庭園少女

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作:イド 一旦ミヤタ君の事は忘れて。今回はオリジナルで書いてみました。 元々この話は僕が初めて書いた物語で最初はたった9行の…… なんて話は長くなるので割愛して。まぁ僕にとって思い入れの深いキャラなのです。 その設定をベースに世界観に合うように小説化しました。 ---START--- 「こちらが我が娘ツキハでございます」 声を聞きいて一歩前に出る。そしてゆっくりとお辞儀。 大丈夫だ。教えられた通りに出来ている。 顔を上げるといかにもな作り笑顔を浮かべた男たちが私を見ていた。 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。 昔はもっと楽しい毎日だったはずなのに。 ここは世界の中心である中の国。そのさらに中心にある巨大な街だ。 そんな街で、気が付くと私は全てをつくられた存在になっていた。 理由は分からない。教えてくれる人なんてどこにも居なかった。 私が齢10を数えた日。その日に兄と共にこの街へ来た。 ちょっとした出来事によって兄とはぐれてしまい、ふと気が付くと私は数多の男たちに囲まれていた。 そこから今に至るまでの6年間はまさに地獄だった。 訳の分からないまま貴族社会の勉強を強要され、反抗しようものなら容赦無く叱咤を受けた。 綺麗な服を着せられて、綺麗な靴を履かされて。 そんな物よりも私は自由が欲しかった。 裸足で野原を走り回る、そんな自由が。 「いやはや、一人前になるまで世間には出さない。でしたかな? 最後にツキハ様にお会いした6年前から随分とご立派になられたものですな」 作り笑顔を浮かべた男達の中でも、とりわけ老けた顔の男が伯爵に話しかける。 「何を言おうと我が家の娘。幼さを理由に半人前を世に出せませんよ」 「その修行期間がこの6年間という訳ですなぁ」 伯爵と老けた男の間に別の男が入ってくる。 「この披露目の儀をどれほど待ちわびたことか。おっと申し遅れました私は隣の小城に住む者でございます伯爵様」 この場に集まった男たちの中でも一際若い男だ。その男は私の方へも向き直り 「お綺麗ですね。ツキハ様」 とだけ、言った。 誰に言われるまでもなく分かっていた。 この男は私を見ていない。 その視線の奥にあるのは『伯爵の娘』だ。 『伯爵の娘』を利用して手に入れる力だ。権力だ。 だから、そんな言葉は要らないんだ。 そんなものしか見えていない男のお世辞なんか求めていない。 それに、 『伯爵の娘』なんて、とうの昔にこの世から消えている。 私がここに来る直前に亡くなったのだ。 そのくらいは、6年も暮らせば察しはつく。 披露目の儀は滞り無く終わりを迎えた。 作り笑いに始まり作り笑いに終わる。 そんな行事だった。 そんな時間はたまらくなく空虚で、 なにより楽しくなかった。 部屋に戻り、伯爵から言われた通りに男たちから受け取った粗品を見る作業を始める。 しかしそれは、私を不快にさせるばかりだった。 中にはわざわざ手紙付きの物もあったが、その内容はどれもこれも伯爵への賛辞ばかりで、特にあの老けた男からの手紙には訳の分からない落書きの様なものが書いてあった。 嫌になる。逃げ出したい。なぜ私がこんなことを。 こんな夜には兄の事を思い出す。 伯爵とは違い血の繋がった兄だ。 伯爵とは違いよく笑う兄だ。 そんな兄の周りにはいつも笑顔があった。 心から楽しそうに浮かべる、そんな笑顔が。 そうしていると少しだけ落ち着くことが出来ので気を取り直して、作業を再開する。 しばらくして9の刻を告げる鐘がなった。 そろそろまた窮屈な食事な時間か。と思い、立ち上がった時。 さきほど投げ捨てた醜い男からのメッセージが輝いていることに気がついた。 やがてその謎の文章は宙へと浮かび一つの風景を映しだした。 そこに映しだされているのは見慣れた故郷の村だ。 呆然としていると無機質な女性の声でメッセージが流れだした。 「オ・モ・イ・デ・ノ・モ・リ・デ・マ・ツ」 思い出の森。その場所には1つ心当たりがあった。 慌てて男の手紙が添えてあった贈り物を見る。 そこにあったのは私の故郷の名物のチューリップの花束。 それも全部、黄色の花だった。 黄のチューリップの花言葉は『名声・実らない恋』 そして、『正直』 私は走りだした。チューリップの花弁に隠されていた、老けた。いや、優しい老人の家名の刻まれた指輪を持って。 幼い頃に兄に教えてもらったチューリップの花言葉。 特に黄の花は兄のお気に入りで良く話を聞いた。 「僕はこの花の様に自分に正直に生きたいんだ。たとえそれが自分にとって良いことばかりで無くてもね」 その言葉は今でも良く覚えている。 走り続け伯爵の敷地外に後一歩という所で執事に見つかった。 「どこに行かれるのですか? ツキハ様」 その表情は何かを悟ったような、認めたようなそんな様子だった。 「忘れ物の指輪を届けに行くの」 「……承知しました。主人には私から伝えておきましょう」 「ありがとう。それじゃあ私は…」 「ツキハ様。いえ、小さな村に住むヒイラギさん。ここからは私の独り言と思い聞いてください。 6年前、ある所に娘を失った一人の男が居ました。 男は貴族だったから。跡取りを失うわけにはいかなかったのです。 だから、街でよく似た少女を見た時にその子を自分の娘だと思い込むことにしたのです。 その子には悪いことをしたと今では悔やんでいますが、過ぎた事はもうどうにもならないのです。 そんな、哀れな男の物語でした……」 私は何も言わず、その場を去ることしか出来なかった。少なくとも今の私には。 私は走りだした。自らの手で明日を描くため。 大好きな人達にもう一度会うため。 それが私の心からの正直な願いだから。 思い出の森。それは私がまだ10になる前に兄と一緒に来た場所だと思う。 そこには森の中にありながら広く空いた草原のような場所があり、二人で良く月を眺めたのだ。 そしてそれから6年が経った今。 私は再びこの場所に来た。 目の前に広がる世界には満月の月、輝く星々。 やっぱり綺麗だった。 綺麗と言われた『伯爵の娘』の何倍も、何十倍も綺麗だった。 その草原の中に孤高に佇む青年。 後ろ姿には懐かしい風が流れていて、背後に立つ私に気づきゆっくりと振り返った。 その顔は見覚えのある、 とても楽しそうな笑顔だった。 「久しぶりだね。迷子は卒業できたかい?」 ---END---
外部サイトの方に転載するのでこちらは削除させていただきます。 ページ削除をしようと思ったのですが、まあ何か出来なかったので面倒だと思いますが管理者の方お願いします。

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