稲生物怪録

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&font(#6495ED){登録日}:2016/04/28 Thu 00:07:27 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 11 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- *◎稲生物怪録 『稲生物怪録(いのうもののけろく、いのうぶっかいろく)』は、広島県三次市に伝わる“実録”妖怪譚。 後の備後三次藩の藩士となる稲生武太夫が、16歳の折に体験した一月の怪異の詳細を記録したものである。 これを高名な国学者である平田篤胤らが広め、読物や絵巻、明治期には講談の題材となる程の人気を得た。 現代では流石に知る人が少なくなっていたが、近年の妖怪を題材にした創作などでマニア層以外にも知名度を広げている。 現在では妖怪の総大将の名として使用される事も多い&bold(){山ン本五郎三衛門}と&bold(){神野悪五郎}の名は、此の妖怪譚にて初めて登場したものである。 *【物語】 江戸時代中期、寛延2年(1749年)7月の事。 稲生平太郎(後の武太夫)は、隣家の幼馴染である三井権八に誘われ、肝試しに興じてみる事にした。 恐い思いをしたことがないので肝試しでもしてようと云う権八。 同じく、恐れ知らずの平太郎の提案で二人は夜更けに屋敷の裏手に聳える比熊山に登ったばかりか、挙げ句に「百物語」をしてみる事に。((「百物語」をした後で、クジに負けた平太郎が一人で山に登ったとするパターンもある。)) ……しかし、わざわざ真夜中に山まで来て「[[百物語]]」を語ったのに何も起きない。 仕方なく二人は下山を開始。 途中で怪しい事が起きるでもなく、悪態を吐く位の余裕があった平太郎であったが……。 *【登場人物】 &bold(){&font(#ff0000){■稲生平太郎(武太夫)}} 物語の当事者。 年の離れた弟の勝弥と家来の権平と暮らす少年侍。 比熊山での肝試しから二月の後、三十日間に渡り屋敷が妖怪共の襲撃に晒される事に。 妖怪・怪異に関する貴重な資料「稲生物怪録」の著者であると同時に、 後述する通りかの伊予の刑部、&bold(){&ruby(いぬがみぎょうぶ){[[隠神刑部]]}}を倒しているのでれっきとした&bold(){&ruby(デビルバスター){妖怪退治人}}でもある。 ややマイナーな人物とはいえ、日本でこの分野における彼以上の存在といったらもはや[[&bold(){源頼光}と&bold(){頼光四天王}>源頼光]]しかいないだろう。 &bold(){&font(#0000ff){■三井権八}} 平太郎の友人。 力持ちで知られており、彼が恐い思いをしたことがないと宣ったことが怪異の発端となった。 ……いい迷惑ではあるが、一応は彼も怪異に晒されているので御安心を。 *【平太郎を襲った怪異】 以下に、三十日間にも及んだ平太郎を襲った“怪異”を記す。 ・一日目 突如、屋敷に目が一つしかない大男が出現。 巨大な手で平太郎を捕まえようとする。 平太郎はこれに動じず抵抗。 ……やがて、大男は消えてしまっていた。 権八宅では、対称的に一つ目小僧が出現。 金縛りで権八を苦しめる。 ・二日目 平太郎と権八は互いの体験を話し合った結果、怪異に立ち向かう事を決定。 ……こいつらおかしい。 すると、宣戦布告を承った!とばかりに行灯の火が天井まで届く高さに燃え上がる。 権八の帰宅後、寝転がっていた平太郎が生臭さに目を覚ますと周囲は水浸しに。 しかし、平太郎はまたもや動じずに寝直すと湧き出ていた大量の水も消えた。 ・三日目 天井から女の生首が逆さまに降りてきて舌をチロチロとさせる……。 平太郎が寝ていると、今度は大量の瓢箪が降ってくるも動じずに寝続ける。 ・四日目 紙が舞う。 割と定番的な怪異なのだが、平太郎には感動も無し。 ・五日目 大きな石に目と足が生えて平太郎に迫るが本人は動じず。 