ヤード・ポンド法

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登録日:2018/06/10 Sun 16:49:44
更新日:2023/12/09 Sat 23:38:27
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ヤード・ポンド法はイギリス単位を前身に制定された単位系にして、馴染みのない人たちのヘイト対象である。

Imperial units(帝国単位)、United States customary units(米国慣用単位)の二体系で大分されるローカルな単位だが、精密計算に使う人は同じヤード・ポンド法内ですらそれらの体系内で換算を要する。

概要

現代から見れば何でこんなことに…と思うかもしれないが、
ヤード・ポンド法の後発規格かつ統一規格の確立を目指して作られたメートル法に対して*1
ヤード・ポンド法は用途に応じた物差しを使うことが当たり前だった時代に作られ、その前身も含めると古代から使われている伝統的な単位なので、『単位の統一規格』なんて発想のなかったこの規格が混沌するのも当然の話である。

もっとも、その古代の単位の由来からして厳密とはいえない。
人の手足の大きさやら人間が1日に消費する大麦の重さなど、匙加減でいくらでも変わる単位が由来なので当然である(無論昔の技術では雑なことも仕方ない話であり、昔から世界中で基準はこんなものだった。例えば東洋の「尺」「歩」「貫」なんかもそんな感じである)。
そもそも取り扱い対象に応じて単位が複数あるのもややこしい。
更に同じ単位でも時代や国や分野によって実際の値は異なるので…。
新しく定義したかと思えば特定分野では古い定義を使い続けたり、イギリスアメリカで統一したつもりだった原器が摩耗しやすかったり*2、原器の写しの精度に差異が生じていたり*3………。
更には重大な事故につながる恐れもある。

もちろんメートル法に統一していても重大事故が起きる可能性は十分あるが、確率は低くなるだろう。

こんな感じで精度や定義に問題が複数あったのでメートル法を普及させることになったのだが、
慣れ親しんだ単位系を捨てることには戸惑いや反対の声も少なくなく、
多くの国は『計算が面倒くさくて誤差も生じやすい』従来の単位系の使用を法律で禁止し*4、メートル法への移行をある程度強制する必要があった。

それまで各国・各地域でバラバラに使用されていたこれら度量衡を紀元前に統一規格化させてしかも後世への継承まで達成した秦の始皇帝は本当に偉大なのである
キサマらのいる場所は既に――我々が2000年前に通過した場所だッッ
(ついでに貨幣基準や車輪の規格まで統一したため、前者は経済改革、後者は物流革命につながった。本当に紀元前の人間かこの人……)




日本の場合

日本でヤード・ポンド法の使用が認められているのは、メインにメートル法を記載した

長さ ヤード、インチ、フィートorフート、チェーン、ハロン、マイル
質量(重さ) ポンド、グレーン、オンス、ショートトン、ロングトン
温度 華氏度°F
面積 平方ヤード、平方インチ、平方フィート、平方マイル
体積 立方ヤード、立方インチ、立方フート立方フィート、米液用オンス、英液用オンス、ガロン
速さ ヤード毎秒
加速度 ヤード毎秒毎秒

の参考値としての併記(逆はアウト)であり、計量法で「取引や証明」に使うことは禁止されている。

なお、ヤード・ポンド法の使用が制限されているのは取引や証明のみなので、ゴルフにおける距離やボウリングの玉の重さなどの「表記」に使うのには問題はない。
また慣例的に航空業界については使用が認められていて、テレビや液晶ディスプレイのサイズ表記にインチ(表記上は「型」)を使っている事も多いが*5、これは一応セーフ。3.5インチフロッピーディスクとかありましたよね。

とはいえ、殆どの場合メートル法で表記されることがほとんどである。
そのため時々ある一定の距離や重さの基準が小数点までに至るなど、今一半端だったりきりが悪く見えるものがある場合
ヤード・ポンド法表記だとぴったり合う(それ前提で設計されている)というものがある。
例えばアメリカ映画の吹き替え版や日本語字幕で距離を示すセリフや表示に「あと1.6キロ」とか「あと800メートル」という表記が散見され、
メートル表記だときりの悪さが目立ち「なんで報告がこの距離になってるの?」と違和感のもとになる数字になっているが、
マイル表示だとぞれぞれ1マイル、0.5マイルとすごくきりのいい数字になる。


