皇国の守護者(小説)

登録日 :2011/10/20(木) 06:10:02
更新日 : 2017/04/09 Sun 09:49:18
所要時間 :約 7 分で読めます




この先、どんな陰謀にも意味はなくなる。

戦争に勝る無意味などこの世に存在しないからだ。

そう、戦争だ。素晴らしい。

戦争。

戦争。

戦争だ。



『皇国の守護者(こうこくのしゅごしゃ)』は、中央公論社から出版されている戦記小説である。
作者は、直近では対ゾンビサバイバル漫画『HIGHSCHOOL OF THE DEAD』の原作者も務める佐藤大輔氏。
実はこの佐藤氏、物凄い遅筆と作品の多くを途中で投げ出す悪癖で有名である。
本作もその例に漏れず、1998年に第1巻、2005年に最新第9巻が出て以降ずっと 放☆置☆中
そして、2017年3月22日に佐藤氏が他界したため、未完の作品となってしまった…。


本作の2巻途中までにあたる序盤の山場『北嶺紛争』部分には、伊藤悠女史による漫画版が存在する。
原作の雰囲気を上手く演出しつつも独自の展開を織り交ぜた内容で非常に高く評価されていたが、『大人の事情』で唐突に完結(全5巻)。
原作放置に続くこの事態はファンを絶望させた。マジで。




【概要】

地球とは似て非なる惑星(地形や公転周期が異なるが、あまり気にしなくておk)を舞台とした架空戦記。
大まかに説明すれば、世界有数の大国『帝国』に侵攻された小さな島国『皇国』の抗戦模様と、それを契機に皇国で勃発する内乱などを描いたものである。
作中で見られる戦争は、『龍』や『剣牙虎(サーベルタイガー)部隊』、『導術』などのファンタジー要素を組み込みつつも、本質的には近代あたりの会戦形式に近いタイプ。
要は砲で陣を崩し、銃兵と騎兵の突撃でぶつかり合うというもので、当然ながら 塵芥の如く人が死んでいく
ついでに、「屍の山が築かれた戦場で翌年の作物の収穫高が劇的に上がった(肥料的な意味で)」……とかいった生々しい文章付きの堪える仕様。


物語はそうした戦争一辺倒で構成されているわけではなく、愛憎渦巻く人間模様や謀略劇も合間に差し挟まれる。
誰かへの愛や献身のために動く者、国の危機を前に自らの利益のみを追求する者、他人への嫉妬と憎しみで発狂する者など、良くも悪くも多様な“人間”を垣間見られるようになっている。


そうした熱くどす黒く、同時にかすかな優しさの入り混じる数々の展開を、時に項目冒頭のような素敵モノローグが彩っていく。
異様に細かく長い兵器・戦術・歴史・経済解説に辟易しなければ、ハマる人には堪らない作品となるだろう。


ちなみに、8巻のみ漫画家の平野耕太氏が表紙と挿絵を担当している。
この巻だけ絵の浮きっぷりが半端ないが、興味があれば書店で探してみればどうだろうか。




【世界観】

◆皇国
人名や地名に漢字が使われ、地形も現実の日本に近い小さな島国。
貿易業が栄んだが、それが帝国の商業に影響を及ぼしたせいで侵攻を受けてしまう。
本編冒頭にて帝国軍が来寇したのは北嶺(日本でいう北海道の位置にあたる)という地域の北端。


◆五将家
安藤、西原、駒城、宮野木、守原の五大将家の総称。
かつて内乱状態にあった皇国を皇室の下に纏めたことにより、大きな権力を握っている。
主人公である新城は、幼い頃に戦災孤児として駒城家に拾われた。


◆帝国
皇国北方の海の先にある大陸、その大半を支配する巨大国家。イメージ的にはロシアとドイツが混じり、さらに様々な部族を併合した感じ。
勢力は絶大ながらその実、経済的な問題が深刻化している。


◆導術
素養のある人間が額に銀盤を埋め込み、修練を積むことで扱えるテレパス能力。
索敵や導術士間での遠距離連絡ができ、通信機の類が無い作中世界では重要な存在となっている。
過去の宗教闘争で導術士が根絶されている帝国に対し、皇国はこの面では絶対的優位に立てる。


◆剣牙虎(サーベルタイガー)
皇国にのみ生息する、飼いならすことも可能な猛獣。
軍事利用するための実験部隊『独立捜索剣虎兵第十一大隊』が近年構築され、序盤ではここに新城直衛が所属している。


◆両性具有者
皇国に存在する特殊な血族で、アレが生えている以外は女性そのもの。しかも決まって物凄い美人。
皇国の庇護を受ける代償に、一部上級将校の個人副官として公私に渡り仕えるのが彼(彼女)らの宿命。
主によっては、女として使わずに 自分を掘らせる者 もいる。


