虐殺器官

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&font(#6495ED){登録日}:2011/01/25(火) 02:46:29 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 5 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- ヴェーダ語の文献に見られる奇妙な計算によれば、 神々の言葉に付加された人間が表現しているのは言葉全体の四分の一でしかないと見積られている。 #right(){――パスカル・キャニール「音楽への憎しみ」} #center(){&font(24px,b){地獄は、この頭の中にある。}} 虐殺器官(Genocidal Organ)とは伊藤計劃氏のデビュー作品となった長編SF小説である。 第七回小松左京賞最終候補 ベストSF2007国内第1位 ゼロ年代ベストSF国内第1位 PLAYBOYミステリー大賞第一回受賞作 ノイタミナ製作の、伊藤計劃作品のアニメ映画化企画であるProject-Itohのメイン作品として大々的に宣伝されていたが、 制作スタジオのマングローブが制作中に経営破綻し、制作が一時中断。 その後、プロデューサーの山本幸治が本作用に設立したジェノスタジオで制作が再開され、2017年2月3日にようやく公開された。 監督は村瀬修功。主題歌はEGOISTの『リローデッド』。 #contents()  *【あらすじ】 サラエボで核爆弾が炸裂した日、世界は変わった。 ヒロシマの神話は崩れ去り、核兵器は「世界を終わらせる制御不能の怪物」から「使える兵器」へと在り方を変えた。 その結果、世界では核戦争やテロが頻発。 先進諸国はこの危機に対処するため、IDと監視システムによる「追跡可能性」の徹底的な確保によりテロを予防することを目指した。 それから十数年後の現在、先進諸国ではテロの発生件数はゼロとなり、まるでその埋め合わせのように後進諸国で内戦や大規模虐殺が急激に増加していった。 アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は急増した虐殺の陰に常に存在が囁かれている謎の男、ジョンポールを追って世界を巡ることとなる。 なぜジョン・ポールの行く先々で虐殺が起こるのか? そして彼の目的、正体とは?   *【主な登場人物】 〇アメリカ情報軍・特殊検索i分遣隊隊員 ・クラヴィス・シェパード CV:[[中村悠一]] 本作の主人公でアメリカ情報軍・特殊検索i分遣隊大尉。一人称は「ぼく」。 虐殺の王、ジョン・ポールを追っている。 父を拳銃自殺で失い、交通事故で脳死状態となった母の生命維持装置を自らの決断で止めた過去を持つ。 そのためか死の観念について深く考える癖があり、夢で死者の国を見るようになる。文学と映画に明るい。 いわゆるハリウッド的なタフでマッチョな軍人ではなく、むしろ内省的で繊細な人物。 比較的理性的に見えるが…。 &bold(){ぼくは、それをできるだけ音楽に似せようと努めた。} ・ウィリアムズ CV:三上哲 特殊検索i分遣隊所属。クラヴィスの相棒にして友人。 よくクラヴィスの家に来てはドミノピザで頼んだピザを&font(#ff0000){プライベートライアンの冒頭を見たりしながら}二人で食べている。 ゴシップ話とモンティ・パイソンのコントが好きで、常に軽口を絶やさない。妻子持ち。 いわゆるハリウッド的なタフでマッチョな軍人であり、非常に仲間思いかつ家族思いな人物。 &bold(){「俺は俺の世界を守る。そうとも、ハラペーニョ・ピザを注文して認証で受け取る世界を守るとも。油っぽいビッグマックを食いきれなくて、ゴミ箱に捨てる世界を守るとも」}   ・アレックス CV:[[梶裕貴]] 特殊検索i分遣隊所属。カトリックの修士号を持つ信仰深い青年だが、ウィリアムズ曰く&font(#f09199){セックス}、&font(#008000){ドラッグ}、 &font(#ff0000){バイオレンス}な内容の面白いエンターテインメント小説が読みたいと言われて笑って&font(#ff0000){聖書}を差し出したり、 カトリックの習慣や教皇、旧約聖書の神々をネタにした冒涜的なジョークをかましたりするらしい。 