+ ▽参考:計量法における「取引」と「証明」
まず取引とは金銭のやり取り関係なく物品、または仕事の給付を目的とする業務上の行為
例えば
  • 牛肉100kg売ります
  • 軽油1,500リットル売ります
  • この柱は1000ニュートンの力まで耐えられます
  • この倉庫に長さ1m、高さ1mの箱を保管する場合、保管料金として日あたり1万円を徴収します
  • 10kgの鉄を加工する費用は20万円です
  • 500ミリリットルの缶ジュースを100円で売ります
  • この土地の価格は1平方メートルあたり10万円です
  • 100グラムのジャガイモを150円で売ります
こういったものが取引。

では証明とは何か。
証明とは公に又は業務上他人に一定の事実が真実である旨を表明すること。
例えば
  • 土地の所有者などの情報を行政に登録するため、広さを測量する
  • 工場などが都道府県に提出する排水量の測定
  • 健康診断の体重測定結果


いまだに使用している地域

最近まで使ってたミャンマーとリベリアすらメートル法となり、実質的なヤード・ポンド法使用国はアメリカぐらいだが、一応メートル条約に批准しているので、公文書に単位を記載する時はメートル法を使う。

ただし、合衆国政府の見解は

メートル法? 使いたきゃご自由にどうぞ。

と、一部の州を除き、メートル法だけ記載しようが、ヤード・ポンド法だけ記載しようが、ヤード・ポンド法とメートル法を併記しようがいずれも合法。
車のスピードメーターも両方の単位で記載されている。

アメリカの親ともいえるイギリス*6も、長らくヤード・ポンド法を使い続けていたが今は公式にはメートル法に移行を完了している。
長年メートル法に移行しなかったのはメートル法がイギリスと犬猿の仲のフランス生まれだったのが原因らしい。

ただ、そんなイギリスでも競馬では相変わらずヤードポンド法でレースルールを定義している。
例えばハーツクライ等が走ったキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスは11ハロン211ヤード(≒2406m)、斤量もポンドで定義される競走である。

ヤード・ポンド法内の換算

各単位の換算がややこしいのもヤード・ポンド法の特徴。

・長さ

チェーン、ハロンは正確には「距離」の単位でモノの長さを測るときには使われない。アメリカ以外では国際フィート基準で計算されるので長さに含めている*7
ちなみにハロンは競馬でおなじみ「ハロン棒」のハロンである。漫画『馬なり1ハロン劇場』の題名もこれが由来。
インチ 1インチ 12インチ 36インチ 792インチ 7920インチ 63360インチ 190080インチ
フィート 1フィート 3フィート 66フィート 660フィート 5280フィート 15840フィート
ヤード 1ヤード 22ヤード 220ヤード 1760ヤード 5280ヤード
チェーン 1チェーン 10チェーン 80チェーン 240チェーン
ハロン 1ハロン 8ハロン 24ハロン
マイル 1マイル 3マイル
リーグ 1リーグ


・重さ

常衡(通常の場合)と、薬衡(薬を測る場合)と、トロイ衡(金を測る場合)の3種。ここでは常衡で記載。
現在、医療分野にはメートル法(グラム)を使うので、アメリカではグラムに慣れてる人を見ると「医療関係者か、でなければ麻薬中毒患者だろうか?」と勘ぐってしまう人もいるとか。
ドラム 1ドラム 16ドラム 256ドラム 6400ドラム 25600ドラム 512000ドラム
オンス 1オンス 16オンス 400オンス 1600オンス 32000オンス
ポンド 1ポンド 25ポンド 100ポンド 2000ポンド
クォーター 1クォーター 4クォーター 80クォーター
ハンドレッドウェイト(cwt) 1cwt 20cwt
トン(ショートトン) 1トン

・液量

同じ単位でもアメリカと英国で実際の量が異なる。また「バレル」は対象物によって量が変わる*8
米液用オンス 1オンス 16オンス 32オンス 128オンス 5376オンス
米液用パイント 1パイント 2パイント 8パイント 336パイント
米液用クォート 1クォート 4クォート 168クォート
米液用ガロン 1ガロン 42ガロン
石油バレル 1バレル


メートル単位への換算

ここではヤード・ポンド法からメートル法への換算について、特に生活において馴染みの深い長さ、重さ、面積、体積について記載する。
  • 1インチ=25.4mm
  • 1フィート=304.8mm
  • 1ヤード=0.9144m
  • 1マイル=1609.344m
  • 1オンス=28.35g
  • 1ポンド=0.45359237 kg
  • 1ショートトン=907.2kg
  • 1ロングトン=1016kg
  • 1エーカー=4046平方メートル
  • 1ガロン=4.54609リットル
  • 1バレル=158.987294928リットル

