レッドマン(漫画版)

登録日:2018/11/02 Fri 00:21:29
更新日:2023/11/25 Sat 11:23:42
所要時間:約 9 分で読めます




これぞ究極の

赤いアイツ


本項では、1971年に放送された超低予算残虐怪獣スナッフフィルムヒーロー番組『レッドマン』の漫画版を紹介する。
「えっそんなのあったっけ?」と思われたアナタ。その認識は正しい。
なぜならレッドマンは、2018年に初めて漫画化されたからだ。

総合プロデューサー、脚本、作画はマット・フランク。アメリカ人
なんと本作はただの漫画ではなく、アメコミなのである
マットは数々の特撮番組・特撮映画の漫画化を手掛け、カイジュウ・キングの異名を取る、アメリカ漫画界で一番怪獣を愛する男である。
本作は彼が総合プロデューサーとして最初に挑む作品となった。
彼の手により怪獣たちは、ある時はより生物的に、ある時は「やっぱコレ中に人入ってますよね」的に、それでいて着ぐるみの造形を逸脱することなく生き生きと描き出されている。


だが「レッドマン」の漫画化は困難を極めた。
並の特撮番組のリメイクであれば、敵を強大かつ悪辣にし、変身前の主人公に何か深刻な悩みを与えることで、いくらでも形を付けることができる。
だがレッドマンは変身しないし、敵の組織とかは存在しないし、そもそもレッドマンが何のために戦ってるのかすら定かではない。

「城南大学の青年科学者クズミ・マモルはレッド星からやってきた宇宙人レッドマンである。
日々街を襲撃する怪獣と戦うレッドマンだが、彼の必殺光線は地球の大気成分と反応すると有毒ガスを生じるため、慣れない格闘戦を強いられ心身共に摩耗していく。
城南大学巨大生物研究所のオーカ・シンイチ教授はそんな彼の様子を見てほくそ笑み、大学地下の秘密怪獣培養プラントへと消えていった…」

みたいなのを出したら「これはレッドマンじゃねぇよ」と叩かれてしまうだろう。
レッドマンはなぜか怪獣に襲いかかり、理由はわからないが残虐に葬り去る、正体不明のハンターでなくてはならないのである。
かといって本当に「レッドマンが出て殺す」だけだと「それなら普通にTVのレッドマン観りゃいいだろ」となり、漫画化する意味がない。


何もストーリーがないのが魅力とされる番組にスジを付けるという、あまりに困難な作業に挑んだマットの結論は……。


あらすじ




1970年代初頭、日本全国のテレビに謎の映像が映し出された。
それは激しくも不思議で、どこか美しい映像。
その中でも一際目を引いたのは、次から次へと現れる奇怪な生物たちが、
枯れた草木や霧がかった森で、真っ赤な『ヒーロー』と戦う姿だった。
テレビに映るその世界からは、時折地球にも存在するような形状の廃棄物なども確認できた。
映像を見た多くの者は子供向けの変わったテレビ番組だと思い、
そしてその映像もいつしか彼らの記憶から忘れ去られていった。
しかし、まさかその映像が彼らの知る現実世界とはかけ離れた別の世界からのものであり、
自分たちに向けた映像ではないことなど知る由もなかったであろう……。



マットの選択は、『レッドマン』という番組自体をメタ化するというものであった。
その辺の空き地で撮影したようにしか見えないロケーションは「そういう世界だから」の一言で済ませ、まず『レッドマン』のすべてを肯定。
謎の戦士レッドマンはTV番組同様、黙々と怪獣の殺戮に励む。
その上で、なぜレッドマンは戦うのか、なぜ同じ怪獣が何度も殺されるのか、この不可思議な番組は誰が何のために撮ったのか──それらを作品を通じた「謎」として描き出すことにしたのである。


通り魔ヒーロー


  • レッドマン

REDDOKNIFE(レッドナイフ)!!

異世界の怪獣たちから恐れられる怪獣ハンター。
マウントポジションを取って顔面にパンチを振り下ろす、手近な丸太(何十メートルあるんだ?)を投げつける、瀕死の怪獣に馬乗りになって全力でレッドアローを突き刺すなど、その残虐無比な戦い方が異様なこだわりを持って再現されている

TVのレッドマンが「戦ってる当人にはそのつもりはなかったが、傍から見ると鬼畜に見える」という風評被害気味なヒーローだったのに対し、本作は明らかに「レッドマンは鬼畜」という認識のもとに描かれているため、その暴力性はTVより強化されている。
怪獣の顔面を殴ればキバが折れ、レッドナイフで斬りつけると血が吹き出る。使用後のレッドナイフは常に血まみれ。
しかし、こうした暴力描写を読者に「グロテスク」と感じさせず、「レッドマンの情け無用ぶり」を強調するレベルにとどめているのは、マットのバランス感覚によるものだろう。

予算のくびきがないのでヒーローらしく空を飛んでも良いはずなのだが、例によって徒歩で現れ、当然のように徒歩で去っていく辺りに、原典への深いリスペクトが感じられる。

生態系の頂点に立つはずの怪獣達を無慈悲に葬り去る絶対強者だが、彼もまた何らかの上位存在の影に怯え、突如苦しみだすという、TVでは見せなかった一面もあらわにしている。
ちなみに苦しむ声は「レッドォォォォ!」とダサい。


