魔太郎がくる!!

登録日:2023/07/22 (土) 12:17:07
更新日:2023/11/18 Sat 20:44:08
所要時間:約 10 分で読めます






うらみはらさでおくべきか!




『魔太郎がくる!!』とは藤子不二雄Aによる漫画作品。

【概要】

週刊少年チャンピオン』で1972年から1975年まで連載されていた。単行本の巻数は出版社によって異なる。

作品のテーマは根暗ないじめられっ子による復讐劇を描いたホラー・怪奇系漫画。
基本的には単話完結型で恐怖を覚えさせる徹底的な報復が描かれており、陰湿な世界観と悪人に対する仕返しによる痛快を両立させた奇妙なバランスが特徴的。
作品の連載途中からは諸事情で過激な描写はやや落ち着き始め、連続的なエピソードや復讐劇ではないエピソードも見られるようになっている。

本作の連載前はいじめが本格的に社会問題化していなかったが、藤子Aは子供の頃にいじめを受けた経験があった。
そこで「いじめられる人間の方が多いんだから、そちらの視点で漫画を描けば読者の共感を得られるし、仕返しをすれば痛快になるはず」という発想の元で構想された。
主人公の特徴的な決め台詞は、当時藤子Aが鑑賞したとある大映制作の映画の台詞から取られている。
実際には作者の過去作である『黒ベエ』のエピソードである「スズキ・ミチオの秘密復讐計画」は本作と似通った要素が見当たり、プロトタイプとも言われている。

いじめられっ子をコンセプトにした本作の作風は、作者の目論見が的中して大きな反響を呼んだ。
後世でも本作に影響を受けた作品は少なからずあり、復讐ジャンルやホラージャンルの漫画の金字塔であると同時に藤子Aの代表作の一つでもある。

連載時は週刊少年チャンピオンとその出版社である秋田書店で作品が展開されたが、連載終了後は秋田書店以外の他出版社からも単行本が刊行されている。
『週刊コロコロコミック』でも期間限定で全巻の無料公開が行われた。

【路線変更などの諸事情】

連載初期は徹底的にグロ描写が重点的に描かれ、殺人の方法もどちらかと言えば現実寄りな路線だった。
ところが連載途中から報復手段は超能力を用いた非現実的な路線に変更されており、全体的にマイルドに修正されていく。
このような路線変更に至った理由は、作者である藤子A自身が自制を決意する出来事があったからだった。

その出来事は、連載時にチャンピオン編集部と作者の藤子Aが悪ノリをして「みんなの恨みを買います」というネタ企画を発表した時のことである。
すると応募が山ほど来た*1のだが、その大半の内容が「クラスメイトを殺してほしい」とか「先生をやっつけて」という危険な願望だった。
作品が現実の人間に悪影響を与えていると判断して状況に危機感を抱いた藤子Aは、現実的な復讐手段を取っていた本作の路線変更を決意したのである*2

作品の連載末期から連載終了後の80年代においては、いじめが本格的に社会問題として注目され始める。
その時期よりも前にいじめられている人間による復讐劇を描いた藤子Aの先見性にも注目が集まり、マスコミなどからは討論会へのオファーがあったが「評論家じゃない」という理由で拒否をした。

『藤子不二雄ランド』収録時には、全133話のうち約1/4相当に値するエピソードの展開やセリフに程度の差があれど何かしらの修正が行われている*3
そのため、現在発売されている単行本内のエピソード内の描写に何かしら違和感を覚える話があるのはこの修正の影響である。
1/5程度に値するエピソードは欠番として未収録の判断が下されており、これらのエピソードを現在読む手段はかなり限られている。
ちなみに、欠番エピソードが収録された旧版のチャンピオンコミックスでの未収録話が、現行の文庫版などには収録されているなど、収録状況が若干複雑になっている。

実は連載時の最終回には「第一部完」という表記があり、終わらせ方もやろうと思えば続編に繋げられなくもない締め方だった。
ところが実際には第二部は描かれることが無く、第一部だった事実は現在はほぼ無かったことにされている。
ただし、本作最終回後の後日談作品は後年発表されているため、無理やり解釈すれば完全な嘘にもなってはいない。

何度かアニメ化のオファーなどもあったようだが、上述のような危機感から藤子Aは映像化は拒否しているとされている。
こうした本作の展開における反省点は、後年に作者が同じくチャンピオンで連載した『ブラック商会 変奇郎』の執筆に活かされることになった。

【あらすじ】

両親の雰囲気に反して陰湿で根暗そうな容姿をしている中学生男子・浦見魔太郎。
彼は前の学校でいじめにあったということで、友愛学園に転校して新しい学校生活をスタートすることになった。
ところが友愛学園は掲げるモットー*4に反して実際は常識を知らない問題児の集まりであり、結局魔太郎はいじめの対象になる。

