ナナシの手記~エピローグ~

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&br() &br() Scene1:学者のその後 冷たい死を覚悟した私が辿り着いたのは、想像を絶するほどの、暖かい国だった。 「あんたぁ~、目が覚めたんかいね?」 暖かい毛布。暖かい暖炉。 「やーだねー。今時行き倒れなんて、びっくりしたよぉ~」 目覚めた私を見て笑顔を浮かべる老婆に、困惑してしまう。 「あんたぁ、異国の人じゃて?外は寒かろうにね~。寝てたらあかんよ~」 これ食べんね?と差し出されたのは、暖かいスープだった。 真実を知った恐怖からか、神への罪悪感からか、私の目からは自然と涙が伝っていた。 「いい年して泣くじゃねーで~?男がそんなじゃ、示しが付かんよ~」 毛布も、暖炉も、スープも、老婆も。全てが暖かく、緩んだ心では涙をとめることが出来なかった。 「ここは……白の国……ですか?」 たどたどしく質問をする私に、老婆は笑顔で応えてくれた。 「そうねー。こんな処まで行き着くなんざ、珍しいけよ~。あんた、なんしたとね?」 まるで懺悔のように、私は老婆に縋る。 「私は……神を冒涜しました……私には……帰る国はありません……神は……私を赦さないでしょう……」 涙を流したままうなだれる私に、老婆はそれでも笑って見せた。 「あんたが何したかはわからんが、神様はそんなに心が狭いもんじゃ無いとね。良い事も悪い事も、ちゃぁんと見ててくれるのが神様じゃないんか?」 「けれど……私は……」 「そんな小難しいこと考えとらんで、はよ食いーな。腹が減ってるけん、変なこと考えるんよ~」 「あのっ……!」 快活に笑いながら部屋を出ようとした老婆を、思わず引き止める。 「なんねぇ~?」 独特に間延びした、とても暖かい言語だった。 「あなたの国の神には、どうやって祈れば良いのですか?」 真剣に問うと、老婆はまた、大きく笑った。 「感謝すりゃえぇ。生きること、食べること、眠ること、全部に、感謝すりゃえぇ。どこの神様でもえぇ。ありがとうって気持ちを伝えれば、それでえぇ」 その言葉こそが、何よりの救いの言葉だった。 「…………ありがとう、ございます」 「あたしゃ~神様じゃねーけよぉ~」 老婆はやはり笑い、今度こそ部屋を出て行った。 私はスープを食べ終わると、再び目を閉じる。 少し眠り、もう一度目覚めることが出来たのならば。 ほんの少しだけでもいい。この国に滞在しても良いかを問うてみよう。 そして出来ることならば、この国でもう少し多くの人々と触れ合いたい。 この、暖かな国で。 「神よ……」 願わくば、私に生きる赦しを。 Scene2:魔方陣の行方 友人が国を出た。 とても勉強熱心な友人だった。 彼はここ数年、何かに没頭し、何かに取り付かれたように研究をしていた。 何の研究をしているのかは、最後まで彼の口から聞くことは無かった。 国を出る直前は、何かに酷く怯え、憔悴しきった状態で、まともに口が利けるとも思えなかった。 彼は国を出た。否、国を捨てた。 彼に何があったのか。 彼が何を調べていたのか。 それは、彼が最後に俺に託した、小さなメモを調べれば解ることだろう。 しかし…… 『我々が、知る必要は無い』 そう彼は言った。 勉強熱心な友人だった。 とても真面目な友人だった。 時に笑い、時に怒り、時に論じながら、長くの時を過ごした。 俺が彼の心を知ることは出来ない。 しかし彼が、「知るな」そう言うのなら。 そう言って、俺に託したのであれば。 「……これで、いいんだよな?」 メモは開かれることなく、小さな炎の中へと消えていった。 そうなんだよな? これが、お前が望んだ事なんだよな? 彼が俺に託した最後のメモは、灰になり風へ消えた。 「神よ、願わくば、彼に穏やかな未来を」 END.

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