学校の猥談

突然だが学校に忘れ物をしてしまい、取りに行く羽目になった。

気付いたのが夜なのだから諦めた方が良いんじゃないかと言われれば、そういう訳にもいかない。
なんせその忘れ物が【千紗の観察日誌】だと言うのだから厄介だ。
日課の【千紗の1日総復習】も出来ないし、何より万が一にも本人らに見つかってしまえば、色々な意味で終わってしまう。

それらを回避する為にも、こんな時間に取りに行くのだ。

…あれこれ考えてる間に着いてしまった。
一つ、異変に気付く。夜の校舎といえば、校舎にもその周辺にも人気がなくて当然。
それなのにも関わらず、門から誰かが上がって行く姿が見えた。気のせいなら良いんだけど、俺の目と記憶に異常がなければあれは...
いや、気の所為だろう。それよりとっとと物を回収して帰ろう。


....


可笑しい。常日頃から下校間際、秘密裏に鍵を開けてるトイレの窓が開いてる。
他にも気になる点はあるが、とっとと回収して帰れば問題は無いか。

っという間に階段に到着。
ここで俺はあることを思い出す。
最近流行りだした七不思議だ。中には眉唾物や見間違いなんじゃないかと思う物も在るが、開かずの扉なんかは実際に在るのだから否定し切れない。

…本題に入ろう。件の七不思議の一つがここ、階段に纏わる物な訳だ。
内容は

【夜になると階段の踊り場に幽霊が出る】

馬鹿馬鹿しい。そう思ってたし、信じてなかった。だが現実僕はここで歩みが止まっている。
…何かが居るんだ。動いてる。

幸い此方には気付いてないようだ。月明かりが白い肌を照らし、その存在を一層引き立てている。衣類は身に着けていない。背丈は俺くらいか。

…ッ!! こっちを見た!! ヤバイ!!


....


息を切らしながらも振り切った事を確認する。
気付けば先ほどの階段から最も遠い階段まで来ていた。

「ははっ、よくここまで走れたな俺は」

独り軽口を叩くが、足取りは重い。
もう諦めて帰ろうか?いや駄目だ、色々終わる。

意を決し踊り場を見る。
…よかった、何も居ない。ダッシュで階段を駆け上がる。早く回収して帰ろう。

階段を上がり、深く用心しながら教室まで辿り着く。例の物も回収っと。

安心すると同時に尿意に襲われる。仕方ない、帰る前に用を足すか。

トイレに入り、用を足しながら要らぬ事を思い出してしまった。

【トイレで花子さんを呼ぶと返事が返ってくる】

…普段ならそんな事絶対にやらないのだが、先ほどの興奮もあり恐怖心よりも好奇心が勝ってしまった。
どうせ噂だ、何も無いだろうと高を括り、背後の個室へ向け呼んでみる。

「…はーなこさん!」












ガチャ
「 ふふっ なんだいモギくん 」

「…」

「 …?」

「…う」

「 う? 」

「うわあああああああああああああ!!!何で居んの!!?!?何で居んのおおおおおおおおおおおおお!!?!?」

「…ッ!? 何で服着て無いんだよおおおおおおおおおおおおおお!!!」

チャックを上げるよりも先に逃げようとしたが、既に回り込まれてた。これでは逃げられない。そう考えていた時、彼が言った。

「 質問に答えようか まずトイレに居る理由だね 答えはシンプルだよ 君が居るからさ、モギくん 」

「 次に服を着用していない理由だけど、君には教えたはずさ 僕は自慰行為を行う際は服を全て脱ぐ派だとね 」

「…淫乱(カオル)君」

ダメだこいつ早く何とかしないと。ツッコミどころが多過ぎる。

少し落ち着きを取り戻した俺は、ある事に気付いた。
服を着て無い、背丈は俺くらい。という事は

「 そう、僕だよ あの場所に居たのはね 」

「人の心を読むな」

「 ふふっ、既に自身の置かれた環境に順応している 君らしいや 」

前々から思ってたけど、こいつとは会話が噛み合わない。
頭が混乱してくる、少し整理をしよう。

あの時踊り場に居たのは淫乱君。服を着て無いのはオナニーをする為。トイレに居る理由は

…ん?トイレに居る理由?学校にではなくて?

