンジを、
他のスタッフからの「原作通りにすべき」という進言で全て没にし、永井に許可を取りに行ったところ、「一本の映画で最後まで済ませること」と条件を出され、その条件で執筆を引き受ける脚本家は苦心したのはうかがえる。

なお、監督の那須博之は映画公開から4ヶ月後に病死。また脚本担当であり監督の妻である那須真知子も、
2006年のテレビドラマ『塀の中の懲りない女たち2』から2012年の映画『北のカナリアたち』までの約6年間、脚本を執筆していない。
大体、プロデューサーの東映の冨永理生子の所為とされている本作の惨状だが、冨永は『北のカナリアたち』のタイアップ担当でもあるため、那須(嫁)を復帰させたのは彼女の力があったから、とも思われる。

監督の名誉を守る余談として、本作の発言権は

「プロデューサー>>>>(超えられない壁)>>>>監督」

であり、映画製作中、特に編集作業中は通常なら監督と編集がお互い意見を出し合い、撮影した映像を作品として組み立てていくのが普通なのに、本作ではプロデューサーの独裁により監督は全く口を挟むことができなかった

ただし、監督自身も、主演の双子を演技未経験と知りながら起用*4したり、メディアで爆弾発言を繰り返していたりするので決してプロデューサー10、監督0で一切の非がないというわけではない。
尤も、監督の那須(夫)は元々、漫画原作のゆるい雰囲気の実写化作品やコメディ系作品(『ビーバップ・ハイスクール』シリーズや『モー娘。走る!ピンチランナー』の監督であり、ヒット作に恵まれてこなかった訳ではない)を多く撮ってきた人なので、演技力の低い新人を起用するのは元からの傾向、と言えなくもない。
今作に限っては、原作が原作だけに視聴者から求められるハードルが高かったのと、ゆるいヤンキー系アクションとは比べ物にならない程に本格的なアクションが期待される作品だったので、そもそもが畑違いだった、とする分析もされている。

尚、プロデューサーの冨永は本作で、過去のプロデュース作品の中でも最低と言われた『北京原人』に続いて「東京スポーツ映画大賞“特別賞”」の受賞となったが、この東京スポーツ映画大賞は、基本的に他の映画大賞とは、かなり受賞の基準や選定が変わっている賞*5であり、中でも特別賞はかなりの皮肉を込めた賞であるという事実がある。
冨永本人もそれを理解した上で「名誉のV2でございまーす」と開き直りとも無神経な挑発とも取れるコメントを残している。
奇しくも『デビルマン』以降は、製作委員会方式が主流となって冨永の名前は前面に出なくなっているが、冨永はその後も干されることなく話題作には関わっている。
何処まで影響のある仕事をしているかは不明だが、かなり当たり外れの多いプロデューサーだということなのかもしれない。


【主な問題点】

◇出演俳優の演技

主人公の不動明とその親友である飛鳥了を演じた双子が特に酷いが、上述の通り演技の経験が全くない素人である。
その一方、本人たちはなぜか自信満々だったようで、
  • 「映画やドラマが好きでよく観るからそんなに難しくないのだろうと思って挑んだ*6
  • 「ジェット・リーを超えるためにトレーニングした」
  • 「(自分の演技を100点満点で採点しろと言われて)頑張ったという意味で1000点は超えてる
とのコメントを残している。その自信はどこから来たんだ?
ただこの生意気とも取れる態度は、所属事務所の指示だったようである。キャラ付けの一環だったのだろうか。
本業のアイドルとして雑誌で答えたインタビュー記事ではキャラ付けが異なり「以前から演技に興味はあり、いずれは脇役でもできれば、と思っていた」「演技以前に関西弁の矯正で精一杯だった」などの弱気を吐露している。

滑舌や棒読みなど声の演技が特に指摘されるが、以下の通り実際には演技や表現全般が拙いと言った方が正しい。
  • 学校での運動中、疲れて倒れるシーン
  • 美樹と対面した時の露骨にウキウキしたしぐさ*7
  • 指を切断されそうになったクラスメートに対し、その血まみれの指をくっつけ直そうとする*8回想シーン内の場面なのでデビルマンの不思議な力の恩恵などはない

ただこれらについては役者の演技というより、そういう演技をするように書かれた脚本や、
こういった演技を要求し、そしてOKを出した監督など現場の責任が大きいため、一概に彼ら俳優のせいとは言えない。

また演技初体験にして初主演、そして有名作品の実写映画化におけるヒーローとラスボス、制作費10億円というプレッシャーを考えれば、
弱冠20歳でこの大役を押し付けられてしまった伊崎兄弟には、むしろ大いに同情すべきであろう。断ればよかったものを…
映画一本で大きく成長するという事はできなくとも、後半に撮影されたシーンにおいては演技力も若干上昇しており、出来栄えはどうであれ、二人が彼らなりに必死になって挑んでいた事は間違いない。