※上記の値も正確なものも一部あるが約○○に過ぎないものもある(小数点以下の数字が5つや6つ程度並ぶのはざら)。更に前述の通り物や時代に応じて変化している場合があるので変換するケースによっては上記との差異にも注意する必要がある。

ちなみに鉄道のレールの幅が1067mmとか1435mmとか中途半端な数字なのはヤード・ポンド法で策定された規格のためであり、
それぞれ正確には3フィート6インチと4フィート8と2分の1インチ。ヤード・ポンド法で小数は嫌われ者

艦砲・大砲の口径を見ても、やれ12.7cmだの20.3cmだの35.6cmだのと、「あと数mmどうにかならんかったのか」と言いたくなる数字が頻発するが、
これもインチ単位に直すと小数点が消えてすっきりした数字になる。
25mm≒1インチ、12.7cm≒5インチ、20.3cm≒8インチ、35.6cm≒14インチ、41cm≒16インチ、46cm≒18インチ(こればっかりは厳密には18.1インチ)、51cm≒20インチである。


ヤード・ポンド法にまつわる悲劇


  • 航空業界はアメリカが実質的に主導権を握っている関係上、慣例的にヤード・ポンド法が使われる事が多い。
    しかし航空機というのは世界中を飛び回る関係上、メートル法を常用する国で燃料を補給するのも日常茶飯事。
    定められた基準での比重換算を行わなかった結果、飛行途中に燃料切れを起こしたこともある。*9

  • NASAが打ち上げた火星探査機「マーズ・クライメイト・オービター」が火星への到達寸前に行方不明になるなど、単位にまつわる事故や不都合は枚挙に暇がない。

  • インチ規格で作られた機械がメートル法を常用する国に渡った結果、修理に際してパーツが合わない(インチネジとミリネジの違い等)、整備できないという弊害を起こしたことも。

  • 第二次大戦中、米軍がドイツ軍の機関銃MG42を解析して丸コピー品を作ろうとした際、
    やはりメートル法とヤード法の混同により寸法が滅茶苦茶になってしまい、動作不良を連発する欠陥品を作り出してしまっている。

  • ベルギー製の自動小銃であるFN FALをイギリス軍が「L1A1」として採用・ライセンス生産した際には、いちいちヤードポンド法で再設計を行った結果一部の部品に互換性がなかったりする。

  • 函館市の恵山(えさん)に風力発電所が建設された際、事前調査でどのくらいの強さの風が吹くのか二か月に渡って計測したのだが、測定器に表示される単位のmをマイルではなくメートルだと勘違いした結果、実際の数値の1.6倍の数値で計算してしまった。この計算ミスによって想定していたほどの風の力が得られず発電量も微々たるものとなり、発電所は採算が取れず廃止となった。
    なお事業計画では17年の運用で見通しを立てていたのだが、その間に一度もオイル交換をせず、一度も修理しない前提という無茶苦茶な内容であり、ヤード・ポンド法を抜きにしても杜撰な仕事だったと指摘されている。

  • 悲劇というより笑い話の類だが…
    アメリカ合衆国で暮らしている限り、メートル法なぞ知らんぜHEYでも不便はなかった。が、それゆえにあるゲームの登場でアメリカ国民は困惑した。
    Pokemon GOである。リアル世界を移動するこのゲーム、度量衡にヤーポンの設定がなかったのだ。おかげで本作をプレイするに当たってアメリカのプレイヤーは慣れないメートル法に困り、一時は「ヤード→メートル換算」がサジェストに上がるほどだった。

国際インチ

そんなこんなで嫌われることが多いヤード・ポンド法だが、機械部品関連などにおいてはインチ単位が幅を利かしている。
金属パイプを扱っているならサイズ1/8等の表記でよく見るだろうが、これは1/8インチであることを示しており、1/8を1()と呼んでいる業界人もいる等、少なくないくらい浸透している。

といってもこのインチは「国際インチ」という「1インチ25.4mm」で定義された従来のインチ(=1/12ft)からすれば紛い物と言ってもいいインチきものだが、現代でインチを扱う場合はこの国際インチを用いるのが暗黙の了解になっている。

フィクションでの扱い

日本人にとってあまり馴染みが無い単位ということもあって、ヤード・ポンド法が使われる作品はかなり稀で、
ゴルフ、ラグビー、アメフト、ボクシングなどメートルやkgを使うと不自然になるスポーツを題材にした作品に限られる。
もしくは中世ヨーロッパを舞台にした作品などだろうか。『ヴェニスの商人』での商人アントニオと金貸しシャイロックの「期限までに金を返せなければ、1ポンド分のアントニオの肉を切り取る」というやり取りが有名なところか。
TRPGでも海外産だと、それとなく単位が顔を見せる事がある。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の10フィートの棒とか、『トンネルズ&トロールズ』の重量の基準(1重量点=金貨/銀貨/銅貨1枚=0.1ポンド)とか。

