巨人の星

登録日:2020/03/18 Wed 23:17:11
更新日:2024/03/11 Mon 23:43:01
所要時間:約 22 分で読めます







思い込んだら 試練の道を

ゆくが男のど根性

概要

巨人の星
日本漫画・アニメ史を語る上で避けては通れぬ、スポ根漫画の金字塔。
厳格そのものの父星一徹により幼少期より鍛え上げられたド根性投手星飛雄馬が、
日本最強の球団・読売ジャイアンツというスター軍団の中でもひときわ輝く大選手「巨人の星」を目指し、
汗と泥と苦悩と涙にまみれた野球一筋の青春に驀進するさまを描く。
続編として『新・巨人の星』が存在する。

原作は「あしたのジョー(高森朝雄名義)」「空手バカ一代」「タイガーマスク」等数多くの「スポ根」作品で知られる梶原一騎。
作画は「てんとう虫の歌」「いなかっぺ大将」「荒野の少年イサム」の川崎のぼる。

あまりにも有名な作品ゆえに今なお毀誉褒貶が激しく、
ある人は「現代人が忘れてしまった美しい努力と根性がここにある」と言い、
ある人は「本作のヒットが日本のスポーツ界に根性論を蔓延させ多くの有望な選手の芽を摘んだ」と言い、
ある人は「テーマが普遍的で今読んでも十分感動的」といい、
ある人は「あまりに使い古された展開が多く前時代的」と言い、
ある人は「万事が荒唐無稽でギャグマンガとしてなら面白い」と言い、
ある人は「読売巨人軍へのヨイショが過ぎる」と言い、
ある人は「実在選手の扱いが咬ませ犬」と言い、
ある人は「現実ベースの世界観なのに魔球の存在が非科学的で浮いている」と言い、
ある人は「飛雄馬が消える魔球を投げるには科学的にどうすればよいか」を本にしてベストセラーとなった。

果たしてあなたがこの作品にどの感想を抱くかは分からない。無論どれを抱いても良い。
確かなことは、本作が当時の少年たちにバカウケしたということと、
その影響力が尋常なものではなく、その後の漫画界に「劇画ブーム」「スポ根ブーム」をはじめ大きな影響を与えたこと、
そして星一徹の教育を真似するのはよくないという点であろう。


●目次

作風について

その作風は簡潔に言えば「友情」「努力」「勝利」のジャンプ三原則を忠実になぞっている。掲載誌はジャンプじゃないけどな!
そしてそのいずれもが、泥臭く濃厚である。

友情

本作の登場人物は友情に篤い。
ただし本作において求められる 友情のレベルは尋常ではなく高い

友情とは、 凄まじいど根性を持つ真の男が、相手をまた真の男と認める事で生まれる、男同士の言葉にし難い連帯感 とでも言うべきものである。

「巨人の星」において、友情の成立にどのくらいの激しさが必要なのか、飛雄馬とその宿命のライバル・花形が友となった経緯を見てみよう。

甲子園の決勝戦、飛雄馬は利き手の親指の爪が真っ二つに割れた状態で激痛に耐えながら完投
彼の高校は飛雄馬以外にまともな投手がおらず、勝つためには飛雄馬が投げるしかなかったためである。
しかし指から吹き出した血でボールが滑る不運により、9回ウラに花形のサヨナラホームランを浴び優勝を逃す。

花形は自らのホームランボールを見て、飛雄馬がボールを血で染めながら完投していた事に気づき驚愕。
飛雄馬こそが真の勝者だと公表しようとするも、飛雄馬はそれを遮る
それを公表すれば飛雄馬の名誉は回復する。世間は彼をヒーローとしてたたえ、彼の夢である巨人軍入りも近づくだろう。
だが、それは同時に控え投手の実力が負傷した飛雄馬にすら劣ると天下に公表し、彼の名誉を傷つける事になる。
ゆえに飛雄馬は、敗北者の汚名を敢えて被ったのだ…。