なお伊崎兄弟は本作以後も舞台を中心に役者として活動を継続しており、その演技力は確かなものになっている事を追記する。
初主演『デビルマン』という経歴を背負わされてなお、二人の若者の人生が狂わなかった事は、不幸中の幸いの一つだといえよう。


◇特撮、演出、アクションのクオリティが微妙

不自然なワイヤーアクションに、弱弱しいパンチ、おぞましいほどもっさりしていて銃の反動が忘れ去られたガン=カタもどきなどアクションのクオリティも低レベル。
中盤、了が見せた狙撃ポーズはどう見ても世界一腕の立つ殺し屋のそれである。
アクションシーンで暗く静かな感じの曲を流すなど、劇伴の使い方もいまいち。

CGは当時の邦画としては割と頑張っていた方ではあるのだが、
2004年と言えば『スパイダーマン2』のようなビルを飛び回る超級CGや、
製作費で言えばこちらよりはるかに少ないであろう映画『ULTRAMAN』での板野一郎が手掛けたCGを用いた非常に動き回る大空中戦など、
名作が公開された年でもあるため、それらと比べてしまうと質が低く見えてしまっている所が物悲しい。
どうやらT-VISUALの完成までに多数の試行錯誤を繰り返した*9らしく、本作の製作費については完成映像以外にかかった費用が大きいのではないかという説もある。


◇ツッコミどころ満載な描写の数々

土砂降りの雨が一瞬で止むなど、不自然なシーンが盛り沢山。
やや無理のある会話やリアリティを削ぐ言動が散見される。
  • 屋敷の中にいたデーモンが一ヶ所しかない出入り口に殺到して悪魔特捜隊に蜂の巣にされる。裏口や窓はないのか?*10というかデーモンなら屋敷の壁くらい壊せないのか?
  • 「デーモンの疑いのある人間は即処刑」という法律がある(らしい)のに、デーモン姿の明をわざわざ拘束して処刑場まで運んでから殺害ジュラル星人並みの回りくどさ。
  • 障害物が何もない屋上で、至近距離にいるを持った標的相手に銃を抱えたまま体当たりしようとする。銃はどうしたんだ。
  • さっきまでそこらじゅうの通行人を撃ちまくっていた暴徒(警察官)たちが、素手で殴りかかってくる明に格闘戦を挑む。弾切れでもしたんだろうか。なお、明を包囲している訳でもないので、同士討ちを避けるためというのはあり得ないし、全員ではなくとも最前列にいる警官くらいは普通に撃てるはずである。
  • そもそもデーモンは原作だと蜂の巣にされるくらい撃たれまくっても普通に動き回れるが、本作では銃撃一発で死ぬ

この他、台詞回しのクオリティも低い。
  • ミーコが登校するなり、唐突にデーモン扱いするいじめっ子。いじめの一環にしても、ストーリー展開に無理に合わせた台詞になっていて唐突さは拭えない*11
  • やや時代錯誤な美樹の多産願望。致命的な脚本のミスだとは言えないまでもそれが一般性のある発言とは言い難く、学生が愛を語り合うセリフとして不自然さを感じてしまう。
など、ところどころ会話シーンに粗が見られ、後述のストーリー展開を抜きにしても微妙な脚本になってしまっている。
というか脚本にない演出・台詞も多く、アドリブで微妙になってしまったシーンが実に多い。誰のせいだったのだろうか……。
本作を有名にした評論家の一人である前田有一は、出演者の演技に苦言を呈した上で「それでも役者を責めるのは気の毒。あんなセリフを読まされるなら、まともな人が演じたとしても結果は同じ(大意)」とコメントしている。

細かいところでは、演出過剰な小道具や衣装がなんかやたら多い。
  • 何故か文字の全く書いてない絵本。ストーリーも見受けられない。
  • 自宅でパティシエ帽を着用し、白昼堂々ケーキ作り。サプライズパーティの準備だったらしいが、隠す気無いだろその恰好。
  • 常にスケッチブックを持ち歩いてる牛久(本作オリジナルキャラ)。
  • デーモンのジンメンに最初に襲われる子供の出で立ちが、丸眼鏡に学童服(学帽付き)。なぜ時代錯誤な服装をしているのか謎。そういう学校があるという設定なのだろうか。
  • 重箱入りの愛妻弁当。やたら大食いなのだろうか。栗はイガごと入っている
  • やたら本格的なストーカー男(原作には存在しない)。彼の異常性を強調するためなのか、部屋には美樹を映したディスプレイが沢山置かれている。だが彼自身から見えない位置にあるため、意味を成していない。そもそも物語にロクに絡まない。
  • 浮浪者やアベックをデーモン認定して襲う白タンクトップ姿のデブ3人組。通称『アポカリプスデブ』
    • 「人々が疑心暗鬼によって暴徒化した」という場面で唐突に出現する。脚本上では『若者達が鉄パイプなどで浮浪者を集団暴行している』など、一般的な不良グループのイメージだったようだが、本編ではご覧のとおり山下清ルックでタックルやボディプレスをかましてくる。どうしてこうなった。
      • 体格に関しては有志の調査によるとプロレスラーが起用されているらしく、アクションの迫力を求めたキャスティングではないかという説もあるが、山下清ルックや、デーモンよりも一般人に迫力を出した理由は不明。