周りは堪ったものではないのだが……。 ・六日目 薪を取りに平太郎が屋敷の外に出ると、戸口一杯に巨大な老婆の顔が出現。 ……平太郎、動じずに眉間に小刀を突き刺すも何も起こらない。 放っておくと明くる朝には顔は消えていた。 ・七日目 平太郎本人は動じなくても、周囲が堪らないと訴えたことで役所から助っ人が。 権八も馳せ参じて、この日に出現した大入道に立ち向かうが槍を取られる。 ・八日目 平太郎の叔父達が噂を聞き付けて屋敷に。 怖がったり諌めたりする所か、揃って妖怪を罵倒。 塩が降ったり、下駄が飛んだが本当に動じず。 ……盛り上がりのツボが解らん奴らめ。 ・九日目 変化シリーズ其の一。 平太郎の友人に化けてやって来た妖怪、石臼を叩き斬り、侘びて死ぬと切腹。 それでも平太郎が動じないと見ると幽霊として化けて出ると云う無駄な凝りよう。 ……しかし、平太郎が放っておくと明くる朝には消えていた。 ・十日目 変化シリーズ其の二。 別の友人に化けて妖怪が襲来。 歓談をして安心させた隙(?)を狙って頭部が肥大し、中から赤子がわらわらと這い出して来る。 更に赤子達が集合して巨大化して平太郎を襲うも不発。 ・十一日目 何と、妙齢の女性が平太郎を見舞いに来る(!)。 しかし、嫉妬(?)した妖怪が盥を暴れさせて追い返してしまう。 平太郎が別に惜しいと思っているような素振りを見せないあたり、醜女だったのかもしれない。 ・十二日目 平太郎が寝ていると、押し入れから腹に赤い紐を巻いた巨大蟇が出現して大暴れ。 安眠を妨害された平太郎はこれを捕まえてふん縛ると再び寝てしまう。 ……明くる朝、蟇は葛籠に姿を変えていた。 ・十三日目 心配した村人達の声に応えて、怪異を防ぐべく寺から[[薬師如来]]の掛け軸を貰って来る事に。 しかし、寺へ向かおうとした矢先に大石を近くに落とされる妨害を受ける。 ・十四日目 巨大な老婆の顔が、今度は天井一杯に出現。 長い舌をチロチロさせたりと、前回とは比べるまでもない攻勢を仕掛ける。 ……妖怪達も本気になって来たのが窺える。 ・十五日目 部屋中がネバネバにされる。 ……かなり厭な事態だが、平太郎は対処を諦めたのか放っておくことに。 ・十六日目 寝ている平太郎の周囲を串刺しにされた生首達が飛び回る。 ……かなり騒がしく、平太郎も流石に苛つく。 ・十七日目 友人達と歓談していると、鬼どもが怪しい漬物を運んでくる。 加虐嗜好の平太郎、試しに食ってみるように友人に薦めるも全力で拒否される。 ・十八日目 家具や畳が天井に張り付けに! ・十九日目 妖怪の攻勢に対して罠を仕掛けてみる平太郎。 ……が、あっさりと見破られて捨てられてしまう。 遂に妖怪達の逆襲なるか? ・二十日目 妙齢の美女が菓子折りを持って訪れる。 しかし、美女が妖怪だったのは当然として、菓子折りの箱も隣家から盗まれた物だと判明。 ……地味に厭な攻撃である。 ・二十一日目 読書していると不気味な二つの影に邪魔をされる。 ・二十二日目 箒が一人で立ち上がり掃除をする。 ……有り難う。 ・二十三日目 蟲シリーズ其の一。 天井が巨大な蜂の巣に! ・二十四日目 蟲シリーズ其の二。 部屋に隙間が無いほどの蝶々の大群が! ・二十五日目 縁側から出ようとしたら、外に寝ていた鬼みたいな妖怪を踏んづけてしまう。 ……御免なさい。 ・二十六日目 青白く、生気の無い目をした女の生首が襲来。 首から腕が生えてくると、平太郎を撫で回した。 ・二十七日目 何処かから拍子木の音が。 此所に来て定番的な怪異である。 ・二十八日目 虚無僧が大挙して襲来。 安眠を妨害される。 ・二十九日目 様々な場所から火の粉の様なものが舞い落ちる。 本物ではないのか、火などは点かず。 ・三十日目 炉の灰が舞い上がり、巨大な顔に変化すると、肥大した頭部から蚯蚓の大群が涌き出した。 これには平太郎も堪らず狼狽える。 ……やったぜ。 が、狼狽えただけで呻声も出さずに何とか耐える。((平太郎は蚯蚓が苦手であったらしい。)) ・終日 ……そのまま、明くる朝まで怪異は続いたが、平太郎は何とか逃げ出さず。 