犠牲者怪獣


「レッドマンの棲む世界」に棲息する、巨大生物ないし巨大じゃない生物。
原則として「レッドマンに登場した時の、かなりヘロヘロになった着ぐるみ」ではなく、「原典となるウルトラシリーズに登場した時の着ぐるみ」を基にしており、格好良い。
ただしガラモンのような「あまりにも原典とかけ離れていることが個性になっているレッドマン怪獣」は、敢えてヘロヘロな姿で描かれており、その辺りもまた「レッドマンらしさ」の演出に一役買っている。
今回はそんな無辜の犠牲者凶暴な怪獣たちの中からごく一部をご紹介しよう。

予算のくびきがないので火を吐いたり空を飛んだりできるのだが、別に火を吐いたり空を飛んだりしてもレッドマンに勝てるわけがないので、何の問題もなかった。

  • 無力怪獣 レッドモン
異世界に多数生息する人間大の草食怪獣。
戦闘力は皆無で、巨大怪獣の餌食となるだけの文字通り無力な存在である。

その姿はレッドマンに登場する、「着ぐるみの造形レベルが低すぎて元のデザインに全然似ていないガラモン」に酷似している。
アメリカ人の目から見ても「やっぱこいつガラモンじゃねえな」と感ぜられた模様。
「人間大のガラモン」ということでピグモンも意識していると思われるが、造形があまりにもアレなのでピグモンにも全く似ていない


GYAOOO!!

本作最初のレッドファイトの相手。
レッドモンを餌とする食物連鎖の王者だが、覇者たるレッドマンの前には狩られる獲物でしかない。


GURGLE...GURGLE...GURGLE...

竹やぶで遊んでいるようにしか見えないイカルス星人サスペンスドラマの犯人みたいな演出で現れたレッドマンが容赦なく殺害する演出でレッド・ファンの評価も高い「FIGHT7」から登場。
レッドマンによる虐殺正義の戦いを目撃してしまい、必死で森の中を逃げ回るが、その背後には2つの黄色い瞳が迫っていた……。

  • コイン怪獣 カネゴン
善玉怪獣のはずのカネゴンレッドマンがなんの躊躇も容赦もなく殺害することで知られる「FIGHT19」より登場。
レッドマンでは体色がカビがえたような緑のマダラな上、レッドマンの攻撃により途中で口がひしゃげてしまい、しかもそのまま撮影が続行されるというおぞましい姿を見せたカネゴンだが、本作では『ウルトラQ』準拠の金色の姿で登場し、レッドアローで瞬殺される。
……いや、瞬殺されたはずだった。金色の姿のはずだったのだが


GYAOOO!! SCRAAAAW!

あまりにも強いレッドマンに対し、3対1で挑み倒そうとする。
言語は不明だが会話が成立している様子がある上、動きが妙に人間臭い。

  • ネス湖恐竜 ザウルス

MUNCH MUNCH(草をはむ音)

ブラックキングとドラコがレッドマン退治のため勧誘した怪獣。
だがカミナリ竜そのまんまの外見通り、草と果物を好む草食怪獣であり、レッドマンには何の関心もなく……。
なおザウルスは『戦え!マイティジャック』からレッドマンに出演した唯一の怪獣。
よもやこんな形で知名度が上がろうとはザウルス自身も夢にも思わなかったであろう。

  • 猛毒昆虫 ビッグライガー

KREEEE!!

レッドマン用にデザイン画だけが描かれていたボツ怪獣が復活。
未知なる敵に対しさしものレッドマンも苦戦を強いられるとかそういう展開は一切なく、瞬殺される。
しかしお考えいただきたい。ビッグライガーは昆虫である。
あなたが家で1匹のゴキブリを見かけたとしよう。果たしてあなたの家全体には何匹のゴキブリが居るだろうか……?


視聴者


  • 宇宙怪人 セミ人間
話をしよう…
 生と死の
  生と死は対なるものだ

妙に哲学的な視点でレッドマンを観察する、特撮番組『レッドマン』の本来の視聴者。
『レッドマン』とは、レッドマンの戦いを密かに撮影した一種のドキュメンタリー番組であり、地球人ではなくセミ人間たちのための番組だったのだ。
──いや、正しくは「そのように見える」だけである。
何のためにセミ人間がレッドマンを観察しているのか、まだ彼らは何も語っていないのだから。


レッドファイトは続く


本作は雑誌連載を経ず公開される単行本描き下ろし作品であり、2018年6月に第1巻「怪獣ハンター編」が発売された。
この時点でシリーズ化が公表され、続く第2巻「ダークチャンネル編」が2018年12月、そして最終第3巻「正義の怪獣編」が2019年12月に発売。
レッドマンはなぜ戦うのか、セミ人間たちの目的とはなにか、レッドマンが怯える上位存在とは何者か(巻末のおまけページでバレバレだ!)、そして新たな犠牲者は誰か?
読者諸君は心して待て、そして怪獣諸君は首を洗って待て!


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最終更新:2023年11月25日 11:23