◇謎のゲスト多数

ボブ・サップ、小林幸子、KONISHIKI、鳥肌実布川敏和、的場浩司、嶋田久作、果ては原作者など、妙に豪華なゲストが何人も出演している。

ちなみにボブ・サップはメインキャストよりも明らかに演技が上手い
小林幸子は第14回「東京スポーツ映画大賞」特別作品賞(2005年)の表彰式においてビデオレターを寄せた際に、
「突然呼び出されて何が何だかわからないうちに出演することになった」という旨のコメントを残しており、出演自体が唐突なものであったことがわかる。そして終盤でデーモンとしての本性を見せたが、そこで出番は終了。


◇はしょりすぎなストーリー

ここからが、ある意味最大の問題点。
上述の問題点は、映画に見入らない人ならそれほど気にならないレベルのものも多い。
本作が散々な評価を受けた原因としては、上記に加えてストーリーの問題が加わり、原作ファンをことごとく失望させた部分が大きいだろう。

大筋だけは割と原作に沿ってはいるが、ストーリーの過程や心理描写をファスト映画並みにばっさりカット
原作が名作たる要因・設定をことごとく削っており、思わず「なんでそれ削っちゃったの?」と言いたくなるような省略ぶりを見せる。

かと言って、後の実写映画版『るろうに剣心』シリーズ(こちらは批評・興行双方で大成功し、最終的に5部作に)や『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』のような、原作から色々と詰め込み過ぎるからこそのしわ寄せかと思えばそうではなく、尺にそれなりの余裕を持ってストーリーが展開している。
そのくせ、オリジナル要素が妙に多いため「詰め込み過ぎた」という説明は通用せず、むしろ原作の魅力を活かしていない簡略化やアレンジが非常に多い。

原作を知らない人からしても、原作が持っていたテーマを何一つ理解できないまま陰惨な展開が続く上、その過程も強引でとても納得の行くようなものではなく、知らない人が見れば「ただ理不尽で暗いだけの、何が言いたいのかわからない話」となってしまっている。

+ 詳細
まず、漫画版『デビルマン』におけるデビルマン誕生シーンは、
  1. 気弱な高校生の不動明が、親友の飛鳥了に「父から恐怖の遺産を受け継いだ」と助けを求められる
  2. 飛鳥博士の狂死、襲い来るデーモン、恐怖の遺産=デーモンの闘争の歴史を体感するなど極限状態まで追いつめられる
  3. デーモンと戦うためにはデーモンと合体し、かつ人間の精神を保たねばならない。デーモンに精神で負ければ終わり、勝っても弱いデーモンと合体してしまえば戦いの中で死ぬし、強いデーモンと合体すれば死ぬまで殺し合いが続く
  4. それでも飛鳥から「君を選んだのは君が一番信頼できて心が強い人間だから」と言われ、覚悟を決めてデーモンを呼び寄せるサバトに挑み、デーモンと合体
  5. 「俺は、手に入れたぞ!悪魔の力を!俺は!俺は!デビルマンだ!!」
という非常に熱い展開となっている。

デビルマンは不動明と悪魔アモンが合体することで誕生するのだが、原作以外の誕生経緯として、
  • アニメ版:ヒマラヤ登山中に凍結されたデーモンの世界に迷い込んだ不動明の肉体を乗っ取った勇者デビルマン(漫画版で言うところのアモン)が、主題歌で歌われる通り初めて知った美樹の愛に心を打たれ、彼女とその家族を守るために反旗を翻す
  • 闘神デビルマン:我が身を顧みず自分や友人を助けるために命を懸けた神代慶の「心の強さ」に興味を抱いたアモンが、彼を助けるために合体。二人で一人のデビルマンとなる
  • デビルマンG:悪魔に襲われたミキを守るため身を挺した不動アキラに、ミキが召喚した悪魔アモンが憑依しデビルマンとなる
などのパターンがある。

不動明がアモンの意識を奪うもの、アモンが不動明の意識を奪うもの、神代慶とアモンが互いに共存するものと状況は様々だが、いずれにせよ「主人公=アモン=デビルマン」は覚悟を決めて、人間界を侵略に来るデーモンとの戦いに臨むのだ。

