「さてと……立体機動についてなんだが……。見せてみれば解るか……。莉那、颯太を観戦者モードにしろ」
「は~い。ちょっとごめんね颯太君。一瞬意識が無くなるよ~」

 莉那先輩はリモコンを取り出し、リズムよく操作していく。ピッと電子音が鳴った時、僕の視界が闇となった。
 目を開くと、同じ風景じゃないか! とツッコミかけた時に気づいた。
 腕の感覚がまるで違う……。全身にこみ上げてくる何かのエネルギーそのものが違う……。手を動かそうとしたが、動かない……。

「お~い颯太君。聞こえている~?」

 莉那先輩が話しかけてきた。辺りを見回そうとしたが、視点が曲げられない。
 そして僕は気づいた。今僕が見ている視点は、莉那先輩だった!

「最初は主観で、私と蓮太郎くんの立体機動を見て、お手本にしてね」
「莉那、始めるぞ。巨人を出現させてくれ」

 莉那先輩は下を向き、リモコンを操作し始めた。
 仮想現実空間内にアナウンスが流れる。

「シークエンススタートまで、残り15秒……」

 カウントダウンが始まる。莉那先輩は蓮太郎先輩に近づき、作戦について説明した。
 左右二手に別れて、巨人を10体ずつ駆逐するという事を伝えていた。

「立体機動装置と空間内の設定を完全初期化します。巨人を配置します。配置完了……トロスト区シークエンスをスタートします」

 開始の合図の鐘が仮想現実空間内に響き渡る!
 響くと共に、蓮太郎と莉那は、それぞれ右と左に別れる。
 莉那はすぐ近くにある、家の壁に右アンカーを射出して突き刺す。鉄線がキキキと唸り声を上げ、火花を上げる!
 巻取りが終わる寸前、莉那は直ぐに右アンカーを抜き取り、左アンカーを反対側の壁に突き刺す!
 左アンカーが刺さり、莉那は地面に衝突する寸前まで一気に急降下し、鉄線の動きにブレーキを掛ける。ガスを弱く噴射し、体勢を整える。
 7m級巨人が莉那の視界に写る。
 巨人の顎の辺りに左アンカーを突き刺し、ガスを強く噴射する。莉那は巨人の後ろに回り込みつつ、操作装置にブレードを装着する!
 うなじの中心付近に右アンカーを突き刺し、ガスを噴かして急接近する。
 大きくスナップブレードを上げ、力強く振り下ろす! うなじは綺麗にVの字に削ぎ取れ、巨人は倒れこんだ……。
 さらに、近くに11m級巨人が居た。莉那はその巨人に気づかれないうちに、首の右横辺りに右アンカーを突き刺す!
 周りが見えなくなる程のガスを噴射し、スナップブレードを大きく振りかぶり、うなじを大きく削いだ!

 莉那先輩の器用さが手に取るように見える。巨人の弱点である、後頭部より下のうなじにかけての縦1m幅10cmを、正確に深く削ぎとっている。形は少しだけしか異ならない。ほぼ同じ形で、同じ深さで削ぎとっていた……。

「そろそろ蓮太郎先輩の視点に変えるか……。え~と、これかな?」

 適当に操作し、視点が切り替り、蓮太郎先輩の視点となった……。
 少しずつ景色が進んでいる……、おそらく蓮太郎先輩は歩いているのだろう。

 颯太がそう考えていた刹那、蓮太郎は近くの屋根から伸びている煙突に、左アンカーを突き刺す! 煙突を中心に回り、回った先にいた10m級巨人のうなじを、横回転しながら削ぎ取る。
 倒した10m級巨人を使い、回転した時の慣性を消す。そこから頭上に駆け上がって踏み台にし、ガスを強く噴射しながら、倒した巨人の前に居る7m級巨人よりも高く跳ぶ!
 そして、急降下し、縦回転をしながら、うなじを削ぎ取る!
 地面に着地。同時に、15m級と4m級巨人が接近してくる。
 両アンカーを、自分の左右にある家の壁に突き刺し、15m級巨人の後頭部まで高く飛び上がって回り込む!
 15m級巨人の後頭部を蹴り飛ばし、その後ろに居る、同じ高さ程ある巨人のうなじを削ぎ取る!
 直ぐ様真後ろを向き、踏み台にした巨人の後ろ首に、両アンカーを突き刺す! 一気に接近し、横回転斬りでうなじを削ぎとった!

 蓮太郎先輩の立体機動を見ていて一番に思うこと、それはとにかく酔う。
 先程から我慢しているのだが……限界だ……。出せるもん全部出せそう……。
 蓮太郎先輩の攻撃は全てと言っていいほど、回転しかしない。
 常人は普通に酔う。つまり、蓮太郎先輩は人間じゃないんだ。
 おえっぷ……もう限界だ……。

 20体駆逐後、僕らは一時的に仮想現実空間が離脱した。

「颯太君、本当に大丈夫? 顔色悪いっていう問題じゃないよ? 今すぐ吐きたいって顔だよ?」
「いえ……全然……平……気です」

 ロビーで座って休んでいた僕であった……。
 この酔いはしばらく治りそうにもない。

「……、あれぐらい慣れれば酔わなくなる。いつか酔わないように特訓するぞ」

 どんな特訓されるのか気になる。
 回転椅子に座って、グルグル回転させられるのか?
 そんな疑問を持ちながら、僕は酔いが治るのを待った……。
 約15分後ぐらい経った頃、僕らは再び仮想現実空間の中へと入った。
 その後、僕には慣れない厳しい訓練が続いた……。

「そのまま巨人の回りを回りながらブレードをつける! その調子! そのままスパーン! と一発切っちゃえ!」

 莉那先輩による、基本的な立体機動。

「巨人の頭上で円を描け! うなじを深く削ぎ取れ! まだまだ深さが足りないぞ!」

 蓮太郎先輩による、応用系の戦闘。
 二人の先輩による、これまで体験した事の無い訓練だった。
 ある程度、巨人を倒すことが出来、立体機動も安定してきた所で、莉那先輩が輝く笑顔を魅せる。

「颯太君すごく上達したね! これで夏の立体機動講習を大丈夫だね!」
「確かにな。まぁ、俺達が教えたのは全て講習で習う事だ。覚えておくといい」

 講習……? 立体機動の講習会みたいなのがあるのか?
 まぁ、その内教えてもらえるだろう……と心に閉まっておいた。
 とにかく先輩方にお礼を言った。

「今日は本当にありがとうござました」
「お礼なんていいって! 颯太君ならきっと上手くなれるよ!」
「……、俺もそう思うぞ」

 先輩方に技術を褒められ、僕は少し嬉しくなった。

「もう時間だな。部活を終わりにするぞ」

 右手で拳を作り、敬礼をする。
 号令をし、部活が終了した。
最終更新:2014年10月27日 20:29