すると、裃姿の立派な身形をした武士が平太郎の屋敷を訪れた……。 &bold(){&font(#008000){■山ン本五郎佐衛門(さんもとごろうざえもん)}} 平太郎に「何者か?」と問われて答えた男は自らを三十日間に渡り平太郎を嚇かしに来た魔物達の頭領、魔王・山ン本五郎左衛門だと明かした。 五郎左衛門は平太郎の勇気を讃え、更に魔物達を統べる真の支配者の地位を神野悪五郎(しんのあくごろう)なる魔物と争っている最中であり、興味を持った悪五郎が平太郎の下を訪れるかもしれないと明かしてくれた。((嚇かした人間の数を競っていたらしい……傍迷惑な。)) ……そこで、五郎左衛門は平太郎の勇気への報酬と一月もの間の迷惑への侘びとして、いつでも自分を呼び寄せられる木槌を平太郎に渡したのであった。 因みに、この魔王・山ン本五郎左衛門の木槌「如意法化物槌」は広島県広島市・国前寺に奉納されている。 木槌は厨子に納められており、毎年1月7日の「稲生祭」にのみ一年に一度だけ公開されている。 記述によっては“魔物を滅ぼせる木槌”とされていたりもする。 ……まあ、魔王を呼べる木槌だし。 現在では山ン本五郎左衛門、神野悪五郎、共に正体は天狗ではないかと言われたりしている。 ……そして、この奇想天外な“体験談”は、木槌を受け取った平太郎が「私が帰る様を見よ」との言葉と共に、無数の魔物達に抱えられた山ン本五郎佐衛門の駕篭が雲に消えて魔界に帰って行くのを見送る場面で終わるのであった。 *【関連作品】 ・『松山騒動八百八狸』 この作品の後の平太郎が登場し、[[隠神刑部]]を利用していた侍、そして隠神刑部を討ち果たした。 ・『妖怪すくらんぶる』 『[[天才てれびくん]]』内で1997年に放送されたドラマ。 平太郎の貰った木槌がキーアイテムとして登場し、山ン本五郎佐衛門も終盤登場。神野悪五郎がモンスターじみた姿でラスボスとなった。 また登場人物の一人が平太郎の末裔であることも山ン本の口から明かされた。 ・『木槌の誘い』(作:[[水木しげる]]) 水木先生が本作について調べていく内、「アリャマタコリャマタ(荒俣宏)」と共に「妖怪の真実」を探す旅に出るという、本作のコミカライズでありながらオリジナル作品でもある不思議な漫画。 ・[[朝霧の巫女]] サブタイトルは「平成稲生物怪録」であり、序盤は稲生物怪録を下敷きとしたストーリーが進行していく。 中盤、&bold(){後醍醐天皇}が登場してからは稲生物怪録から乖離していくが、物語の最後の鍵となるのはやはり&bold(){木槌}であった。 追記修正は怪異に堪えきってからお願い申し上げます。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,4) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 魔王・山ン本はキャッチーな名前から妖怪関連の創作でも人気あるよな。 -- 名無しさん (2016-04-28 00:23:16) - 平太郎鋼メンタルすぎる…安眠妨害されてイラつくって… -- 名無しさん (2016-04-28 04:06:12) - 福音館書店の絵本シリーズ『こどものとも』では、この稲生物怪録を基にした『ぼくは へいたろう』が20年以上前に発売されていたりする。俺が山本五郎左衛門の名前を知ったのもこの絵本だったよ。最後に山本がくれたのは小槌じゃなくてしゃもじだったけど。 -- 名無しさん (2016-04-28 06:55:26) - その後平太郎は四国で暴れていた隠神刑部狸とその手下を封印した、もしくは逆に困っている彼らを助けるため活躍したっていう話もあるらしいね -- 名無しさん (2016-04-28 15:46:08) - 平太郎は確か蚯蚓が苦手だったのよね。最後はそれで攻めてきた -- 名無しさん (2016-04-28 19:02:36) - 話を聞いた・書いた時期の違いとかで微妙に差があるんだよね。確か4バージョンに分類されたはず。 -- 名無しさん (2016-05-03 19:02:26) - 特殊な能力も高い戦闘技術も無く、「肝が据わっている」の一点で妖怪の群れを退けた凄い人。「いのうもののけろく」とか「さんもとごろうざえもん」とか妙に語呂がいい気がする -- 名無しさん (2019-03-25 21:53:01) - 基本見える子ちゃんばりにガン無視なんだなやはり荒らしも妖怪もガン無視が一番効くということか・・・ -- 名無しさん (2022-10-01 12:13:44) - 古い話だが、にゃんたんのゲームブックにもこれを基にしたものがあった。 -- 名無しさん (2023-08-17 21:54:14) - チラホラ「山ン本絶対怪異の内容考えるの面倒くさくなったんだろ」って感じの適当な怪異が混じってるの笑うw -- 名無しさん (2023-08-17 22:06:37) - 妖怪大戦争だと上に妖怪大翁いる模様 -- 名無しさん (2023-12-12 14:36:02) - ↑その大翁による書籍では、山ン本はもちろんのこと、そのマイナーチェンジとされる「石川悪四郎」って妖怪も描かれてるね。 -- 名無しさん (2023-12-12 15:25:39) #comment #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2016/04/28 Thu 00:07:27 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 11 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- *◎稲生物怪録 『稲生物怪録(いのうもののけろく、いのうぶっかいろく)』は、広島県三次市に伝わる“実録”妖怪譚。 後の備後三次藩の藩士となる稲生武太夫が、16歳の折に体験した一月の怪異の詳細を記録したものである。 これを高名な国学者である平田篤胤らが広め、読物や絵巻、明治期には講談の題材となる程の人気を得た。 現代では流石に知る人が少なくなっていたが、近年の妖怪を題材にした創作などでマニア層以外にも知名度を広げている。 現在では妖怪の総大将の名として使用される事も多い&bold(){山ン本五郎三衛門}と&bold(){神野悪五郎}の名は、此の妖怪譚にて初めて登場したものである。 *【物語】 江戸時代中期、寛延2年(1749年)7月の事。 稲生平太郎(後の武太夫)は、隣家の幼馴染である三井権八に誘われ、肝試しに興じてみる事にした。 恐い思いをしたことがないので肝試しでもしてようと云う権八。 同じく、恐れ知らずの平太郎の提案で二人は夜更けに屋敷の裏手に聳える比熊山に登ったばかりか、挙げ句に「百物語」をしてみる事に。((「百物語」をした後で、クジに負けた平太郎が一人で山に登ったとするパターンもある。)) ……しかし、わざわざ真夜中に山まで来て「[[百物語]]」を語ったのに何も起きない。 仕方なく二人は下山を開始。 途中で怪しい事が起きるでもなく、悪態を吐く位の余裕があった平太郎であったが……。 *【登場人物】 &bold(){&font(#ff0000){■稲生平太郎(武太夫)}} 物語の当事者。 年の離れた弟の勝弥と家来の権平と暮らす少年侍。 比熊山での肝試しから二月の後、三十日間に渡り屋敷が妖怪共の襲撃に晒される事に。 妖怪・怪異に関する貴重な資料「稲生物怪録」の著者であると同時に、 後述する通りかの伊予の刑部、&bold(){&ruby(いぬがみぎょうぶ){[[隠神刑部]]}}を倒しているのでれっきとした&bold(){&ruby(デビルバスター){妖怪退治人}}でもある。 ややマイナーな人物とはいえ、日本でこの分野における彼以上の存在といったらもはや[[&bold(){源頼光}と&bold(){頼光四天王}>源頼光]]しかいないだろう。 &bold(){&font(#0000ff){■三井権八}} 平太郎の友人。 