では本作はどうかと言うと、
  1. 飛鳥博士の残したタンクから漏れだしたデーモンとたまたま合体
  2. その場に現れた名も無きデーモンを瞬殺してから、「あー、俺デーモンになっちゃったよ」(棒読み)
  3. 「デーモンじゃないよ、デビルマンだよ」
  4. 「デビルマン?」「身体はデーモンでも、心は人間」
  5. 「ハッピーバースデー、デビルマン」
……と、不動明の覚悟もアモンが目覚めた人の優しさもクソもない導入になっている。

また、明がデビルマン化する前の段階で、飛鳥が自分もデビルマン(実際はデーモン)であることを明かしつつ殺してくれと頼み込んでくる。原作では終盤で明らかになる衝撃的な事実なのだが……。

なお原作ではこの序盤で、デーモンが先史以前の地球の支配者であったこと、人類を殲滅して再び地球を蹂躙しようとしていること、それを実現できるだけの能力を持ち合わせていることなどが説明されるが、それらは一切語られない
これらの背景設定は、デーモンの出現がいかに恐ろしい出来事であるかを理解するために必要不可欠な要素である。にも関わらず、これをすっ飛ばしたまま話が進むため、明が人類を守るために戦う動機がほとんどわからなくなっている。
さらに言うなら、敵の動機が説明されていないために「突然現れた災厄とひたすら戦うだけの話」になっているため、正直これだとただのパニック映画と変わらない
ただし、明が戦う理由への一応のフォローなのか、後に「偶然でも自分の意思でデビルマンになったと思わないと耐えられない」と吐露している場面がある。

他にも、例えば序盤の最大の山場であるデビルマンVSシレーヌ戦では、
  1. シレーヌ配下のデーモンとの戦いを繰り広げた後の不動明をシレーヌが強襲
  2. 勇者アモンとの間にあった感情を吐露しつつ、デビルマンと壮絶な死闘を繰り広げる
  3. 致命傷を負ったシレーヌが、彼女に思いを寄せるデーモン・カイムと合体。デビルマンをあと一歩のところまで追い詰めるも息絶える
  4. 一命を取り留めた明は、飛鳥と共にシレーヌの死に様を見、その美しさに思わず涙する
という原作屈指の名シーンが続く展開なのだが、本作では…
  1. アグウェルとゲルマーのくだりを省略し、いきなりシレーヌが牧村家に侵入
  2. 明、デビルマンになってシレーヌと空中戦
  3. シレーヌに地面に叩き落とされる明、あわや一巻の終わりか?
  4. そこに駆けつける飛鳥、シレーヌを恫喝
  5. 次の日……
となっている。4と5の間が最大の盛り上がりなのに、どうしてこうなった?

ちなみに、シレーヌはこの後全く出てこない。了が倒したらしいことが示唆される*12くらい。
尺の都合とはいえ、ポスターで大々的にアピールしていたのにもかかわらずこの扱いである*13

また原作屈指の外道・ジンメンとの戦いでも大規模な改変が加えられている。
「人間が動物を食べるのと同様、自分も人間を食べただけ」と主張する一方、食べた人間の意識が残った顔を甲羅に浮かべるジンメンは、
漫画版および『サイボーグ009VSデビルマン』冒頭では不動明と親しかった少女サッちゃんを、OVA版ではあろうことか明の母親を盾にしてデビルマンを散々嬲りものにする。
デビルマンは苦悩の末、犠牲者たちの「もう私は死んでいるのよ!だから殺して!」という叫びを聞いて覚悟を決める。
「やめろ、俺が死んだらこいつらも死ぬんだぞ!」と命乞いするジンメンだが、デビルマンは「だが、お前も死ぬんだろ!」と言い返して甲羅を引きはがし、ジンメンを倒す。
以上が原作での流れである。

だがこの映画ではというと、明の友人である牛久くんを取り込んだ映画版ジンメンは、牛久くんがよくいる海辺で牛久くんを探してあっちこっち走り回った挙句なぜか水中まで探そうとした明に対して甲羅を見せつける。
  1. 「明、俺、こいつに喰われちゃったよぉー」「牛久くーん!」
  2. 躊躇せず牛久くんの顔面をワンパンでぶち抜く*14
  3. 「ば、馬鹿な、デーモン同士は殺し合わないはず……」「滅びよ、デーモン!」
……という、うっかりすると一周回ってなんか格好良く見えてしまいそうになる構成になっている。
なお、「デーモン同士は殺し合わない」という設定は過去作には全くない。それどころかデーモンは仲間ですら共食いもしばしばやる。

