どうにも暇を持て余した人間達


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暇と元気を持て余す。今の俺達を表すのに最適な言葉だ。

拝啓 誰か
五月病への準備のこの時期、如何お過ごしでしょうか。
楽器から漫画やAVまで何でも揃っている我が家では今、部屋の主を含め三人の野郎が思い思いに時間を潰しています。けーぐ

宛先の無い手紙を脳内で書き、ゴミ箱に入れた。
現実の俺はというと、何度も何度も読んだ雑誌をまた読み返している。雑誌というのは複数の連載が載っているものだが、その一つ一つ全て、まるで作者のように先の展開が分かる。何回も読んでりゃそらそうなるわな。
「おにいちゃんのえっち///」か細い声で黙読中のエロ漫画のセリフを呟く。退屈紛れになるかと思ったが、退屈は退屈だ。

その声に反応したのはハチマキだった。アンプに繋いでいないベースを肩からぶら下げ決めポーズを模索していた。お前はどっちかてーとドラム系の人間だろ。
「ハチマキさんかっこいいって?」そんな事言ってねえよ。

ミヤタはというと、モバイルルーターとセットにすると1円で買えるキャンペーンで購入した糞スペックPCでニュースを見ている。てかそれ俺のPCだぞ。ロックも掛けておいたはずだぞ。
「なんか面白いニュースはあったか?」嫌味を込めて言う。人によってはPC弄られるより裸を見られる方がマシなんだぞ。
「陣内智則離婚したって」そうか、そいつは驚きだな。いつの話してんだお前。


10時過ぎに来たこいつらは、このようにして思い思いに時間を潰している。暇なら家で寝てろと言いたいが、俺自身も早起きをしてしまい暇だったので痛み分けだ。

こいつらは週末や連休になるとちょくちょく来るので、溜まり場になりつつある。
被害を被っている我が部屋はというと、散らかってはいるもののゴミなどは落ちていない。いい匂いすらする...筈だ。タバコの灰とかは気にしない気にしない。

そういや腹減ったな。と思い掛け時計を見る。ランチタイムは過ぎたようだし、これなら店とかも空いてんだろ。家を出る準備をさせる為、一度大きく伸びをしてから号令をかける。
「飯食いに行こうぜ」マックでいいかな。




マクドナルド理論をご存じだろうか。何かを決める際、グダった時にその議論の中で一番ダメな提案に決めようとすると途端に皆がやる気を出すアレだ。
この理論の中ではマックは最低な選択肢という事になっているが、いうほどマックって駄目か?我々ヘビーユーザーからすると最低の選択肢とかは雑草とかなんじゃないか?と言わざるを得ない。

それに我々の場合、決めるまでが長いのではなく、決めてからが長いわけで、具体的に言うと、この昼食議論の中に俺が提案する。
「マックでいいだろ」するとほら。
「ああ」「マックちゃうわボケェ!!!マクドでおまんがな」「おうエセ関西弁やめーや」「良いから早くモス行こうぜ」「いつモスになったんだよ何でちょっとリッチにいこうとしてんだよ」「おまんがな...おまん... ...!! おまん」はい腹パンドーン!!デデーン、ハチマキ~殺処分~
...な?




フィレオフィッシュのセットを注文し、愛想のないレジからテーブルに移る。あの店員の自転車のハンドル溶ければいいのに。
世間話といえば、取るに足らない事が大半で、当然我々も例ではない。
「やっぱフィレオフィッシュが一番だろ。ハチマキは何頼んだ?」「メガマックのセットだな。あとナゲット」ふーん。と相槌を打ちやけに少ないトレーの持ち主に目線を移す。
「ミヤタは?」「シェイクとポテト」そんなんで足りるのか心配だが、よく考えると腹減ったらその都度何かしら買ってるなこいつ。

注文した物に舌鼓を打ちながら考える。勢いで家を出たのは良いが家に帰るのが面倒だ。
チラリと奴らを見る。ハチマキはポテト一本一本に名前を付けては口に運び、ミヤタはシェイクを飲みながらケータイをいじっている。現代っ子だねぇ。そんな現代っ子達にこれからの行動を相談しようかな。
「どうする?このあと」2人がこちらに顔を向けた。
「ボーリングでも行くか」「んー...」「んじゃカラオケ」「んー?んー...」「ダーツ」「んー...///」「ビリヤードキメるか?」「んっ///」「へえ、そんな声出るんだ...?」「...///」
くだらない茶番はさておき、どれもいい案なのだが決め手に欠ける。そもそも野郎三人でアミューズメント施設に行くことに飽きてきつつすらある。何か新しい刺激が欲しい。刺激。刺激...。

