キハ181系気動車

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登録日:2018/06/02 Sat 17:57:18
更新日:2024/03/21 Thu 20:47:15
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キハ181系とは日本国有鉄道が導入した特急型気動車である。
従来の気動車との混成を考えないため、形式の付け方が電車に準じたものとなっているのが特徴。

【誕生の経緯】

キハ181系の登場以前、国鉄は既に特急用気動車として1960年にキハ80系を世に送り出していた。
しかし、キハ80系はエンジンパワーが特急用としては貧弱という欠点を抱えた車両だった。
そのため特急はつかり運用時には初期型が勾配のきつい東北本線でオーバーヒートを起こしたり、エンジンの過負荷が原因で排気管が過熱され、排気筒から派手に発煙したりとトラブルばかり起こしていた。
この相次ぐトラブルから、世間でははつかりがっかり事故ばっかりなんて揶揄されたことも。
初期型の欠点を解消した中後期型からは初期型の反省点を活かし、発電用エンジンだけ積んでいた食堂車にも走行用エンジンを追加することで、編成全体での出力に余裕を持たせるなどの改良を行ったことである程度改善はされた。

しかし、エンジン1機あたりのパワーが小さいという根本的な問題は解消されておらず、奥羽本線の特急つばさは勾配の急な板谷峠を通過するために補助機関車の連結を余儀なくされる上、電化区間での電車との混成ダイヤを組む上での障害にもつながっていた。

そもそもキハ80系を開発する段階で大出力エンジンを搭載するという考えは既に立てられており、高出力エンジンを搭載した試作車も製造して実際にテスト走行を行っていた。
しかし、エンジンと変速機の問題を期限までに解消しきれず、暫定策として従来のエンジンを2機搭載してとりあえず送り出したのが原因だった。

国鉄もキハ80系では諦めた大出力エンジン搭載の特急用気動車を改めて開発することになり、国鉄の標準型ディーゼルエンジンであるDMH17エンジンをベースに
  • ピストン径の拡大
  • 過給器(ターボ)の追加・構造強化
などの改良を施した大出力エンジンDMF15HZA、DML30HSAを開発。両者のスペックは以下の通り
  • DMF15HZA
    気筒数:6気筒
    排気量15リッター
    定格出力:300馬力
    定格回転数:1600回転
  • DML30HSA
    気筒数:12気筒
    排気量30リッター
    定格出力:500馬力
    定格回転数:1600回転

そして、この2種類のエンジンを積んだ試作車キハ90形を製造。
試験は千葉鉄道管理局エリアを中心に行われ、試験の結果1機あたりの出力が大きく、編成全体でエンジンの台数を減らせるDML30HSAが有利と判断。
このDML30HSAに改良を加えたDML30HSBを搭載したキハ91形が長期実用試験に必要な両数分製造され、中央本線の急行列車に投入された。
しかし、長期実用試験の結果を待っていたら目標とした1968年10月の大規模ダイヤ改正に間に合わないと国鉄は判断。何しろキハ91の運用開始から目標の1968年10月まで2年程度しかない。
そこで、とりあえずのデータが揃っていたキハ91形の走行機器と、キハ80系中後期型の車体をミックスした新型特急用気動車の設計が開始された。

こうして誕生したのがキハ181系である。

【スペック】

食堂車を除くすべての車両に定格出力500馬力のDML30HSCを搭載*1。当時、世界的にディーゼルエンジンは予燃焼室式から直噴式へと主流が移りゆく中で旧式の予燃焼室式を採用したことが低い熱効率、重すぎる重量などの問題を招いた。
先頭車には走行用エンジンに加えて発電用のエンジンを搭載した。この発電用エンジンは、キハ90形に走行用として搭載されたDMF15Hをベースにデチューンしたもので、1セットで自車を含めて5両分の電源を賄えた*2
エンジンの冷却系は自然通風式を採用。中間車は屋根上に車両全長に渡って放熱用のラジエータを設置し、走行風で冷却。先頭車については発電用エンジンと共用の強制通風式とした。
変速機は直結1段・変速1段の充排油方式トルクコンバータを採用。エンジンで発生させた駆動エネルギーはトルクコンバータで変換され、台車へはプロペラシャフトで伝達。2軸を駆動軸とした。変速段は時速85km/hまで使用し、以降は直結段に自動で切り替わる。
ブレーキは電磁自動空気ブレーキを採用。補助ブレーキとしてエンジンブレーキも搭載した。

運転台も従来の気動車からは大きく改良され、計器類やデスクが黒系で塗装の上、ブレーキレバーもマスコンレバーも前後に動かす方式とした。
この構造は当時としては異例で在来線では初採用だったが*3、国鉄ではのちに205系電車等で採用されることになる。