そして、デーモンの恐ろしさが観る人間に伝わらないまま、人類は疑心暗鬼に陥り殺し合いを始める。が、その経緯もかなり煩雑。
そもそも、原作で人類がデーモン狩りを始めたのは原作の単行本でほぼ1巻分に及ぶ事件の経緯がある。
  1. 人間が無差別にデーモンへと変化(未遂)する様子を世界中の人が目撃
  2. その上でデーモンの王・ゼノンが全世界に宣戦布告。潜伏していたデーモンのせいで世界がメチャクチャにされ、危うく米ソが戦乱状態になりかける事態も発生
  3. この事件の中で、デーモンが人類では太刀打ちできない生命体であるという事実を突きつけられる
  4. そうして「デーモンがどこに潜伏しているかわからない」という状況の中、ノーベル賞クラスの学者が誤った研究を発表し、「社会への不満を抱いた人間がデーモンへ覚醒する」という理論が世界に浸透
このプロセスが積み重なった結果、「デーモンへと覚醒する前に」と、人間同士が殺し合う結末を迎えてしまう。

一方、本作においてデーモンの強さは十分に描写されておらず、それどころか悪魔特別捜査隊にあっけなく銃殺され、
そもそも了から「強い生物と合体しなければ弱い生物」と言われるなど、ジンメンやシレーヌなどの名のある個体以外で戦闘能力の高いデーモンが存在していないかのように扱われている。
また、1のような総攻撃で覚醒する描写も描かれておらず、「世界中でデーモンが悪さをしている」程度。
原作と比べればはるかに緩い状況であり、宣戦布告すらない。
なのに何故か世界は突然、上記のプロセスを何一つ歩まず疑わしき者を問答無用で抹殺する世界へと変わる*15

こうして、唐突な展開のもと世界観に入り込めないままストーリーが進んでしまう。
「人間は醜い」というワードが劇中しきりに出てくるが、醜さを発揮するまでのプロセスが強引なため全く共感できない。

極めつけが、原作読者に衝撃と絶望を与えた牧村美樹の落命シーン。
原作はどうなっているのかと言うと
  1. 飛鳥涼によってデビルマンの正体をばらされた不動明が牧村家から逃げると、明を捕まえられなかった悪魔特捜隊が代わりに牧村夫妻を連行
  2. 残った美樹とタレちゃんを町の住民が「悪魔の血を引く魔女」だと思い込み、牧村家を襲撃
  3. 最初は人を傷付けることをためらっていた美樹だが、護衛の木刀牧に「死にたくなかったら武器を取れ」と言われ、戦うことを決意
  4. 襲いかかってきた暴徒を火炎瓶で焼き殺し、「私は魔女よ、舐めるな!」と言う
  5. だが結局物量の差には勝てず、牧と弟までも殺され自身も重症を負う
  6. 「魔女じゃない、魔女じゃ...」と力なく呟き、殺されてしまう
このように描かれている。
このシーンでは最初に自分と弟を守るため、そして生きて明に会うために戦う決意をした美樹の力強さを描き、その後に追い詰められか弱い少女に戻ってしまった美樹の姿を描くことで、圧倒的な暴力に追い詰められた美樹の絶望を読者も味わうことになる。
ではこの映画ではどう描かれているのかというと、あろうことか「私は魔女よ、舐めるな!」の後の暴徒との戦いを殆どすっ飛ばし「魔女じゃない、魔女じゃ...」のシーンに行ってしまうのである。
つまり勇ましく「私は魔女よ、舐めるな!」と啖呵を切った直後に弱々しく「魔女じゃない、魔女じゃ...」と弱音を吐くという、原作を知っていようがいまいが乾いた笑いしか出てこないシーンになってしまっている。
ついでに言うと、原作のような重症を負っているようには見えず、どうみてもただ突き飛ばされただけ
さらに言えば、原作では美樹の死体を担ぎ上げて踊り狂っている群衆を明は激情のままに皆殺しにするのだが、この映画では明が牧村家に来た時には暴徒は既に引き上げた後
原作では「お前たちこそ悪魔だ!」というセリフとその後のこのシーンで人間への絶望が描かれているのだが、この映画では前者のセリフもミーコに取られてしまっており、デビルマンの人間への絶望と決別という重要なシーンが丸ごと無くなっているのだ。

本作の黒幕にして名悪役でもある飛鳥了は、先述の通りのっけからデーモンに合体されたことを明かしており、結果的に飛鳥がストーリーの裏で行った数々の策謀もカットするハメになり、自己催眠やスパイの役目といった要素は何一つ残されていない。
明との最終決戦直前での「人間は嫌いだが明だけは好きだった。明に生きて欲しかったからデーモンにした」という旨の発言から、幼少期から人間のフリをして生活していた様子だが、その場合原作と違い他人とすり替わっておらずサタン自身の記憶・人格も封じられてはいないため、
「じゃあ両親との関係はどうなるのか」「どうして何年も経ってから攻撃を始めたんだ」「デーモンが復活したのはつい最近なのになんでお前は昔からいるんだよ」などなど、こちらも色々と矛盾が生じてしまう。