◆天龍
皇国の一部地域にて、一族で社会を作って生息する巨大生物。
姿は西洋ファンタジーのドラゴンはなく東洋神話の龍に近く、長い寿命を持つ。
知能が高く人語も解するが、直接口で話すことはできないため、相手が導術士でなくとも通用するほどの強力な導術で人との会話を果たしている。


◆大協約(グラン・コード)
古代に人と龍の間で定められたとされる、世界共通で最優先される大原則。違反すれば死罪確定。
人の国家間の戦争にも言及しており、作中の随所で敵味方に利や害を齎す。




【主要登場人物(の一部)】

《皇国》

○新城直衛(しんじょう なおえ)
本作の主人公。本編開始時点で中尉。
臆病者でありながら戦場では狂気を伴った戦術の鬼と化し、偽善者でありながらそうした自分を自覚して恥じる面もある……という具合に非常に屈折した人格の持ち主。
常人からかけ離れているようでいて、ある意味で誰よりも人間味に溢れた人物といえるかも。
北嶺紛争では血みどろの戦況の中で上官を失い、自らが隊を率いる羽目となる。
その戦果により異例の早さで昇進し、多くの敵と味方を作る台風の目となりながら帝国との戦争を生き抜いていく。


○千早(ちはや)
新城が幼い頃に出会った剣牙虎の子にあたる、雌の剣牙虎。
戦場では常に新城の傍にあり、心強い相棒となる。剣牙虎の価値観ではかなりの美人らしく、雄にモテモテ。


○猪口曹長
新城が士官学校に通っていた頃の教官であり、現在は新城の参謀役を務める男。
色々と気の利く有能な人物で、兵の規律管理を一手に引き受ける鬼曹長の顔も持つ。


○天霧冴香(あまぎり さえか)
ある事情により、後に新城の個人副官となる両性具有者。剣の達人でもある。
捻くれ者の新城とは互いに距離感を掴みかねていたが、次第に打ち解けていく。


○駒城蓮乃(くしろ はすの)
幼い新城と同じく戦災孤児だった女性。
新城と共に戦地を彷徨っていた所を駒城家に拾われ、やがて保胤の愛人(実質的な正妻)となり子を授かった。


○駒城保胤(くしろ やすたね)
新城の義兄にあたる、陸軍少将を務める男性。
根っからの善人で、蓮乃と並んで新城が心から信頼を置ける数少ない人物。


○駒城篤胤(くしろ あつたね)
駒城家頭首にして保胤の実父であり、新城の義父。陸軍中将の位にある。
半ば隠居の身だが、今だ各方面に強い影響力を持つやり手の謀略家でもある。




《帝国》

○ユーリア・ド・ヴェルナ・ツアリツィナ・ロッシナ
現帝国皇帝の姪。帝国東方の辺境領を任される才媛で、皇国侵攻では総司令官を務める。
若年ながら軍略、個人戦闘共に実力は一級品で、スタイル抜群の金髪美人という完璧超人。
やや傲慢な面もあるが、これは生まれの高貴さによる自然なものとも言える。
当初は敵の手ごたえの無さに辟易とするばかりだったが、それに歯止めをかけた新城と敵対する内にやがて……。


○クラウス・フォン・メレンティン
ユーリアの参謀として北嶺戦争に参加した初老の男性。初登場時大佐。
穏やかで軽口好きな気質に反して多くの従軍経験を持つ歴戦の騎士である。
ユーリアを幼い頃から世話していたせいもあって、彼女への態度は半ば保護者然と化してしまっている。


○アンドレイ・バラノヴィッチ・ド・ルクサール・カミンスキィ
超イケメンの若き大佐。これまた文武に秀でる完璧超人。
ユーリアの寵愛を受ける立場にあるが彼自身はその関係を打算的に捉え、これを利用して成り上がる野心を秘めている。



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  • もうすぐ10年になるのか・・・ -- 名無しさん (2014-03-01 11:08:50)
  • これを読んでると、節々で新城中尉めいた笑顔をしている自分に気づく -- 名無しさん (2014-08-11 20:59:51)
  • 文庫版が出始めて少し期待してるけど・・・ -- 名無しさん (2014-08-11 22:38:11)
  • せめて大筋で良いから戦争がどう終わって、世界がどう変わったかを書いてくれ -- 名無しさん (2014-09-13 19:50:32)
  • 皇国や御大についての記事を読むたびに続刊がいかに絶望的か思い知らされる…うう… -- 名無しさん (2015-12-09 13:23:34)
  • 今度「水軍編」が刊行されるという噂・・・ -- 名無しさん (2016-02-22 15:04:16)
  • 遂に物理的に続きが出なくなってしまったか。デビルやA君共々悲しいなぁ -- 名無しさん (2017-04-09 09:49:18)
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