しかし、実は魔太郎は魔力を使って自分に攻撃をしてきた相手に報復をする、冷酷な殺人者としての裏の顔を持っていた。
自分をいじめる友愛学園の生徒などを相手に次々と報復を行う魔太郎の奇妙な青春生活が幕を開けるのだった…。

【主な登場人物】

  • 浦見魔太郎
主人公の中学生男子。いじめられやすい根暗な雰囲気のメガネを着用した人物。
ところがその正体は超能力「うらみ念法」という特殊な力で自分に痛い思いをさせた人物に殺人級の報復を行う危険人物。
前の学校や転校先の友愛学園ではいじめられているが報復しており、本人は苦しみながらもいじめられる立場が似合っていると思っている節がある。

(平気で殺人も躊躇しない性格だから当たり前と言えるが)人間性も優れているという訳でもなく、決め衣装が黒マントに薔薇柄の長袖シャツとファッションセンスも正直おかしい。
友人関係にも恵まれず、友人になった相手はたいてい裏切られるか誤解されるか友人が悲惨な目に合って別れるかと言う末路になる。
と言っても家族や想い人の由紀子などを中心に自分によくしてくれる相手にはそれなりにフレンドリーな態度や善良な一面を見せることも多く、性根は典型的な思春期男子の感性。
作中中盤以降はいじめっこの大半が死んだことや魔太郎も成長したためなのか、いじめられる立場ながらも学校生活にそれなりに順応するようになっており、そんなに根暗でもなくなっていた。

実は両親とは血縁関係がなく、魔族が東京の侵略に備えて普通の人間である浦見家に人間として生活させるように送り込まれていた純血の魔族。
当事者である魔太郎を含めて浦見家は誰もその事実を知らなかった。

  • 浦見陽太郎
魔太郎の父親。典型的なメタボ体型の中年男性であり、性格は温厚で容姿も魔太郎にあまり似ていない。
商事で勤務するサラリーマンで、作中では陰謀に嵌められながらも最終的には出世しているので営業マンとしてはなかなか優秀なようだ。
運動神経や運転技術はかなり低いなど父親としては頼りない一面もあるが、魔太郎には割と多く物を買い与えているなど優しい父親。
一方で酒癖の悪さがトラブルの原因になる出来事が多く、魔太郎がいないと人生が終わっていたレベルのトラブルが多く、知らない間に息子の世話になっている。

  • 浦見美代子
魔太郎の母親。年齢は36歳だが容姿は若々しく、作中でもかなりの美人であることを示す描写がある。
妻としても母親としてもしっかりとした女性だが、いじめを理由に転校した魔太郎が結局転校先でもいじめられていることには気が付いていない。
作中エピソード『ガラスの中の別荘』では、(ほぼ事故で魔太郎の注意不足が原因だが)魔太郎の楽しみを奪ってしまったこともある。

  • 浦見青三郎(清三郎)
魔太郎の叔父の男性で陽太郎の弟。世界中を仕事で飛び回っており、魔太郎を可愛がって土産を買ってきてくれるが、その物品がトラブルに発展するというある種のトラブルメーカー。
『蚊男』ではアフリカにおいてマラリアに感染したことで激やせし、蚊男に変貌した友人を治療しようと密入国させたことで大事件に発展した。
理由は不明だが、何故か作中の途中で名前の漢字設定が変更された。
陽太郎の弟としては清三郎以外にも次郎という清三郎よりも先に登場した弟がおり、こちらも海外土産を魔太郎に渡したことがあるが一回しか登場していない。

  • 南由紀子
本作のメインヒロイン。友愛学園における魔太郎のクラスメイトの中学生女子で、容姿端麗で性格も基本的には善良なのでクラスのマドンナ的存在。
魔太郎は「女神」とまで呼ぶほどに好意を抱いている。由紀子も魔太郎とはプライベートで遊ぶことが多く、彼をいじめから庇うことが多いが、それが逆にトラブルに発展する。
一方で魔太郎に完全に優しい訳でもないので見捨てることも少なくないが、作品終盤の頃には魔太郎を異性として意識している様子が見られる。
よくいとこが登場するが*5性格的に下種な人間が多く、魔太郎に制裁される者が続出している親戚事情はよくネタにされる*6

  • 南由津子
由紀子の妹の幼女。作中でも将来美人になると認定されているが、姉と容姿は全く似ていない。切人が一目惚れしている。
性格も難がある人物が多い本作では数少ない心優しい人物として描かれているが、悪霊に乗っ取られて言動がおかしくなったことがある。

  • 阿部切人
魔太郎の家の近所(というか目の前)に引っ越してきた一家の息子で3歳の子供。
普段は愛らしい容姿をしているが、その本性は子供離れした残虐性と高い知能と魔太郎を上回るレベルの魔力を持つ謎の存在。
本性を知る魔太郎を相手には腹話術やテレパシーで会話を行っており、片言で話してくる。
相手(魔太郎)をいじめることを楽しみとしていて、魔太郎とは互いに楽しく嫌がらせを挑む中で仲良く喧嘩する変な関係となっていった。
由津子に一目惚れしてからは彼女のことになると弱みを見せるようになり、いじめの対象にしていた魔太郎や嫌っている父親をいざとなると救おうとするなど、冷酷さに反した情を見せることも多い。