花形「星くん ぼくはますますきみに勝ちたくなった
 宿命のライバルどうしの対決は いまあらためて火ぶたをきるのだっ
 だ だが そのまえに……」

「も もう一度 きみをだきしめさせてくれたまえ!
 なんてすばらしいライバル!」

飛雄馬「きみも…
 せ せっかくのホームランのねうちを下げてまで
 おれの負傷を公表しようとした き きみも!」

沈みゆく夕日の中、男泣きの涙を滝のように流しながら
マウンド上で2人の男は無言で互いの肩を抱き合っていた…。


…ここまでやって初めて友情なのだ。
これを読んでいるあなたはできるだろうか?
俺には無理だ!…無理だが…願わくばこんな男になりたい!そんな理想像を激しく描き出すのが本作の作風なのだ。

そして友情が頂点に達した時、男たちは熱い涙を流す!
真の男が心から感激した時、彼らは胸を張りながら滂沱の涙を流し、男泣きに泣くのだ。

アニメのオープニング「行け行け飛雄馬」もこう歌っている。
血の汗流せ 涙を拭くな
熱い友情にむせぶ男たちの涙が、「巨人の星」第一の見所である。


なお本作の登場人物はどんな厳しい練習にも涙一つ流すことはない根性の塊のような連中だが
劇中では頻繁に彼らを感動せしめるような激しい友情エピソードが頻発するため、
大概の漫画よりよっぽど泣くシーンが多いことは秘密である。

努力

本作は努力するシーンが尋常ではなく多い
飛雄馬は自身に弱点が見つかれば必死に特訓して弱点を克服し、
ライバル達はそれをさらなる特訓によって打ち崩す。

「試合中に突然新たな力に目覚める」なんてことは一切ないし、
「飛雄馬に流れる熱い巨人軍の血が覚醒して云々」などというロマンチストな補正も一切ない
勝敗を決めるのは、ひとえに事前にどれだけ努力し、どれだけ良い準備をして勝負に挑めたかである。

飛雄馬の前には野球以外にも様々な試練が立ちふさがる。
厳格な父、経済的窮乏、無理解な権力者、悲惨なクリスマス会そして悲恋…
飛雄馬はそのたびにがーんと頭上に大文字を表示させながら打ちひしがれ、苦悩し、しばしば失踪し、そして困難を克服して不死鳥のように復活する。

壁は努力して切り開くしかない。窮地は自らの手で乗り越えるしかない。
特訓と挫折の存在こそが、本作をヒューマンドラマたらしめている最大の特長なのである。

特訓シーンというのは対決シーンに比べ盛り上がりに欠けるため
これ以降の漫画ではどんどん減っていき、戦闘中にいきなりパワーアップする作品が主流になって久しい。
(これはごく最近の作品でというわけでもなく、80年代の聖闘士星矢辺りで既にそうである)
しかし、本作は「特訓をいかに魅力的に見せるか」にも工夫をこらしており、特訓シーンも熱い友情と対決に向けた緊張感がこれでもかと込められている。
特訓シーンがなければ、本作がかくも人気作品になる事はなかっただろう。

勝利

星飛雄馬は勝たねばならない。
逆境に、ライバルに、自分の甘さに、そして偉大な父に勝たねばならない。

あまり知られていないが、本作は「第1部」「第2部」「第3部」に分かれている。
ではどこで分かれているのか。普通に考えれば「高校野球編」「プロ野球編」辺りで分けるだろう。
ところが本作では「飛雄馬がプロ入りして2年目のシーズンの後、春季キャンプとオープン戦の間」というものすごく微妙なタイミングで第1部が終わる。
なぜなら、ここで星一徹が中日ドラゴンズのコーチに就任、飛雄馬の敵として立ちはだかるようになるためである。