東欧でのミッションの最中クラヴィスに&font(#ff0000){地獄は頭の中にある}と言い、その二年後にガス自殺をした。 &bold(){「地獄はここにあります」} ・リーランド CV:石川界人 特殊検索i分遣隊所属。クラヴィスの部下。優秀な軍人であるが、軍人であることにプライドを持っており、PMCと一緒にされると不機嫌になる。 &bold(){<ええ、痛いですよ。痛いとは感じられないが、痛いのは認識できてます>}   〇その他 ・ジョン・ポール CV:[[櫻井孝宏]] アメリカ人男性。表面はPR会社の社員(後に辞職)であるが、彼がプロデュースした国は混乱に陥り、虐殺が起こるようになる。 クラヴィス曰く虐殺の王(ロード・オブ・ジェノサイド) 。 幾度となく暗殺対象となるもすんでの所で逃げられる。以前はMITで言語学者として言語の研究をしていた。 国防高等研究計画局(DARPA)から金が出ていたらしいが……。 サラエボで妻子を亡くしている 「&font(#ff0000){好きだの嫌いだの最初にそう言い出したのは誰なんだろうね?}」 ・ルツィア・シュクロウプ CV:[[小林沙苗]] プラハでチェコ語の教師をしている女性。 ジョン・ポールの愛人とされており、ジョン・ポールの追跡任務に就いていたクラヴィスの接近を受けた。 「言語とは器官である」とクラヴィスに説く。 劇場アニメ版ではルツィア・シュクロウポヴァとされている。   *【用語】 ・アメリカ情報軍・特殊検索軍i分遣隊 アメリカ全軍の特殊部隊の中で唯一要人暗殺を実行する部隊。 特殊作戦任務のみならず諜報活動などにも投入される「スパイと特殊部隊のハイブリッド」 ・オルタナ Alternative Realityの略。副現実、代替現実とも。 コンタクトレンズのように網膜に貼り付けるウェアラブルコンピュータで視覚上に様々な情報を映し出すことが出来る。 i分遣隊のオルタナはナノマシン技術を用いた点滴タイプのものを用いている。 要は[[電脳コイル]]の電脳メガネ、もしくは現実世界のオーグメンテッド・リアリティの発展型みたいなやつ ・痛覚マスキング 劇中でDARPAが開発した軍事用の麻酔技術の一種で、 用いると&font(#ff0000){「痛覚を認識しながらも痛いと感じない」}状態となる。 故に腕や下半身が吹き飛んでも冷静な行動が出来る。 ・環境追従迷彩 ナノコーティングが周囲の色相をスキャンして、リアルタイムで変化するパターンを生成する。i分遣隊が装備。 オクトカムに似ているが、こちらは赤外線の吸収が出来ない模様。 ・環境適応迷彩 周りの風景に合わせて兵士の体を見えづらくする光学迷彩装備。 ・フライングシーウィード i分遣隊が所有する侵入航空機。 ステルス性を意識した独特な形状から「空飛ぶ海苔」と言われている。地上から見るとモノリスに見えるらしい。 *【真実】 #openclose(show=・虐殺の文法(重大なネタバレになるため折り畳み)) { ジョン・ポールが研究の末に発見した文法にして虐殺を引き起こす要因 虐殺をする側、される側が使用する言語に存在する一定の傾向(文法)からジョンポールが発見した。 人間が進化の中で獲得した人口調整のために備わっている虐殺を引き起こす脳の機能(&bold(){虐殺器官})を呼び覚ますことができ、広告やテレビ、ラジオ、音楽といったものにこの文法を織り交ぜて人々を一定期間曝露させることで平和な国でも数ヶ月で虐殺が横行する地獄と化す代物。 つまり文字通りの意味で、&bold(){地獄は人類の頭の中に存在していた}のである。 実はあらすじで語られた先進諸国の監視システムはテロの予防になんら効果がなく、本編の数年前まではむしろテロが増加している有様だった。 そこでジョン・ポールは世界の後進諸国。つまりに先進諸国に対して憎しみの矛先を向けそうな国に対して虐殺の文法を使用することを思い付く。 テロリストを生み出す国を事前に虐殺の坩堝に叩き落とすことでテロを未然に防ぎ、先進諸国の"愛する人々"を守るのが彼の目的だったのだ。 ちなみにこれは彼の独断ではなく、アメリカ政府高官の一部も関与していた。そのうちの1人であるとある上院議員はこう述べている。 &bold(){戦争が、ショッピングモールのBGMのようにサラサラと、どこかから聴こえてくること。二十一世紀の我々には、そうした世界の在り方が必要だ。} 敵があって、国が団結する、という古めかしい話ではない。 どこか自分と関係ない場所で悲惨な戦争が起こっているということ。