連結器は国鉄気動車標準の密着自動連結器だが、連結器の下に電気系統をつなぐ電気連結器を装備した。

【形式】

  • キハ181
先頭車。運転台と発電セットを搭載した機械室と客室で構成される。トイレ・洗面所は定員確保の関係で未設置とした。
  • キハ180
中間車。床下に走行用エンジン、屋根上にエンジン冷却用のラジエータ放熱素子を搭載。トイレ・洗面所を設置。
  • キロ180
中間車。客室とトイレ・洗面所に加えて車掌室を設置。屋根上には勿論エンジン冷却用のラジエータ放熱素子を搭載。ちなみにトイレは洋式と和式の2種類を用意。四国用は食堂車を連結しない関係上、グリーン車に車内販売準備室を設置している。
  • キサシ180
食堂車で系列唯一の走行用エンジンを持たない車両。車内のレイアウトは583系電車と同じで、車内販売準備室・従業員休憩室・食堂・厨房が設けられている。調理器具の作動や車内照明、エアコンの動作に必要な電源は全て先頭車のキハ181から供給されるため、一切のエンジンを積んでいない。

【運用開始と挫折】

1968年10月に中央西線でデビュー。急行を格上げした特急「しなの」に投入され、速度こそ急行時代と同等ながらも加速性能のアップで大幅な所要時間短縮に成功した。
しかし運転開始翌年、夏を初めて迎えるとオーバーヒートが連発。
当時予備車はなく、互換性を持っていたキハ91を連結して凌ぐという有様だった。これらトラブルの報告は整備を手がけた名古屋の工場から出されていたが、本社の車両設計局のスタッフはこれらの報告をほとんど無視していた。これが次項の「つばさ」におくるトラブルが相次ぐ原因を作ったともされる。

1970年2月からは東北・奥羽本線経由で上野と秋田を結ぶ特急「つばさ」への投入を開始。
キハ181の投入により、東北本線では電車特急と同じ時速120km/hで疾走。奥羽本線に入ると、持ち前の大パワーで従来のキハ80系では補助機関車の助けなしでは登れなかった板谷峠を自力で越えるという、当時の気動車の限界に近い運用を行っていた。
しかし、下りの秋田行は東北本線を時速120km/hで高速運転した後に十分にエンジンが冷却されないまま、速度の出ない奥羽本線へ突っ込む上、上りの上野行も板谷峠をフルパワーで越えた後に東北本線で連続全開運転を行うためにオーバーヒートが多発しただけではなく、密閉保持用のガスケットの吹き抜け、排気管の過熱に起因する発火・焼損といった致命的なトラブルも相次ぎ、「しなの」以上にトラブルが目立ったのである。
一時は定期列車の運行すら危うくなっていたほど故障車が続出し、1972年のダイヤ改正で補助機関車の連結が再開され、電化完了による485系への置き換えまで継続された。
更に車両や運転方法にも手が加えられ、中間車への強制通風装置の追加やフルスロットルでの運転時間を連続5分に制限した。
一応、キハ181系は単独で板谷峠を越えるのが困難ではあったものの、これは電車の485系も同じ。
東北本線で標準的な電動車6両、トレーラー車5両の11両編成ではモーターの巻線が過熱されすぎて危険なため、つばさ用に電動車6両、付随車3両の専用編成を用意した。
後年山形新幹線の初代車両である400系も当時の新幹線電車では異例となるオールM車*4で登場した点からも、同峠の難所ぶりがうかがえるだろう。

山岳線区での運用にキハ181系はやや難はあったものの、平坦線での性能は申し分なかった。
1972年からは四国初の特急列車「しおかぜ」「南風」に導入。
こちらは食堂車こそなかったものの順当に運用と速度向上を実施し、高松~松山間の所要時間は最速で2時間30分台にまで短縮された。
また、奥羽本線・中央本線の電化に伴い「しなの」「つばさ」からは撤退し、余剰編成は四国地区や伯備線山陰本線に転用。
この頃になると整備手順の厳格化や燃料噴射量の適正化、全開出力での運転時間減少などによりトラブルはほぼ撲滅された。
特に岡山と出雲市・益田を結んだ特急やくもは山陽新幹線と連絡して山陰と京阪神・東京を結ぶ役目を担ったことから、食堂車・グリーン車を連結した堂々たる編成で運行された。
その後「やくも」は1982年の伯備線電化で振り子電車381系に置き換えられ、同時に食堂車の連結も廃止。
この時点で食堂車を必要とする気動車の長距離特急列車は無くなっていたため、キサシ180は全車両が運用離脱。転用もままならず車両基地の隅や駅の側線で放置プレイの後、全車両解体された。