飛雄馬は幼少期から父一徹と二人三脚であった。
苛烈な極秘特訓にたびたび反抗しながらも、「だいすきなおれのとうちゃん」と公言して憚らないほどに信頼していた。
だが、プロ入り後2年が過ぎ18歳となった飛雄馬は「自分は父のいいなりに野球をしてきた野球ロボットなのではないか」との自意識に目覚め、年俸額でゴネてみたり*1、芸能人と浮名を流してみたり*2、クリスマスパーティを開いてみたり(アニメのみ)*3と「野球ロボットではない人間」になろうと不器用な努力を始める。
父に全幅の信頼をおいていた子供が、父から独立した一人の人間、「大人」になろうとあがきはじめたのだ。
それを見た一徹は突如球界へと復帰、みずから鍛え上げた刺客を飛雄馬に差し向ける、最強の敵へと変貌する。
子供が大人になるための最後の試練として立ちはだかる門番となるために。

一徹「飛雄馬のやつの背番号16に このわしの背番号84をたせばいくつになる?
 100じゃ すなわち完全じゃ!!
 そして そのたし算とは 父と子が 先輩と後輩の男と男が 血を血で洗う凄まじい戦いじゃよ!
 その死闘のかなたにおいて……
 もし飛雄馬が勝てば みごと わしをのりこえれば
 その日こそ やつは完全なる野球人となりうる!
 王者巨人の星座にあって ひときわ でっかい明星に!」

本作最大最後のテーマは「父を超えること」である。
男は誰しも父を超えて成長しなければならない 。梶原一騎はたびたび漫画の中でこのメッセージを発していた。

飛雄馬はこの偉大な父に勝つことができるのか。
二人三脚の少年から、独立独歩する一個の男に変わることができるのか。
そして父に打ち勝った先に待つものとは……。





なお、先ほど「その作風は簡潔に言えば「友情」「努力」「勝利」のジャンプ三大原則を忠実になぞっている」と書いたが、
もう一度言うが、本作の掲載誌は週刊少年マガジンである
そもそもジャンプの創刊は1968年であり、本作の連載開始(1966)より後なのだ。
今や日本のメインカルチャーとなった「少年漫画」というジャンルは、「巨人の星」が描いた雛形のもとに育ち、やがて独自の大樹へと育っていったのである。


主なキャラクター

星飛雄馬(ほし ひゅうま)

本作の主人公。
そのぶっとい眉毛に象徴される、凄まじい根性、克己心、自責の念により、あらゆる困難をはねのけ「巨人の星」という目標に向け驀進する。
だが熱血で一本気な主人公かと言えばそうでもなく、むしろ過度に純粋なためにショックを受けやすい、人間的な弱さが目立つ人物である。
目標に向かって突き進んでいる限りはどんな過酷な特訓にも音を上げる事はないが、
少年漫画の主人公としては異例なレベルで精神的に不安定であり、劇中では後悔、嫉妬、上から目線、慢心、恋の病など、およそありとあらゆる人間的弱さを見せている。

ポジションは物語開始当初から一貫して左投げのピッチャー。
伝説の名投手・沢村栄治の投法を参考に描き出された、高々と足を上げるフォームから投げ下ろされるボールは、針の穴を通すような超人的コントロールと、並のキャッチャーでは捕球すらままならない超スピードを誇る。
そのコントロール力は壁に空いたボール1個分の穴にボールを投げ込み、屋外にある木にぶつけ、跳ね返ってきたボールが同じ穴に入って戻ってくるほど。重力がある地球上では無理では?
だが、彼には体重が軽いために球が軽く、打たれると飛びやすい*4という欠点があることがプロ入り後に露呈。
これを補うべく魔球「大リーグボール」を編み出し、本作は魔球の開発とその打倒という新たな次元へと進んでいく。

近年なぜかクリスマスにぼっちの人代表として有名になっているが、アレはアニメオリジナルエピソードで原作には存在しないぞ!