その正体は魔族であり、頭の被り物はそれを示す容姿の特徴を隠すためだった。
当初は魔太郎の魔族への加入に加担する筈だったが、これまでの情や魔太郎の父親への想いに感化されたのか、最終回では土壇場で魔族を裏切って魔太郎に加担した。

  • 阿部真理亜
切人の母親。作中でも美形とされる息子や夫と比べるとこちらは平凡な中年女性の容姿で、ある意味浦見夫婦とは対照的。
容姿は優れていないが性格面は基本的には善良な人物だが、息子が有名人になった際には調子に乗って傲慢になったこともある。そういう面も含めて一般人らしいと言えるが。
息子や夫の本性には一切気が付いていない。

  • 切人のパパ
切人の父親で真理亜の夫。名前設定は不明。真理亜よりも年上だが、かなりの若作りで青年にしか見えない美形。
一見すると爽やかだが、その本性は残虐性を秘めた無邪気さを持ち、魔太郎にも度々嫌がらせを仕掛けるが、最終的には報復される。
大人げない性格でもあるので息子にすらかなり嫌われているが、魔太郎によって苦しめられた際には咄嗟に救われるなど、全く情を持たれていないわけでもない模様。

その正体は魔族の一員。ニューヨーク侵略が順調な中で時が来るまで切人と共に東京に潜伏していた。
ところが最終回では態度が一変し、土壇場で魔太郎を救おうとした切人に同調した。

  • 「怪奇や」のマスター
怪奇グッズを扱う店舗「MONSTER SHOP 怪奇や」のオーナーの老人。常に『オペラ座の怪人』のマスクを着用した不気味な外観(本当にマスクなのか疑う説もある)。
魔太郎が客になったことから縁を持つようになり、その後は常連客と化した魔太郎の相談や無償でのグッズの譲渡などを行ってくれる事実上のサポート役。
商売人としては道楽商売的な側面が強いようで、魔太郎の正体を認知して彼の行動を楽しんでいるようだ。

【関連作】

魔太郎が翔ぶ!!

『ヤングマガジン』に掲載された全2話の読み切り作品。
掲載雑誌と出版社は変わっているが、本編のその後を描いた事実上の続編作品。
比較的明るくなっていた本編の末期から更に成長して一見すると爽やかな好青年になっていた魔太郎だったが、その性根と復讐者としての力は相変わらずだった。

切人がきた!!

人気キャラクターである阿部切人の名前を須磨切人に変更して主人公に置いた作品。『スーパージャンプ』にて不定期連載された。
いとこのサラリーマンである甘井一雄のために切人が天誅を行う。
切人のスピンオフとして扱われるが、設定的には本編とは繋がっているとは言えないパラレル的な作品である。

【余談】

  • 本作をネタにした作品は多く、伊藤潤二の双一シリーズは本作の主人公のデザインをモチーフにしていると明言されており、『金田一少年の事件簿』でも浦見魔太郎を元ネタにしたと思われるキャラクターが登場している。
    ドラえもん』でもエピソード『かならず当たる手相セット』において阿部切人をネタにしたと思われるキャラクターが登場する。

  • ちなみに本作終了の少し前(1975年9月から)、少年チャンピオンでは次なる学園ホラー漫画として黒魔女中学生を主人公にした『エコエコアザラク』(古賀新一)の連載を開始。
    こっちも本作と同じく超常の主人公によるエゲツナイ振舞いが売りだったが、オカルト路線重視や後半でのライト化、主人公が「トリックスター」よりの書き方をされていたためか後に複数回実写化される有名作となっている。
  • 将棋棋士の「渡辺明」が浦見魔太郎に似ていた為に「魔太郎」というあだ名が付いたというのは有名なエピソード。なお現在は生え際の後退によりあまり似なくなっている。




追記・修正は人を恨んでいて復讐しようと思っているいじめられっ子な人にお願いします。

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最終更新:2023年11月18日 20:44

*1 しかもハガキなどではなくほとんどが分厚い手紙入りの封書

*2 A氏曰く「『魔太郎のマンガを読んだ子供が同じ手口で事件を起こした』なんて新聞にでも載ったらコトだ」との事。

*3 修正前は魔太郎の復讐相手が明らかに死んでいる描写だったのが、セリフや絵を描き替えることでその辺を曖昧にする、など。

*4 「友情と愛情が何より大切」という方針。

*5 全部で4人登場した。

*6 制裁されなかったのは初期話「黒メガネをかけた中学生」に登場したタケシのみ。