「...ナンパ」プレステージ辺りが出しているであろうAVの茶番の最中、浮かんできた単語をそのまま声に出す。いやらしい親父役のハチマキの動きが止まり、ミヤタは目だけをこちらに向けてきた。
「ナンパしようぜ!!!」まだ見ぬレディーたちよ、待っててくれ。今から迎えに行くからな。




世の中には沢山の素敵な女性達が居る。
お洒落なアクセサリーで自らをより高次へと高める者。素材を生かし、飾らず、されど洗練された刃のような美しさで周りを魅了する者。キャラクター性を強調し、親しみやすさに重きを置く者。

人生というモラトリアムは限られている。人生を幸福に導くには受け身ではいけないのだ。


「第82回 ナンパたいかーい!」ドンキで購入したヘリウムガスを吸い、突発的に始まった大会のタイトルコールを叫び、ハイタッチを交わす。ヘリウムがまだ残っていたので、ついでに警察24時ごっこをした。
ちなみにミヤタにはお好み焼きたい焼きを食いながら審判をしてもらうことにした。

さて、今大会だが、ルール簡単だ。声を掛け、一緒に遊びに行けたら勝ちだ。優勝者が出たことはない。

先攻はハチマキ選手。事前のインタビューではこう語っていた。
「男女を比較したとき、明確な違いは信じる気持ちに表れるんじゃないかな。当然女の子の方が何かを信じる気持ちは強い。そこを突く。あなたは何を信仰していますかってね。声を掛けるきっかけには最適なんじゃないかな?」勝気な笑みを浮かべていたのが印象的だった。そんな彼が、今まさに声を掛けようとしている。

相手は黒い髪の女性だ。バッグは高級そうな物を持っているが、洋服は高級品という訳でもなさそうだ。長い髪はそのままCMに出られそうなほど艶めいていて、そこにあるだけで周りの景色が煤けてしまうほどである。

ハチマキ選手は、そんな女性の肩を2度叩き、こう言った。
「貴女はちんぽを信じますか?」いいぞもっとやれ。
「は?」驚いた面持で振り返った女性は、受け取った言葉の処理に戸惑っている様子。そこに歴戦の猛者ハチマキ選手が畳み掛ける。
「ある女騎士は言いました。ちんぽには勝てなかったよ...とね」キマったとばかりにウィンクを浮かべるが、女性は走ってどこかに消えてしまった。話しかけてから逃げられるまで凡そ20秒。良いタイムだ。てかヒールってあんなに速く走れるんだな。


ガクッと膝を落とし悔しがるハチマキ選手。いい滑り出しだったが、大技を繰り出す前に逃げられてしまっては仕方がない。
彼のもとに駆け寄り、こう言った。

「力が欲しいか」

ハッとした顔を浮かべたハチマキは一度視線を落とし、拳を強く握りしめた。
「欲しい。 ...どんな人間も籠絡できるモブレおじさんみたいな力が...欲しい!!!」強い決意の炎を灯した目がこちらを見据える。
「あっそうですか。ミヤタさぁん、ハチマキさんは力が欲しいそうですぅ」はぎのちゃんの声真似をしたつもりがただの裏声になってしまった。まあいいか。
どこで買ってきたのかタピオカ入りのジュースを飲んでいたミヤタはこちらに一瞥をくれ、ケータイに視線を戻し「ああ」とだけ言った。聞いてないだろお前。


...