変わった名前の由来は、本来は「明星」をモチーフにして「星明(ほしあきら)」とする予定だったが、ヒューマンドラマを描きたいという作者の意向からこちらが採用された。
元の名前は姉に引き継がれた。

彼の声を担当した古谷徹はアニメ版開始時14歳で(主演アニメとしては2作目)、後に数々の作品で主役を務める彼の最初の代表作となった。

星 一徹(ほし いってつ)

飛雄馬の父。
かつて読売巨人軍の内野手だったが、戦地で肩を壊し引退を余儀なくされる。
スター選手揃いの巨人軍という星座の中でもひときわ輝く明星のような大選手…すなわち『巨人の星』になるという夢を息子飛雄馬に託し、彼を厳しく鍛え上げた。

「スパルタ」で「頑固親父」で「封建的」で「暴力的」という、21世紀の現代ではとても出せない属性盛り盛りの昭和の男。
少年期には息子に対し常軌を逸した厳しい特訓を課したが、全ては飛雄馬が一流選手となる能力と、何より根性を鍛えるため、彼なりの愛ゆえであった。
その教育方針は徹底した秘密主義。飛雄馬はなんと高校に入るまでまともにチームで野球をプレイした事がなく、父と2人きりの秘密特訓の日々を送った。
飛雄馬が早くからマスコミや周囲にちやほやされ、結果二流のまま終わる未完の大器にならぬよう、一徹は敢えて彼に華々しい活躍の機会を与えなかったのだ。

プロ入り後は飛雄馬との関係は軟化したが、後に中日コーチとして球界へ復帰。
男が乗り越えるべき最大の壁として飛雄馬にふたたび立ちはだかる。

テレビもない貧しい長屋ぐらしの上、子供2人の学費を稼ぐため昼夜兼行で肉体労働に従事しており、本などを読む様子はほとんどないのに異様に博識。
野球理論全般はもちろんの事、歴史上の故事にも詳しく、なぜか野球と無関係なはずのテニスボールの速度などにも見識があり、ほとんど「知っているのか雷電」状態である。
なお劇中でたびたび引用される『死ぬ時は泥の中でも前のめりに死にたい』という坂本龍馬の言葉は恐らく梶原一騎の創作であり、民明書房の先駆者とも言うべき人物でもある。
(詳細は実は言ってない台詞を参照の事)

現代の教育・スポーツ理論を前提にすると、彼の教育は親としてもコーチとしてもあまりにもNGなポイントが多い事は否定できない。
そのため、しばしば「昭和の父親の悪いところ」の象徴のように語られる人物であるが
実のところ「巨人の星」当時でも十分時代遅れな人間であり、劇中でも「現代のマイホーム時代におけるやさしいものわかりのいいパパと正反対」と評されたり、当の飛雄馬に「人権じゅうりんだっ! 児童ぎゃくたいだっ!」と叫ばれたりしている。
消えていった物を懐かしむ人はどの時代にも存在するが、星一徹もそんな「消えゆく旧世代」の象徴のような存在であった。

星 明子(ほし あきこ)

一徹の長女・飛雄馬の姉。
説明不要なほど有名な「木の陰で泣く姉ちゃん」。
毎度のことながら理解不能な 蛮行 特訓を重ねる父と弟の姿にひたすら耐え続ける哀れな少女…みたいな印象があるが、実はかなり強かで聡明な女性。
なによりあんな父親に育てられて一度もグレなかったこと自体、彼女の芯の強さがよくわかるであろう。
消えゆく日本男児が一徹ならば、明子は消えゆく大和撫子であった。

花形 満(はながた みつる)

飛雄馬のライバルその1。阪神タイガース所属。
大自動車会社「花形モーターズ」の御曹司にして、変な髪型だが顔は二枚目・語学堪能・運動万能の完璧超人。
最初は不良野球団「ブラック・シャドーズ」を率いて(小学生なのに自動車を運転しながら。しかもオープンカーで10人箱乗りという道路交通法ブッチギリ状態で)登場し、打球でピッチャーを粉砕する「ノックアウト打法」で草野球チームを荒らし回っていたが、殺人的特訓でこれを克服した飛雄馬に敗北。
以降は高校野球、プロ野球と常に飛雄馬の前に立ちはだかる宿命のライバルとなった。
終始打倒飛雄馬に燃えているが飛雄馬を敵視している訳ではまったくなく、全力で飛雄馬と対決し打倒することが彼なりの友情の示し方なのだ。