洋画や海外ドラマで自動車の速度メーターが表示される場面では当然ながらマイル表記。
日本で公開される場合、台詞や字幕だけがキロメートルになっているので少しわかりづらくなることも。
例を挙げると時速88マイル(約140km/h)まで車を加速させる為に奮闘する『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』や、時速50マイル(約80km/h)以下にスピードを落とすと作動する爆弾が仕掛けられたバスでの攻防を描いた『スピード』など。

なお、地球一周の長さを測定して4000万分の1にするという近代科学を前提としたメートル法と異なり、ヤード・ポンド法は人体や動植物をベースとしているため、いわゆる異世界ファンタジーで使用しても違和感のない単位系ではある。精密計算されている描写も多いので逆に違和感が大きくなる場合も多いが。
更に言えば読者が「体長16フィート、体重1万3000ポンドのドラゴンが時速44マイルで突撃ししてきた。その衝撃はここの住民が慣れ親しんでいる3.3ショートトンの小型船が55ノット*10で突進したものに相当するほどのものである。」みたいな記述をすんなりと理解できるのか?という最も大きくて無視できない問題がある。
(この例えだと体長5メートル、体重6000キロなのでおおよそアフリカゾウくらいの大きさ、時速70kmで突進。その衝撃は例えるなら3トンの小型船が時速約100kmでぶつかってきたものに相当する。)

例を挙げると1890年のアメリカ大陸が舞台の『ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン』。当時のアメリカでももちろんヤード・ポンド法が使われていたはずである。
しかし読者に分かりやすくするため、ドルの価値を現代に換算すると同時にメートル法を使用する注意書きを1巻に載せている。

実際に作中の台詞を考証的に正しいヤード・ポンド法で表記すると以下のようになる。

「このレースは歴史上初だ。何が起こるか誰も予測できない。たった1台の機械で……あるいはたった1頭の馬で毎日休まず1日43マイルから62マイルの道を他人と競い合ってこれまで3728マイルもの距離を横断した人間はいないからだ」

「ジャイロの鉄球の飛投距離はどのくらいか?さっき町で喰らった距離では血ヘドは吐かされたが致命傷ではなかった。射程は21ヤード以内といったところか…?」

「ジョニィ あとゴールまでの距離は?」「今までの歩数から数えると残り3.4から3.9ハロンの推測」

「ラクダの足の長さは馬の2倍!しかも体重は1763ポンドを超え馬の約1.5倍!」

「体重が112.44 ポンド以下の女。容疑者は女だ」

距離はいくらか感覚が掴めるかもしれないが、重量についてはピンと来ない人の方が多いのではないのだろうか。

ちなみに金銭に関する描写は「優勝賞金5000万ドル(60億円)」「参加費は1200ドル(15万円)」とドルで表していたのは連載開始時のみであり、後半では「支払いは5万5千250円です」「経済効果は7兆円」とドル表記すらせずにアメリカ大陸が舞台にも関わらず当然のように円を使用するようになった

何故こんなことになったのか説明すると、連載開始時である2004年の円相場は1ドル=120円なので5000万ドル=60億円だった。
だが連載期間中にかつてないほどの円高が進行しており、連載終了時である2011年の円相場は1ドル=80円なので5000万ドル=40億円となり賞金の価値が円基準で大幅に目減りしてしまっている。
この為替の変動の影響でドルと円を同時に表記するとどうしても不自然になるので、開き直って円での表記に切り替えたと思われる。
読者へのわかりやすさを重視して現代の価値に換算したのだが、その現代の価値が連載中に大きく変動してしまったが故にヤード・ポンド法とはまた違ったややこしさが発生してしまっている。

他にジョジョ1~3部の主人公の身長は195センチだが、特に1部の昔のイギリスのジョナサン、2部のイギリスからアメリカ移住のジョセフは、海外作品によく見られる「6フィート半の体格のいい男」を意識しているのかもしれない。


また、『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE』では敵キャラクターが保険金目当てで所有する遊園地の爆破を目論んだが、2000ポンド(約1t)を10㎏程度と勘違いする致命的な計算ミスをやらかし、町全体を吹っ飛ばす超重量の爆弾を仕掛けてしまった。





追記・修正はヤードポンド法とメートル法を換算しながらお願いします。

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最終更新:1970年01月01日 09:00