我々はそれを意識し、目撃することで「平和な世界の住民」という自己をはじめて規定できるようになるのだと。 } #openclose(show=・残された謎と大きな嘘(重大なネタバレになるため折り畳み)) {一定期間、虐殺の文法に曝露することという虐殺の文法の発動条件なのだが、実は被害国の住民以外でこの条件を満たしてしまっている人物が作中に2人存在する。 そう、ジョン・ポールと主人公であるクラヴィス・シェパードその人である。 クラヴィスは物語の最後でとある決断をくだすのだが、その動機についてモノローグで独白している。 しかし著者の伊藤氏によると、クラヴィスは最後に大きな嘘をついている、とのこと。 また彼は物語序盤で虐殺を主導していた『国防大臣』や『狂信者』の主張に対して、最後のモノローグとはまるで違う感想を抱いている。 これらから考察すると、ジョンポールの行動やクラヴィスの決断の意味が180度変わって見えてくるかもしれない。 ウィリアムズもこう言っているのだ &bold(){「繰り返しは、ギャグの基本だからな」} } *【小ネタ】 作者が「小島原理主義者」や「MGSフリークス」を自称する程小島監督作品を愛して止まなかったという話から、 作中に散りばめられたMGSに出て来たような技術等に目がいきがちであるが、伊藤氏はそれ以外に小説、映画、 ゲームなどの様々な作品からサンプリングをしているので、よく見てみると知っている人はついニヤリとするワードがあるかもしれない。 今作は元々スナッチャーの同人として温めていたものを膨らませて独立させた作品でもある。 また、伊藤と小島秀夫はかなり古い付き合いであり、病床の伊藤にまだ誰にも見せていないMGSの脚本を見せ、勇気付けようとする等の話がある。 小島秀夫がこの虐殺器官を読んだのが伊藤にMGS4のノベライズを依頼するきっかけになったという。 感謝を捧げます――私の困難な時にあって支えてくれた両親、叔父母に。 「貴様を殺して、その死体と追記、修正するさ!」 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,15) } #center(){&link_toppage(-アニヲタWiki-)} #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 淡々と始まり、淡々と終わる小説。美味しい水を飲んだ時のような読了感だった。不意にまた読みたくなるような、それも全編ではなくどこか一部を読みたくなる小説として本棚のお気に入りスペースに今も置いてある。 -- 名無しさん (2014-03-21 21:39:18) - アニメーションよりはハリウッドとかの実写でやって欲しかったけど、あのオチだとアメリカさんは納得しなさそう -- 名無しさん (2014-03-22 11:05:01) - 個人的には「虐殺器官」よりも「ハーモニー」の方が良い作品だと思う。虐殺文法への言及もほとんどなかったしなぁ・・・ -- 名無しさん (2014-11-23 23:06:20) - 虐殺器官とハーモニーと屍者の帝国 -- 名無しさん (2014-11-28 00:04:43) - ↑続き アニメ映画化おめ! -- 名無しさん (2014-11-28 00:06:41) - ジョンポール50くらいの爺さんのイメージだったけど、櫻井なのか。ジョンのアイデアは最初いい案だと思ったけど、なぜか東欧でも実行してるし最近のisil騒ぎで内乱でも外に迷惑が係ることがわかっちゃったのが玉に瑕。 -- 名無しさん (2015-08-06 02:17:09) - 櫻井ボイスのジョン・ポールはどう見てもサイコパスの槙島さんですありがとうございました -- 名無しさん (2015-08-06 21:20:11) - じいさんってかそれなりのオッサンのイメージだったんだが、中の人の声的に外見若くなるのかなこれ -- 名無しさん (2015-08-06 21:27:52) - てっきりクラヴィスが櫻井さんなのかと思っていた… -- 名無しさん (2015-08-12 00:17:47) - 櫻井氏、割と渋い演技もできるぞ。ナムカプのレッドアリーマーとか。 -- 名無しさん (2015-08-12 00:40:47) - 映画は制作会社倒産したし公開できるのかな? -- 名無しさん (2015-11-10 18:34:37) - 傭兵から車を奪う場面があるんだけど、その車に「藤原とうふ店」って書いてある。 -- 名無しさん (2015-11-10 20:57:00) - なかなかいい未来予想だと思っていたが、現実は内乱してる国は普通にテロ輸出国になってしまった -- 名無しさん (2016-07-23 11:45:28) - ↑いやそりゃこうなるだろ。内戦が外部に飛び火するなんて普通に昔からあったわ。作品世界の”始まり”となった同時多発テロだってアフガン一帯で起こり続けてた戦争が何の関係もない、なんて筈は無いし。っていうか、ジョンの言い分をマジに信じてたのか? あれ、俺にはデマカセにしか思えなかったんだけどな。 -- 名無しさん (2016-08-15 00:37:01) - なんか勘違いしてるけど虐殺器官の効果は内側に収束するようにできてるよ -- 名無しさん (2016-08-15 02:05:24) - ↑食料云々の話か? ”村”の中にしか効果はない、なんて話しあったか? 徒歩以外に碌な移動手段の無い大昔ならいざ知らず飛行機も船もある時代で『食料確保の邪魔になるからお前ら死ねや』が誘引されるんなら、世界規模でテロが輸出されるのが当然だと思うが? -- 名無しさん (2016-08-17 20:51:18) - 現実問題、貧困国を貧困にしてるのはその国で生産された食料を先進国が安く買い叩いてるからという理由も一つ有るんだしね。もしマジに虐殺の言語をぶちかましたら世界に起こるのは内乱の頻発どころじゃなく、海を越えての侵略戦争の応酬じゃないかな。要は世界大戦。 -- ↑コメ投稿者 (2016-08-17 21:11:34) - 映画が今年の冬に公開されるぞ!!ヤッター!! -- 名無しさん (2016-09-14 16:32:39) - ↑5外部って言ってもアフリカの狭い範囲でそこの内戦で欧米まで飛び火したって最近まで聞いたことないけど。特に理由もないのに作中で起こったことに対する作中の発言を否定する必要はないな。作中だと利害関係者の闘争が激しくなるだけで無関係の外国まで出かける気にはなってないように思うけど。 -- 名無しさん (2016-09-23 12:01:50) - ↑ ↑6でのおれの発言は作中で起こる事態がリアルかどうか? という事への意見だから、”特に否定する”理由としてはそれ。ジョンが言う様な、内側で潰し合わせりゃそいつら以外は無事、憎しみは内側で終わって先進国ハッピーエンド! にはならないだろ? ってことさ。はっきり言えば虐殺の言語の設定のその辺りの設定……内戦を引き起こせばそこ以外は平和になる、なんてのは有り得ないどころか逆効果じゃないか、ってのが端的なおれの意見。そしてその”逆効果(虐殺の言語なんてもちろん現実には無いと思うけど)”は虐殺器官の作中での時代、つまり最近になればなるほど増えているとも思うね。 -- ↑6コメ投稿者 (2016-09-26 21:59:07) - 内戦を起こせば、ではなく意図的に虐殺する側とされる側を作り出してるのでは?被虐殺者を殺すことが一番の優先順位となり少なくともジョンが守ろうとしているものに対してどうこうする気は起こさないようにする。ジョンにとっての平和ってのはそういうものなんだろう。 -- 名無しさん (2016-11-12 18:15:18) - 発表時期的にMGS4より前なのに、世界観はMGS4の延長線上にあるのが面白い。オセロットもいるし -- 名無しさん (2016-12-11 22:01:46) - 要はうっかりギアスみたいなもんか -- 名無しさん (2017-01-17 12:30:24) - 劇場版見てきた。クラヴィスのお母さんの下りがバッサリカットされてたり、冒頭でいきなりサラエボが吹っ飛んで、傍聴会のシーンになったりと多少の差異はあれど、楽しめた -- 名無しさん (2017-02-05 09:34:06) - 母親の下りがないとクラヴィスの大嘘と本当の動機(死後の世界への憧れ、その実現)がわからないんだよな…地の文を読むからこそわかるというか。これはハーモニーのトァンの心情にも言える。 -- 名無しさん (2017-02-25 19:25:42) - ↑一方でMGS5のスカルフェイスはジョン・ポールと正反対の悪役だったな -- 名無しさん (2018-06-13 22:12:49) #comment #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2011/01/25(火) 02:46:29 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 5 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- ヴェーダ語の文献に見られる奇妙な計算によれば、 神々の言葉に付加された人間が表現しているのは言葉全体の四分の一でしかないと見積られている。 #right(){――パスカル・キャニール「音楽への憎しみ」} #center(){&font(24px,b){地獄は、この頭の中にある。}} 虐殺器官(Genocidal Organ)とは伊藤計劃氏のデビュー作品となった長編SF小説である。 第七回小松左京賞最終候補 ベストSF2007国内第1位 ゼロ年代ベストSF国内第1位 PLAYBOYミステリー大賞第一回受賞作 ノイタミナ製作の、伊藤計劃作品のアニメ映画化企画であるProject-Itohのメイン作品として大々的に宣伝されていたが、 制作スタジオのマングローブが制作中に経営破綻し、制作が一時中断。 その後、プロデューサーの山本幸治が本作用に設立したジェノスタジオで制作が再開され、2017年2月3日にようやく公開された。 監督は村瀬修功。主題歌はEGOISTの『リローデッド』。 #contents()  *【あらすじ】 サラエボで核爆弾が炸裂した日、世界は変わった。 ヒロシマの神話は崩れ去り、核兵器は「世界を終わらせる制御不能の怪物」から「使える兵器」へと在り方を変えた。 その結果、世界では核戦争やテロが頻発。 先進諸国はこの危機に対処するため、IDと監視システムによる「追跡可能性」の徹底的な確保によりテロを予防することを目指した。 それから十数年後の現在、先進諸国ではテロの発生件数はゼロとなり、まるでその埋め合わせのように後進諸国で内戦や大規模虐殺が急激に増加していった。 アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は急増した虐殺の陰に常に存在が囁かれている謎の男、ジョンポールを追って世界を巡ることとなる。 なぜジョン・ポールの行く先々で虐殺が起こるのか? そして彼の目的、正体とは?   *【主な登場人物】 〇アメリカ情報軍・特殊検索i分遣隊隊員 ・クラヴィス・シェパード CV:[[中村悠一]] 本作の主人公でアメリカ情報軍・特殊検索i分遣隊大尉。一人称は「ぼく」。 虐殺の王、ジョン・ポールを追っている。 父を拳銃自殺で失い、交通事故で脳死状態となった母の生命維持装置を自らの決断で止めた過去を持つ。 そのためか死の観念について深く考える癖があり、夢で死者の国を見るようになる。文学と映画に明るい。 いわゆるハリウッド的なタフでマッチョな軍人ではなく、むしろ内省的で繊細な人物。 比較的理性的に見えるが…。 &bold(){ぼくは、それをできるだけ音楽に似せようと努めた。} ・ウィリアムズ CV:三上哲 特殊検索i分遣隊所属。クラヴィスの相棒にして友人。 よくクラヴィスの家に来てはドミノピザで頼んだピザを&font(#ff0000){プライベートライアンの冒頭を見たりしながら}二人で食べている。 ゴシップ話とモンティ・パイソンのコントが好きで、常に軽口を絶やさない。妻子持ち。 いわゆるハリウッド的なタフでマッチョな軍人であり、非常に仲間思いかつ家族思いな人物。 &bold(){「俺は俺の世界を守る。そうとも、ハラペーニョ・ピザを注文して認証で受け取る世界を守るとも。油っぽいビッグマックを食いきれなくて、ゴミ箱に捨てる世界を守るとも」}   ・アレックス CV:[[梶裕貴]] 特殊検索i分遣隊所属。カトリックの修士号を持つ信仰深い青年だが、ウィリアムズ曰く&font(#f09199){セックス}、&font(#008000){ドラッグ}、 &font(#ff0000){バイオレンス}な内容の面白いエンターテインメント小説が読みたいと言われて笑って&font(#ff0000){聖書}を差し出したり、 カトリックの習慣や教皇、旧約聖書の神々をネタにした冒涜的なジョークをかましたりするらしい。 東欧でのミッションの最中クラヴィスに&font(#ff0000){地獄は頭の中にある}と言い、その二年後にガス自殺をした。 &bold(){「地獄はここにあります」} ・リーランド CV:石川界人 特殊検索i分遣隊所属。クラヴィスの部下。優秀な軍人であるが、軍人であることにプライドを持っており、PMCと一緒にされると不機嫌になる。 &bold(){<ええ、痛いですよ。痛いとは感じられないが、痛いのは認識できてます>}   〇その他 ・ジョン・ポール CV:[[櫻井孝宏]] アメリカ人男性。表面はPR会社の社員(後に辞職)であるが、彼がプロデュースした国は混乱に陥り、虐殺が起こるようになる。 クラヴィス曰く虐殺の王(ロード・オブ・ジェノサイド) 。 幾度となく暗殺対象となるもすんでの所で逃げられる。以前はMITで言語学者として言語の研究をしていた。 国防高等研究計画局(DARPA)から金が出ていたらしいが……。 サラエボで妻子を亡くしている 「&font(#ff0000){好きだの嫌いだの最初にそう言い出したのは誰なんだろうね?}」 ・ルツィア・シュクロウプ CV:[[小林沙苗]] プラハでチェコ語の教師をしている女性。 ジョン・ポールの愛人とされており、ジョン・ポールの追跡任務に就いていたクラヴィスの接近を受けた。 「言語とは器官である」とクラヴィスに説く。 劇場アニメ版ではルツィア・シュクロウポヴァとされている。   *【用語】 ・アメリカ情報軍・特殊検索軍i分遣隊 アメリカ全軍の特殊部隊の中で唯一要人暗殺を実行する部隊。 特殊作戦任務のみならず諜報活動などにも投入される「スパイと特殊部隊のハイブリッド」 ・オルタナ Alternative Realityの略。副現実、代替現実とも。 コンタクトレンズのように網膜に貼り付けるウェアラブルコンピュータで視覚上に様々な情報を映し出すことが出来る。 i分遣隊のオルタナはナノマシン技術を用いた点滴タイプのものを用いている。 要は[[電脳コイル]]の電脳メガネ、もしくは現実世界のオーグメンテッド・リアリティの発展型みたいなやつ ・痛覚マスキング 劇中でDARPAが開発した軍事用の麻酔技術の一種で、 用いると&font(#ff0000){「痛覚を認識しながらも痛いと感じない」}状態となる。 故に腕や下半身が吹き飛んでも冷静な行動が出来る。 ・環境追従迷彩 ナノコーティングが周囲の色相をスキャンして、リアルタイムで変化するパターンを生成する。i分遣隊が装備。 オクトカムに似ているが、こちらは赤外線の吸収が出来ない模様。 ・環境適応迷彩 周りの風景に合わせて兵士の体を見えづらくする光学迷彩装備。 ・フライングシーウィード i分遣隊が所有する侵入航空機。 ステルス性を意識した独特な形状から「空飛ぶ海苔」と言われている。地上から見るとモノリスに見えるらしい。 *【真実】 #openclose(show=・虐殺の文法(重大なネタバレになるため折り畳み)) { ジョン・ポールが研究の末に発見した文法にして虐殺を引き起こす要因 虐殺をする側、される側が使用する言語に存在する一定の傾向(文法)からジョンポールが発見した。 人間が進化の中で獲得した人口調整のために備わっている虐殺を引き起こす脳の機能(&bold(){虐殺器官})を呼び覚ますことができ、広告やテレビ、ラジオ、音楽といったものにこの文法を織り交ぜて人々を一定期間曝露させることで平和な国でも数ヶ月で虐殺が横行する地獄と化す代物。 つまり文字通りの意味で、&bold(){地獄は人類の頭の中に存在していた}のである。 実はあらすじで語られた先進諸国の監視システムはテロの予防になんら効果がなく、本編の数年前まではむしろテロが増加している有様だった。 そこでジョン・ポールは世界の後進諸国。つまりに先進諸国に対して憎しみの矛先を向けそうな国に対して虐殺の文法を使用することを思い付く。 テロリストを生み出す国を事前に虐殺の坩堝に叩き落とすことでテロを未然に防ぎ、先進諸国の"愛する人々"を守るのが彼の目的だったのだ。 ちなみにこれは彼の独断ではなく、アメリカ政府高官の一部も関与していた。そのうちの1人であるとある上院議員はこう述べている。 &bold(){戦争が、ショッピングモールのBGMのようにサラサラと、どこかから聴こえてくること。二十一世紀の我々には、そうした世界の在り方が必要だ。} 敵があって、国が団結する、という古めかしい話ではない。 どこか自分と関係ない場所で悲惨な戦争が起こっているということ。我々はそれを意識し、目撃することで「平和な世界の住民」という自己をはじめて規定できるようになるのだと。 } #openclose(show=・残された謎と大きな嘘(重大なネタバレになるため折り畳み)) {一定期間、虐殺の文法に曝露することという虐殺の文法の発動条件なのだが、実は被害国の住民以外でこの条件を満たしてしまっている人物が作中に2人存在する。 そう、ジョン・ポールと主人公であるクラヴィス・シェパードその人である。 クラヴィスは物語の最後でとある決断をくだすのだが、その動機についてモノローグで独白している。 しかし著者の伊藤氏によると、クラヴィスは最後に大きな嘘をついている、とのこと。 また彼は物語序盤で虐殺を主導していた『国防大臣』や『狂信者』の主張に対して、最後のモノローグとはまるで違う感想を抱いている。 これらから考察すると、ジョンポールの行動やクラヴィスの決断の意味が180度変わって見えてくるかもしれない。 ウィリアムズもこう言っているのだ &bold(){「繰り返しは、ギャグの基本だからな」} } *【小ネタ】 作者が「小島原理主義者」や「MGSフリークス」を自称する程小島監督作品を愛して止まなかったという話から、 作中に散りばめられたMGSに出て来たような技術等に目がいきがちであるが、伊藤氏はそれ以外に小説、映画、 ゲームなどの様々な作品からサンプリングをしているので、よく見てみると知っている人はついニヤリとするワードがあるかもしれない。 今作は元々スナッチャーの同人として温めていたものを膨らませて独立させた作品でもある。 また、伊藤と小島秀夫はかなり古い付き合いであり、病床の伊藤にまだ誰にも見せていないMGSの脚本を見せ、勇気付けようとする等の話がある。 小島秀夫がこの虐殺器官を読んだのが伊藤にMGS4のノベライズを依頼するきっかけになったという。 感謝を捧げます――私の困難な時にあって支えてくれた両親、叔父母に。 「貴様を殺して、その死体と追記、修正するさ!」 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,16) } #center(){&link_toppage(-アニヲタWiki-)} #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 淡々と始まり、淡々と終わる小説。美味しい水を飲んだ時のような読了感だった。不意にまた読みたくなるような、それも全編ではなくどこか一部を読みたくなる小説として本棚のお気に入りスペースに今も置いてある。 -- 名無しさん (2014-03-21 21:39:18) - アニメーションよりはハリウッドとかの実写でやって欲しかったけど、あのオチだとアメリカさんは納得しなさそう -- 名無しさん (2014-03-22 11:05:01) - 個人的には「虐殺器官」よりも「ハーモニー」の方が良い作品だと思う。虐殺文法への言及もほとんどなかったしなぁ・・・ -- 名無しさん (2014-11-23 23:06:20) - 虐殺器官とハーモニーと屍者の帝国 -- 名無しさん (2014-11-28 00:04:43) - ↑続き アニメ映画化おめ! -- 名無しさん (2014-11-28 00:06:41) - ジョンポール50くらいの爺さんのイメージだったけど、櫻井なのか。ジョンのアイデアは最初いい案だと思ったけど、なぜか東欧でも実行してるし最近のisil騒ぎで内乱でも外に迷惑が係ることがわかっちゃったのが玉に瑕。 -- 名無しさん (2015-08-06 02:17:09) - 櫻井ボイスのジョン・ポールはどう見てもサイコパスの槙島さんですありがとうございました -- 名無しさん (2015-08-06 21:20:11) - じいさんってかそれなりのオッサンのイメージだったんだが、中の人の声的に外見若くなるのかなこれ -- 名無しさん (2015-08-06 21:27:52) - てっきりクラヴィスが櫻井さんなのかと思っていた… -- 名無しさん (2015-08-12 00:17:47) - 櫻井氏、割と渋い演技もできるぞ。ナムカプのレッドアリーマーとか。 -- 名無しさん (2015-08-12 00:40:47) - 映画は制作会社倒産したし公開できるのかな? -- 名無しさん (2015-11-10 18:34:37) - 傭兵から車を奪う場面があるんだけど、その車に「藤原とうふ店」って書いてある。 -- 名無しさん (2015-11-10 20:57:00) - なかなかいい未来予想だと思っていたが、現実は内乱してる国は普通にテロ輸出国になってしまった -- 名無しさん (2016-07-23 11:45:28) - ↑いやそりゃこうなるだろ。内戦が外部に飛び火するなんて普通に昔からあったわ。作品世界の”始まり”となった同時多発テロだってアフガン一帯で起こり続けてた戦争が何の関係もない、なんて筈は無いし。っていうか、ジョンの言い分をマジに信じてたのか? あれ、俺にはデマカセにしか思えなかったんだけどな。 -- 名無しさん (2016-08-15 00:37:01) - なんか勘違いしてるけど虐殺器官の効果は内側に収束するようにできてるよ -- 名無しさん (2016-08-15 02:05:24) - ↑食料云々の話か? ”村”の中にしか効果はない、なんて話しあったか? 徒歩以外に碌な移動手段の無い大昔ならいざ知らず飛行機も船もある時代で『食料確保の邪魔になるからお前ら死ねや』が誘引されるんなら、世界規模でテロが輸出されるのが当然だと思うが? -- 名無しさん (2016-08-17 20:51:18) - 現実問題、貧困国を貧困にしてるのはその国で生産された食料を先進国が安く買い叩いてるからという理由も一つ有るんだしね。もしマジに虐殺の言語をぶちかましたら世界に起こるのは内乱の頻発どころじゃなく、海を越えての侵略戦争の応酬じゃないかな。要は世界大戦。 -- ↑コメ投稿者 (2016-08-17 21:11:34) - 映画が今年の冬に公開されるぞ!!ヤッター!! -- 名無しさん (2016-09-14 16:32:39) - ↑5外部って言ってもアフリカの狭い範囲でそこの内戦で欧米まで飛び火したって最近まで聞いたことないけど。特に理由もないのに作中で起こったことに対する作中の発言を否定する必要はないな。作中だと利害関係者の闘争が激しくなるだけで無関係の外国まで出かける気にはなってないように思うけど。 -- 名無しさん (2016-09-23 12:01:50) - ↑ ↑6でのおれの発言は作中で起こる事態がリアルかどうか? という事への意見だから、”特に否定する”理由としてはそれ。ジョンが言う様な、内側で潰し合わせりゃそいつら以外は無事、憎しみは内側で終わって先進国ハッピーエンド! にはならないだろ? ってことさ。はっきり言えば虐殺の言語の設定のその辺りの設定……内戦を引き起こせばそこ以外は平和になる、なんてのは有り得ないどころか逆効果じゃないか、ってのが端的なおれの意見。そしてその”逆効果(虐殺の言語なんてもちろん現実には無いと思うけど)”は虐殺器官の作中での時代、つまり最近になればなるほど増えているとも思うね。 -- ↑6コメ投稿者 (2016-09-26 21:59:07) - 内戦を起こせば、ではなく意図的に虐殺する側とされる側を作り出してるのでは?被虐殺者を殺すことが一番の優先順位となり少なくともジョンが守ろうとしているものに対してどうこうする気は起こさないようにする。ジョンにとっての平和ってのはそういうものなんだろう。 -- 名無しさん (2016-11-12 18:15:18) - 発表時期的にMGS4より前なのに、世界観はMGS4の延長線上にあるのが面白い。オセロットもいるし -- 名無しさん (2016-12-11 22:01:46) - 要はうっかりギアスみたいなもんか -- 名無しさん (2017-01-17 12:30:24) - 劇場版見てきた。クラヴィスのお母さんの下りがバッサリカットされてたり、冒頭でいきなりサラエボが吹っ飛んで、傍聴会のシーンになったりと多少の差異はあれど、楽しめた -- 名無しさん (2017-02-05 09:34:06) - 母親の下りがないとクラヴィスの大嘘と本当の動機(死後の世界への憧れ、その実現)がわからないんだよな…地の文を読むからこそわかるというか。これはハーモニーのトァンの心情にも言える。 -- 名無しさん (2017-02-25 19:25:42) - ↑一方でMGS5のスカルフェイスはジョン・ポールと正反対の悪役だったな -- 名無しさん (2018-06-13 22:12:49) #comment #areaedit(end) }

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