10年に1度の天才打者と呼ばれるが、努力至上主義の本作において努力せずに成功する人物はおらず、無論彼もバットでテニスするだとかビル解体用の鉄球を重量10㎏のバットで打つだのといった、金の使い道を間違えている常人を遥かに上回るトレーニングの末実力を身につけている。
しかしそれをおくびにも出さぬのが花形の流儀であり、密かに大リーグボール打倒特訓を行う様子を見た飛雄馬は「優雅に泳いでいるように見えるが、水面下で必死に水をかく白鳥」にそれを例えた。

なお彼が所属する阪神タイガースは、愛媛県出身の藤本監督や東京都出身の田淵幸一はじめなぜかほとんどの人物が大阪弁でしゃべる猛虎魂あふれる球団となってるんやで。

リメイク版『新約「巨人の星」花形』ではあの特徴的な髪型はどこへやら、普通のイケメンになっている。星家の人々はそんなに変わってないのに。

左門 豊作(さもん ほうさく)

飛雄馬のライバルその2。
分厚い眼鏡に朴訥とした外見、ドカベン体型に熊本訛りという、不人気属性の塊のような男。
だが、その男らしさは劇中屈指であり、キャラクターとしての魅力は何ら二枚目キャラクターに劣るものではない。
飛雄馬が同情の念を禁じえないほどの不幸な生い立ちと、同じ家で育ったはずなのになぜか熊本弁で喋らない5人の弟・妹を養わねばならぬという責任感が、彼に年齢に似合わぬ風格を与えている。
星一徹が厳しい父の象徴であるならば、左門は子供たちを守る優しき父性の象徴といった所か。

高校野球での対決の後、プロ野球の大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)入り。
全体に2番手のライバルという立ち位置であった。
プロ野球選手として安定した成績を上げ兄弟を養い続けねばならない左門は、体を壊すような無謀な特訓を行い、飛雄馬との対決に全力を注ぐ事はできなかったのだ。

伴宙太(ばん ちゅうた)

飛雄馬の女房役を務めるキャッチャーにして、飛雄馬の大親友。
全体的に涙もろい本作の人物の中でも特に涙もろく、「うお~ん!」と蛮声を上げて号泣する事が多い。

当初は飛雄馬が入学した青雲高校の柔道部エース・高校日本王者にして応援団長として登場し、野球部に理不尽なしごきを与えていた。
だが、飛雄馬の超高校級剛速球を「そんなへなちょこボール簡単に捕れる」と豪語したため対決が勃発。
3日間にわたり飛雄馬の豪速球の捕球を試み、しかも1球も捕れず全身にボールを浴び続けるという殺人的対決の末捕球に成功、飛雄馬と熱い友情で結ばれ無二の親友となる。
(飛雄馬はこのくらい激突した相手にしか友情を感じないのかとても顔が狭く、例のクリスマス回の描写を見る限り彼が友人だと思っている人物は花形と左門と伴しかいない)

レギュラー陣の中では野球センスに乏しく(それでも高校野球日本代表となり*5巨人に入団できるだけの実力はある)、長らく女房役として飛雄馬を引き立て支援する事を自身の仕事としてきたが、
最終的には本人の思いもよらぬ、そしてきわめて不本意な形で打撃に開眼する事となる。

アームストロング・オズマ

飛雄馬のライバルその3。
中日コーチに就任した一徹が米大リーグカージナルスから引き抜いた大リーガー。
飛雄馬とは親子ほどの身長差のある巨漢の黒人。
一徹の指導のもと、その名も大リーグボール打倒ギプスによって肉体改造を施され、ビデオカメラにすら映らないほどの速さのスイングで大リーグボール1号を完璧に粉砕した。

幼少期からカージナルスの秘密兵器として野球一筋に育てられており、飛雄馬を自分と同じく野球以外の事を何も知らない野球ロボットだと罵倒。
これにショックを受けた飛雄馬は先述の通り迷走したが、結果として飛雄馬が大人としての一歩を踏み出す後押しをすることとなった。
なお彼のセリフはカタカナで書かれているだけで日本語は堪能であり、とても流暢に飛雄馬を煽る姿が印象的。
野球以外のことは知らないんじゃなかったのか。