俺のターンが来た。入念にアップを始め、何処を攻めるか、どう攻めるか。大技はどこで繰り出すかなどを考えていたところ、何やら向こうから警察が歩いてきた。
(これはこれは、お勤めご苦労様です)なんて呑気な事を考えていると、隣にいる女性と目が合った。嫌な予感とともに、誰が目的か、何が事案化したのかが手に取るように理解できた。ヤバイ。隣にいるハチマキはまだ気づいていない様子だ。肘で軽くつき、顎で視線を誘導する。
本人も気付いたらしく、顔を真っ青に染め、顎をガクガクと鳴らし始めた。大袈裟すぎんだろ。
「あれさっきお前が声掛けた人だよな」念のため確認を取ると、一度頷き「おう」とだけ言った。確かに道すがらセクハラと宗教勧誘を同時にされたら普通は通報するよな。

「とりあえず逃げんぞ」と、その一言を皮切りに警察とは反対の方向に駆けだした。慣れたもので、ハチマキは真っ直ぐに逃走。俺はミヤタに「いつもんとこ集合な」とだけ伝え、右に曲がり隠れた。店長が気前のいいおっさんで、ツケにしてくれるカラオケ屋のことを言ったのだが、伝えた意味はない。強いて言うなら連絡が取れなくなった時の保険だ。

物陰から様子を伺うと、ミヤタは警察と何か話していた。首を横に振っているので、今までのパターンから恐らく知り合いかどうか聞かれているのだろう。仕方ないけどお前やっぱり薄情だよな。


警察が離れて行った。どうやらハチマキの方を追って行ったらしい。不定期に始まるナンパ大会はあんな感じで始まりこんな感じで幕を降ろす。加害者はハチマキだったり俺だったりするが、遅かれ早かれどちらかが通報される。

警察が完全に居なくなったことを確認しミヤタに近付くと、これまた慣れたもんで何を聞かれるか分かったらしく、こちらが口を開く前に教えてくれた。

「知り合いかどうか聞かれた」「だろうな。なんて答えた?」問いかけながらタバコを取り出す。火をつけ、一口目の濃煙を味わう。体全体に毒が回る感覚は堪らないねえ。

「宗教の勧誘をされてましたって」「ははっ、殺す」ジュースを飲み終えたらしく、空になった容器を片手にゴミ箱を探している。
「どんな反応してた?」「やっぱりかって言ってたぞ」顔を見合わせて笑う。

談笑しているうちにタバコを吸い終わったので、さて、と呟き、吸ったタバコを地面に捨てる。足で弧を描くように火種を消す。
これからとりあえず、カラオケかぁ。酒飲みてぇな。
「ミヤタはん、おいらァ、酒が飲みてぇ」考えている時の癖で顎につけていた手を震わせながら言う。
「ほうかほうか、じゃけえのうサトウはん、あんたこの前飲み過ぎてハチマキはんと上野動物園のサイに喧嘩を売りに行った事、忘れたわけじゃあるめぇ」独特のしゃがれボイスが迫力を産む。
「ミヤタはん...そいつぁ言っちゃぁいけねぇ」痛いところを突かれた。

サイに喧嘩を売りに行ったことは本当だ。勝てる気がしたからだ。野生に近い野郎どもを捕まえたら酒臭えし高校生だしと警察が大騒ぎだった。
二人して常人の数倍のアルコールが検知されたって、少年課の源さんをはぐらかすのが大変だったのを覚えている。ちなみにミヤタはやはり気付いたころにはいなかった。

「カラオケもいいけどドンキで酒買って家で飲まね?」キャラに飽きたので素に戻る。最近の若者は飽き性だからいけない。
「その前にハチマキと合流だな。あとはぎの達も来るってよ」まじかよやったぜ。
「よっし、さっそくハチマキ拉致りに行こう」




ハチマキと合流し、店長に挨拶だけして店から離れる。ドンキで酒を買っていると、ケータイの着信音が鳴った。
取り出し画面を見てみるとクソヤンキー女からだった。大方こいつも合流希望で、開口一番どこにいるか聞かれるのだろう。確信に近い予測を立てながら通話ボタンを押す。
「はい、関東犬小屋供給公社です」ペット関連のことならなんでもお任せください。ただし猫、てめーはダメだ。
「ツッコミどころ多すぎんだろ。今どこにいる?こっちはカツラといんだけど...」

さて、お見せするのはここまでだ。有料いきまーす♡と言いたいところだが、ここはFC2じゃないしな。
ま、如何に我々が暇と元気を持て余しているかこれで十分理解できただろう。

なんやかんや皆どうやら暇を持て余しているいるようで、最終的に全員合流になった事により、またカオス具合が進むわけだが、それはまたべつのお話だ。

それじゃ、またどこかの機会でお話しさせてくれ。じゃあな。