「…もしかして、夜はいつもこうして学校に来てるのか?」

「 その通り 流石と言わざるを得ないね 」

おいおいマジかよ。
…まさか。

「 怖い顔をしているね 悩みは心を曇らせる 僕で良ければ話を聞かせて欲しいな 」

「別に悩んじゃいねーよ …淫乱君さ、七不思議は知ってる?」

「 七不思議? 俗世の世迷言 リリンの生み出した文化だね 」

「ああもうそうじゃなくて 最近この学校で流行ってる七不思議なんだけど、淫乱君なら何か知ってるんじゃないかと思って」

「 聞かせて欲しいな 」

「簡潔に言うと てけてけ ベートーベンの目が動く 夜になるとピアノの音が聞こえる 動く人体模型 トイレの花子さん 踊り場の幽霊 開かずの扉 なんだけど」

「 ふむ… 幾つかは知っているよ 内容も、その真実もね 」

「…は?真実?」

「 知りたいかい? 」

そう言い、歩き出した。ついて来いという事だろう。


....


長いこと歩いた気がする。ここ学校なのに。足音が止まる。どうやら着いたようだ。

「…ここは」

「 気付いたかい? そう、ここはガフの扉 君が知りたがった真実の一つさ 」

ガフの扉じゃなくて開かずの扉だよ。

「 今、開けるよ 」

そう言って何かし始めた。どうやら特殊な開け方をしなければならないようだ。というか服はいつ着るんだ。


「 …ぁあっ…っふう さあ、開いたよ ごらん ガフの扉、もとい開かずの扉の真実さ 」

今こいつ何してた?ナニしてた!?

…って、え?

「 ふふっ…驚いたかい? 」

「なんだ…これ」

そこには信じられない光景が広がっていた。

「何でこんな…」

言葉が思い浮かばない。

「おかしいだろ…」

部屋には、学校にはおおよそ似つかない物があった。











大 量 の ア ダ ル ト グ ッ ズ 

「はああああああああああ!!!!?」

何だこれ!?何だこれ!!?何でこんな物が!!?しかも何かイカくせえ!!!!!

「 ふふっ ここは僕の道具が収納されている場所だよ 」

「んなこときいてねえ!!! 何でこんな事が許されてるんだよ!!!?」

何だよこのぷっちょが長くなったような棒はよ!?

「 それはロンギヌスの槍だよ 」

「はああああああああああ!!?」

よくわからないけど汚ねぇ!! なんだよこのサイズがおかしいディルドはよ!?

「 それはカシウスの槍だね 」

「はああああああああああ!!?」

「 うふふ ATフィールドを貫通させるのに必要なんだ 」

「聞いてねえよ!!!」

「 気に入ってもらったようで良かったよ 」

もうこいつ死ねばいいのに…。
眼下に広がる異常な数のアダルトグッズ。見たことも無いようなアダルトグッズ。中には拷問器具にしか見えない物まで。

「お前何なんだよ…」

心からの思いを口にすると、本人から思いがけない言葉が飛び出る。

「 まだ終わりじゃ無いよ モギくん、君に見て欲しい…EVAシリーズを 」

「エバシリーズ?」

俺の目を真っ直ぐ見てくる。

「 アダムより生まれし人間にとって忌むべき存在 …リリンに捨て去られた魂を僕が再生させたのさ 」

エバとかアダムとか魂とか、掴めない単語が飛び交う中一つ、核心めいた想いがあった。

見届けなければ。

彼の雰囲気が、真剣な眼差しがそう思わせた。

「…わかった、見せてくれ」

「 ありがとう それじゃ、着いて来てくれるかい? 」

「ん?ここには無いのか? その、エバシリーズってのは?」

「 彼女らは少し特殊な存在だからね 化学準備質に潜んでもらってるのさ 」

「そうか、わかった」

返事の代わりと言わんばかりに歩き出した彼を、嫌な予感を胸に追いかける。


....