原作では1年契約が切れると米国に帰国して終わりだが、アニメではその後のオズマの大リーグでの大活躍と、あまりに悲劇的な末路が描かれている。

牧場晴彦(まきば はるひこ)

飛雄馬の高校の同期、後に漫画家。そしてなぜか飛雄馬に不幸をもたらす男
彼は飛雄馬に友情を感じており、飛雄馬も彼をにくからず思っている*6のだが、
どういうわけか彼がやることなすことはことごとく飛雄馬にマイナスに作用する
暴行事件を起こすと犯人は飛雄馬だと誤認され、何かメモを書けばライバルに読まれて飛雄馬の弱点を割り出され、
酷い時になるとただ一緒に居るだけで飛雄馬に悪いことが起こる。
劇中で特に「コイツと居ると悪いことが起こる」と飛雄馬や本人が気づく様子はないのだが、読者視点では「やめろー!出てくるなー!」となる男。

巨人の星用語辞典

野球

とにかくキツくて辛い、楽しみなど一片もない、だが男が生涯を懸ける価値のあるスポーツ。

本作ではなぜか野球が異常に厳しい世界として描かれており、
スポーツであるはずの野球を飛雄馬が楽しそうにプレイしている描写は皆無
連載当時、現役のプロ野球選手からさえも「それはどうなんだ」と苦言を呈されたほどである。

そもそも、本作は「少年宮本武蔵モノみたいなのを描きたい」という発想から企画が始まっており、 野球を描くための漫画ではない
本作が描きたいのは「スポ」の「」の部分であり「スポ」の部分は そのための手段にすぎない のである。
現実の野球と価値観が乖離してしまうのはやむを得なかったと言えよう。

なお、本作は別に野球を楽しむなと言っているわけではない。
コミックス6巻には飛雄馬の巨人軍における先輩として大内山という投手が登場するが、彼は「野球には楽しんでやる野球と傷だらけでやる野球」の2つがある、と語る。
実力不足で巨人軍を引退した後、のびのびと楽しく草野球をする大内山を目にした飛雄馬は、それをちょっぴり羨ましく思いつつも、自らはあえて傷だらけで栄光の巨人の星を掴む道を選ぶのである。

読売巨人軍

幼少期から特訓の鬼である一徹に鍛え抜かれた飛雄馬がドン引きするレベルのストイックな特訓集団。 亜細亜大学かな?
あまりに激しい練習のため、並の新人は食事が喉を通らなくなり、結果ますます特訓についていけなくなり栄養不足で落伍するという。
更に「練習場への移動バスは新人が率先して椅子に座り、 不安定なバスの中で立って足腰を鍛える権利を先輩に譲る 」などの真偽不明な恐るべき慣習が多々語られる。

本作には実在の選手が多々登場するが、特に巨人軍のスター選手である長嶋茂雄と王貞治、そして川上哲治監督は出番が多い。
巨人入団直後の長嶋や、早実高校時代の王に少年期の飛雄馬が挑戦し、やがてプロの世界で共闘する事になるというストーリーは、当時の少年達にとってまさしく夢のシナリオであった。
川上監督、王・長嶋、そして去りゆく名投手金田正一。選手として人間としての素晴らしい先輩である彼らから、飛雄馬は明に暗に薫陶を受け、プロの野球人として育っていくのだ。
本物の長嶋(ミスター)は選手としてはともかく人間としては頭宇宙人だったが

大リーグボール養成ギブス

飛雄馬が幼少期に装着していた、全身の動きを制限するギプス。
無数のバネによって飛雄馬の動きを常に妨害し続けており、文字も満足に書けないほどの負荷を掛け続ける。
詳細は当該項目を参照。

