「ミヤタ、さん。起きてください……」
甲斐甲斐しく毎朝起こしてくれるこの少女の、少し戸惑うような表情は嫌いじゃない。いつもゆらゆらと身体を揺すりながらも、俺がなかなか起きないのにうろたえる様子。泣き出すギリギリのところで起きると、いっそう嬉しそうになる。
「おはようございます。ミヤタさん」「ん。そういや昨日渡した魔導書、どうだった?」
勤勉である少女――、ハギノは、魔導書を読むことの出来る高度な知識を持っている。俺はその才能を伸ばしてやることに歓びを感じており、知り合いのツテで、時折魔導書(あるいは準ずるもの)を貰っては譲ってやることにしている。俺には魔法の才能はない。ならば才能のあるハギノに譲ってやるのが当然だろう。 ぱあ、と表情を明るくしたハギノが、じたばたと両手を動かしながら語り始める。魔法系統における新しい説がたくさんあることを理解し、もしかしたら自分で新たに魔法を作ることが出来るかもしれない、とか。 羨ましくないといったら嘘になる。才能がない者はある者に焦がれる。当然だ。けれど、ねたましいと思ったことはない。本当にこの少女は、力の探求をしたいと思っているのが伝わってくるからだ。 ふらりと手を伸ばすと、何故だろうか、びくりと薄い肩を揺らしてぎゅっと目を瞑る。そんなに、俺は怖くうつるのか。眉を顰めて笑いながら、緩くハギノの頭をなでる。予想していなかったんだろう、頭上に疑問符を浮かべたままじいっと俺を見つめていた。
「ミヤタさん……?」「……いや。よく勉強してるんだな、と思ってな」「……ふふふ」
しなやかで美しい強さを持つ彼女。この笑顔を守らなくてはいけないと、俺はぎゅっと唇を引き結んだ。
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