化学準備室の前に着いた彼は、少し待っててくれと中に入って行った。
嫌な予感と妙なモーター音が頭に響く。


着いてきた事を後悔し始めた時、その音の主と彼は現れた。

「 待たせたね 紹介するよ、彼女は 」

「 【汎用人型万能性具 人造人間エヴァンゲリオン】…その零号機さ 」

「よろしくお願いします、ご主人様」

人体模型が出てくるのかと思ったら、普通の喋る女の子型ラブドールだった。







声が大塚芳忠な事以外は。

「 1番御淑やかな子を連れてきたよ 」

容姿が御淑やかでも声がおっさんでは意味がない。

「 そして彼女の神髄がこれさ 」

「 零号機、モード:淫獣(ビースト) 」

「承知しました」

呆気にとられてる俺を余所に、それは寝そべり始めた。足を開いてこちらを見ている。

「 さあ、乗ってごらん モギくん 」

どうやらお試しプレイをさせてくれるらしいが、お断りだ。

付き合いきれない、帰ろう。

そう思い背を向けた時、彼が言った。

「 また逃げるのかい? 」

たった一言、だがその一言が妙に頭にきた。

どうしてまだ付き合いの短いこいつにそんな事言われなきゃいけないんだ。
全てを見透かしてるような言動。まるでこうなる事を予想していたかのような。

…なら、ここで帰ったら負けなんじゃないか?今去ったら、こいつの思惑通りなんじゃないか?

逃げちゃ、だめだ。逃げちゃだめだ
逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。
逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。
逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。
逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。
逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。

「乗るなら早くしろ、でなければ帰れ」

「逃げ…は?」

顔を上げると零号機の他に、サングラスを掛けたおっさんが椅子に座って居た。

「 ああ、彼女の仲間を連れてきたんだ 彼はゲンドウ、そう呼んでいるよ 」

「乗るなら早くしろ、でなければ帰れ」

「 ふふっ、彼はこれしか喋れないのが難点でね でも、これはこれで味があって興奮するよ 」

「乗るなら早くしろ、でなければ帰れ」

一言しか喋らないなのにうるせえ。

…帰ろう。
急に冷静になり後ろへ向く。






人体模型が立ってた。

「うわあああああああああああああああああ!!!」

「 彼は初期型だよ ああそういえば、動く人体模型とは彼のことかい? 」

「結局おまえだったのかよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

冷静な頭も何処かへ吹っ飛び、なりふり構わず走って逃げた。


....


気付けば何故か最上階に来ていた。
逃げる際に下へ降りれば出口に近付いたのに、これでは正反対だ。
混乱に陥っていた自分を悔やみ、責めながら、ゆっくりと下って行く。

どうかあいつと遭遇しませんように。どうか変態に遭いませんように。
そう願っていると、仄かにピアノの音色がした。この曲は僕ら一学年の合唱コンクール課題曲だ。

そういえばピアノに関する七不思議も在ったな。それもあいつなのか?
記憶を巡るが、あいつがピアノに触れている所を見たことが無い。可能性は低いだろう。

じゃあ、本当に幽霊が?
それにしては音が外れている。

絶対音感など持ち合わせてはいないから確証はできないけど、これは多分関係ない処で異常なくらいシの音を挟んでる。

…ん?シの音?…死の音?