その形状がバネに皮膚が挟まって痛いだけで、筋肉に負荷をかけられる構造に全くなっていない事についてはよくツッコまれる。

大リーグボール

飛雄馬が読売巨人軍入団後に編み出した3つの変化球。
大リーグボールという名称は「これまで変化球はアメリカ大リーグでのみ編み出されてきた。だがこれは日本人が初めて作り上げた新種の変化球である」という意味が込められている。NPBボールの方が正しい気がする

1号・2号・3号の3つがあるが、特に「消える魔球」である大リーグボール2号が有名。
その影響力は、当時の男の子の代表的な玩具であった「野球盤」に消える魔球機能が搭載されてしまうほど。

これ以前にも魔球を扱う漫画は存在した(「ちかいの魔球」等)が、これらが原理不明の荒唐無稽なボールだったのに対し、
大リーグボールは1・2・3号のいずれもそれなりに科学的な説明(注:それなりに、でしかない)が付与されており、
さらにライバルたちはこれをそれなりに科学的な方法(注:それなりに、でしかない)で打ち破ろうとするため、そのリアリティを大きく増した。
また、魔球の正体は登場当初は読者にも伏せられており、読者は花形や左門ともども謎めいた魔球の正体と攻略法を考えずにはおれない。
いわば飛雄馬を怪盗、読者とライバルを探偵とした、推理小説めいた構成となっているのも特徴的であり、作品を大いに盛り上げた。

各魔球の詳細は当該項目を参照。

ちゃぶ台返し

星一徹が怒り心頭に発した際に繰り出す必殺技。
ちゃぶ台を上に乗った食事ごとひっくり返して激怒し、飛雄馬をぶん殴り、明子姉ちゃんはよよよと泣く…というイメージが強い。
が、実は一徹がちゃぶ台をひっくり返したのは「嘘をついた飛雄馬を平手打ちにした余波でひっくり返った」1度だけ*7である。
食べるのに苦労した戦中世代の一徹がそんな食べ物を粗末にする行為を頻繁に行うわけはないのだ。
だが、アニメのエンディングで毎回ちゃぶ台返しのシーンが登場するため、当時世代の人々には「星一徹と言えばちゃぶ台返し」というイメージが必要以上に定着してしまった模様。

コンダラ

雨等でデコボコになったグラウンドを平坦に均すための「整地ローラー」のこと。
全国的にこの名前で知られているが、その由来は「巨人の星」である。
しかも「巨人の星」劇中で整地ローラーがコンダラと呼ばれていたというわけではなく、

コンダラ 試練の道を
ゆくが男の ど根性

と、アニメのオープニングの歌い出しがぎなた読みされて誕生したという凄い経歴である。
正しくは「思い込んだら」なのだが、かなり独特な用法(普通は「心に決めたなら」「決心したなら」などと言う場面)である事から「根性を出して引っ張る何らかの重いものである」と誤って解釈された結果こうなってしまった。

なおアニメのOPにコンダラは登場しておらず、「思い込んだ~ら」の部分では雪の中で走る飛雄馬の映像が映っている上、「思いこんだら」と歌詞は漢字で表記されている。
第12話に「行け行け飛雄馬」をバックに飛雄馬がコンダラを重そうに引くシーンがあり、これを元に発生した勘違いがラジオで紹介されて全国に広まった模様。
しかもコンダラは本来複数人で押して使うものなのだが、このせいで「引いて使う」という勘違いが定着してしまったという二重勘違い状態にある(引いて使うとローラー部に轢かれかねないので危険)。

余談だが、アイカツ!のドリームアカデミーにはアイドルが体を鍛える装置として コンダラマシーン なる物が存在しており、大きなローラーを女の子が1人で引っ張る様子が度々登場する。
巨人の星の影響力は今なお大きいということだろう。

がーん

飛雄馬が恋人が「癌」を患っているのを知った時等ショックを受けるたびに頭上に大きく表示される文字。
ショックが大きい場合がーんがーんがーんと連打になったりする。
後の漫画ではカタカナで「ガーン」と書くのが主流となったが、本作では一貫してひらがなで書く。*8
「がーん」に限らず「しーん」など、本作の擬音語は全体的にひらがな主体。