その結果、先述の人間が殺し合う経緯も原作*16と違ってただの嬉しい誤算という驚きの少ない展開になっている。

そして、なんと両性具有設定もカット
そのせいで明を愛した動機がただの友情にとどまっており、原作での人智を超えた愛は影も形もなくなっている。
このしわ寄せなのか、原作最大級の見せ場であるラストシーンも改変

+ 詳細
互いに致命傷を負った明と飛鳥が友情に満ちた会話を繰り広げるという場面に。
また、デーモンが人類以前の地球の住民だった設定もスルーされているため、この場面で発覚する衝撃的な事実もカット。

この時、飛鳥は明に対し、しきりに「死ぬなー!」と叫ぶのだが……自分で殺しといてそれはないだろ。
(補足しておくと、原作では自分が友を殺したという事実を静かに、そして悲しそうに受け入れていた)

しかも、こんな有様でありながら「岩場」「夕焼けの割れた月(原作では満月)に照らされる二人」「下半身のなくなった明の亡骸」と、シチュエーションだけはしっかり再現している

この他にも、細かい部分で改変が多い。

余談だが、デビルマンの映像化作品は幾つか存在しており、その中に傑作と名高いOVA版がある。
これは不動明が飛鳥了と共にデーモンから逃れ、サバトでデビルマンになるまでを描いた「誕生篇」、
デビルマンとジンメン、アグウェル&ゲルマー、シレーヌ&カイムとの激闘を描いた「妖鳥死麗濡(シレーヌ)篇」、
そして諸般の事情でドラマCDとしての発表となった「アルマゲドン篇」を合わせて約160分で原作を完璧にまとめている
ちなみにOVA2巻分だけでも計116分。実写デビルマンと同じ時間である。
無論、アニメと実写でいろいろと事情も変わるから単純に比較はできないし、当初から3部作予定だったOVAと、恐らく映画一作での完結を要求されたであろう実写版という違いはあるが……。


【評価点】

散々な酷評を喰らっている本作だが、評価できる部分もある。
  • しばしば挙がるのが、当時最先端のCGを利用した高クオリティなアクションシーン。円谷プロの人間も関わっており、打撃の瞬間などに一瞬劇画タッチへ変化する効果*17など、演出も魅力的。
  • 同じショッピングモールをロケ地に使用したことが批判の対象に挙がる一方、同じ場所を多用したことで人間社会の堕落・荒廃が効果的に演出されている。序盤で平和な雰囲気を漂わせていた場所が廃墟のような地と化すインパクトは強烈。
  • デーモン疑惑を持たれた人間を集団でリンチする描写の生々しさ。
  • オリジナルキャラの牛久だが、このキャラの背景はインパクトの強い仕上がりになっている他、明との友情も効果的に描かれ、同時に明の優しさを象徴するキャラとなっている。掘り下げがなされている分、ジンメンに殺された悲壮感も大きくなるはずだった……多分。
  • 明がアニメ版での私服を着ている、ちょっとしたファンサービスあり。
  • 原作の脇役に対する良改変。明に次ぐ初のデビルマンとして読者をワクワクさせた一方で、活躍を描写しきれなかった不遇のキャラ・ミーコを準主人公レベルに活躍させ、原作では理不尽に殺されるススム君*18を救済。そして、この二人を軸にサブストーリーを展開。これに関しては、原作ファンにとって胸の熱くなる展開であることに異論はないだろう。
  • ちなみにミーコ役は渋谷飛鳥、ススム君役はなんと子役時代の染谷将太である。この2人は今でも役者として大活躍している。
  • 明は原作通り人間によって大切な家族と呼べる存在を失うのだが、最後まで「どんなに醜くあっても、それでも救うべき人は存在する」という考えを捨てず、原作のようにデビルマン軍団を結成しないまま孤独になりながらも人間側へ立ち、デーモンに最後の決戦を挑み1人の人間として散っている。
  • そしてラストの改変は、特に評価すべき場所として挙げる人が少なくない。

+ ネタバレ
ラスト15分~5分、ミーコとススムの二人が、炎に包まれる世界の中で生きることを諦めず、世界を(自分たちにできる範囲で)再生させていくことを示唆させる。

原作ではこの時点で世界は滅亡しており、その後の作品でも新世界を創造するか強制的に上書きをしているのに対して、本作では世界が終わらない可能性がある。
(演出的には世界は再生されるっぽい。つまり、心正しき二人のデビルマンが作る新しい世界の到来を意味する)

実際にはその後すぐ死んでしまったのかもしれないが、文明崩壊の絶望真っ最中であっても消えない、二人のような清く正しい魂の有り様こそが作中で言われる「真のデビルマン」であり、永井作品が持つ美しさを上手く表現している。