「死を挟んでまで曲を奏でる…?」

背筋が凍りついた。

この噂は本当かもしれない。何を呑気に聴いてたんだ俺は。
しかも運が悪い、音楽室はこの階段を下ったすぐ側だ。
駆け降りても良いのだが追掛けて来る可能性も否定できない。
できるだけ気配を消して降りよう。

問題の階に到着。同時に音がピタリと止まる。

「…ッ」

気付かれたか?走るか?
向こうからのアクションはない。






「 歌はいいね。歌は心を潤してくれる。 リリンの生み出した文化の極みだよ 」

「流石に薄々気付いてたわ」

言ってはるが、安心して気が抜けた事を否定できない。でなければこいつだと判明した瞬間尚更逃げている。

しかし、本当にこいつだったとは。
ピアノを弾けるなんて一言も言って無かったのに。

ガラッ
「 言う必要がなかったからね ピアノの連弾は音階の会話さ、簡単だよ 」

ビクッ
「だから人の心を読むな、後いい加減服を着てくれ」

気配を察知したり心を読んだり、こいつは妖怪の一種なんじゃないのか?

「…何でこんな時間にピアノなんて弾いてんだよ」

「 ふふっ 知りたいかい? 」

「ああ知りたいね、七不思議にもなってるくらいだし」

「 さっきのあれかい? ふふっ、本当にリリンは怖がりだ 」

「いいから早く話せ」

夜も深くなりつつある。

「 …一日の中で、この学校の生徒や先生の中の誰かが必ずあの椅子に座るのさ 」

「はあ?」

「 誰かが居た空間でその誰かと同じ行為をする これはもうSEXと言っても過言じゃない そう思わないかい? 」

「過言だよ…」

どうやらこいつと俺は生きてる次元が違うらしい。

「やたら違う音が入ってたのは何でなんだ?」

「 シはドイツ語でhと表記するんだ …そう、"H"な部分なのさ 行為の最中に触るのは当たり前だろう? 」

こいつと話してると頭が痛くなってくる。

「 ちなみに今日は女の子が多く座っていたみたいだね 」

「はあ?なんで分かんだよ」

「 撮っているからさ ほら、あそこだよ 」

音楽室の中ほどを指差している。

中に入り辺りを見渡すが、特に変な箇所は見受けられない。

「何だよ、何もないじゃん」

そういえばベートーベンの目が動くんだっけ。
…肖像画を見るが、可笑しい部分は無い。強いて言うなら目が妙にリアルなくらいか。

そんな事を思っていると、奴がケータイを取り出し何やら操作をし始めた。

「…ッ!! 目が動いた!?」

「 ふふっ あの眼の裏にはカメラが仕込んであってね 録画は勿論、僕のケータイからリアルタイムで見ることもできるんだよ 」

「…マジかよ 目が動くってのもお前の仕業だったのかよ…」

ツッコミきれない。というか疲れた。
もういい、いい加減帰ろう…。

「ああもう疲れた、俺は帰るよ」

「 ふふっ 気を付けてね 」

言葉背で受けながら、階段へ向かう。
…そういえば、残りの一つのてけてけもあいつなのか?

「なあ、てけてけも…あれ?」

振り返った時には既に居なかった。忍者かよ…。

まあいいや、明日聞こう。
そう思いながら階段を下った。


....


階段を下りきり、後はトイレへ向かうだけだ。

完全に気も抜けて、今日は叫んだり走ったり忙しかったな等と考えていると、異音がする事に気が付いた。

何かを引き摺る音と、ペタペタという音だ。

「…やっぱてけてけもあいつだったか」

分かってはいるのだが、怖くて振り向けない。
音が近付いて来る。ペタペタが近付くにつれビタンビタンに変わる。
引き摺る音も激しくなる。

…ええい、100%あの変態なんだから怖がるな!!最後くらい文句の一つでも言って帰るんだよ!!!
そう思いながら勇気を絞り振り返る。






満面の笑みで床オナをしているそいつは、既に俺のすぐ傍まで来て居た。



「うわああああああああああああ!!!!!妙に早いぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」





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最終更新:2015年01月15日 05:40