力持ちで知られており、彼が恐い思いをしたことがないと宣ったことが怪異の発端となった。 ……いい迷惑ではあるが、一応は彼も怪異に晒されているので御安心を。 *【平太郎を襲った怪異】 以下に、三十日間にも及んだ平太郎を襲った“怪異”を記す。 ・一日目 突如、屋敷に目が一つしかない大男が出現。 巨大な手で平太郎を捕まえようとする。 平太郎はこれに動じず抵抗。 ……やがて、大男は消えてしまっていた。 権八宅では、対称的に一つ目小僧が出現。 金縛りで権八を苦しめる。 ・二日目 平太郎と権八は互いの体験を話し合った結果、怪異に立ち向かう事を決定。 ……こいつらおかしい。 すると、宣戦布告を承った!とばかりに行灯の火が天井まで届く高さに燃え上がる。 権八の帰宅後、寝転がっていた平太郎が生臭さに目を覚ますと周囲は水浸しに。 しかし、平太郎はまたもや動じずに寝直すと湧き出ていた大量の水も消えた。 ・三日目 天井から女の生首が逆さまに降りてきて舌をチロチロとさせる……。 平太郎が寝ていると、今度は大量の瓢箪が降ってくるも動じずに寝続ける。 ・四日目 紙が舞う。 割と定番的な怪異なのだが、平太郎には感動も無し。 ・五日目 大きな石に目と足が生えて平太郎に迫るが本人は動じず。 周りは堪ったものではないのだが……。 ・六日目 薪を取りに平太郎が屋敷の外に出ると、戸口一杯に巨大な老婆の顔が出現。 ……平太郎、動じずに眉間に小刀を突き刺すも何も起こらない。 放っておくと明くる朝には顔は消えていた。 ・七日目 平太郎本人は動じなくても、周囲が堪らないと訴えたことで役所から助っ人が。 権八も馳せ参じて、この日に出現した大入道に立ち向かうが槍を取られる。 ・八日目 平太郎の叔父達が噂を聞き付けて屋敷に。 怖がったり諌めたりする所か、揃って妖怪を罵倒。 塩が降ったり、下駄が飛んだが本当に動じず。 ……盛り上がりのツボが解らん奴らめ。 ・九日目 変化シリーズ其の一。 平太郎の友人に化けてやって来た妖怪、石臼を叩き斬り、侘びて死ぬと切腹。 それでも平太郎が動じないと見ると幽霊として化けて出ると云う無駄な凝りよう。 ……しかし、平太郎が放っておくと明くる朝には消えていた。 ・十日目 変化シリーズ其の二。 別の友人に化けて妖怪が襲来。 歓談をして安心させた隙(?)を狙って頭部が肥大し、中から赤子がわらわらと這い出して来る。 更に赤子達が集合して巨大化して平太郎を襲うも不発。 ・十一日目 何と、妙齢の女性が平太郎を見舞いに来る(!)。 しかし、嫉妬(?)した妖怪が盥を暴れさせて追い返してしまう。 平太郎が別に惜しいと思っているような素振りを見せないあたり、醜女だったのかもしれない。 ・十二日目 平太郎が寝ていると、押し入れから腹に赤い紐を巻いた巨大蟇が出現して大暴れ。 安眠を妨害された平太郎はこれを捕まえてふん縛ると再び寝てしまう。 ……明くる朝、蟇は葛籠に姿を変えていた。 ・十三日目 心配した村人達の声に応えて、怪異を防ぐべく寺から[[薬師如来]]の掛け軸を貰って来る事に。 しかし、寺へ向かおうとした矢先に大石を近くに落とされる妨害を受ける。 ・十四日目 巨大な老婆の顔が、今度は天井一杯に出現。 長い舌をチロチロさせたりと、前回とは比べるまでもない攻勢を仕掛ける。 ……妖怪達も本気になって来たのが窺える。 ・十五日目 部屋中がネバネバにされる。 ……かなり厭な事態だが、平太郎は対処を諦めたのか放っておくことに。 ・十六日目 寝ている平太郎の周囲を串刺しにされた生首達が飛び回る。 ……かなり騒がしく、平太郎も流石に苛つく。 ・十七日目 友人達と歓談していると、鬼どもが怪しい漬物を運んでくる。 加虐嗜好の平太郎、試しに食ってみるように友人に薦めるも全力で拒否される。 ・十八日目 家具や畳が天井に張り付けに! ・十九日目 妖怪の攻勢に対して罠を仕掛けてみる平太郎。 ……が、あっさりと見破られて捨てられてしまう。 遂に妖怪達の逆襲なるか? 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