また、これは評価点というよりも問題点へのフォローになるのだが、本作の欠点に対する指摘に関してはいくつかデマも流れている。
これに関しては、本作の出来具合を世に広めた山本弘の責任が大きい*19。その内容も、実際に見れば分かる物が多い。

+ 具体例
  • 「ジンメン襲来後、唐突に場面が海岸から森に移動し、夜だったのが突然昼に変わっている」
    • この場面、デビルマンになった明が海岸から森に飛び立つシーンはきちんと描写されている。
    • また、海のシーンでは月明かりが非常に明るく描写されており、森のシーンには月明かりが差し込んでいる。陽の光ではない。
    • 確かに、ジンメン登場前後の場面・時系列の移り変わりは色々と唐突だが、致命的な破綻と言えるレベルではない。
  • 「中盤で飛鳥がサタンであることを自白していたにも拘らず、明が終盤で『お前がサタンだったんだな!』と叫ぶ」
    • 確かにそうなのだが、これはストーリー的な矛盾ではなく演出・シーン切り替えの問題。台詞のニュアンスも微妙に違う。
    • まず自白のシーンは、暴徒化した警察官に混じって飛鳥が人類の虐殺に参加しているのを明が目撃した場面。ここで「生きていたのか」と問われた飛鳥が「ああ、サタンだからな」と自白するのだが、その後明は失望するように去っている。その後劇中終盤で二人が再会して明が「お前は最初からサタンだったんだな。ずっと俺を騙していたんだな」と発している。
      つまり、「最初からサタンだったんだな」は自白シーンに続く会話をしていると考えれば別に矛盾していない。2シーンの間に「了=サタン」が強調される描写もないので、「サタンだからな」発言が完全に無視されているわけではない。
      • 「最初から」「騙していたんだな」という点については「(俺がデビルマンになったあの時からじゃなくて出会った)最初から」、「(自分の様に半デーモンになったのではなく、元々デーモンであったことを隠して)騙していたんだな」と補完でき…なくもない。劇中で「サタン」という存在の説明が端折られすぎているので、この点に関しては判断し辛い。
    • もっとも、2シーンの間で何日も経過しているのに、明が唐突にこの事を持ち出すのはかなり不自然ではある。終盤のシーン単体で見ると「人間に守る価値はあったか!?」⇒「お前は最初から~」となっており会話が成立していない。
    • 前述の通り了の家族関係や先に行動を開始していた理由にも不可解な点があるので、論理的に正体が確定したとしても親友だけに受け入れるまで時間がかかったと考えても不自然ではないが、説明不足の感は残る。
      • それに加え、「サタンだからな」以前のタイミングにおいて、『ジンメンが死ぬ間際に「サタンは人間を皆殺しにしようとしている」と言い残す』『飛鳥が悪魔特別捜査隊に襲われたデーモンから「サタン、助けてくれ!」と乞われる』というシーンがあり、「飛鳥了はサタンという、デーモンの上位存在なのでは?」と明が予想出来る材料は了の自白よりも前から存在している。
        にもかかわらず「サタンだからな」発言に対して全く食いつかず、物語の最終盤になってからの上のやりとりでは、整合性が取れていない(サタンと呼ばれた・サタンだと明かした事実を明が忘れている)様に見えるのは仕方がないともいえる。
  • 「ほわーん!」
    • 終盤で美樹の父親に明がデーモン(デビルマン)であるとバレる場面において、明が「ほわーん!」という叫びを上げるとされているが、該当場面での台詞はどう聞いても「アーーーー」である。全く抑揚がない上に言わない方が自然なレベルで浮いている台詞ではあるが、少なくとも「ほわーん」ではなく、聞き間違いと言えるものですらない。
    • 上映された2004年当時のブログでも「ほわーん」として扱われており、当時からそう認知されていた様子。そう何度も映画代を払って見たくない出来で棒読み叫び声にも種類があったために、間違って定着したのだろうか。


さらに真面目な方向でいうと、「ヘイトスピーチや人種差別、移民問題の深刻化、陰謀論の蔓延などで現実世界が劇中に追いついてしまったがために劇中の突拍子もないと思われていた描写が笑えなくなっている。」なんて声も。
現代社会への早すぎた警鐘として観るのも……ありなのかもしれない。


【ネタ方面での人気】

先述したようにとても褒められた出来ではない本作だが、一方で
突っ込みどころが多すぎてかえって退屈しない
初見でも酷さが分かりやすい入門向けクソ映画
高いチケット代を払わずネタ映画として観る分には十分面白い
と出来の酷さを含めて愛好する物好きな視聴者も多く、ネタ方面ではファンコミュニティも確立されている。
レンタルショップでもあまりの低評価から怖いもの見たさに借りる客が多く、回転率がいい作品になっているんだとか。
近年になってサブスクリプションサービスによって視聴ハードルがぐっと下がったこともこのムーブメントを後押ししており、ネット上ではジョークとして武器や平成最凶の拷問器具扱いされたり、出来が悪かったりツッコミどころが多すぎるものに対して創作物に限らず「〇〇界の実写版デビルマン」という表現が用いられたりと、最早デビルマンのダメ実写版というよりも「実写版デビルマン」というひとつのネットミームと化しつつある。
ゲーム界におけるデスクリムゾンの立ち位置とでも言うべきか。
酷さを極めると芸術ね