長らくこの「ショックを受けると頭上にがーんと出る表現」は「巨人の星が発明した」とされていたが、近年の調査で巨人の星(1966)の5年前に連載された永島慎二の漫画「少女マリ」(1961)に同様の表現がある事が分かり、巨人の星は「がーん」第1号の座からは外れている。
とはいえ、超有名作である本作に「がーん」が多用された事が、これ以降の漫画界に「ガーン」を定着させたことは間違いないだろう。

本作の登場人物はとにかく泣く。めちゃくちゃ泣く。
悲しかったり悔しかったりで泣くこともあるが、それ以上に嬉し涙が圧倒的に多い。
1話に1回くらい*9は誰かしら泣いている。
有志の研究によれば、原作全巻で実に199シーン、599コマに渡って泣いているとのこと。
(出典:https://www.hatosan.com/ensoku/2011/05/199.html

号泣王は(主人公で出番が多いということもあるが)飛雄馬で、実に61シーン214コマも泣いている。
甲子園の準決勝では仮にも少年漫画の主人公が 8ページにわたって延々と泣き続ける という前代未聞の事案が発生した。
逆にまったく泣かないのが左門。たったの2シーンしか泣いておらず、しかもうち1回は幼少期の回想。
もう1回は本作では雨あられと降る感激の涙ではなく悔し涙であった。
一番現実的なメンタルをしているのは左門かもしれない。

最後に

現代の漫画に慣れた人からは「見覚えのあるテンプレ的展開が多い」という意見も見られる作品である。
しかしその認識は逆だ。それは「巨人の星」が先駆者となり、多くの漫画で模倣された展開なのである。
「巨人の星」という金字塔のある部分は模倣し、ある部分は反面教師とすることで、あるいは勝利のカタルシスを描き出すバトル漫画が、あるいは競技と友情の素晴らしさを謳うスポーツ漫画が生み出されていった。
少年漫画という世界がどのように切り開かれ、どのように発展したのか。いかに洗練されていったのか。
それを知る上で「巨人の星」の重要性は今なおゆらぐことはないだろう。


今や「少年漫画」というジャンルは、無数の作品が輝きを競う巨大な星座と化した。
「巨人の星」は、その空に最初に輝いた一番星だったのである。



「とうちゃん!見てくれ!アニヲタウィキにおれたちの項目を作ったんだ!
 ギプス魔球スーラジクリぼっち回しかなかったウィキについに作品項目ができたんだ!」

「それがどうした飛雄馬 みろっ、そんなものドカベンにもメジャーにもダメジャーにもあるわいっ!
 よく項目をつくった などと ほめてもらいたかったのだろうが、
 項目をたてただけで満足するあまったれた男に 巨人の星がつかめるはずがないわ!」

 がーん

(と とうちゃんのいうとおりだ おれは項目を建てただけで 完成形だとおもいこんでいた……)
「ち……ちくしょう!」(泣きながら駆け出す飛雄馬)

「あんまりよおとうさん 飛雄馬はおとうさんのすごさを世間にみとめさせたくて項目を……」(泣く明子)

「明子はだまっていろっ 飛雄馬にはこれがいちばんの薬なんだっ」
(それでいいのだ飛雄馬 男の項目は追記・修正をくりかえしてつよくなる……)(泣く一徹)


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最終更新:2024年03月11日 23:43

*1 野球ロボットはお金に執着しないから

*2 野球ロボットは恋愛しないから

*3 ロボットはクリスマスを(略)

*4 と、当時の野球界では考えられていたが全くの間違いで、現代では回転数の問題と言われている

*5 ただしこの様子はアニメオリジナル。

*6 野球選手どころか運動音痴という飛雄馬とは正反対の人物でありながら高校卒業後も交流があった模様

*7 アニメではこのシーンの回想が加わり計2回

*8 1960年代頃までの講談社の漫画は「擬態語はひらがなで書く」というルールがあったそうな。

*9 この頃の漫画は単行本化の際に連載数週間分をまとめて1話に再構成するため、1週に1回ではない