【分割民営化後】

キハ181系は、前述したキサシと事故廃車になった一部を除いた合計138両が、JR西日本JR四国へ引き継がれた。
JR四国に引き継がれた車両は、塗装が国鉄色から水色を基調とした四国オリジナル色に塗り替えられ、座席を交換するなどの改造が行われた。また、グリーン車は全て半室のキロハに改造されている。
瀬戸大橋線開業後は本州の岡山駅まで乗り入れるようになり、「やくも」から撤退した1982年以来6年ぶりに岡山駅に姿を見せるようになった。
後継の2000系気動車の登場や、予讃線の伊予市電化により運用の範囲は徐々に狭められ、1993年11月に運行された団体列車を最後に運用を終了。
その後先頭車と中間車のトップナンバーがJR東海へ引き取られ、先頭車は佐久間レールパークで、中間車は美濃太田車両区で保存された。先頭車は佐久間レールパークの閉鎖後リニア・鉄道館で継続して保存中だが、美濃太田車両区保存の中間車は長年の屋外放置により劣化が非常に激しく、2013年3月に解体処分された。

JR西日本に引き継がれた車両は全車両が引き続き山陰地区の列車に使われた。
1994年に開通した智頭急行線では、JRもキハ181系を利用して特急「はくと」を運行。その後、「はくと」は全列車がHOT7000系の「スーパーはくと」となったため、新たに岡山と鳥取を智頭急行経由で結ぶ特急「いなば」に転用された。
しかし、1990年代後半以降は電化や新車の導入、列車自体の廃止により徐々に活動範囲を狭めてゆく。
一部の車両は波動用として老朽化した臨時用のキハ58系の置き換えに天理教関係の団体列車や、姫路から伊勢方面への修学旅行臨にもキハ181系が使われた。
この間、「はまかぜ」用編成はJR西日本標準の特急色であるベージュに青帯塗装に変更されている。
その最後の定期列車だった「はまかぜ」もキハ189系の導入に伴い2010年に定期運用から撤退。
最終運転は2011年2月26・27日の両日で京都-米子間を往復する団体列車で、この運転を最後にキハ181系は全ての営業運転を終了した。

営業運転を終えたキハ181系は解体作業実施のため、京都から山口県の幡生まで自力で回送され、最後の回送列車には特製ヘッドマーク・方向幕を装備しての運転となり、多くのファンの注目を集めた。

2012年2月にミャンマーへ譲渡される分が廃車となり、日本から本線を大手を振って走行可能なキハ181系は消滅した。
最後までJR西日本で活躍していた車両のうち、先頭車1両は国鉄色に復元され津山まなびの鉄道館の旧機関車庫で保存された。

ミャンマーに譲渡されたキハ181系は現地で屋根上のラジエータ撤去、エアコン設置部分を引っ込める改造を受け、ヤンゴン環状線と観光客向けの列車として活躍を開始した。

【キハ181系は失敗だったのか?】

急勾配線区用としては失敗だったと言える。前述の通り冷却がうまく行かなかったり、ガスケットが吹き抜けたり、排気管が過熱されたりとトラブルが多かったことからもうかがい知れる。
冷却不足に陥ったのは、自然通風式のラジエータが低速運転で冷却不足になったこと、変速段を時速85km/hまで使用するため、この状態で高回転のまま過熱が進んだのが原因の一つだが、現場での運用もかなり過酷なものとなっていた。
そもそも搭載しているDML30エンジンの定格出力は500馬力だが、全開運転時には590馬力ものパワーを発揮していた。で、幹線ではフルパワーで時速120km/hまで加速、山岳区間に入ってもこのフルパワーで峠越えをしていた。そんな無茶を強いていたためにエンジントラブルが多発するのは無理な話ではない。

ただし、平坦線用として見れば比較的優秀な車両だった。高速運転する電車を邪魔することなくダイヤを組めた事、高速走行時には自然通風でも冷却風が十分に取り込めたというのが大きい。
このため、キハ181系は投入先さえ間違えなければ十分優秀な車両だったと言える。

なお、キハ181系と同じ系統のエンジンを搭載したキハ65形やキハ66・67系については運転速度が低いために全開出力で走ることが少なく、キハ66系に至っては定格出力を下げたために大きなトラブルは起きなかった。

【こぼれ話】

  • 「つばさ」から撤退したキハ181系は、高山本線の「ひだ」、紀勢本線の「南紀」へ転用される計画もあった。しかし、整備でかなりの手間を要した名古屋の車両基地・工場からは「あんな苦労二度とゴメンだ!」と拒否された。
  • 「つばさ」の間合い運用として、仙台~秋田間を北上線経由で結ぶ特急「あおば」にも充当されていたことがある。比較的利用率も高く当初の臨時から定期列車に格上げされたが、「つばさ」の電車化に伴い共通運用が出来なくなり1975年に廃止。既に急行の特急格上げが進みだした時期にも関わらず、急行に格下げされて廃止となった珍しい特急列車だった。


追記・修正は大出力エンジンで峠を越えた後に

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最終更新:1970年01月01日 09:00