デビルマン自体が世界的に高い人気を誇ることから海外のオタク層でもある程度の知名度を得ているらしく、2021年にはアメリカのメディアブラスターズ社から北米向けに英語字幕付きBlu-rayが発売された
因みに、そのアメリカでも、同じようにあまりの低評価から伝説のネタ映画として高い人気を誇る『ザ・ルーム』という映画が存在する。
低評価も行くところまで行くと一周回って伝説になる辺りはどこの国も大して変わらないのだろうか。






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最終更新:2024年03月21日 18:49

*1 とはいえ、キャストの発表などとともに地雷臭を感じる人が増え、予告編が発表されるやキャストの棒読みぶりが明らかになり、掲示板は炎上したらしい。その後も監督が「当時『少年ジャンプ』で読んでいました(連載されていたのは『週刊少年マガジン』)」と発言したり、その他のキャストの発言が常軌を逸するものであったり、公開が半年遅れたりしていたためすでに各所が炎上していたとの話もある。

*2 この前に「この惨劇のような映画を身銭切って観にいって、初めて激怒する権利を得ることができるのだから。」とつく。つまり「見ないで批評するのはだめだから、批評するために頑張って観てくれ。」ということ。

*3 なお監督は「ビートたけし」(北野武名義ではない)

*4 フォローしておくと、演技経験のない一般人を主役級に起用して成功した映画はいくつか実例がある。『隠し砦の三悪人』『ターミネーター2』など。もしかしたら監督もそれを期待していたのかもしれないが、元々、別に主演が下手でも成り立つ映画を撮ってきた人でもある。

*5 ワイドショーで話題になった人物や、近年では控えられているがAV女優枠があった。

*6 当たり前だが「観る」のと「演じる」のは全く違う。

*7 そもそも毎日家で会っているはずなので、ウキウキすること自体がおかしい。

*8 字面だけだとわかりにくいが、ちぎれそうな指をギュッと握っている。応急処置としては明らかに悪手。とはいえ、知識や経験のない若者が咄嗟にやることとしてはむしろ妥当ともとれる。むしろ問題はこの行為が悪手ではなく明のおかげで切断を免れたと感謝されているように描かれている事なので脚本や演出の方と言える

*9 CG以外でも松枝佳紀が自ブログで語るところによれば那須監督の自宅には「大切に思っていながらも切られてしまったシーンの数々を保存したDVD」があるといい、また確認はできなかったが本編に登場しない雪山のシーンのことをいい物が撮れたと那須監督自身も松枝に自慢していたという

*10 一応ベランダもあるのだが、出入り口に殺到した後、今度はベランダに殺到して撃たれる。パニック状態だとしても学習能力と判断力がない

*11 それ以前に、いくら遅刻とは言え授業終了時の視聴覚室にミーコがやってきたり、人の見てる前で女子がいじめを行ったりするなど、若干不自然。この後、隣の部屋に置いてある地球儀を使ってちょっとしたメタファーが描写されるのだが、その描写をしたいがために教室以外の場所にストーリーを展開した不自然さが見受けられる。

*12 劇中の設定を考えると、漫画版終盤の展開同様に殺害を止めるようシレーヌに指示して追い払ったと考えられる。

*13 シレーヌ版ポスターの美麗さは、本作における評価点の一つである。

*14 一応その前に牛久くんから「折角友達になれたのに」「俺たちはもう死んでいる、気にするな」というような発言が出ており、同意は得ているためためむしろ普通に格好良いシーンとも取れる

*15 警官に成りすましたデーモンが突如人間に発砲するなど確かに疑心暗鬼に陥る状況ではあるが、だからと言って無差別に殺すのは状況的にも早計過ぎるし、国家レベルの行動ではない。

*16 原作におけるデーモンの作戦は「人類の弱点を知るため、人間が抱く恐怖をテレパシーで受け取る」というものだった。そのためにサタンが自己催眠をかけて飛鳥了という人間になりかわり、この作戦を実行した。

*17 T-VISUALと名付けられており、手書き部分の製作は東映アニメーションが担当した

*18 ある日突然、世界中の大人から子供への愛が無くなる永井豪のホラー短編『ススムちゃん大ショック』の主役。他の永井作品でも登場するたび理不尽に死ぬ。

*19 氏は以前に『ザ・コア』という映画に対して、劇中の描写と完全に食い違う欠点を思い込みで存在するかのように勘違いし、批判した事がある。